遅熟のコニカ

紙尾鮪

60「アイビー・ヤオイ」

 「死す? ねぇ? 死す?」
 ヒルコの左隣に座っている、焦げ茶色の前髪と後ろ髪を玉ねぎの頂点のように結んでいる子供が、机に体を乗せて、リーダーと呼ばれる男に殺意を全面に押し出す。

 「いやいやージョークジョーク、いやまぁお菓子あるよって言いたかっただけなんだけどね」
 と言って、リーダーと呼ばれる男はどこからか箱を取りだし、机に置くと、群がるように子供と女性達はその箱を開き、貪るようにケーキやシュークリームを口に入れる。

 「コニカ、取ってきてもいいんだぞ」
 コニカは、ヒルコが白衣の袖元を握っている事から、イライラしていると思い、首を横に降った。
 ヒルコは、握るのを止めなかった。

 「はしたのうございますなぁ。女性ニョシヤウであれば、僅かなりとも、はしたなさを消すのに勤めるべきやと思います」
 はんなりと喋る、舞子のような化粧をした女が、貪るように食う者達を蔑むように、言い、そしてクスクスと笑う。

 「まさに、白百合、美しき若花が集まり合い、そして幸福の表情を交わす。それを見た某らも、幸訪れる。まさに至高!!!」
 その男の座る椅子の足は、若干湾曲している。
 それほどにその男は太っているのだ。
 顎は喋る度に波打ち、骨を覆うようなその脂肪は、人間ではなく、豚や牛に近い印象を受けさせる。

 「さて! 本題に戻ろうか、さあ!」

 「おツレの方!貴方達に椅子をあげましょう!」
 リーダーと呼ばれる男は、椅子から勢いよく立ち上がると、座っていない者達へと近づく。

 「おっ、君は『霧単歩キリタンポ』だね」
 リーダーは、すぐ隣に立っていた黒髪の女の肩を叩く。
 黒髪は、うねりを見せて、短髪ながらに、ボリュームを見せる。
 黒髪の女は割烹着を着ており、そこからは、母性を感じさせ、そして、目からは、殺意を感じさせる黒。

 「えぇと? なんですかねぇ? 私の事ですかねぇ? ほんとに私の事なんですかねぇ? どうなんですかねぇ?」
 疑問を異様に投げ掛け続ける、そしてリーダーの顔を下から抉るように見上げる。

 「あとそっちで呼ばない方が良いですよねぇ? 私の名前はアデ 佐羽サバですよね? 読んでほしいですよね?」
 艷佐羽と言う女は、押し付けのような疑問文を繰り返し言い続け、どこからか出した包丁をリーダーと呼ばれる男の喉に突きつける。

 「あーごめんねーアデサバちゃん。君には落ち着く事が出来るような椅子をあげるよー」
 と言うと、リーダーと呼ばれる男は、アデサバの腕を押し退け、アデサバの前にいる人物を覗く。

 「何ですか。その気持ちの悪い顔をこちらに向けないでくれませんか」
 銀髪の小皺の目立つ女が、ギロリとリーダーと呼ばれる男を睨む。
 年を重ねたが故に見せる眼力か、それに若干先程までひょうひょうとしていた彼は、一瞬身震いをした。

 「すみませんすみません、太陽院タイヨウインさん。まさか貴女のツレとは思わず、少しびっくりしました」
 太陽院、と呼ばれた女は、何も言わず、リーダーと呼ばれる男の顔すら見ず、真っ直ぐ、真正面にいる者の顔すら見ず、前を見ていた。

 「ヒルコ、あいつまさか、太陽院タイヨウイン寺子テラコか?」
 コニカが、耳打ちをするように、ボソッとヒルコに質問をする。
 ヒルコは、ただ、「あぁ」と冷たく返事をするだけだった。

 太陽院 寺子。
 またの名を、『自殺人鬼ジサツジンキ
 被害者数、56。
 主な犯罪歴、自殺教唆のみ。

 彼女が、人を殺した事はない。しかし、彼女の周りの人物、全てが自殺している。

 この状況、どう考えたとしても、殺したとしか考えられない。

 しかし、どう考えても、どう調べても、自殺。
 自殺教唆自体、半ば無理矢理に近く、それほどに罪を問うことが難しかった。

 コニカは、昔、寺子を見たことがある。
 しかし、記憶にモヤがかかり、寺子を見たという事実しか頭に残ってはいない。
 そして、名前も知っている。




 コニカの順番になった頃には、他の者との対話は終わっていた。
 少し、コニカは、緊張していた。

 こちらへ歩いてくる度に、一つ分かった事がある。

 この男、目が笑っていない。
 と。

 口角を上げ、目を細めて笑っているように見せてはいるが、隙間から見える黒目が、自分を、品定め、いや、見下すように、見る。
 コニカは、そう思った。

 「君は……『生母事』だね、あれ? 昼子くんのツレだったのか、君は昼子くんと一体どういうご関係で?」
 リーダーと呼ばれる男は、コニカの前に立つと、端に捉えた白に、リーダーと呼ばれる男は驚き、そして聞く。

 リーダーと呼ばれる男の中でのヒルコは、ただ、人間を愛し嫌う変態子供だった。
 以前、子供ガキと言って、珍妙な生物を連れてきた事はあった。
 しかし、一度も人間を連れてきた事はなく、それ故に、リーダーと呼ばれる男の好奇心は騒いだ。

 「そ、そうだな、どういえばいいか……」
 「我輩の妻だ」
 コニカが言葉に詰まり、答えを出すことに戸惑っている時、ヒルコが口にした言葉は、予想すらしない、いや出来ない。
 澄んだ一言だった。

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