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遅熟のコニカ

紙尾鮪

53「シュラトツグナイ」

 グラブの口の中は、赤色と黒色を混ぜ、水で薄める事もなく、乱雑に塗り付けたような色で、それと相反するように、白い歯。
 そして、半分ほどの舌。

 「不便だよね、流動食しか食べれないし」
 傷はないが、死んだように倒れているグラブが、現状を報告する。

 「しかも喋れない、意外に辛いねこれ」
 返り血を浴び、剣を握りながら倒れているグラブが、 淡々と話す。

 「コニカ、耳を傾けるな」
 腹部の肥大がなくなり、いつもの子供の姿になったヒルコが、コニカに近寄り、何かを察したのか、グラブの言葉を聞くのを止めるよう促す。

 「誰がやったんだろう?。ねぇコニカてぇーちょー」
  コニカに斬られたグラブが、コニカの目を見て、問う。
 答えなど分かっている筈。

 「コニカてぇーちょー」
 全てのグラブが、一斉に喋った。
 一人一人の声は綺麗であるものの、合わされば、どの楽器より重く、そして不安になる音を出す。

 「私だが、だからどうした?」
  コニカは、音ごときに揺れる程の脆く、柔い物ではなかった。
胸中と心中には、あの、金髪の子供がいた。
 笑顔に、頬張る顔に、寝ている顔に、金髪の子供が死んだ時の……

 「ご託はいい、やるぞ」
 遠く、しかし近く。
 目の前の、地面に倒れたグラブを蹴った。
 コニカが今、特別な意味など感じておらず、久しく、手合わせをするだけのようにすら感じられる。

 「ぇえ? この量を? 相手に?」
 グラブの声を筆頭に、グラブ達が、立ち上がる。
 死んだものも、生きているものも平等に、立ち上がる。

 車椅子に座ったグラブは、マスクを着けた、しかし心なしか笑っているような気がした。

 「……ヒルコ、離れててくれ、使い方が分かった」
 流水に身を任すのではなく、流れに沿って、進む。
 しかしながら、流されるのではない、ただ利用するだけ。

 流されてはならない。

 抗いつつも身を任せる。
 よって、力のみを得る、自我を蝕まれ、そして、快感を得る。

 「……引くのは駄目か、なら押すのみだな、頑張れ、コニカ」
 優しくも、強く、背中を押す。
 押されて、コニカは、少しよろける。
 そして、倒れかけ、駆ける。
 腕を垂らし、まるで四肢で駆ける獅子ように、石畳の床を走り抜け、阻む者の、首を、もぐ。

 コニカの脳内に声が響く、殺せ。

と。

 抗う必要などない、今1歩進めば、金髪の子供の距離に近づく。 
 簡単な話、進むだけ、進めば近づく、数十の、いや、百を越えた親友、いや同期を殺すのみ、簡単な仕事。
 難点を言うなれば、自分という物が、侵食されかけるだけ。

 しかし、今、コニカは、コニカの物ではない。
 ヒルコの物でもない。
 王の物でも、ヘーレの物でも、グラブの物でも。
 ただ一人、金髪の子供の物なのだ。

 金髪の子供のために生き、金髪の子供のために働き、金髪の子供のために殺す。
 全ては金髪の子供のために、名すら決めてはいない子供のために、心血を注ぎ、そして散りかけに発する、見かけ倒しの綺麗な光を目に灯して、同期の元へと進む。

 「おかあさん」
 聞こえないはずの声が聞こえる。
 コニカの足が、金髪の子供を求めては、進む。

 暗闇の中に差す微かな光、それを求める、暗闇の中に、恐ろしい物が居ようと、壊す、殺す、そうしなければ得られないのだ。

 「てぇーちょー、傲慢じゃないかな?」
 グラブの顔を潰す。

 「自分の望みなのに、人を巻き込んで」
 グラブの顔を飛散させる。

 「考えてもみてよ、この屍の山の上でいk」
 グラブの顔を引きちぎる。

 「最後まで言わせてよ、屍の山の上に生きる子供は幸せなの?」
 グラブの顔を抉る。

 「子供は全うしたんだよ、世界から離れるには早すぎたけどね」
 グラブの顔を殴る。

 「でさ、なんで泣いてるのさ」
 グラブの顔に触れる。

 若く、弾力のある肌に、コニカの籠手に付いた赤が付着する。
 そしてグラブは何もせず、立っているだけ。
 コニカは後ろを見るが、追ってくる様子も、いや、戦う様子すらない。
 剣も持たず、コニカを見つめるだけ。

 案山子カカシに挑む、滑稽な子供のような事をしていたコニカは、今、震えていた。

 金髪の子供を抱きしめるために綺麗にしていた手が、こんなにも血で汚れて。

 そして、現状を、見る。

 コニカは、金髪の子供を、生き返らせるためではなく、まるで、自分が楽しんでいるように、無抵抗の人間を、殺し、快感を得るなど、あの子の母親になど相応しくなく、ただの戦闘狂であると……コニカに思わせた。

 「てぇーちょー、今更手を洗っても無理だよ、どうせ、染み付いてるんだもん、臭いも色も」
 赤く染まった銀色の籠手を、怖がるように、コニカは剥がすと、肌色の手が、出る。

 が、しかしコニカには、真っ赤に、真紅に、朱色に染まった手に見え、地面に擦り付けて拭おうヌグオウとする。

 ただ、ついていない物を拭う事など出来ず、ただ、本物の血が滲むだけ。

 「全ての事に懺悔をしたって、罪が無くなることはないんよ、償わなければだね」
 恐かった。

 心の奥底でほんの少しだけ考えていた事、自分が金髪の子供を、迎え入れるのではなく、自分が、あの子の母親として認められるかどうか、今のままでは、捨てられてしまう。
 それが、死の淵に立つよりも、怖い。

 「けどね、それでも許されられないんだ、私たちは。だからさ、てぇーちょー、一緒に」

 「いおお?」

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