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遅熟のコニカ

紙尾鮪

51「オウトオウ」

 300年程前に存在した人間。
 現帝国を、帝国たる物にした原初にして最高の王。
 逆賊である魔女に臆する事なく、国から追い出し、民の安全を守り、そして、全民を、暴力や恐怖を使わず慕われた、神に等しき主君。

 王の中の王。

 後世の王になる者には、全て語られていた存在。

 現王が、廃れた姿になっていても、気付く事が出来たのは、今も尚語り継がれ、そして憧れの的である証拠である。


 現王が、玉座から降りて、駆け出して行ったのは、すぐにでも、近付きたかった、不純な動機などない。

 「邪魔だ、どけ!!」
 現王の行く手を阻むようにいる、拮抗する女騎士達。
 王がそう叫べば、女騎士達は、敵に背を向け、現王に敬礼し、死んでいく。
 現王が、かの王の元にへと、走っていく。

 かの王の前では、現王はただの子供、王の姿を一度謁見しようとする、民にへと成り変わっていた。

 故に起こす行動か、苛ついていた。
 自分の言うことを馬鹿のように聞けば、そのままの事をし、倒される。兵達が、幾ら死のうと、寝返ろうと、自分の寝首を掻こうと、自分の感情波が、揺らぐことなどない筈だった。

 しかし、現王は、血が沸騰しそうな程に怒りを覚え、そして、頭を掻きむしり、奥歯を噛みしめ、目をひん剥いて、王の元へその心を鎮め走る。

 少しばかりか、妙に急ぎ、走ってしまったせいか、息を荒げている。
 しかし、公に見せるのは、十数年振りの笑顔を見せる。
 そして、自然に呼んだ、

 「王よ、何故此処に?」
と。

 別に、特別な答えなど求めてはいなかった。
 かの王と喋るきっかけが欲しかったのだ。意味はない。

 事前教育と、洗脳と良く似た刷り込み。
 それによってかけられたフィルターから見る、アンパイアは、素晴らしきかの王に見えていた。

 しかし、そのフィルターは音を遮らない。

 かつての英雄、王とは思えない、子供よりも臆病で、小動物よりもか弱く、そして命乞いより、醜い。

 「ヒィイィイイ!!」
 雄叫びが、いや、雄叫びなどという勇ましいものなどではない。
 ただの叫び、叫喚、心の身の内からしか出しえない、真の、淀みない、純粋な、恐怖の声。

 「は?」
 現王は、思考の統合が出来なかった。
 目の前にいる、ボンクラ以下の、まるで、兎を肉ではなく、ぬいぐるみとしか捉えていない、綺麗なワンピースを着たお嬢様のような無垢な存在であれば合致し、ここまで心掻き乱される事はなかったろう。

 しかし、完璧な、かの王が、完全なな、かの王が、全美な、かの王が、このような、屑に等しく、人をまとめあげる器なのではない。
 その世紀を越えて伝えられた姿を易々とぶち壊すような行動に、王のフィルターが外れた。

 「貴様は……誰だ! 名を名乗れ!!」
 王は、絶望に近いその中で、一つの希望を見出だした。
 偽者、かもしれない、一握りの希望。

 「ろ、ロゥイシュ・ジュゥドゥネ」
 その名前は、かの国王と同じ名だった。

 コニカが以前、魔女の話をし、そちらから得た推測によって、王であろうという確証を得るをえなかったのは、アンパイア・リビルドが、ヒルコがつけた名前であり、コニカが、ロゥイシュ・ジュゥドゥネの事を名前のみしか、事前知識がなかったからだ。

 「名を言え!!」
 王は再び同じ問答を唱える。

 「ロゥイシュ」
 「名を言え!」

 ボロボロのシャツの襟を掴み、唾が飛び散る程に強く怒号を発する。
 現王が、今、本来の王の姿を取り戻そうと、強く、泥濘の中、手を突っ込み、特定のある物を取り出そうとするように、重く、そして厳しい。

 「あああああああ……だから嫌だったんだよぉお!! パンドーラを殺すなど、あの時ヤツに唆されなければ私はこんな事には」
 かの王として今いる、ロゥイシュ・ジュゥドゥネは、何かしらの事を、激しく、悔やむ。
 大きく、弱々しく、指の、ほぼなくなった爪を噛み、愚痴愚痴と、他を苛立たせるような、その言葉が現王に引っ掛かる事なく、ただただ苛立たせた。

 「剣を渡せ、この偽物を処刑する」

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