50「ショウカシオウ」

　全ての動物が成長するには、何かしら糧がいる。
　日光、水、野菜に穀物、そして、肉に骨。
　栄養が、必要なのだ。

　他の生命を、貰い。

　他タの命の実を搾り取り、甘い蜜を舌の上にへと、ポタポタと滴らせ、その蜜に凝縮された味が、舌を占領するように、広がる。
　そして、体の中に、染み込む。

　バンビーノ・ビンボ、この者も、遺能を持っている。
　その名も、『大人アドゥルトの=階段バンビーニ』、単純明快、その能力は、成長する能力。

　人間を、自らの体の中に取り込む事によって、自らの体の器官を増やすことや、外傷を治す事さえ可能となる。

　消化する為には、時間を必要とする。一度に消化する数は、一人であり、それらは、何度も能力を行う事によって強化されていく。

　バンビーノ・ビンボは、消化するために必要な時間は、1分に満たない。

　そして、この能力の最大の特徴、それは、消化されている間、消化されている相手は、甘く、そして、とても気持ちよく、心身ともに、抗う事を止めて、ただそれを享受されようと、流れに身を任せる、まさに、悪魔の施し。


　「あぁ幸せそうですねぇ、どんな夢を見てるんですかねぇ」
　バンビーノ・ビンボが、幸せそうに眠るヘーレを、まじまじと、笑いながら見ている。
　ヒルコの体の中、ヘーレは、子供のように足を折り、球のように自分の体を縮ませている。

　ヒルコは、妊婦のように、腹を膨らませ、ホクソ笑んだ。
　ヒルコの中にいるヘーレも笑った。

　ヒルコは、バンビーノ・ビンボの遺能を使っていた。
　しかし、成長は出来ない。


　「おかしいな、どちらかと言えば此方が劣勢か」
　王は、スポーツ観戦でもするように、冷静にその場を見て、焦ることもなく、現在を喋る。

　少し前であれば、劣勢になる事は、むしろ必然と考えていた。

　しかし、今は違う、ククノチへ出向いた時の報告では、明らかな此方側の有利、更には追い打ちとする、間髪入れずの転移による強制戦闘。
　劣勢になる意味がわからないのだ。

　ただ、あるとしたら、相手側の兵が、あちら側に勝る程の数で、全ての兵を、先程の戦闘では使っていなかった、そう王は分析した。

　しかし、それは、現在の劣勢を説明するには値せず、それは、相手側が、直ぐに劣勢になっていない事の証明。

　それは間違ってはいなかった。

　ただ、全てが正解と言えるものではなかった。

　ヒルコの子供の中には、戦闘を可能としない者もいた。
　成長途中である者、戦闘を主としてはいない、治療や補助目的の者、更には、戦闘意欲のない者。

　そして、ヒルコの暇潰し相手。
　それを表す者が一人、それは王。

　「……なぜ……貴方が……？！」
　全てを見ているからこそ気づいた、部屋の端で、体を出来る限りに小さくし、怒号や、剣がぶつかり合う音、それらの音の中、逃げるように、恐れるように部屋の端にへと逃げる、兵とは呼べぬ存在。

　負け犬、臆病者。
　名前だけがいっちょまえの、ただの子供。

　その者の名は、アンパイア・リビルド。

　王だった者。