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遅熟のコニカ

紙尾鮪

48「サイセイシコロシ」

 一人、騎士が、ヒルコの子供を斬った。
 赤のカーペットに、赤の染色液が広がる、しかし、染まる事はない、変化があったとしても、湿っただけだ。
 騎士達は、害虫駆除をするように、滞りなくヒルコの子供を斬り続ける。

 しかし、試し切りの巻き藁でもあるまいし、素直に斬られているヒルコの子供達ではなかった。

 守り攻められ、攻め守り。

 相性の悪い者が攻められ、相性の良い者が攻める。
 力の差など、無いように見える。
 見えるだけなのだが。

 「踊ると言って、剣を取り出すとは、無粋にも程がある」
 ヒルコが、戦場となったこの場の中心で、王に向かって苛立ちの言を述べる。

 「すまないな、うちの奴等の躍りは剣を使うのだ、美しいだろう? 」
 王は、憤る事などなくして、ヒルコの言を、一瞬の感情の変化無しに一蹴した。

 「剣舞とでも言いたいのか」
 ヒルコが、黒の鞄から、メスを取り出す、そして、一本、王の喉元にへと狙って、投げた。
 その投擲は、一瞬の時を持って、王の喉元にへと届こうとしていたが、ヘーレの諸刃の剣が易々とそれを弾いた。

 「コニカ先輩を返せ」
 兜を外し、血走った目をひんむき、何の手入れもされていないだろう髪を垂らし、枝毛のあるその髪は、山姥ヤマンバのように酷く荒れたようになっている。

 「コニカは我輩の物だ、借りた覚えもない」
 三角関係の織り成す、気味の悪い、恋敵達の戦い程醜い争いも無く、誰も救われない戦いはない。


 コニカは今、表情も変えずに相手の剣を避けている。
 それは今、変な感情に浸っているからだ。
 変な感情、それは、殺意、悦楽、恐怖のどれでもない。

 懐かしい。

 戦場には相応しくない感情だった。

 右肩辺りに斬り下ろし、左胸にへの突き、右から左にへと水平斬り、突きと見せかけ斬り上げ、柄を使った殴打。

 剣を捨て、正拳突き、首元辺りにへと向けて手刀。
 眉間にへと向けて1本拳、足元を崩そうと外廻し蹴り、喉元を狙って鶴頭当てカクトウアテ
 そして、首を刈るような、上段回し蹴り。

 全て見切る事が出来た、それは、以前見たことがある、既視感から来る、予測によく似た、事前察知。
 全ての流れが、大方予測が出来、そして妥当、速くも、遅くもない、全てが予測通り。

 「……グラブか、貴様」
 その名前は、ナニカに操られ、そして、コニカが舌を斬り、地に伏せ、そして地に還る筈だった者の名前。

 その問いに、騎士は答えない。

 それにコニカは、自分の問いの答えを出そうと、初手を繰り出した。
 その初手は、兜を脱がせる、と言った相手の防具を剥がす行動。

 「……やはりか」
 橙色の、毛先のくねる癖毛が、兜の中から現れる。
 目の下にはそばかすがある。
 コニカの知る、グラブその者だった。

 戦場を共にし、生活を共にし、笑い合い、愚痴り合い、そして育った彼女を見て、一瞬、コニカは安堵し、そして剣を抜いた。

 一瞬の見切り、過去を捨て、そして今を生きる。
 まさに褒め称えるべき、プラス思考。

 それは、過去の友ですらを断捨離しても。

 太刀筋も、狂うこと無く一直に、僅かの乱れもなく、グラブの喉元にへと。
 享受される者は長く、与える者は短く、時は過ぎる。
 世界の時は平等であろうと、自らの過ごす時は、不公平である。

 意識が遠退く頃に、彼女は、自分で自分の体を見てしまっているだろう、そして赤を。

 「弱くなったな、いや、強くなったのか私が」
 友との時間に浸ることなく、コニカは、次の相手を待つ、赴きはしない、赴いて斬るほど、血に飢えてはいない。
 目的は、金髪の子供を生き返らせる、抱き締める手は綺麗でなくては。

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