遅熟のコニカ

紙尾鮪

44「ケッカトウゴウ」

 「そりゃ、酷すぎるんじゃねぇの? チビさん、これでも頑張った方だぜ?」
 腹部を押さえながら、グロルがヒルコの元にへと近付き、一応の弁明を述べる。
 ヘラヘラとした喋り方は、見栄なのだろうか。

 「状況報告」
 ヒルコは、労るイタワル事もなく、今、話す事の出来るであろう手負いのグロルに、状況報告を求め、把握を試みる。

 「ぁあ?! 俺かよ、たりぃ」
 グロルは、下半身部分を、蛇にへと変えて、高所から全てを見下ろす。
 そして、元の姿にへと戻り、一瞬ヒルコを見て笑った。

 「えっとだな、死んでるやつはいない、良かったな。瀕死の状態のやつが十数匹、形状変化してるやつが数匹いるな、まぁおおよそ被害はその形状変化したやつの数だけだろうな」
 ヒルコは、その報告を受けて、頭をかきむしり、イライラしている素振りを見せる。
 それは、子供達が、それほどの状態にならねば、相手を退ける事しか出来ないという事を示しているからだ。

 「駄目か……動ける者は、動けない者を背負うかどうにかして、監獄にへと戻れ、作戦を練る」
 ヒルコは、白衣のポケットに手を突っ込み、黙々と監獄にへと足を進める。
 コニカも黙ってヒルコの後ろを歩く。

 「だとよ、ビトレイよぉ。嫌われたんじゃねぇの? チビさんに」
 グロルは、地面に倒れるナニカに向かって小馬鹿にするように問いかける。

 「……分かったことがある、主に伝えてくれ」

──────────

 「コニカ、アイツらが死なず此れを終わらせる事は出来るだろうか?」
 監獄にへと戻り、静かで暗い廊下を歩くコニカとヒルコ、ヒルコがコニカにそう質問した。

 「十中八九無理だろうな」
 考える事もなく、コニカは言った。

 「君もそう思うか」
 コニカの考えに微塵も反発することなく、ただ同調する。

 「死んでいるヤツがいない所を見ると、意図して殺していないのだろう。であれば次、奴等は死ぬぞ」
 最悪が、瀕死の状態。
 瀕死の状態にへと持ち込めたのならば、殺すべき、これは誰でも思う事だろう。

 しかし、しない。
 つまりそれは今回は殺すのが目的ではなく、偵察、もしくは戦力を削ぐなどの目的だろう。
 形状変化も、それに当てはまる。

 「……どうした物か」
 ヒルコは、肩を落とし、猫背にへとなり、とぼとぼ歩く。
 コニカは、その姿も可愛いと今では感じている。

 「コニカ、君のいた会社の者はそれほどに優秀なのか?」
 ヒルコは、ナニカが一度、コニカ達と対峙しているのを思い出し、そこから生まれた疑問を投げ掛ける。

 「いや、この国で言う烏の衆ウゴウノシュウというやつだな。ぴーちくぱーちく喋って、辛い訓練になるとすぐ文句を言う、腑抜けた奴等だ」
 コニカは、若干の苛立ちを見せながら、元いた職場への不満を愚痴を吐くように、ヒルコの疑問の答えとして言う。
 しかし、コニカの答えは、現状に当てはまる事のない、不自然な正当だった。

 「おかしいな、力とは一日や二日などで得られる物ではないはず、唯一の穴がそれか……」
 ヒルコは、唯一の打開策を、見出だす事の出来るであろう物を見つけるが、それをどう扱えばいいかが、分からない。

 「まぁ烏合の衆と言っても、私が知る限りでは、もう一人、私以外にもまともなヤツが」
 コニカがふと思い出したように、ヒルコに伝えようとした時に、ヒルコに光、差す。

 「主よ! 報告があります!」
 グロルに肩を借り、なんとか歩き、監獄にへとついたナニカが、入ってすぐ、ヒルコ以外も呼んでしまう程の大声で、ヒルコを呼び寄せる。

 ヒルコは、再び、眉を重くさせ、ゆっくりと廊下を歩き、ナニカの元へと歩く。

 「……申し訳ありません……主にわざわざ足を」
 「さっさと言え」
 形式的ではない、ナニカの本心であるその言葉は、ヒルコには届かない、響かない。

 「……敵は全て一人です」

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