遅熟のコニカ
43「ナニカトグロル」
拮抗していた、確かに。
それはただ、女騎士達が、全ての力を出し切ってはいないという事から来る、拮抗という名の虚像である。
 
渾身の一撃を防がれた鬼は、すかさず、兜ごと抉り取るような、鋭いアッパーを。
それを、女騎士は、易々と防ぐ。
おおよそ不可能である、可能だとすれば、事前に知っているという事のみである。
「おっそーい」
馬鹿にし、精神を逆撫でさせるような声が、鎧の中から響く。
それに鬼は、苛立ち、力任せの蹴りを放つ。
それによって、痛みを与えつつ、一旦元にへと戻そうとはするが、そんな事を許す相手ではなかった。
突如、前方へ引き寄せられる感覚。
女騎士は、腕を離す事ないまま、蹴られた衝撃に乗り、後方にへと飛んだ。
それにより、鬼の双方の腕が引っ張られ、そして鬼は突然のその衝撃につい、耐えてしまう、地に足を付け、体に力を込める。故に起こるのは、両腕脱臼。
痛み故に起こる力の緩み、それにより、鬼、地に膝をつける。
それは敗北の象徴。
「それじゃ、君の負けー、じゃねー」
首を斬られる方が、幾倍かマシだった、己のプライドと自信を全てへし折られ、貶され、そして思い知らされた。
屈辱、死より辛い物だった。
覆い被さるように、八本足の熊は女騎士にへと襲いかかる。
女騎士は、無慈悲に猟銃の引き金を引く。
銃弾などは出ず、無骨に響く銃声のみ、その後八本足の熊を見た者はいない、いたのは八つの手足を持った幼女のみである。
実に簡単な事態の鎮静。
手足をもぐより、武力を行使するより簡単な、いや、難しくも単純な方法、相手の戦力を奪う事。
八本足の熊だった、八本の手足を持つ幼女は、意味も分からず泣いている。
ビルを走り回る、猪の頭を持つ雲にへと、銃弾が一発当たる。
下手な鉄砲数打ちゃ当たる、まさに言葉の通り、一が出来れば二が出来る。
零から一を作るのは難しい、しかし一から二を作るのはそうでもない。
故に猪鬼は、銃弾を浴びる、湯水の如く。
今も残る牛鬼の伝説、牛鬼でさえ倒したのは、人間なのだ。
突如感じる身の危険、ナニカはそれを易く防ぎ、そして目を疑う。
足を今、味わっている筈、ただそこには四肢揃った女騎士。
再生、人間にもある能力、しかしそれは、便利な物ではない、ただ治るのを早め、致命的な負傷でなければ、時間を持って傷を癒す。
しかし、明らかに人間のそれを凌駕し、そして治していた。
「貴様、何故それを扱う、いや扱える」
ナニカは、驚いていた、緑の鱗で固めた表皮に、表情筋によって動く皮膚はなく、心の中で、疑問を交差させる事しか出来ない。
ナニカは、事前にヒルコから、帝国の人間が、基本的には、遺能を扱えない。
そう聞かされていたからだ、その事前知識が、ナニカを縛った。
そして、視界の端に捉えた、銀色の靴、いや鎌が、意識をした瞬間、首元にへと刃という名の蹴りが振られ、ナニカは、首以外の場所にへとズラす事しか出来ない。
「……ッ!!……人間ガァア」
右目下、鱗が剥がれ、人間の皮膚が露になり、鱗の間から、裂け目が見える、それは打撲痕である筈が、まるで鎌の先が肉に引っ掛かり出来た、切創の痕のような物にへとなっていた。
ナニカは、後方へと跳び、相手を眼力で殺すように、くりっとした目が、女騎士を捉える。
女騎士は、金属を擦り付けたような笑い方をすると、鎧を口元を出すようにして持ち上げ、自分の親指を食いちぎる。
ナニカは思った、あれは人間などではない、勿論、我等とも違う。
悪魔。
そう思い、ナニカは、自分の事が、ただの人間にも、悪魔にもなれぬ、どちらとも言えぬただの模造品であると。
故に起こるのは、消失感、己が目の前にいる悪魔に勝てぬ、その威を借りるただの、何にでもない……ナニカ。
ナニカは、急に現れた、自分の存在価値への不安に、思考が遮られた。
目の前の敵を置いても、その事を考えたい、見出だしたい。
女騎士は、ねちゅねちゅ、にちゅにちゅと汚い音を鳴らしながら、指をしゃぶり、ただナニカを見ているだけだった。
その事が、ナニカを更に、陥れた。
自分など、倒すにも価しない、それだけの存在であると。
自虐による、己れの否定、それによりナニカは、己れという個を達観し、そして極限にまで加速した脳の回路は、己れをどうすればいいかと言う、改善策を、ナニカの許容を越えて、造られた全細胞を持って、見出だした。
現状を正す。
ナニカは、女騎士の首を食らった。
特に理由などはない、導かれ、そしてただ行動しただけ、故に起こす行動は、ナニカが、知的生命体である事を自分の中で確立するために行っていた行動、全てを否定する、獣としか言えぬほどの補食行動。
ナニカは、気付けば、血を吐き散らして倒れていた。
「串蛇いっちょ出来上がりぃ」
グロルは、敵の槍に貫かれていた。安い傲りからくる、下手な油断。
1歩成長したと思った、自己基準からくる、成長止め。
身の丈より、少し長い槍を持つ女騎士が、ふざけた口調で言う。
その槍より、二倍近くあるはずの、蛇の姿のグロルが、ただ死んだように体を地につけていた。
死んだように。
「すげぇ」
か細く、そして掠れた声だった。
井の中の蛙、グロルを表すならば、これ。
これは、言葉で伝えても、相手が受け取るとは限らず、身に受ければ、自と理解する。
馬鹿であるが故の利点と欠点。
驚異的な相手を知ることによる、反省と、他を認めるという事をグロルは学んだ。
そして、あともう一つ、敵と、刺し違えてでも相手を殺すというものと、絶対に生き残ってやるという、確固たる意思と矛盾する意思。
グロルは、相手ごと、とぐろを巻き、相手を締め上げる。
槍が、何処に刺さっているのかすらも分からず、女騎士の手から離れ、柄を左右に振らす。
そして、グロルは、女騎士から離れる。
槍は、女騎士の腹部にへと刺さり、グロルは頭部を食った。
──────────
「……子供に任せるのがいけなかったのだ、まともに事を終わらせられぬ」
ヒルコは、その場で疲弊する子供達を見て、一度舌打ちした。
それはただ、女騎士達が、全ての力を出し切ってはいないという事から来る、拮抗という名の虚像である。
 
渾身の一撃を防がれた鬼は、すかさず、兜ごと抉り取るような、鋭いアッパーを。
それを、女騎士は、易々と防ぐ。
おおよそ不可能である、可能だとすれば、事前に知っているという事のみである。
「おっそーい」
馬鹿にし、精神を逆撫でさせるような声が、鎧の中から響く。
それに鬼は、苛立ち、力任せの蹴りを放つ。
それによって、痛みを与えつつ、一旦元にへと戻そうとはするが、そんな事を許す相手ではなかった。
突如、前方へ引き寄せられる感覚。
女騎士は、腕を離す事ないまま、蹴られた衝撃に乗り、後方にへと飛んだ。
それにより、鬼の双方の腕が引っ張られ、そして鬼は突然のその衝撃につい、耐えてしまう、地に足を付け、体に力を込める。故に起こるのは、両腕脱臼。
痛み故に起こる力の緩み、それにより、鬼、地に膝をつける。
それは敗北の象徴。
「それじゃ、君の負けー、じゃねー」
首を斬られる方が、幾倍かマシだった、己のプライドと自信を全てへし折られ、貶され、そして思い知らされた。
屈辱、死より辛い物だった。
覆い被さるように、八本足の熊は女騎士にへと襲いかかる。
女騎士は、無慈悲に猟銃の引き金を引く。
銃弾などは出ず、無骨に響く銃声のみ、その後八本足の熊を見た者はいない、いたのは八つの手足を持った幼女のみである。
実に簡単な事態の鎮静。
手足をもぐより、武力を行使するより簡単な、いや、難しくも単純な方法、相手の戦力を奪う事。
八本足の熊だった、八本の手足を持つ幼女は、意味も分からず泣いている。
ビルを走り回る、猪の頭を持つ雲にへと、銃弾が一発当たる。
下手な鉄砲数打ちゃ当たる、まさに言葉の通り、一が出来れば二が出来る。
零から一を作るのは難しい、しかし一から二を作るのはそうでもない。
故に猪鬼は、銃弾を浴びる、湯水の如く。
今も残る牛鬼の伝説、牛鬼でさえ倒したのは、人間なのだ。
突如感じる身の危険、ナニカはそれを易く防ぎ、そして目を疑う。
足を今、味わっている筈、ただそこには四肢揃った女騎士。
再生、人間にもある能力、しかしそれは、便利な物ではない、ただ治るのを早め、致命的な負傷でなければ、時間を持って傷を癒す。
しかし、明らかに人間のそれを凌駕し、そして治していた。
「貴様、何故それを扱う、いや扱える」
ナニカは、驚いていた、緑の鱗で固めた表皮に、表情筋によって動く皮膚はなく、心の中で、疑問を交差させる事しか出来ない。
ナニカは、事前にヒルコから、帝国の人間が、基本的には、遺能を扱えない。
そう聞かされていたからだ、その事前知識が、ナニカを縛った。
そして、視界の端に捉えた、銀色の靴、いや鎌が、意識をした瞬間、首元にへと刃という名の蹴りが振られ、ナニカは、首以外の場所にへとズラす事しか出来ない。
「……ッ!!……人間ガァア」
右目下、鱗が剥がれ、人間の皮膚が露になり、鱗の間から、裂け目が見える、それは打撲痕である筈が、まるで鎌の先が肉に引っ掛かり出来た、切創の痕のような物にへとなっていた。
ナニカは、後方へと跳び、相手を眼力で殺すように、くりっとした目が、女騎士を捉える。
女騎士は、金属を擦り付けたような笑い方をすると、鎧を口元を出すようにして持ち上げ、自分の親指を食いちぎる。
ナニカは思った、あれは人間などではない、勿論、我等とも違う。
悪魔。
そう思い、ナニカは、自分の事が、ただの人間にも、悪魔にもなれぬ、どちらとも言えぬただの模造品であると。
故に起こるのは、消失感、己が目の前にいる悪魔に勝てぬ、その威を借りるただの、何にでもない……ナニカ。
ナニカは、急に現れた、自分の存在価値への不安に、思考が遮られた。
目の前の敵を置いても、その事を考えたい、見出だしたい。
女騎士は、ねちゅねちゅ、にちゅにちゅと汚い音を鳴らしながら、指をしゃぶり、ただナニカを見ているだけだった。
その事が、ナニカを更に、陥れた。
自分など、倒すにも価しない、それだけの存在であると。
自虐による、己れの否定、それによりナニカは、己れという個を達観し、そして極限にまで加速した脳の回路は、己れをどうすればいいかと言う、改善策を、ナニカの許容を越えて、造られた全細胞を持って、見出だした。
現状を正す。
ナニカは、女騎士の首を食らった。
特に理由などはない、導かれ、そしてただ行動しただけ、故に起こす行動は、ナニカが、知的生命体である事を自分の中で確立するために行っていた行動、全てを否定する、獣としか言えぬほどの補食行動。
ナニカは、気付けば、血を吐き散らして倒れていた。
「串蛇いっちょ出来上がりぃ」
グロルは、敵の槍に貫かれていた。安い傲りからくる、下手な油断。
1歩成長したと思った、自己基準からくる、成長止め。
身の丈より、少し長い槍を持つ女騎士が、ふざけた口調で言う。
その槍より、二倍近くあるはずの、蛇の姿のグロルが、ただ死んだように体を地につけていた。
死んだように。
「すげぇ」
か細く、そして掠れた声だった。
井の中の蛙、グロルを表すならば、これ。
これは、言葉で伝えても、相手が受け取るとは限らず、身に受ければ、自と理解する。
馬鹿であるが故の利点と欠点。
驚異的な相手を知ることによる、反省と、他を認めるという事をグロルは学んだ。
そして、あともう一つ、敵と、刺し違えてでも相手を殺すというものと、絶対に生き残ってやるという、確固たる意思と矛盾する意思。
グロルは、相手ごと、とぐろを巻き、相手を締め上げる。
槍が、何処に刺さっているのかすらも分からず、女騎士の手から離れ、柄を左右に振らす。
そして、グロルは、女騎士から離れる。
槍は、女騎士の腹部にへと刺さり、グロルは頭部を食った。
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