遅熟のコニカ

紙尾鮪

36「ヘデラ・プリムラ」

 「やっぱ歯応えのある男じゃねぇと美味しもねぇし、楽しくねえよなぁ」
 コニカは、グロルが言う事を適当に聞き流しながら、祝杯の酒をちびちびと飲む。

 「そうだそうだ、女子供は油っぽくて胃もたれするからな!」
 ガハハと笑うおっさんのような、鬼の姿をした男が、酒を一気に飲み干して叫ぶような声で同調する。

それに同調するように周りの怪物達は、笑う。

 それに耐えかねたのか、コニカは、その場から立ち去り、何処かへと向かう、いやヒルコの元へと向かう。

 「……おぉコニカか、どうした、もう酔いでも回ったか?」
 ヒルコは、コニカが来たことに気づくと、フラスコを、コニカに見せぬよう隠した。

 「い、いや別に。そういえばさっきのは何なんだ?」
 コニカは、やんわりと誤魔化し、ヒルコが隠したものを見ようと、ヒルコに詰め寄る。

 ヒルコは、珍しく少し慌てた様子で、コニカを押し返そうと、コニカの肩を両手で押すが、今のヒルコには出来ず、詰め寄られた。

 「……仕方がない」
 ヒルコは、しぶしぶフラスコを見せた。
 そのフラスコの中には、花があった。

 小さくも、身を寄せ合い、幾数もの花弁が重なりあい、見る者が、どの方位にいようと、真正面に見合わせる事となる。

 赤紫の色彩が、中から外へと薄まりグラデーションを作っている。
 濃い中心は、見るものを引き込み、淡い外側は、儚げながらも確かな魅力を放つ。

 しかし、その花を縛るように、星形の葉を持ったツタが、花を跨ぎ、更にはフラスコを這う。
 それは、まるで狭い空間を嫌い、広い世界を知ろうとしているようにすら思える。

 土すらないフラスコの中に、小さくはあるが花が咲いていた。
 そこにコニカは、驚かない。コニカは、花になど詳しくはない。
 しかし、これだけは知っていた、知っていたからこそ、驚いた。

 「これは……ヘデラと、プリムラ?」
 ヘデラ、プリムラ。
 その二つの名は、フラスコの中にある花を指す。
 ヘデラとプリムラが、同じ花を指す訳ではない。

 二つの花が、一つの花にへとなっているのだ。

 「あぁ、さしずめ、合成花といった物かな、我輩が花の趣味を持っていると知れると、体裁的に良くなくてだな……」
 ヒルコは、恥ずかしそうに説明をする、しかし、顔が赤いのは、コニカの方だった。

 「いや、その……なんだ、大丈夫だ。誰にも言わない、あぁ安心しろ、うん大丈夫だ」
 ぎこちない喋り方を、またしたコニカは、さっき来た道を戻ろうと歩くが、同じ側の手足が同時に出ている。
 とても可笑しかった。
 しかし、そんな事をしてしまう程に、コニカは心乱されているのだ。

─────────

 「酷いな」
 王は、自ら出向き、惨状を見た。
 王の高価な衣服に、その場に漂う強い臭いがつきそうな程に、辺りは臭う。
 それは、死体や血の臭いだけではなく、ドブネズミにカラス、などの後処理をする動物らの臭い。

 惨劇が起こってから、30分程経った頃に王は来た。
 つまり王は、それほどに重要視しているのだろう。

 王は、手を合わせ、片足を地面に下ろし、祈るような姿をする。
 神を信じない、それを進めている筈の王は、何に祈っているのか。
 そして、王の祈りが届き、返る。

 「……子が一人、反抗期になったか」
 王がそう呟くと、ドブネズミを蹴った。

───────

 「さて、そろそろだろうな」
 ヒルコは、コニカの牢屋の中で言った。

 「反撃か?」
 コニカは、金髪の子供の姿を模した人形を撫でて、ヒルコの言葉を先に取る。

 「あぁ、あちら側のな」
 ニヤリと笑うと、ヒルコはホルマリン漬けにされている金髪の子供を見て、コニカと同じような顔で笑った。

─────────

 「さぁ行け子達よ」
 王はふんぞり返って、銀色の騎士達に命令した。
 まさに王であり、絶対的な支配者。

 騎士は、命令に反する事なく進んだ。
 大義と正義を背負って。

─────────

 「……いつから君がいた会社がテロル組織にへと変わったんだ?」
 森を明けた先にあるビルの群生する土地が、銀色と赤色で埋めつくされていた。

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