遅熟のコニカ

紙尾鮪

34「フタリトシュウゲキ」

 二人は、帝国を襲撃する計画を練りながら、コニカは過去に倒した相手、ヒルコは今まで行った悪行など、自分達の昔話に花咲かせ、和気藹々ワキアイアイとした雰囲気を出している。

 しかし、明るい部屋に対して、窓から差す光は失われ、むしろ光を奪いにやってきている。

 「ん、少し話が長くなってしまったな、我輩は寝るとしよう」
 ヒルコは、一度あくびをしてみせ、席を外し、牢屋の外にへと出ようとするが、ヒルコの尾のようになびく白衣が弱く、微かに引っ張られた。
 ヒルコは、心の中でガッツポーズをしてみて、興奮冷めやらぬ状態でどうにか無表情を貫く。

 「どうかしたか?」
 ヒルコが振り向けば、そこにはコニカがいた。

 「あ、あぁいや、なんでもないおやすみ」
 なおもコニカは離す事はない。

 「なんだ、用もないのであれば、さっさと寝ろ、そこまで我輩は暇ではない」
 精一杯、コニカに向けての苛立ちを表現する。
 そんなことは微塵も思ってはいないし、今後思う気もない。

 全てが愛らしく思え、苛立ちなど微塵も感じるはずがないのだ、言わば愛ある叱りであり、これは仲を繋げるいや、離さぬよう繋ぎ止める粘着剤、一方的な愛情を送るための物だった。

 「違うんだ……悪戯じゃない、もう少し待ってくれ……一分でいい」

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 日は照り、一切の雲がない中、コニカとヒルコの胸中も一切曇りがかってはいない。
 まさに晴天、きらびやかな光が、銀色の鎧を輝かせ、栗色の髪が、小麦のように鮮やかな色となる。

 白い子供は、太陽の光を吸い込むような黒い鞄を持ちながら、古めかしい煉瓦の家を見上げ、そして、黒い鞄を置くと、地面にへと魔方陣のような物を描いていく。

 とても大きく、禍々しい。

 今回は、ペンキで、石の地面に、黒のペンキが地面に触れる度に飛び散り、ヒルコの白衣にかかる。

 ヒルコの描く絵を、物珍しそうに、人々は建物の中から、または近づいたりして見ている。
 まるで、路上アーティスト。
 奇々怪々で、面妖なその絵は、通行人の足を止める。

 そして、ヒルコは手をとめて、黒い鞄を開けて引っくり返せば、中から、たくさんのぬいぐるみや煉瓦、骨に、本に、肉に、ヘドロなどがこぼれ落ちてくる。

 そして、全て出した筈の黒い鞄から、試験管を取りだし、その中に入ってある少量の、無色透明の液体を絵にへとかけた。
 すると、その地面が、まるで溶け出したかのように、ぬいぐるみや煉瓦などの物を飲み込んでいく。

 周りの人々はぬいぐるみなどから、悲鳴のような物が聞こえたような気がした、しかしそのような恐ろしい状況でさえも、皆、全て魅了されていたのだ。

 恐ろしいその光景に、禍々しいその光景に、シュウであるその光景に、美を感じていた。
 いや美ではない、その強さに、目と心を奪われたのだ。

 ぬいぐるみや煉瓦を飲み込んだ地面から、ツタが天高く伸び、絡み合い、一本の木のような物に見える、ツタの根本は、太く丈夫な黒い根が伸びる。

 その黒い根は、何処から養分を吸い取っているのか、ツタからは様々な果実が生っていく。

 大きく、黒々とした果実。
 重すぎて、ツタから落ちたはずの果実が、より大きく、人の大きさなど軽く越えてなお、大きくなっていく果実。
 熱を持っているのか、灰色の煙があがりながらも、成長していく果実。
 右や左にへと揺れる果実など、ツタを囲むように数多く生っていく。

 そして、ツタは、枯れて、実は落ちる。
 ツタが死んだ後、果実はようやく、生命活動を開始する。

 人間サイズになったり、それより小さい、大きい、建物より大きい。

 そして、産まれる。

 怪物達、もとい、子供達が。
それは、文献に残る奇妙な動物、創作の中でしか存在し得ない動物、誰もが見たこともない動物。

 煉瓦造りの巨人、電気を帯びた犬、角の生えた赤い大男に、空を飛ぶ爬虫類、顔だけの達磨、烏帽子を被る狐、そしてナニカにグロルなどの、ヒルコの子供達だ。

 一連の鮮やかで、きらびやかな行動に群衆は拍手を送る、魔法の類いを使った大道芸だと思っているのだろう、事実、何度か幻術を使った魔法での、大道芸は行われているのだ。

 その光景に、グロルは笑い、ナニカは何もしない。

 そしてヒルコは、群衆に向けて一礼をすると、大きな声で、目をキラキラさせながら語る。
 目に光が差した。

 「皆さん! 良い日ですね! 散歩日より、スポーツ日より、読書日より、洗濯日よりでしょう! しかし、我輩はそんな事より、今日にうってつけの物があると思います! お仕事です! 皆さん!我々と共に楽しみましょう!」
 もう一度礼をすれば、ヒルコの目は淀み、そして笑った。
 群衆は、口笛を吹いたり、拍手を送ったり、金を投げている。
 ヒルコの顔が変わったのに、目もくれず。

 「さぁ、子供達ガキドモ仕事だ」
 その言葉をヒルコが言った後、その場の拍手は止み、地面を蹴る音に変わる。
 勿論、新たな音も加わる。

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