遅熟のコニカ

紙尾鮪

33「テロルニコウフン」

 「起きたかヘーレよ、とっくの前に始業時間は迎えている、寝ているヤツにやる金はない、働け」
 王は、ベッドに横たわるヘーレを見て、労りもなく、労働の催促をした。
 しかし、経営者であればそう思うのも仕方がないだろう。

 「え……あ…………う゛っ」
 状況判断に若干の時間経過、そして、記憶のフラッシュバック。
 自分が殺される前の映像。

 狂気が自分を襲ってきたのだ。

 無表情で、意図も容易く肉を千切り、痛みで気絶する事も出来ず、継続的に見れば確実に死ぬはずの自分を、殺していた、笑うことも、悲しむことも、多分感じていない、無表情で自分を。

 それを思いだし、体験しているかのように、ヘーレはその感覚に襲われ、ただの液を出した。
 当分食事を取っていなかったために、固形物らしき物が口からは出てこない。
 しかし、喉を焼かれているような感覚と、脳がふわふわとし、その浮遊感が、またも、戻しそうになる。

 「後始末は自分でしろ、あとシーツ代は天引きさせてもらう」
 王はそう言うと、ヘーレの元から離れた。
 ヘーレは、涙ながらに、自分が吐いた物の後始末をしている。
 コニカの事を思いながら。

────────

 「では、どうやってその、生き返らせる物というのを使うんだ?使わせてくださいと言ってみるのか?」
 コニカは、何時もの牢屋の中で、金髪の子供をベッドに寝かせ、お腹を撫でながら、何時ものように、若干相手を小バカにしながら、ヒルコと話す。

 「一つ提案がある、いやな、これは我輩の次の仕事に当たるのだが……帝国を襲撃したい、そう思っているのだ」
 まるで子供が描く悪役の言う言葉、帝国を襲撃したいなどという、とても馬鹿らしいその考えに、襲撃先の帝国が、自分の生まれ故郷のコニカは、否定する。事はなかったむしろ、賛成していたのだ。

 「いいなぁ、それ。やろう、あのクソみたいな国を落とそう、心が踊るな!」
 コニカは、精神年齢が落ちているのか、答え方に、前のような、小難しい言葉は使わず、若干柔和な感じになっている。
 金髪の子供が死んだが故のショックか、 それとも、母になるという事を受け入れ、子供にも分かりやすいよう、感情表現と、簡単な言葉を使っているためなのか。

 「そういえば君の仕事はなんだ? 国や施設を襲撃するテロルか?」
 コニカは、ヒルコのやっている事に対しての疑問が浮かんだ、それも仕方ない、ちょくちょく仕事があると言っては、どこかに行ったりしていたので、引っ掛かるのも仕方がない。
 そして、まだ小さいのに、国際手配されるようになったのか、純粋な疑問だった。

 「テロルとは酷いな……まぁとある団体に入っているんだ。その団体はだな……なんというか特に決まりはないが、時々やる事を指定され、それを行う。そんなおちゃらけた団体だよ」
 ヒルコは、自分の入っている団体をコケにしながら、自分の仕事をやんわりと説明するが、明解には分からない。

 「前回がここの占拠、そして今回が、ティーグルブラン帝国を襲撃、そしてもう一つ、これは我輩が決めた仕事なのだが、コニカ、君を幸せにすることだ」
 その甘ったるい言葉と、国を揺るがす言葉は、変に混ざり合い、とても刺激的な物になっていた。

 そして、コニカの心に初めて響いた。

 「……その……なんだ……ありがとうな、こんな私のために」
 コニカは、恋を知らない年増のように、頬を染めて、ヒルコの言葉を受け入れた。
 いや、本来の姿なのだ。

 それにヒルコは、またも興奮した。

 これほどにチョロいとは。ヒルコは笑った。
 金髪の子供を、親密な関係に仕立てあげ、その人物を失い、悲しみにくれる相手に付け入り、自分が金髪の子供の立ち位置になる。
 ヒルコの目論み通り、それがとても、ヒルコは興奮した。

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