遅熟のコニカ
29「コニカラフレシア」
金髪の子供が倒れた瞬間、まず転けたのだとコニカは思った。
いや、思いたかったのだ。
信じたくなかった、あの音が銃声だという事を。
一歩づつコニカは金髪の子供の元へと歩いていく。
その足取りは重く、遅い。
それは、知りたくなかったから、本当の事を。
そして、起き上がり、自分の元へと泣きながら寄ってきて欲しかった。
そんな事は起きなかった。
そして真実を、辛く受け入れがたい現実を、コニカは押し付けられる。
金髪の子供の死である。
その瞬間、コニカが壊れた。
まるで、ラフレシアが開花するが如く。
醜く、単色の蕾から、鮮やかな赤色の花弁が現れ、そして異臭を放つ。
それは、醜悪で、素晴らしく、そして恐ろしい。
母の愛、今、血を休む間もなく流している金髪の子供を抱き上げ、揺らす。
何度も強く、その度に、命を失い、生気を失った顔のまま、後ろに、前に頭が振れる。
どうしてもコニカは、死んでいる事を信じる事が出来なかった。
コニカは、声を出せれない、呆気に取られて。
確認するように行われた行動を終えると、金髪の子供を再び寝かせた。
すると手が温かに感じた。
まるで金髪の子供に手を握られ、引かれていた時と同じような。
咄嗟にコニカは、自分の手を見る。
しかしそこには金髪の子供の柔らかな手はなく、あったのは、ラフレシアの花弁ような、鮮やかな赤色の液体だった。
コニカは、それが、金髪の子供の、物だと、分かった。
コニカは、信じたくなかった。
いや、信じないでいて良かった。
奇跡、声が聞こえた。
「おかぁ……さん」
コニカは、その言葉を聞き逃さなかった。
直ぐ様近寄ろうとするが、目の前に、弾丸通る。
それは、奇跡をいとも簡単に無きものにし、そして、少したりとも、コニカに落ち着かせるという事はなかった。
その弾丸は、眉間を貫き、金髪の子供の、息を吹き返したぐらいの、か細いものを、再び止めるぐらい易しく、いやむしろ十分すぎる程の物でだった。
金髪の子供を一跳ねさせ、その小さな身体に流れていたとは思えない程の量が、濃茶の泥と混ざり合い、草に着色し、そして、コニカの薄い布に乱雑に塗りつけた。
「やった! やった!」
コニカの耳に、歓喜にまみれた声が聞こえる。
コニカの目に、猟銃を持った、騎士がいた。
コニカの鼻に、血液の鼻を覆いたくなる臭いが届く。
コニカの頭の中に、常人では耐えがたい程の感情の渦が回る。
それは、先の見えない螺旋階段のようで、果てしなく、下を見れば奈落。
残り香のように漂う喜び、濃い黒のインクを落としたように、じわじわと広がる悲しみと、 周りを飲み込み、尚拡大し、全てを滅ぼす爆弾のように起こる、憎悪の怒り。
一歩登れば、残り香は薄れ、インクは広がり、爆発の範囲は広がる。
 
多重人格のように、感情同士が個を持っているようで、己を高め、そして他の感情を蹴落とそうとするように、高め合う。
一番に消えたのは喜び、消え薄れていた感情は、真っ先に過去の物となるが、濃く強く記憶に残る。
「コニカ先輩っコニカ先輩っ」
嬉しそうに、楽しそうに、伝わるその声に、コニカは、金髪の子供と被った。
それに喜ばない、爆弾が、もう一つ爆発した。
以前の物よりもかなり高性能で、そして残虐な物だった。
──────────
「やった!やった!」
子供のように、子供を撃ち抜いたことに喜ぶヘーレは、後ろにつく同僚達の目を気になどせず、自分の思うままに喜んだ。
これで、コニカは、コニカ先輩にへと戻る。あの忌まわしきただの女になったコニカが消え、自分の憧れた、自分の愛したコニカ先輩が自分の元へと戻ってきてくれるのだと、そう確信し、喜んだ。
天に昇るように足取りは軽く、突き動かされるように、コニカ先輩の元へ。
しかし、そこにはコニカしかいなかった。
それにヘーレは、何も怒りすら感じていなかった。
むしろ、使命感とすら、いや義務とすら感じられる、コニカ先輩を返せという、その一つの、目的、大義を持って、正義を執行する。
再び、子供に向けて銃を。
倫理から外れた、外道のそれは、正義というコーティングで、正道となった。
確信した。
子供を殺し、あちら側にすがっていた物が無くなり、自分の元へと帰ってきてくれるのだと、ヘーレは確信した。
全てが順調で、もしかしたら、コニカがあちら側に行った事でさえ、自分との仲を深めるためにあった物なのではないのか、とさえヘーレは思っていた。
「コニカ先輩っコニカ先輩っ」
まるで、恋人の待ち合わせに遅れていたかのように、急ぎ足で、コニカの元へと走る。
特別でもないただの雑草の道でさえ、とても幻想的な花道なのだと思えた。
恋慕、それが今、ヘーレが感じていた物だった。
──────────
ナニカとグロルは、あの子供が撃たれた事に、驚いた。
しかし、ヒルコとその他の者、物達は、歓喜の声をあげていた。
ナニカとグロルは分からなかったのだ、いや、ミケと呼ばれている者が、金髪の子供だとは思っていなかったからだ。
その事に、ナニカは羨ましい。グロルは、どうでもいい。そう思った。
ナニカは、あれ程にヒルコの役に立っている、と思えばとても素晴らしい役職だった。それが殉職を強いられていたとしても。
グロルは、あの時、自分の全力を防いだ者が死んだという事で、若干名残惜しいとは思ったが、ただそれだけだった。
「あぁ、これだけでも十分だ、しかし、コニカ、君はもっと魅せてくれるのだろう?」
ヒルコは、自分の胸を押さえ、頬を紅潮させ、甘い吐息を漏らし、肉体を痙攣させる。
まさにそれは、欲情した女のそれだった。
そして、とある紙を取りだし、それをくしゃくしゃにし、胸に寄せ、感謝を神に伝えた。
「あぁ……この為に、依頼したのだ、カマキリ、なんと良い物だ」
紙を千切り、宙にへと舞わせた。
その紙は、ヒルコの髪に乗り、同化した。
──────────
黒いしかし、尊い。
そんな思いが、コニカの脳内を回し、そして一つの塊にへと凝固し、分裂する。
一つづつ、体を侵食し、拘束し、その塊がまた分裂し、肥大し、体が染まれば心を侵食する。
その塊は、思い出を刺激し、そして感情を荒波が如く揺らす。
そして、一瞬の静寂。
気付けば、コニカが見たのは、赤色の自分の服、粘土のように凹んだり、引きちぎられたり、曲がったりしている人達と、自分の腕の中で眠る金髪の子供と、金髪の子供に当たる大粒の雫だった。
いや、思いたかったのだ。
信じたくなかった、あの音が銃声だという事を。
一歩づつコニカは金髪の子供の元へと歩いていく。
その足取りは重く、遅い。
それは、知りたくなかったから、本当の事を。
そして、起き上がり、自分の元へと泣きながら寄ってきて欲しかった。
そんな事は起きなかった。
そして真実を、辛く受け入れがたい現実を、コニカは押し付けられる。
金髪の子供の死である。
その瞬間、コニカが壊れた。
まるで、ラフレシアが開花するが如く。
醜く、単色の蕾から、鮮やかな赤色の花弁が現れ、そして異臭を放つ。
それは、醜悪で、素晴らしく、そして恐ろしい。
母の愛、今、血を休む間もなく流している金髪の子供を抱き上げ、揺らす。
何度も強く、その度に、命を失い、生気を失った顔のまま、後ろに、前に頭が振れる。
どうしてもコニカは、死んでいる事を信じる事が出来なかった。
コニカは、声を出せれない、呆気に取られて。
確認するように行われた行動を終えると、金髪の子供を再び寝かせた。
すると手が温かに感じた。
まるで金髪の子供に手を握られ、引かれていた時と同じような。
咄嗟にコニカは、自分の手を見る。
しかしそこには金髪の子供の柔らかな手はなく、あったのは、ラフレシアの花弁ような、鮮やかな赤色の液体だった。
コニカは、それが、金髪の子供の、物だと、分かった。
コニカは、信じたくなかった。
いや、信じないでいて良かった。
奇跡、声が聞こえた。
「おかぁ……さん」
コニカは、その言葉を聞き逃さなかった。
直ぐ様近寄ろうとするが、目の前に、弾丸通る。
それは、奇跡をいとも簡単に無きものにし、そして、少したりとも、コニカに落ち着かせるという事はなかった。
その弾丸は、眉間を貫き、金髪の子供の、息を吹き返したぐらいの、か細いものを、再び止めるぐらい易しく、いやむしろ十分すぎる程の物でだった。
金髪の子供を一跳ねさせ、その小さな身体に流れていたとは思えない程の量が、濃茶の泥と混ざり合い、草に着色し、そして、コニカの薄い布に乱雑に塗りつけた。
「やった! やった!」
コニカの耳に、歓喜にまみれた声が聞こえる。
コニカの目に、猟銃を持った、騎士がいた。
コニカの鼻に、血液の鼻を覆いたくなる臭いが届く。
コニカの頭の中に、常人では耐えがたい程の感情の渦が回る。
それは、先の見えない螺旋階段のようで、果てしなく、下を見れば奈落。
残り香のように漂う喜び、濃い黒のインクを落としたように、じわじわと広がる悲しみと、 周りを飲み込み、尚拡大し、全てを滅ぼす爆弾のように起こる、憎悪の怒り。
一歩登れば、残り香は薄れ、インクは広がり、爆発の範囲は広がる。
 
多重人格のように、感情同士が個を持っているようで、己を高め、そして他の感情を蹴落とそうとするように、高め合う。
一番に消えたのは喜び、消え薄れていた感情は、真っ先に過去の物となるが、濃く強く記憶に残る。
「コニカ先輩っコニカ先輩っ」
嬉しそうに、楽しそうに、伝わるその声に、コニカは、金髪の子供と被った。
それに喜ばない、爆弾が、もう一つ爆発した。
以前の物よりもかなり高性能で、そして残虐な物だった。
──────────
「やった!やった!」
子供のように、子供を撃ち抜いたことに喜ぶヘーレは、後ろにつく同僚達の目を気になどせず、自分の思うままに喜んだ。
これで、コニカは、コニカ先輩にへと戻る。あの忌まわしきただの女になったコニカが消え、自分の憧れた、自分の愛したコニカ先輩が自分の元へと戻ってきてくれるのだと、そう確信し、喜んだ。
天に昇るように足取りは軽く、突き動かされるように、コニカ先輩の元へ。
しかし、そこにはコニカしかいなかった。
それにヘーレは、何も怒りすら感じていなかった。
むしろ、使命感とすら、いや義務とすら感じられる、コニカ先輩を返せという、その一つの、目的、大義を持って、正義を執行する。
再び、子供に向けて銃を。
倫理から外れた、外道のそれは、正義というコーティングで、正道となった。
確信した。
子供を殺し、あちら側にすがっていた物が無くなり、自分の元へと帰ってきてくれるのだと、ヘーレは確信した。
全てが順調で、もしかしたら、コニカがあちら側に行った事でさえ、自分との仲を深めるためにあった物なのではないのか、とさえヘーレは思っていた。
「コニカ先輩っコニカ先輩っ」
まるで、恋人の待ち合わせに遅れていたかのように、急ぎ足で、コニカの元へと走る。
特別でもないただの雑草の道でさえ、とても幻想的な花道なのだと思えた。
恋慕、それが今、ヘーレが感じていた物だった。
──────────
ナニカとグロルは、あの子供が撃たれた事に、驚いた。
しかし、ヒルコとその他の者、物達は、歓喜の声をあげていた。
ナニカとグロルは分からなかったのだ、いや、ミケと呼ばれている者が、金髪の子供だとは思っていなかったからだ。
その事に、ナニカは羨ましい。グロルは、どうでもいい。そう思った。
ナニカは、あれ程にヒルコの役に立っている、と思えばとても素晴らしい役職だった。それが殉職を強いられていたとしても。
グロルは、あの時、自分の全力を防いだ者が死んだという事で、若干名残惜しいとは思ったが、ただそれだけだった。
「あぁ、これだけでも十分だ、しかし、コニカ、君はもっと魅せてくれるのだろう?」
ヒルコは、自分の胸を押さえ、頬を紅潮させ、甘い吐息を漏らし、肉体を痙攣させる。
まさにそれは、欲情した女のそれだった。
そして、とある紙を取りだし、それをくしゃくしゃにし、胸に寄せ、感謝を神に伝えた。
「あぁ……この為に、依頼したのだ、カマキリ、なんと良い物だ」
紙を千切り、宙にへと舞わせた。
その紙は、ヒルコの髪に乗り、同化した。
──────────
黒いしかし、尊い。
そんな思いが、コニカの脳内を回し、そして一つの塊にへと凝固し、分裂する。
一つづつ、体を侵食し、拘束し、その塊がまた分裂し、肥大し、体が染まれば心を侵食する。
その塊は、思い出を刺激し、そして感情を荒波が如く揺らす。
そして、一瞬の静寂。
気付けば、コニカが見たのは、赤色の自分の服、粘土のように凹んだり、引きちぎられたり、曲がったりしている人達と、自分の腕の中で眠る金髪の子供と、金髪の子供に当たる大粒の雫だった。
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