遅熟のコニカ

紙尾鮪

28「ヘーレトヒルコ」

 ヘーレは、森を歩いていた。
 今度は自分が先頭を切って。
 後ろには、知らぬ同僚達。

 ──これさえこなせばスィクルは解散しない──

 ──励め──

 その20文字の言葉は、ヘーレにとって重くのしかかった。
 自分の出来次第で、居場所が失われる。
 コニカが戻る場所も。

 コニカの背中を見るだけだった、コニカの功績に憧れるだけだった。
 コニカの強さに惚れるだけだった。

 ただ今は、コニカの事を救える。
 そう考えるだけで、ヘーレは、足を進める意味があった。
 そして一人を殺す意味があった。

 ヘーレの手には、獣を狩る筈の武器があった。
 拳銃でも良かった、しかし、扱いなれていたのが、それだっただけなのだ。

 ヘーレは、あの時、追い付くのに必死で、走る事しか出来なかった。
 ただ今は、同僚達を引き連れ、道を開いている。
 その事に一切の優越感はない。
 あるとすれば、一歩一歩進む度に、胸が高まった。
 憧れのコニカと会える、一歩、緩んだ地面を踏む度に、その思いが強まる事が分かる。

 屍一つで成り立つ組織、その事にヘーレは何も引け目を感じなかった。いやむしろ、その屍となれるのは誇らしい物だ、そう思ってすらいた。

 そして、ヘーレは、標的を見つけた。

 「……どうでもいいか、ごめんね」
 そう呟いた言葉には謝罪の意はない、ただ、なんとなく言っておいた方が良いと思って呟いた。

 その呟きと同じように、強い殺意もない、仕事上の義務と、嬉しさに満ちた音が軽快に響いた。

 そして、ヘーレは達成した。

───────────

 「チビさんよぉ、何の用だ、いきなり独房から出したと思えば」
 グロルが、大画面のテレビのような物がある部屋に足を踏み入れる。
 グロルは、先程まで独房に入っていた。それは、自分から申し出た事だった。
 自分より劣っているはずの者に遅れをとり、更に恐怖し、暴れまわった事が、自分を責めるには十分な、いや責めざるをえないものだった。

 「主の言う事に文句を垂れるな、阿呆が」
 ナニカが、明らかに不満そうなグロルに対して、苛立ちを含めた注意をする。
 ナニカの注意に対して、グロルは眉を歪め、明らかな苛立ちを見せていた。

 「くわばらくわばら……そちら二人はとても仲が良いのぅ」

 「仲良くねぇ!」「仲良くない!」
 老人のすっとんきょうな言葉に二人は、声を合わせて叫んだ。
 その事を見ると確実に二人は仲が良いようだった。

 続々と人間の姿をした者や、そうではない者、更には者ではない物すらも集まった。

 そして、ヒルコは大きく手を拡げ、皆に聞こえるように叫んだ。

 「今日は、とても素晴らしい日になる! この事は未来永劫語り継がれるであろう!」
 ヒルコがそう叫ぶと、ナニカ達は大きな拍手を送る、中には雄叫びをあげる者もいた。
 開口一番の一言にはうってつけの内容だった。

 「我らの成長、そして、種の存続のための犠牲になった、素晴らしき同胞の名前は……」
 ヒルコの演説のような物は、突如途切れた。それは、思い出せなかったからでも、問題が起こったからでもない。
 名前がまだ、なかったのだ。

 「……そうか無かったな、そうだな……ミケ、仮名としてミケにしよう。ミケのおかげで我らはまた一歩進化する。神にへの階段だ」
 ミケという名前の者に祈るように、ヒルコ達は手を併せ目を瞑る。

 「見てもらおう。その瞬間を、神の階段を登る瞬間を」
 ヒルコは目を見開き、側にいたズィ・チィに、この言葉を投げ掛ける。

 「コニカを写してくれ」
 ズィ・チィは、腹部の鏡にコニカを写す。そこには、金髪の子供も写っている。
 腹部の鏡と連動するように、テレビのような物に、同じ映像が写し出される。

 「さぁ……コニカ、君の感情を見せてくれ」
 その場にいた者、物達は、酷く驚いた。
 ヒルコの目がキラキラと輝いていたからだ。
 ただ、その事に驚いていない者が二人だけいた。

 ナニカと老人だった。

 ナニカは、以前見た事があった、それにより、若干耐性がついただけだ。
 耐性がつこうと、ナニカは、他の皆と同じく平等に恐怖していた。
 耐えようとしてみた、しかし本能をくすぐる物を防ぐ事など無理なのだ。

 しかし、老人はそれを、快楽に変える。
 だからこそ老人は、ヒルコと共にいられるのだ。
 心臓の鼓動を無理に上げて、この一瞬が永久に感じ、それを苦痛と思わず、むしろ幸福と思う。
 これがヒルコと共にいる、老人が感じている今だった。

 「あぁ! やっとだ魅せてくれ、君の感情で、遺能で!!」
 ヒルコは、笑顔で顔が崩れそうな程に笑った。
 それと同期に老人も笑った。
 するとちらほらと、者、物達は無理に笑い始め、すぐにその場は笑いで満たされた。

 「感謝するよミケ、君の屍を越えて我輩達は成長する」
 ミケと呼んで、ヒルコが見る先にいたのは、コニカではなかった。

 監獄にも、少し音が届いた。
─────────

 タヌキは地面に倒れた、外傷はない。
 金髪の子供は地面に倒れた、外傷はある。

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