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遅熟のコニカ

紙尾鮪

24「ユイノウデナグサメ」

 「隙だらけだ、目の前の敵に集中しろ」
 鞘から出した刀身は、白くきらびやかに光る、その刀身は赤く染まる事を知らないように純白だった。
 しかし、確かにグロルは集中してはいなかった。ただ、コニカにそれを教わる程、グロルは馬鹿ではなかった。

 コニカは、一瞬で終わったと思った。次いで、ヒルコの作ったであろう、者達がこれ程に弱いのか、そう過信していた。

 急に腹部にへと衝撃が走る。貫かれたような衝撃が体全体に広がる、しかし、グロルは殴打も、蹴りもしてはいない、いや足も手も動かしてはいない。

 「人間が、調子に乗んなよ」
 グロルから、尾が生えていた。
 その尾は、淡い渇色だった。
 その尾は、グロルの股の下をくぐり、コニカの腹部にへと突きと良く似た攻撃を行っていた。
 その尾はとても長く、尾自体グロルの身長程の長さを誇っていた。

 一般的に、人間だけと言わず、哺乳類全般の急所である腹部は、内蔵が詰まっているため、少しでも揺らされようならば、通常の活動を妨げる程の不快感を味わう。

 コニカは、グロルの攻撃をまともに無防備の腹部に受け、不快感に襲われていた。
 ただ、不快感は、内蔵を揺らされた事による物だけではなかった。

 なぜ、人間だからと言って下に見られねばならないのか。
 コニカは、ここに来てからずっと疑問に思っていた。
 いや、コニカは常々人間の弱さをここに来てから実感していた。
 だが、一括りにし、自分を下に見るのがとても苛立ち、そして腹が立っていた。

 「調子に乗るな……私は貴様の言う人間とは違う!!」
 コニカは、地に伏しそうな程の不快感を味わいつつも、意地、そして人間特有の根性で立ち上がった。

 「何処がだ? やってみろよ、に ん げ ん」
 あえてグロルは、コニカを苛立たせていた。
 そうでもしないと自分が楽しむ事が出来ないと思ったためだ。

 コニカは、斬りかかった。
 何も作戦はない、ただ手数で争うしか、コニカは思い付かなかった。
 ただ、幾人をも斬り倒していたコニカのただの斬撃は、経験によって、それはただの死にぞこないの足掻きではなくなった。

 回避、それにグロルは徹していた。
 コニカの攻撃に圧倒された訳ではない、観察していたのだ。
 自分が攻める隙を、そして、相手の攻撃パターンを。

 そして、1度コニカの手が止まった。

 「つまらん、まだあのガキの方が楽しそうだ」
 グロルは、コニカが若干大振りに斬り上げた瞬間を、好機だと思い、しゃがんでかわし、コニカの足を払った。
 その所作は、柔道、いやカポエラのようだった。

 しかし、倒れた者などいなかった。

 コニカは、宙にいた。
 コニカの大振りの斬り上げは、誘いであり、グロルは避ける、そう思っていた、その場合後方に下がる訳がない。
 何故なら、その隙は反撃の1手を行うにはベストな状況だったからだ。
 であれば、コニカが気にするのは、上段、中段は捨て、下段のみ。
 そして、コニカは見ていた。
 グロルが、蹴りを外し、驚いた顔で上を見上げた所を。
 まさにしてやったり、コニカは王手をかけた。

 しかし王手。

 「だから人間なんだよ」
 コニカは、殴打を受けた。
 何故? 確実に無理な角度、位置なはずだった、しかしコニカは、今、地面にへとゆっくりと落ちている。
 いや、そんな事は叶わなかった、コニカは、踏みつけられ、地面にへと叩きつけられていた。
 王手はただ攻めていただけ、詰みをするなれば、相手を動かし、手中に収めなければならない。

 コニカは、今ある盤上の駒にしか目を向けていなかった。
 そして、コニカは自駒を全て使い、グロルを倒そうと必死で、相手のミスを伺っている状況だった。
 そんなものは、凡百の策だった。
 持ち駒をグロルは出した。

 コニカは、酷く混乱した。
 まず、自分が地面に伏している事と、そしてグロルの左腕が背中に生えていた事だ。

 「再構築する自作人形オーダーメイドール
 グロルは、目を見開き、何かの名前のような物を言った。

 「なに驚いてんだよ? ここじゃこんなの当たり前、見せてみろよ、お前も持ってんだろ? 遺能」
 その問いに、コニカは黙るだけの事しか出来なかった。
 自分が魔女の子孫だということは、ヒルコから聞いていた。つまり、自分が遺能を使えるという事だった。

 ただ、使えない、どう使えばいいか分からない。
 いや、それよりも、あるのかすら分からない。
 故にコニカは、自信がなかった。
 だからコニカは、強気でいられなかった。

 「……黙りダンマリかよ、まぁ遺能すら持ってない所を見ると、チビさんもマセたっつー事だな、成長成長」
 顎を触り、何かしみじみと感じている。
 マセる程の年齢でもないであろうヒルコに対して、マセたと言ったのは、グロルの勘違いから起きた物だった。

 「意味が分かってないようだ、優しい俺が教えてやろう」
 グロルは、笑いながら伝えた。

 「お前はあのチビさんの慰め役だよ、良かったな」
 グロルは、手を叩く事が出来なかったため、背中を叩いて見せた。

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