20「コドモトトンカツ」

　「コーニカ！　先程はすまなかったな！今日の夕飯はトンカツだぞ！　トンカツ！　たんとめ」
　牢屋を出ていった時とは、全くと言って良いほどにヒルコは明るかった。
　しかし、それに引けを取らない程に、牢屋の中は明るかった。
　照明は、薄暗く、明るいとは言えなかったが、とても朗らかで、暖かだった。

　「……寝ていたか、寝ても良いとは言ったが、せっかくの夕食が冷めてしまうな」

　コニカは、顔に本を乗せて寝ている。
　そしてコニカの腹部辺りに、うつ伏せになって金髪の子供は寝ている。
　まるで親と子のようだった。

　「さて……こいつの成長は……、割りと成長しているな、果たしてどれだけ成長出来るか」




　「コニカ！　コニカ！」
　寝起きのコニカは、自分の名前を呼ぶ物が誰か分からなかった。

　しかし、小さいという事だけは分かったため、金髪の子供だと思った。
　しかし、コニカはまだ眠たかったのであろう、自分の声を呼ぶのは、構って欲しいのだと思い、コニカはなだめるように、頭を撫でる。

　しかし、またコニカは金髪の子供の髪が、鋭利な物だという事を忘れていた。

　ただ、今回はおかしい、何度触れようと痛みがない。
　ふんわりとした肌触りに、指の隙間を滞りなく流れる。
　これも成長なのだろうか、そうコニカは思い、左手で目を擦り、なんとか目を無理矢理開くと、ぼんやりと、白い塊が見えてきた。

　「おはようコニカ」
　そこには、無表情で笑うヒルコの姿があった。

　「おぉぉおおおぉおう？！？！」
　コニカは、獣に近しい叫び声をあげた。
　そして、咄嗟にヒルコの頭から手を離す、それにヒルコは若干悲しそうな顔をしたように思えた。

　「な、なんのようだ」
　コニカは、明らかに動揺してはいるが、出来る限り凛とした態度で接するが、それが逆にとても滑稽に思えて仕方がない。

　「ご飯が冷めてしまう。そう伝えたくてな、気分を害したのであれば申し訳ない」
　絶えず無表情の笑顔を貫くヒルコは、最初に会った時のような喋り方をしている。
　それは、コニカと同じで自分も恥ずかしいからなのだろうか。

　「い、いやすまない、わざわざ持ってきてもらって。頂くよ」
　コニカは、キョロキョロとその場を見回すと、ヒルコが持ってきた夕食のトンカツを、美味しそうに頬張る金髪の子供がいた。

　「これ　おいしい！」
　金髪の子供は、トンカツを味わい尽くすと、飲み込み、これ、と抽象的ではあるものの、トンカツが美味しいとコニカに伝える。
　金髪の子供は、先程まで、単語のみを発していたが、2つの単語を1文で使えるようになっていた。

　「お前はまた！」
　金髪の子供は、注意されているのが分からないのか、トンカツをまた一切れ、また一切れと口の中にへと放り込む。
　そして、金髪の子供は1度目の咀嚼ソシャクをすると、口の中からこぼれでるように、衣を裂く音が聞こえる。

　それにコニカは、食欲を掻き立てられ、フォークを手に取るが、既に4切れあったトンカツの最後の1つは、金髪の子供の手の中にあった。
　金髪の子供は、その視線に気付いた。

　「ふぉには　ふぉひい？」
　飲み込んでもいないのに、喋るせいでモソモソした喋り方になる。
　べたべたに油で汚れた手の中にあるトンカツを、コニカに向けるが、流石のコニカもそれは欲しくないようだ。

　「い、いや大丈夫だ、一杯食え」
　そうコニカが言えば、べたべたの手の中に入っているトンカツを、まだ口の中の物を飲み込んでいない、パンパンの口の中にへと放り込んだ。

　「ふぉには　やはひい」
　抱き付こうとした金髪の子供を、咄嗟にコニカは避けてしまった。