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遅熟のコニカ

紙尾鮪

5「セイギハセイギ」

 「あぁ、やはりこれ・・だな、生きるとは!!」
 コニカは天を刺すように剣を掲げ、笑い狂った。 

 後ろにいる新人達を尻目に、目の前の痛みに苦しむナニカを気に止めず、コニカは叫んだ。

 楽しそうに、嬉しそうに、狂おしく、壊れそうな程に笑った。

 それは、隊を率いる、責任のある隊長でも、仕事に愚痴を言う、社員でも、悪を斬る騎士でも何でもない、これが、これこそがアイビー・コニカだ。

 コニカが人を殺すのは正義ではない、正義などという善意などない、楽しいという悦楽である。

 正義とは道具であり、 正義とはただの外郭。

 内に秘めた物が悪であろうと、外郭さえ固めていれば、中身が幾ら柔らかく、溶解されてあろうと、外身が素晴らしければ、中身が醜く、汚らしかろうと、外郭や外見、外身、外っ面が良ければ、内面など関係なしである。

 「さぁグラブではないナニカ、戦おう。いや、斬らせてくれ。いや、違う。楽しませてくれ」
 斬るとは殺す=とは楽しい。
 コニカは動く、グラブにへと向かって一瞬の滞りなく、それは欲の探究、欲しかった。楽しさが、悦を欲しかった。

 グラブは逃げた。
 それは、怖かった。
 簡単な欲求、生命活動の保持、怖かった、命を失うのが。
 無様だった。

 我が命可愛さに逃げ惑う弱者の背中、先程の強い言葉を使っていた者が逃げ惑う姿程、コニカにとって興が削がれ───なかった。

 「まさか自分の攻撃が防がれたのが屈辱的だったか?それとも恐れか?まさかあの攻撃に誇りを持っていたのか?あの猪が如く勢いだけの攻撃に?」
 口撃コウゲキのなりやまぬコニカは、ナニカの批評を始める。
 先程コニカが斬り飛ばしたのは偶然ではなく、必然、いやただ速いだけの直線的攻撃をコニカがくらうはずもない。
 ただ、それがナニカが誇る攻撃方法の1つだった。
 それが、たった明らかに自分より劣る1個体に、ただの1振りに。
 それも、今さっき見たばかり。
 何度も見て、検証して慣れ、それにより得た結果であれば、あれほどに憤る事もないだろう。

 「教授してやろう、貴様の弱味を。貴様のあの舌には貫通性がないのだろう?隠さずとも分かるぞ。貫通性ではなく、お前の誇るは粘着性なのだろう?だから貴様は頭を狙う、鎧に当てるのは二度手間だからな、1撃で部位を奪うことが出来る頭を狙う。来る場所が1パターンのただ速い攻撃は滑稽としか言えない、これであれば猪の方がマシだな」
 時折石を投げては、長々とナニカの解析結果を言う。
 それは別に、知識をひけらかす訳ではない。
 いや、ひけらかしているのだろう。

 それは自分が今優位になっているという証拠であり、そして余裕。
 種が分かってあり、そして牙を折ったいう事実。
 それは絶対であり、事実、それは慢心を覚える程の戦績、いや覚えていい事であり、覚えるべき事。
 しかし、それはコニカ、彼女らしからぬ判断であった。手負いの敵がいるならば息を止めるが先決であろう。

 「あぁ狩りか! 人間唯一の特権。弱者を追い、逃げ場を無くし、そして命を刈る。あぁ出来るだけ逃げ惑え。そうでなければただの的当て、あぁつまらない、あぁつまらない」
 人間同士の狩り等、誉められるべきではない。
 ただ、正義があれば話は別である。
 正義とは絶対である正義の狩りは正義である。

 コニカは悦楽の情に溺れ、興を楽しみ、物事を先延ばしにし、今も長くこの時間に浸り、今ヒーローであることを誇りに思い、ヒーローであることを続けている。
 巨大な盾に隠れている。
 コニカは剣を持つべきだった。

 「おいおい、横たわった青年の前に来て、なんのつもりだ?どうした?情けを乞うか?助けを乞うか?」
 そんな言葉を言い終わった後、コニカが感じ取ったのは、間違っただった。

 コニカが見たもの、それは、文字通り異形だった。
 緑のナニカ。
液状のナニカ。
 それは、ナニカ。
 説明するとすればナニカ。
 言葉で表すのはとても厳しく、難しいのだが、表すとしたらナニカ。


 グラブはよろけながらも、辿り着いた。そして、青年の頬に1度口付けをした。
 簡素で慈愛とまでも言えぬその行為は、見てくれだけは美しく、物語があった。
 そして、奇跡は起こる。
 死んでいたとも思える青年の帰還。
 実にストーリー性のある結果。
 死んだ異性に口付けをする事により、命の火を灯した。
 それは実に悲壮的で壮大なストーリーだ。
 そして、強大な敵に怒り狂うのも実にストーリーだ。

 「付け上がる、子供、憎たらしい。ただ1つの器、壊し誇る。滑稽。人間、付け上がる。我を揶揄し、自分を誇り、我の全貌を暴くが如く、子供が玩具を叩きつけるが如く、無知で、暴力的で……AHHHAAAahhahhhh────まどろっこしい!!ただの人間であるお前が、神に見放されたただの人間が!神が作った我を!神の使者である我を!人間はいつもそうだ、神から承った叡智を木の枝を振り回すが如く乱暴に、乱雑に、有り難みすらも感じず……何たかが人間の癖に!!」
 怒り狂うナニカの肌が濃縁に変わり、固く艶やかな魚類、爬虫類特有の鱗が現れる。

 この時点で、ストーリーは終わる。ヒロイズムに陥り、激昂するだけの人物に光を当てる程の余裕すらない。
 そこに大義もない。基本理念が怒りであるただの人物、安い敵キャラ。
 しかし、その相手を務めるのが自の悦びのためではないと動かない騎士。
 天秤は釣り合っている。

 つまり、傾けば正義である。

 激昂するナニカ、それにコニカは驚きはしない。ナニカが姿を変えたのにも。
 驚くとしたら、グラブが倒れたことだ。コニカの予想の範囲外であるこの状況に、驚いてはいなかったが、焦っていた。
 端から見れば直感的に早く対処をしなければならないと思うのが普通であるが、コニカは違った。

 まだ楽しめる。

 コニカはまだおちょくる事が可能だと思った。激昂し、怒り狂う者を弄ぶ事ほど楽しく、優位に思える事はない。コニカはそう思った。

 自分を上位格に位置付けている者ほど、少ない言葉で憤慨させることが可能であり、そして楽しい。
 ただそれが自分が小さい人間だと言うことを浮き彫りにさせる。

 コニカは次は自分の拳で遊ぼうと思っていた。現状であればそれは叶った。

 現状であれば、1人であれば。

 「ビトレイよ、ライ・ビトレイ。何も戻る必要はないだろう?それとも戻る必要があったのか? 聡明な君がなぜそこまでになっている?」

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