遅熟のコニカ
3「ブドウトコドモ」
グラブ・フェイリー、『マンティデ』に勤めており、『スィクル』にて教官という任に就いている。
しかし、彼女は新人教育と言う物をしたくなかった。
それは、ただただめんどくさかったから。グラブは天才だった、剣を持てば白い刀身が赤黒く染まる、銃を持てば銃声が終わる頃に怒号が終わる。
グラブが戦闘を終えた時、グラブの衣服に汚れなどはない、ただ靴には洗っても取れない塗料がべったりと染みついている。
グラブは飽き性だった。
ただそんな彼女が今なお続けている事が2つある、まず1つは武道。
グラブが続けているのは、自分が強くなる為に必要な物が剣でも銃でもなく、自らの拳、脚、肘、膝その他全ての体の部位だと思った。
それは何故か、グラブは剣術や銃の扱いが上手くなろうと、それは自分が主ではなく、剣や銃が主である。
そう思っているからだ。
自分がただの剣や銃の威力を振舞うために存在する、ただの媒体として存在するのがグラブにとって耐えかねない物だった。
そして、武道がただの拳を振るう物ではないためだ、武道とはそれ独自の歩法や、呼吸法。一朝一夕、他の物にへと応用出来る事がグラブにとっての評価が上がっていた。
グラブは後方から、青年の右側頭部に向かって、蹴りを放った。
上段回し蹴り、限りなく近づき、ほぼノーモーションで繰り出す足技、狙った場所にまともに入れば脳震盪、いや頭部陥没、骨折、何れにしても軽傷で済む筈もないだろう。
しかしそのしなやかさ、まるで首を刈る鎌のよう。いや、斬撃ではないにしろ、その威力は鎌に匹敵するほどであろう。
今、グラブは肉に触れる感触を味わった。触れた瞬間は柔らかく、次の瞬間足に衝撃が走る。それは確実に目標に当たったという何よりもの証拠。
鈍く、耳を塞ぎたくなるような音が響く、首の骨が折れた音、それはグラブの勝利の鐘、鈍く低音な音もグラブにとっては高く安らかな鈴のような音色で、グラブを癒す。
はずだった。
「鎧纏う人間、格闘技行う、理解不能。重量により角度、速度低下。故に防ぐ事容易。密着状態、奪取可能、奪う」
青年は、見えていた。いや視界の端に映ったというだけ。
本来日常において、異変と言う物を機敏に感知する人間、もとい動物は、特別な緊張下でなければちょっとした異変にも気づくだろう。
ただ、目の前に戦敵がいた場合、自ずと戦敵のみに集中するのが自然だろう。しかし、彼は目の前の一人間に対し、なんの興味も、そしてなんの危機感も持っていない。
青年の目的は、監獄に近づく者を遠ざける、もしくは排除である。であれば、ある程度遠ざかっているものより、近づこうとする者を排除するのが優先事項だ。
ただ、先程イオを攻撃したのは、近づこうとしているからではなく、いわば見せしめ。青年は、大勢の弱さを知っていた。
それは弱者の存在、そして協調性。今回で言う弱者はイオ達新米だ。
やり方は野蛮だが青年のある意味優しさである。
つまり、青年はわざと隙を見せていた、確実に獲物を”捕獲するために”。
青年にとってグラブの蹴りを防ぐ事など別に至難でも、厳しいわけでもなかった。
相手の攻撃パターンを予測できてしまえば、後は反射神経の勝負、銀色の物体がチラついた瞬間、取る。
グラブはこの時の事を、後に語ることは出来なかった。それは自身がどんな事になっていたかがあまり理解できていないという事もある。
青年は、悲しかった。それは自分が今この若干不利な状況に置かれている事でも、目の前の人間が自分の命を取ろう、もしくは自分に危害を加えようとしている事でもなかった。
ただ、自分に向かってきた人間が自分より弱かったからだ。
別に青年は戦闘狂でも、人間の血を見て悦を感じる精神異常者でもなかった。ただ、悲しいがマシだった。その瞬間1瞬青年の顔に綻びが生じた。
──────────────────────────
「楽しそうだな」
とある暗い部屋の中に、猿と、子供と、老人がいる。
猿はまるで鏡のようで、子供はまるで医者のようで、老人は老人だった。
子供と老人が猿を見ている、そして子供と老人は青年を見ている。
「あやつは人が好きじゃからのぅ」
老人はまるで空気が抜けるように笑う。それはとても気味が悪く、出来れば2度と聞きたくはなかった。
「アイツは人が嫌いではなかったか?」
子供は老人と真逆の事を言った。好きなのに嫌い、嫌いなのに好き、その字面だけを聞くとまるで思春期の女のようだが、青年はそのような甘い思考回路は持ってはいないだろう。
「まぁ、主が育てたのだ、ややこしくなるのも致し方なかろう」
主という言葉が指す先が、子供であれば、子供は青年の保護者、もしくは育成者となる。
むしろ青年が子供の保護者であるのが自然だろう。
「ま、しかしのぅ、どうする?やつ1人じゃ不確定要素が多すぎる、誰か出すかの?」
誰か出す、それは青年のために援軍を向かわせるという事だろう。
それは、コニカ達にとって、とても不利な状況になるという事、たった一人の青年の相手にさえ、手を焼いているのに、更にそれと同格、もしくは以上の者が来るという事は事実上、コニカ達が勝つという事がほとんど叶わなくなるだろう。
「いや、我輩が行こう、久しぶりに体を動かしたい」
子供は自分の事を我輩と呼び、自ら出向くことを露にした。
子供であれば、コニカ達でも倒せることが可能であろう。
しかし、彼女は新人教育と言う物をしたくなかった。
それは、ただただめんどくさかったから。グラブは天才だった、剣を持てば白い刀身が赤黒く染まる、銃を持てば銃声が終わる頃に怒号が終わる。
グラブが戦闘を終えた時、グラブの衣服に汚れなどはない、ただ靴には洗っても取れない塗料がべったりと染みついている。
グラブは飽き性だった。
ただそんな彼女が今なお続けている事が2つある、まず1つは武道。
グラブが続けているのは、自分が強くなる為に必要な物が剣でも銃でもなく、自らの拳、脚、肘、膝その他全ての体の部位だと思った。
それは何故か、グラブは剣術や銃の扱いが上手くなろうと、それは自分が主ではなく、剣や銃が主である。
そう思っているからだ。
自分がただの剣や銃の威力を振舞うために存在する、ただの媒体として存在するのがグラブにとって耐えかねない物だった。
そして、武道がただの拳を振るう物ではないためだ、武道とはそれ独自の歩法や、呼吸法。一朝一夕、他の物にへと応用出来る事がグラブにとっての評価が上がっていた。
グラブは後方から、青年の右側頭部に向かって、蹴りを放った。
上段回し蹴り、限りなく近づき、ほぼノーモーションで繰り出す足技、狙った場所にまともに入れば脳震盪、いや頭部陥没、骨折、何れにしても軽傷で済む筈もないだろう。
しかしそのしなやかさ、まるで首を刈る鎌のよう。いや、斬撃ではないにしろ、その威力は鎌に匹敵するほどであろう。
今、グラブは肉に触れる感触を味わった。触れた瞬間は柔らかく、次の瞬間足に衝撃が走る。それは確実に目標に当たったという何よりもの証拠。
鈍く、耳を塞ぎたくなるような音が響く、首の骨が折れた音、それはグラブの勝利の鐘、鈍く低音な音もグラブにとっては高く安らかな鈴のような音色で、グラブを癒す。
はずだった。
「鎧纏う人間、格闘技行う、理解不能。重量により角度、速度低下。故に防ぐ事容易。密着状態、奪取可能、奪う」
青年は、見えていた。いや視界の端に映ったというだけ。
本来日常において、異変と言う物を機敏に感知する人間、もとい動物は、特別な緊張下でなければちょっとした異変にも気づくだろう。
ただ、目の前に戦敵がいた場合、自ずと戦敵のみに集中するのが自然だろう。しかし、彼は目の前の一人間に対し、なんの興味も、そしてなんの危機感も持っていない。
青年の目的は、監獄に近づく者を遠ざける、もしくは排除である。であれば、ある程度遠ざかっているものより、近づこうとする者を排除するのが優先事項だ。
ただ、先程イオを攻撃したのは、近づこうとしているからではなく、いわば見せしめ。青年は、大勢の弱さを知っていた。
それは弱者の存在、そして協調性。今回で言う弱者はイオ達新米だ。
やり方は野蛮だが青年のある意味優しさである。
つまり、青年はわざと隙を見せていた、確実に獲物を”捕獲するために”。
青年にとってグラブの蹴りを防ぐ事など別に至難でも、厳しいわけでもなかった。
相手の攻撃パターンを予測できてしまえば、後は反射神経の勝負、銀色の物体がチラついた瞬間、取る。
グラブはこの時の事を、後に語ることは出来なかった。それは自身がどんな事になっていたかがあまり理解できていないという事もある。
青年は、悲しかった。それは自分が今この若干不利な状況に置かれている事でも、目の前の人間が自分の命を取ろう、もしくは自分に危害を加えようとしている事でもなかった。
ただ、自分に向かってきた人間が自分より弱かったからだ。
別に青年は戦闘狂でも、人間の血を見て悦を感じる精神異常者でもなかった。ただ、悲しいがマシだった。その瞬間1瞬青年の顔に綻びが生じた。
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「楽しそうだな」
とある暗い部屋の中に、猿と、子供と、老人がいる。
猿はまるで鏡のようで、子供はまるで医者のようで、老人は老人だった。
子供と老人が猿を見ている、そして子供と老人は青年を見ている。
「あやつは人が好きじゃからのぅ」
老人はまるで空気が抜けるように笑う。それはとても気味が悪く、出来れば2度と聞きたくはなかった。
「アイツは人が嫌いではなかったか?」
子供は老人と真逆の事を言った。好きなのに嫌い、嫌いなのに好き、その字面だけを聞くとまるで思春期の女のようだが、青年はそのような甘い思考回路は持ってはいないだろう。
「まぁ、主が育てたのだ、ややこしくなるのも致し方なかろう」
主という言葉が指す先が、子供であれば、子供は青年の保護者、もしくは育成者となる。
むしろ青年が子供の保護者であるのが自然だろう。
「ま、しかしのぅ、どうする?やつ1人じゃ不確定要素が多すぎる、誰か出すかの?」
誰か出す、それは青年のために援軍を向かわせるという事だろう。
それは、コニカ達にとって、とても不利な状況になるという事、たった一人の青年の相手にさえ、手を焼いているのに、更にそれと同格、もしくは以上の者が来るという事は事実上、コニカ達が勝つという事がほとんど叶わなくなるだろう。
「いや、我輩が行こう、久しぶりに体を動かしたい」
子供は自分の事を我輩と呼び、自ら出向くことを露にした。
子供であれば、コニカ達でも倒せることが可能であろう。
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