ダイスの運命 ~探索者の物語~

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6ダイス目 命の重さ

 はあ、もう、ニャルがすることは全部受け入れなくちゃ駄目なのかな……。

『気を強く持って!自暴自棄にならないでよ!適度に反抗してくれないとボクが楽しめないから!』

(楽しんでんのかよ!……まあ、ニャルラトホテプなんだからそうなんだろうとも思ったけどさ)

 ふぅ、じゃ、気を取り直して《暗黒の男》と《暗黒の手》を確認するか。


――《暗黒の男》――
魔を統べる男の力。暗黒の男の判断で無限にスキルを手に入れられる。また、他の化身を殺すことによりその化身の持つ力を奪うことができる。
進化条件:10の化身の力を奪う


(ニャル)

『なんだい?』

(スキルをくれ)

『よしあげよう……なんて言うと思った?残念、あげないよ。それに説明には無限って書いたけど、実際は一度にあげられる数には限度があるんだ。スキルは魂に刻まれる力だからね、それを刻んだり書き換えたりするとボクの消耗も激しいんだ』

 なるほど。ニャルにも限界はあったのか。なら仕方ないか。

(って、この説明文ってニャルが書いてるのか?)

『ボクが作ったスキルだけだけどね。《暗黒の男》と《暗黒の手》、それから下着探査と下着好感もボクが作ったスキルだよ』

(つまり空間収納はニャルが作ったスキルじゃないのか)

『そうだよ。空間収納なんて真面目なスキル、ボクが作る訳ないじゃないか。実用性がなくて面白いスキルならいつでも作ってあげるから言ってね。今すぐでもいいよ!』

 真面目なスキル作る訳ないって……それもそうか。ニャルがそもそも真面目じゃないしな。暗黒の男の説明文が真面目なのは自分を象徴するスキルだからだろう。

(で、一つ聞きたいんだが)

『なんだい?』

(今すぐって、今はスキルをあげられないんじゃないのか?)

『あれ、限界に辿り着いたって言ったっけ?ボクはただ限度があるとしか言ってないけど。やろうと思えば一度に100個のスキルはあげられるよ』

 確かに言って無かったけど……っ!あんな流れで話されたら誰でも限界なんだって思うだろ普通……っ!

(くれ)

『何を?』

(スキルくれ。できれば自衛か攻撃できるスキルで)

『あーげない。実用性ない面白いスキルなら良いって言ってるじゃないか。それにキミ、攻撃できるスキルならもう持ってるよ』

(もしかして、暗黒の手か?)

『そそ。早く確認しなよ』

 言われるがままに暗黒の手を確認してみる。


――《暗黒の手》――
暗黒よりきたる漆黒の影。伸びる腕が触れしものは、精神の崩壊、肉体の瓦解、そのいずれかを引き起こす。
進化条件:暗黒の手で人を殺す


(突然この中二臭い文章になったのはなんでなんだ?)

『気分。その方が雰囲気が出るかなって思って。使い方は、暗黒の手って言うかダークネスハンド!って叫びながら使いたい相手に触ると発動するよ。暗黒の手が精神の崩壊、ダークネスハンドが肉体の瓦解で区別してるから気をつけてね』

 わーお、こいつ、俺をイタイ中二病者にしようとしてきてるぞ。空振ったら本当にただの中二病じゃないか。

(このスキルってニャルが作ったんだろ?別に念じるだけでもよかったんじゃないか?)

『念じるだけで発動するんじゃ、普段から誤作動して不便だよ』

(それにしても、ダークネスハンドじゃなくてよかったと思うんだけど)

『精神の崩壊と肉体の瓦解で区別した方がいいでしょ?それに、雰囲気作りだってさっきも言ったじゃないか』

(そ、そうだな)

 ぐっ、やっぱり言葉で勝てる気がしない。雰囲気最強説を提唱したい。

(あともう一つ、進化条件が物騒なんだが?)

『大丈夫、いざ殺す時はSANチェックをボクが肩代わりしてあげるから』

(いや、それを聞いてる訳じゃないんだが)

人間ニンゲンこのコノ世界セカイでのデノイノチ重さオモサを知っているかヲシッテイルカ?』

(唐突の人間呼び!?それに口調変わってない?てか声色変わったよね?)

『もー、雰囲気作りだって。そんな細かいこと気にしてると下着触った女の子にしか好かれないよ?それで、キミはこの世界での命の重さがわかる?わからない?』

 別に俺は好かれなくても問題ないんだけどな。

(そりゃあ、多少軽いんじゃないか?地球みたいに平和じゃ無さそうだし)

『そう、命が軽いんだ。だけど、多少じゃない。とても軽い。地方の村なら毎日生贄が捧げられる村だって珍しく無い。支配者の下で完全に支配され、人が道具に成り下がった国もある。そんな支配者に対抗するために生きている人間で人体実験を繰り返して、サイボーグを作ったり超再生技術を生み出した国もある。キミ達の考える異世界は、例えば亜人種の人権が無かったり貧困層の命が簡単に奪われるような世界だろう。だけどこの世界は違う。盗賊が生き延びる為に人を殺して、神話生物に捧げることもある。自らその体を神話生物に捧げ、より上位の存在に至ろうとする人もいる。神話生物が歯車の一つとして加わっているこの世界では、人間なんて虫と同じ、下位種族の一つでしかない。神話は神話ではなく、現実なんだ』

(…………)

 正直ニャルがいきなりこんな重い話をしてきて驚いてる。俺がよく知る小説の中での異世界は、命が軽視され迫害されることはあれど積極的に殺されることはない。戦争で多くの人が殺されることはあっても、それは地球でも同じことだ。そもそも、小説の中の異世界で迫害されている亜人は、地球でいう所のユダヤ人や植民地の人々と同じようなものだ。それが今も続いているか否かというだけに過ぎない。
 だけど、この世界は違う。数々の邪神が本当にいる。神話にあるべき残虐な種族が存在する。たったそれだけで命なんて簡単に軽くなる。情報が無かったから仕方ないのかもしれないが、俺はこの世界を甘く見すぎていた。

『ま、キミにはそんな悪逆の邪神の中でも最上位であるニャルラトホテプ、その化身の一つであるボクが対価無しでついている。そんなに気負うことは無いよ。ただ、この世界で生きるには人を殺す覚悟ぐらいできなくちゃ駄目だって話だからね』

(……ありがとう、ニャル)

『フフッ、どういたしまして』





















『(本当に、人間って単純な生き物だ)』



『(目的と知識と力を与える)』



『(たったそれだけで思うように動いてくれる)』



『(あぁ、これだから、人間と関わるのは止められない)』




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