ダイスの運命 ~探索者の物語~

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3ダイス目 《N》の覚醒

 家の中を一通り大雑把に見て回った。
 この家には2階も地下も無いようで、1階には俺が目覚めた部屋とリビング、リビングに備え付けのダイニングキッチン、トイレと脱衣所と風呂、そして本棚に本が1冊もない書斎があった。本棚を埋め尽くすぐらい本を手に入れろと、魔道書を集めろと、そういうことですか。1万冊は貯蔵できそうですね。はい。

 ちなみに書斎にはクローゼットとタンスもあった。クローゼットにはタキシードからドレスまで様々な服が掛けられて、タンスには男物のパンツから女物のパンツまで沢山ある。とりあえず今すぐツッコミたい衝動を抑え女物の服を全てどける。タンスの3分の2が女物ってどういうことだよ。俺に女装趣味は無いぞ。
 その後は外出しても違和感の無いシャツとジーパンに着替える。外見より機能性重視だ。着飾る意味が一向にわからん。
 今まで着ていた寝間着の緑ジャージは畳んでタンスにしまって置いた。洗濯しろって?それならせめて洗濯板をくれ。もみ洗いだけで綺麗にできるほど俺は器用じゃない。ほら、俺のDEX9だし、平均以下だし。

 この家を見て回って1つわかったことは、大雑把に見るぐらいならダイスは振られないってことだ。詳しく見たらまだ何かしら見つかる可能性はある。ただ、今の俺はどうしても探す気になれなかった。なぜなら……


 早く魔物殺して《N》を覚醒させてみたい!


 からである。異論は認めない。さあ行こう。今すぐ行こう。目標はレッドワーム。レッツゴー!




 場所は移り家の外。さっきは見てなかったけど、下駄箱に登山靴からハイヒールまでいろいろあった。全部サイズピッタリだった。怖い。何が怖いかって?ハイヒールまで完璧にピッタリなサイズなことが。
 無難にそこに置かれてただけのスニーカーにしたけどな。そういえばなんでこのスニーカーだけ下駄箱に入ってなかったんだ?下駄箱にスペースはまだあったのに。何かあるかもしれないから覚えとくか。

 それはさておき、今はレッドワーム探しだ。
 周りを見渡せば白い燐光が舞い散り、青く煌めく木々が目に写る。森の空気は澄んでいて、空からは暖かな光が差し込む。神聖ささえ感じるここは、どうやら森の中の空き地のようだ。車が通れそうな獣道以外は全て深い森に閉ざされている。
 振り返ると、在るのは木造の小さな家。一口に小さいと言っても、一人で暮らすには充分な大きさがある。淡い光に包まれたそれを例えるなら、森の奥の秘密の家。秘境。

「……ふぅ」

 気がつけば息を漏らしていた。そこにあるのは心癒される絶景。何も知らぬ者から見れば神の家とも感じられるだろう。地球では見ることの叶わない光景が在った。


――SAN値回復――
1d10→7
70→77


 景色を見るだけでは滅多に心を動かさない俺が、癒されていた。その証拠にSAN値回復のダイスが振られていた。今までの行いを全て肯定されるような、そんな気持ちだった。

「……よし、探すか」

 長い間心奪われていたけど、行動しないわけにはいかない。この景色を見て感じる感動も次見るときには薄れるだろう。けど、目的を見失う訳にはいかない。

 手入れされているかのように綺麗に生え揃った草を踏みしめ歩き出す。見つけるべきはレッドワーム。赤い芋虫だ。地面に生えている草を探すより、背の低い木の葉っぱを探した方が見つかりやすいだろう。

 探してみると、案外芋虫は沢山いる。他の虫もいるけど無視だ無視。虫だけにとか思ったそこのやつ、失格。
 緑、緑、緑、緑………………赤!よっし、意外と簡単に見つけられたな。

 レッドワームを落ちてた枝でつつく。他の芋虫とは形が微妙に違うな。こっちの方が若干細長い。……あ、落ちた。
 地面に落ちたレッドワームを更につつく。レッドワームは体をよじり悶える。耐性が無い人はこれ見て耐えられないんだろうな。俺は全く問題無いけど。……流石に可哀想だし、殺すか。

 枝をレッドワームに突き刺す。まだ動いてるので、2本目を突き刺す。それでもまだ死んでないようだ。しぶとい。そして最後に枝2本を使って切り開くように引き裂く。今度こそ死んだだろ。

 ―――ブチッ

 動かなくなったレッドワームを見守っていると、唐突に何かが千切れるような音が聞こえた。脳内で聞こえたから脳内ダイスと同じ系統かな。脳内の感覚は掴んだぞ。

『やあこんにちは!スキル《N》の覚醒おめでとう!』

 !? こいつ、直接脳内に!?

『ハハッ、そんなに驚かないでくれよ』

 ハハッ、ところで君は?

『ボクかい?そうだね、君に解りやすく言うなら、ニャルラトホテプ、かな』

 なん……だと……!?そんな、予想してなかった訳じゃないけどまさか、衝撃的な……。

『かなり驚かれてるみたいだね。ニャルラトホテプ、ニャルラトホテップ、ナイアーラトテップ、ナイアーラトホテップ。ボクのことは好きに呼んでいいよ』

 じゃあニャル様で。いや、今後も話すであろうことを予測すれば様をつけるのは無粋か。それじゃあニャルで。よろしく!

『情緒不安定かい?やっぱりキミ、面白いね。ボクが喚んだだけはあるよ。こちらこそよろしく』

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