東方魔人黙示録〜番外編〜

怠惰のあるま

大晦日って怠惰な日だろ?



「大晦日の宴だぁ?」
「そうです! たまには地上で宴をしましょうよ!」

やあお前ら。俺だ。
突然だが今、地霊殿にでっち上げ記者が訪れている。どうゆう要件かは冒頭で察しがつくだろう。
どうやら地上の博麗神社で宴を開くそうだ。俺はその誘いを受けているところ。

「でもなぁ...」
「パルスィさんの許可がないとダメなんですよね? なら、一緒に行きましょうよ!」
「あ〜...たぶんパルスィは地上行きたがらないぞ」
「なんでですか!」
「寒いのやだってさ」
「それぐらい我慢してくださいよ!!」

俺に言われてもなぁ。パルスィ本人に言ってくれよ。

「とりあえず聞いてみるが...ダメだったら諦めろよ?」
「わかりましたよぉ...」

何でこんなに残念そうなんだ?
まあ、ダメ元で聞いてみるが。たぶん嫌だって言うだろうな。









△▼△








「いいわよ」
「へ?」

これは予想外だった。
一つ返事で応じてくれた。しかも、一切駄々をこねずにだ。何? 急に気が変わったの? 去年と違って寒さに強くなったの?

「別に寒いのは嫌よ。けど、イラとリティアが地上に行きたいって言うから」
「あ〜...なるほど」
「それにたまにはあの子達を地上に出してあげた方がいいから」

なんか遠い目をしてらっしゃいますが何があったん? 
兎にも角にも珍しくパルスィからの許可が下りたし、地上に行きますか。って言いたいところなんだが......一番の障害がいた。

「絶対に行かせませんよ!!」
「いやあのですね...」
「ダメです!!」
「だから...」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」

この人だよ。地上が大っ嫌いなさとり様が超絶反対してくるんだよ。
折角パルスィが珍しく地上に行こうとしているのにまさかこの人が駄々を捏ねるとは...一番予想していなかった。
というか、ここまで駄々を捏ねるとは思わなかった。だって今のこの人、おもちゃを買ってもらえない子供と同じだぞ? 何がそんなに嫌なのか知らないがもう少し自身の立場を理解してくれ...あなたは一応この地霊殿の主なんだから。

「何がそんなに嫌なんですか。さとり様の地上嫌いはよく知ってますけど」
「違います!! 私が嫌なのはイラとリティアが地上に汚されるのが嫌なんです!!」
『......はぁぁ?』

俺とパルスィは間の抜けた反応をしているが、事実そうだろ。いや、考えてもみてくれ俺たちはてっきり地上に出たくないから駄々をこねていたと思ったんだ。行きたくないのは最初っから知ってたし嫌がるのも想像がついてた。だが、実際はどうだ? 予想の斜め上を行ってたよ。
嫌がってた理由がイラとリティアが地上に行きことって。あなたねぇ...地上が嫌いだからってあの子らを行かせたくないのはどうかと思いますよ?

「お黙りなさい! あんな汚れきった地上にあの子達を連れて行こうものなら全力で止めますよ!!」
「どうするよ...これ...」
「はぁぁ...仕方のない人ね...」

小さなため息を吐いたパルスィはさとり様に向かってある質問をした。

「さとり様? あなたの意見を尊重し、あの子達を地底に籠らせたとしましょう。それが続いた時、もし...もしもですよ? 地上に出なければいけなくなったとします。あの子達はそうなると地上を知らぬまま困り果てるでしょう。そして、地上の事を知らないあの子達は周りの人に馬鹿にされる事でしょう。さとり様はあの子達を恥ずかしい目に合わせたいのですか?」
「そ、それは...」
「あなたの言い分だとそう言ってるように聞こえますね。あなたがもしイラとリティアの事を心から愛しているのならそれこそ地上に連れて行って知識を育ませるのが最良の判断かと、それに本人達が行きたいと言う場所にあなたの好き嫌いの判断で拒絶するのはどうかと思いますよ?」
「う、うぅぅ...!」

うわぁ...久しぶりに見たなパルスィがさとり様を追い詰めるの。さとり様って普段は俺らを手駒に取って弄ったりしてくるが、イラとリティアが関わることは親の立場である俺たちの方が強い。
つまり、何が言いたいかと言うとあの子達が絡む話にはさとり様は言い負かされるって事だ。しかし、さとり様も多少悪いと思うが同情するね。ど正論とはいえあんなに矢継ぎ早に喋られれば何も返せないし、泣きたくもなるよ。
まあ、パルスィの場合は親としてあの子らに地上の事をもっと知ってほしいって事だろうな。俺だってそうさ。このまま地上の事を知らずの地底に生き続けるなんて悲しいだろ? 親なら子の成長を見守るものだ。

「そうゆうわけで地上に行ってもいいですか?」
「......うぅ...分かりましたよぉ...」
「よかった。それじゃあイラとリティアに準備させてくるわ」
「ああ、任せるよ」

パルスィはどこか嬉しそうにさとり様の書斎を出て行った。あの様子だと家族四人で地上に出るのが楽しみだったのかもな。家族四人で地上か......確かに楽しそうだ。

「うぅ...グス...」
「さとり様。泣かないでくださいよ」
「だってぇ...あの子達が地上に毒されて地底に戻って来なくなったら...私は何を生き甲斐とすればいいのですかぁ...!」
「いや知りませんよ」
「ふぇぇぇぇぇぇん!!」

うわぁ...泣いちゃった。どうしましょうか。
さとり様の対応に困り果てているともう準備を終えたのかイラとリティアを連れてパルスィが戻って来た。
そして、この現状に驚いているイラとリティア。パルスィは頭に手を当てため息を吐いた。

「さ、さとり様...なんで泣いてるの?」
「父さん...泣かしたの?」
「いや違うよ?」
「どうするのよ...」
「あ〜...イラ、リティア...ちょっとこっちに来い」

俺は諸々の経緯を話すと二人はポカンとした表情となった。まあそうなるだろうな。この子らにとってさとり様はかっこよくて、偉大な人だからな。
話し終えると二人で顔を合わせて頷くとさとり様に近づいてそれぞれが片方の手を握って励ますように言った。

「さとり様! 一緒に行こう?」
「え...?」
「さとり様が地上嫌いなのは知ってるけど...俺達はさとり様と地上に行きたい!」
「イラ...」
「私もさとり様と宴したい! だから一緒に行こう!」
「リティア...」

やっぱりこの子達はいい子だな。だいぶ大きくなったがやさぐれなくてよかったぜ。なめられてるけども...

「わかりました...みんなで行きましょう」
「わぁい!」
「やったぁ!」

イラとリティアはさとり様と手を繋いで喜んでいた。
俺はどこかホッとしながら三人を見つめていた。その後ろから声を掛けられた。振り向くと正邪と文がいた。

「お兄! まだぁ?」
「アルマさん! 早く行かないと宴終わっちゃいますよ!」
「わ〜ってるよ! ほら行くぞ」
『は〜い!』









△▼△








まあ、予想はしていたさ。
前にもこんなことになってたし? でもさあだからって天丼はどうかと思うよ?

「なぁんでみんな酔いつぶれるのかなぁ?」
「いいじゃない。年の終わりぐらい羽目外しても」
「パルスィが平然としてられるのに俺は驚きを隠せないよ...」

毎年恒例。博麗神社の宴は参加者のほとんどが酔い潰れるか、寝ます。あ、イラとリティアはさとり様に寝かしつけてもらいました。年明け前には起こすよ。
にしても...

「君らも本当にお酒強いのね」
「これぐらい余裕よ」
「僕は飲んでないだけっすよ」
「私も同じく飲んでません」

幽香と映姫とリグルの三人が残っている。まさかこの五人だけが残るとは運命かな? どうせパルスィの仕業だろうがな。
前にも俺と二人になるように酒を注ぎ回ってたから。で、この三人はそれに気づいてそこまで飲まなかったのだろう。幽香は全部飲んだだろうが。

「にしてもここ数年地上に出てなかったが...お前ら変わってないな」
「むっ! アルマの目節穴なんじゃないっすか!? 僕は成長してるっすよ!!」
「どこが?」
「むかぁぁ!!」
「はいはい。落ち着きなさいリグル。こいつに変化を求めたところで無理よ」

なんか酷くない? 俺だって人の変化ぐらい気づくよ? パルスィだけ。

「はぁ...もういいっすよ...」
「それはそうとアルマとパルスィはだいぶ変わりましたね」
「そうか?」
「そうかな?」
「何というか雰囲気でしょうか? 優しくなったというか、酷くなったというか」
『馬鹿にしてる?』
「そうゆうところも変わったわよね」

どうゆうところだよ。まあいいけどさ。

「あ、そうだ」
「ん? どうしたパルスィ」
「えい!」

パチン! と指を鳴らすと幽香とリグル、映姫の三人はパタリと倒れ伏した。
...は? 何やってんの!? というか俺の技じゃねえか!!

「二人っきりだね?」
「二人っきりだね? じゃねえよ!! 今まさに感情奪って何を言ってんの!?」
「だって...二人っきりになりたかったから...嫌だった...?」
「嫌じゃないが...もっとこうなんか自然にできない?」
「めんどくさかった」
「おい!!」

クスクスと笑う彼女に俺も笑いが溢れた。
やぱりパルスィには勝てないなぁ。

「今年ももう終わりか」
「早いわね」
「色々あったからな。辛いことや悲しいこと」
「でも、嬉しいこともたくさんあったよ」
「そうだな。来年もこうだったらいいな」

俺はしみじみ語る。
俺たち以外は意識のない部屋で二人っきり。パルスィはこっちをジッと見つめていた。何かを期待するように。望んでいることかはわからないが俺はゆっくりと顔を近づけるとそれに答えるようにパルスィも顔を近づけ、そのまま唇を重ねた。数秒、数十秒。何秒たったか分からないがその時間は遠く感じた。
そして、俺から唇を離すとパルスィは顔を赤らめニコッと笑った。

「ちょっと苦しかった」
「いや...その...離れたくなくて...」
「ふふ...私も」

その言葉に気恥ずかしくなり目を逸らすとパルスィが腕にくっついてきた。

「アルマ。ずっと一緒に居られるよね?」
「......ああ。居られるよ」
「......本当に?」
「疑ってる?」
「ええ、疑ってるわ」

はっきり言うねぇ...まあ前科があるしな。

「......じゃあ、こうしよう。もしもだ。俺がパルスィと離れ離れになるようなことになったら俺は全力で抗ってパルスィに会いに行くよ」
「......じゃあ、私はアルマが離れ離れになったら全力で捕まえる。周りがどれだけ邪魔しても...世界が敵に回っても絶対にアルマを捕まえる」
「それは怖いな」
「だって...あなたは私の足りないモノを埋めてくれるんでしょう?」
「....ギヒヒ。まさか覚えてるとはな。ああ、そうさ。お前の足りない部分は俺が埋める。だから俺の足りない部分はパルスィが埋めてくれ」
「ええ、埋める。私じゃないちダメなぐらい」

二人は笑い合った。
年の節目に誓いを立て。もう二度とその手を離さないように。
だが、これから待ち受ける試練は二人を引き裂くかもしれない。それでも魔王と橋姫はもう二度と離れることはないだろう。
二人の絆にヒビはもう入れることはできないのだから。
そんなこんなで時間は過ぎ、年は開けようとしていた。

「パルスィ。来年もよろしくな」
「アルマ。来年もよろしくね」

二人は同時にそう言うと、また笑い合った。
この笑顔が消える事が無いように私は祈るばかりだ。

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