東方魔人黙示録〜番外編〜

怠惰のあるま

年の瀬に思うのは...



今宵も年の瀬を迎えるここ幻想郷。
幻想郷の地下深く。地霊殿の庭では子供二人がキャッキャッと走り回っていた。

「待ってリティア〜!」
「ヤダよ〜!」

元気に逃げて回るのは赤と金が混じる不思議な髪の色をしている緑と赤のオッドアイの少女 水橋 リティア。彼女を追いかけるのは青と金が混じったリティアとそっくりな緑と青のオッドアイの少年 桐月 イラ。二人は双子の姉弟である。
そして、二人の親である天邪鬼兄と橋姫はというとイラとリティアを生暖かく見守っていた。

「元気だな〜」
「元気ね〜」
「あなた方...子供を見守るのはいいのですが、手伝ってもらってよろしいでしょうか...?」

二人の後ろで忙しく動き回っていた地霊殿の主 古明地 さとりは手を止めて二人を見つめた。
それを無視して子供を見守る親二人。何を言っても無駄であるとさとりは思い、また止めていた手を動かした。

「......なんで今日に限って大掃除?」
「今日が大晦日だから」
「あ〜もうそんな時期か。そりゃあ忙しいね。さとり様には申し訳ないことしたかな?」
「でも、手伝う気は?」
「ない」

全く持ってゲスである。
そんな二人は放っておこう。場所は移り変わり、地上の妖怪の山を越えた奥深くに視点は変わる。冬真っ只中の地上は雪が積もり風が冷たい。
なのにも関わらず外で特訓に励む少年がいた。ぺたんと潰れたショートカットの黒髪。金と青のオッドアイ。彼の名は修羅 仙我。人間の身でありながら大妖怪と渡り合える存在である。そして、何故か上裸。
独特な呼吸法で外の冷たい空気に対応し、何か武術のような動きをしていた。
正拳突き、上段蹴り、回し蹴り、下段蹴り、と基本の型を反芻するように四つの動きを繰り返していた。
そんな特訓を熱心に頑張る仙我にタオルが被せられた。

「頑張るのもいいけど、上裸ではやめて。心配になってくる」
「ご、ごめん」

タオルを投げたのは茨木 華扇。山奥に住む仙人である。ただ口が悪い。

「まぁこんな寒い中、周りの雪を溶かすぐらいの蒸気を出せば上着も脱ぎたくなるか。何回繰り返したの?」
「ご、五百回ぐらい...?」
「バカみたい」
「酷くない!? 人が頑張ってるのに!」
「大晦日に掃除もせず特訓をしてる人が何を偉そうに言ってるんだ!! 早く掃除をしろ!!」
「は、はいぃぃ!!」

今日もどやされる仙我である。
さて、視点は戻り地霊殿。なんだかんだで掃除を手伝う天邪鬼兄。その横で真似するように手を動かすイラとリティア。
その後ろでクスクスと小さく笑い、三人を見守る橋姫とさとり。

「届くかイラ?」
「う...ん...! もう少し......!!」
「頑張れイラ!」
「ん〜!!」
「もう少しもう少し!」

唸りながら頑張って手を伸ばすイラ。その手に握るのは埃を落とすハタキ。そうイラは高いところの埃を落とそうと必死に背伸びをしているのだ。
そして、頑張り実を結びハタキが届いたのだ。

「あ! 届いた!」
「お〜やったなイラ」
「頑張ったね。えらいえらい」
「イラすごぉい!」

父と母に褒められ嬉しそうに頬を染めるイラ。リティアも嬉しそうに弟の頭を撫でる。
そんな仲睦まじい四人を微笑ましいが、どこか寂しそうな目で見つめるさとりは思った。私も混じりたい...と。
そんなこんなで掃除も終わり、地底だからわからないが多分夕刻。
地霊殿では大晦日ということで宴会が始まった。天邪鬼妹とナズーリンが地上から持ってきた食料も一時間もすれば尽きていた。まあ...天邪鬼兄の中から飛び出した暴食が七割ほど食べたのが原因だが...無礼講という事で今回は天邪鬼兄も許した。
宴会は皆、楽しそうにしていたそうな。


△▼△


さて、宴会も時間が経てば皆が酔い潰れる。毎年のように年が明ける前に皆が眠りについた頃、イラとリティアを寝かせたアルマは地底で猷逸地上の空を覗ける大穴へと向かった。そこは誰が空けたかは知らないが地上の空が満面に広がっているのだ。
そんな場所でアルマは酒を片手に地上の空を満喫していた。ちょうど満月が見えるタイミングだ。一人酒を楽しんでいると背後から近づく気配があった。後ろを振り向くとそこにいたのはパルスィであった。

「あなたって宴会の後、いつもどこかに一人で行くのね」
「みんなで飲むのもいいけど一人で飲みたい時もあんの」
「じゃあ私はお邪魔かしら?」

意地悪そうにクスクスと笑うパルスィ。どこか照れくさそうに頭をかくアルマ。

「まあ...正直言えば一人で飲んでればパルスィが来てくれるかな〜...と思った...」
「なぁんだ...そんなこと。私も同じようなこと思ってた」
「へ?」
「宴会の後、みんなが酔い潰れればアルマは一人で外に行くかな〜...って」
「皆にお酒を注いでた理由ってそれ!?」
「そうよ」

今日のパルスィは積極的に動いてお酒を注いだりしていたのだが、私利私欲のために動いていたとは誰も思わなかっただろう。流石のアルマも彼女の計画性に呆れを通り越して、逆にすごいと感じた。

「もう十年が経つのね...」
「ああ、そうだな...」
「なんか...思い詰めてるけど大丈夫?」
「わかる...?」
「うん。何十年一緒にいると思ってるの?」

あはは...と笑うアルマの頭をパルスィは優しく撫でる。

「擽ったい...」
「え〜...気持ちよくない?」
「......少し」
「ならいいじゃない」
「なんか恥ずかしいんだけど」
「いつも撫でてくるくせに」

スーッと目を逸らしたアルマのツノにデコピンを与える。

「地味に痛い」
「はいはい。それよりも元気出た?」
「...! まあな」
「そう。ならいいわ」

ニコッと笑うパルスィに見惚れながらアルマは照れくさそうに呟いた。

「......ありがとうパルスィ」
「どういたしまして」
「さ、さてと! そろそろ年も明けるな!」
「そうね。戻りましょうか」

パルスィは立ち上がって地霊殿への道を歩いて行った。その後ろ姿を寂しそうに見つめてアルマはスッと地上の空に視線を移した。何かを見据えるように...

「......ギヒッ! くよくよしても意味ないか。俺はいつも通り全てを弄ぶだけだ」

何かを決意したアルマはパルスィの後を追うように走って行った。



何があろうと俺はパルスィを守る。この体がボロボロになろうとも...!





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