殺人鬼のリスタート

鬼怒川 ますず

殺人鬼のリスタート

僕は人間の解体が大好きだ。

俗に言う猟奇殺人犯と呼ばれている。

僕の犯行手段はこうだ。
まず身近な学校に侵入。
そこの制服をネットで買ったり奪ったりして着替えるので、怪しまれないように演技をする。
ターゲットは恋愛をした事もない女性などの人物。
僕は顔に恵まれていた。そのため何不自由なく校外から連れ出し、人気のない場所になると……壁ドンさ。

もっとも、壁ドンして動揺した瞬間に息の根を止めるのだけれど。

僕は、3年前にこの趣味に目覚め、気がついたら15人以上もこの世から消えてもらっていた。
悲しいかな、すべての事件の遺体は全部巧みに隠してしまっているので見つかっていない。
消えた生徒も行方不明扱いだが、大半は駆け落ちしたと思われているそうだ。
これは僕にとっても幸いだ。
ぼくはツいている。
運気も絶好調。


すがるものと言えば、朝の占いやネットの胡散臭いと言われている血液型占いだろう。
運気が悪い日は犯行をせず、良い日には大抵やっている。
これは縋っているだけだと僕は思う。

親が病気で死ぬ前に残した莫大な財産で僕の生活は『最低限』の暮らしをしている。
もっとも、出費のほとんどが犯行道具に消えるが。

さて、今日は運気も絶好調!
どこの誰を殺そう。

僕が侵入したのはどこかの田舎の高校。
地味な見た目に扮して僕は入り込む。

すると、ある女子高生が僕の横を通り過ぎる。
ショートながら綺麗な髪で、顔も悪くない。
今日は絶好調だ。もう見つけることができた。

放課後に僕は彼女にナンパを仕掛けた。
初めて見る僕の顔をマジマジと見てくるので「今日ここに転校したばかり」と言うと彼女は少しばかり考え、やがて僕に微笑みかける。

その笑顔が、僕の解体した臓物と同等のモヤっとした興奮を覚えさせてくれた。
僕は少し戸惑ったが、他の生徒にあまり見られては意味が無いので彼女の手を引いて犯行予定の現場に向かう。
その手で掴んだ細い指は、今まで感じたことの無い温かさがあった。

人気の無い場所。
他の人の目が見えないように遠い場所まで来た。
彼女には「一緒に星を見ながら語ろう」と言ったが、さすがに不安なのか僕の手をギュッと握りしめる。

犯行を行う場所に来た。
ここから僕はフェイクを脱ぎ、本物の殺人鬼になる。
彼女を木に押し付け、いつも通り首をバッサリと切ろうとした。
しかし、その手は彼女の首に刃物を近づけただけで止まった。

彼女は僕を見ていた。
涙を流して命乞い……じゃなく。
あの時見せた微笑みを泣きながら浮かべていた。
僕はその顔の前に手を離すどころか、身体ごと後ずさる。

僕は震える声で聞いた。

「なぜ笑うんだ」

どうやら彼女は学校ではいつも1人で、クラスの皆に虐められてきた。
今日の放課後には自殺するはずだったらしい。

後ずさる僕に彼女は言った。

「……貴方になら、殺されても悔いはない。さぁ、殺して」

僕に殺してと言った彼女の顔にはさっきの微笑みはなく、悲しくて泣きじゃくっていた。
こんな経験は僕には初めてで、今まで泣きながら死んだ者は何人も見ているが、それでもここまで僕の心を揺さぶった者はない。

僕は諦めた。
この女は殺せない。殺したら快楽どころか今まで通りの生活も出来そうもないからだ。
僕は彼女に「この事は黙ってほしい、言ったら殺す」と脅してその場から去った。

森の中に彼女を1人だけ置いて。

急いで東京に帰ろうとした。
しかし電車はすでに出てしまいあと2時間待たなくてはならない。
駅のホームで、僕は初めて逃したことに焦りを感じとても悩んだ。
しかしその焦りもつかの間、彼女が駅に入ってきた。

僕は落ち着かせようとして飲んだコーラを噴き出した。
むせる僕に、彼女は心配そうに介抱しようとするがそれを片手で遮り僕は言った。

「な、なんでついて来た!? 」

すると君は首を振って「分かりません」と言って僕の顔を見る。
困った。僕が困るのは初犯でどうやって死体を処理するか考えた時以来だ。
チラリと君の顔を見る。
……真正面から見られると、シラフのままでは目も当てられないほど美人だ。

「僕はこう言うのは好きじゃないが、殺人鬼だ。何人も手にかけて殺している。僕に関わらないでくれ」

でも彼女は。

「貴方が私の手を引いて歩いてくれた時、私はとても感動したの。自分の手を握ってくれる人が、まだいるんだって。貴方が何者でもいい。誰にも言わないし教えたりしない。だから少しだけお話ししよ」

そう言って彼女と僕は電車が来る前まで互いに身の上話をし始めた。
彼女は僕と同じで両親が他界。
祖父と叔父の3人暮らし。
酒を飲むと気が昂ぶって暴れる叔父にいつも身を小さくして生活していたようだ。
学校では小学生の頃からいじめる集団に悩まされていたようだ。
友人はゼロ。
親しい人もいない。

そんな中で僕のような人物にナンパされれば恋に落ちる錯覚をする。
僕は彼女にいろんなことを話していた。
いつから殺人をしているのか。
どう殺しているのか。
人体の神秘についてや、身体の構造や血管の触り心地など。
ぶっちゃけ、もうなんでも話した。
彼女は最初は引いていたけど、僕は自慢げに話し出すと食い入るように聞いていた。
僕が変な冗談を言うと君が笑い。
隠し方などのテクニックには頷いて感心していた。

そうこう話していてとても楽しかった。
気がつくと電車が来ており、僕はその電車に乗って足早にこの場から離れようとした。
振り返らず、こんな殺人鬼の話を聞いてくれた彼女に対するお礼のつもりで。

でも、彼女が最後に言った言葉に僕は振り返ってしまった。

その言葉は---------



「いつか、あなたと一緒にいられたらいい!! 私はあなたが好き! だからっ!」










-----------アレから20年。

あれ以来、僕は猟奇殺人を止めた。
僕はある傭兵会社に存在を知られ、その情報の口止めとして働かされていた。

毎日名前も知らない外人や怪しげな者たちで編成された部隊で活動し、主に日本で起きている表に出来ない事件の隠蔽処理を担当している。

僕ももうすぐで40代。
部隊では誰よりも歳をとっているようで、僕は銃を向けてはその嘲笑を引っ込めさせていたりする。


楽しくはないが、退屈はしなかった。
けど寂しくなった日は時々彼女の笑顔を思い出す。
殺そうとして、殺せなかったあの人を。



僕はまた特別な任務としてとある人物の抹殺を依頼された。
なんでも組織でヘマをした人物で、僕と同じく殺さなかったらしい。
そんな人物を殺せと言われて気も乗らないが、僕は支給品として渡された特殊な装備をつけて準備をする。

雨が降る。
東京の路地裏だ。

僕と名前も顔も知らない同僚たち20名以上が集結し、その人物を殺すために動き出す。

全員が同じゴーグルをつけて走る姿は滑稽だ。
そう思っていると目の前に写真で見た顔の無い男がいた。
僕らは追いかけた。
途中振り向きざまに投げるナイフが同僚たちを殺めて、僕はその男を殺そうと追いかける。

でも結局、僕は男の手によって首の骨を折られ殺された。


死ぬ間際、僕は君の笑顔を思い出す。


この歳になっても、まだ恋い焦がれていた。



雨に濡れたほおが、一瞬だけ仄かな暖かさが流れていったように思った。



自分が死ぬとは考えもしなかったあの日。
もう一度やり直せたら、君と一緒の人生が送りたい。



------------------------------


そして僕は起き上がる。


初めて殺人を犯す前日に。



時を戻ってきた。


そうして、僕は人生をやり直そうと思った。



君に会う為に。

恋をする為に。

ずっと一緒にいられるように。



今度はもう道を間違えない。


本当の幸せを手に入れる為に。



コメント

  • ノベルバユーザー603850

    リスタートになるまでの過程とかチグハグしてしまうところとか目線のシーンがもっと欲しいなと思います。
    ありがとうございました。

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  • ノベルバユーザー599850

    20年という時間経過が取り入れられていて途中で続きがすごく気になる作品だなと感じました!

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