闇夜の世界と消滅者

三浦涼桜

二十八話 迷宮探索7 吸魔鬼

 戀は棺桶の中に納まっている少女を見て、困惑する。
「人…………だよな? でも、この棺桶見るからに古いよな。魔族か?」
 そう、疑問点を上げてみるが、解決するものは一つとして見つからない。
 戀は後ろにいる二人に聞いてみる。

「どうするべきだと思う?」
「いや私に聞かれても困るんですけど…………」
 イルディーナは困り顔で言う。
 まあ、逆の立場なら戀も同じ反応を返すのだが。

「ともかく、おこしてみないとなんとも言えないな」
 戀はそう言って少女の体を揺さぶってみる。だが一切反応がない。
「軽くたたいても反応がないからな……仕方がない」
 戀はいったん言葉を区切り、深呼吸を始める。
 徐々に悪寒が走る鈴音とイルディーナをよそに戀は魔力を練り上げ高めていく。

 その魔力は、依然剣技決闘デュエルの時にも感じた--魔力の嵐。
 だが、今回はその時よりもさらに質も量も跳ね上がっている。
 魔力が大きすぎるのか、空間が軋み、壁にひびが入り、地面が揺らいでいる。
 このままでは崩落するだろう。

 そう思った、その時----
 フッ
 と、魔力が一瞬で消えた。
 納めた、ではなく消えたといったほうが正しいのかもしれない。
 事実、魔力を放っていた戀も、魔力が消えたことに少なからず驚いているようだ。

 戀は棺桶を見る。
 中に入っていた少女の体が、発光し始めた。
 それを見て戀は確信する。先ほどまでの魔力はすべて、この少女に吸い取られたのだと。
 それと同時に理解する。この少女は人間ではなく、魔族――いわゆる吸魔鬼ノスフェラトゥなのだと。

「こいつは、かなりやばいものを起こしたかものな…………」
 吸魔鬼ノスフェラトゥ。それは、分類上では超大型魔物アフリードクラスとなっているが、その身体能力と、魔法力、特にその知力の高さから、超弩級魔物レジェンドクラスとも言われている。
 吸魔鬼ノスフェラトゥの少女がゆっくりと目を開く。

「――――敵対生物を発見。これより敵を殲滅する」
 そう物騒なことを言ったかと思うと、一瞬で戀の懐に飛び込み、掌底を繰り出す。
「ッ!」
 戀は攻撃をわざと受け止め、ダメージを殺しながら後ろへ下がる。
「なかなかいい攻撃繰り出すじゃねぇか」
 きつい攻撃を受けたはずなのに、戀は苦しむよりむしろうれしそうな声で言う。
 ダンジョンに来たのだ。そりゃあ強い奴とも戦いと思うのは男の性というものである。

「生徒会長は遊撃、鈴音はバックアップ、俺が前衛で攻める。苦しくなったら生徒会長と鈴音でスイッチして役割を交代しろ」
 戀は短くそう言って刀を構え、突撃する。
「私に攻撃入れるなど、百年早い」
 吸魔鬼はノスフェラトゥは嘲笑を浮かべながら戀の攻撃をよけ、反撃する。
「盃を交えし盟友よ かつての契りにより限界を超えろ 
 我が手、我が足、我が力となり 汝が誇りを見せ付ける
 超高濃度煉禍レフィニング

 超高濃度煉禍レフェニング。その名の通り、魔力で燃える炎を超高濃度の魔力で周囲を覆うことで、敵を骨をも焼き尽くして倒す魔法である。
 中級魔法ギガノクラス程度の魔法ではあるが、魔力保有が大きければ大きいほど、その威力はあがり、上級魔法ディオガクラスでも防ぐのは困難になる。

「私は吸魔鬼ノスフェラトゥ。人間よりも魔力保有量ははるかに高い。お前がこれを防ぐすべなどない」
 少女は勝利を確信しているのか、魔法を放っただけで満足げである。
「三觜島一刀流絶ノ型――――【空断】」
 そんな少女に戀は何も言わず、燃え盛りこちらに向かってくる炎に対して一閃。

 直後、あれだけ燃え盛っていた炎は跡形もなく消し飛んだ・・・・・・・・・・
「なッ!?」
 これには少女もびっくりである。
 戀は少女に対して諭すように言う。

「確かにお前の魔力はかなり量も質も申し分ない。だがな」
 戀はそこで言葉を区切り、少女に対して殺気を放つ。
「てめぇみてぇなガキに負けるほど、弱くはねぇよ」

「ひッ!?」
 少女は悲鳴を上げる。
 だがそれも致し方ないのかもしれない。
 あの・・戀の殺気を直に浴びたのだから。

「暴虐の彼方に置き去りにされ霊たちよ 現世に行けるものを縛れ
彼らは憎むべき罪人 罪人に侵食する幾千の鎖
生者を戒める怨嗟の鎖リスティック・バインド!」
「風よ、敵対するものに封じる力を――風符『風天縛陣』!」
 イルディーナが魔法を、鈴音が呪術を使う。
 イルディーナの魔法も、鈴音の呪術も相手を捕縛するために使うものである。

 少女は戀の殺気で動けず、捕縛される。
「くっ!」
 少女は必死に逃れようとするが、体を捩るたびに切り傷が生まれていく。
「抜け出そうとするのは勝手だが、動けば動くほど、お前の体は切り刻まれていくぞ?」
 戀の忠告に、少女は観念したように動くのを止めた。

「まさか私が人間ごと気に負けるなど…………」
 少女は戀を睨みつける。
 だが戀はその程度では怯みもせず、逆に少女に対して笑顔で威圧をかける。
「さて、まずはあんたの名前からだな。あ、もし断ったらこの場で即首を刎ねるから」
 戀の笑顔に怯えたのか、震えながら答える。
「わ、私の名前はイリヤ………………たぶん」
「たぶん?」
「だいぶ昔のことだから……自分の名前なんて覚えていない」

 そう言って少女は悲し気にうつむく。
「昔とは、いったいどれくらいのことだ?」
「だいたい二百年前くらいのことだったと思う」
 二百年! 戀は驚愕する。

 見た目十二歳程度の少女が、実は最低でも二百歳もあることに。
「お前はいったい誰に封印された?」
 戀がそう問うと、少女はうつむきながら答ええる。
「私を封印したのは…………黑葉と呼ばれていた少女だった」
 その名前を聞いたとき、戀は絶句する。
 黑葉。戀はその人物をよく知っている。

 なぜならそれは、本来死んだはずの、戀の許嫁・・・・だったからである・・・・・・・・

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