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闇夜の世界と消滅者

三浦涼桜

十二話 行方不明者

「………できちゃった?」

 戀はイルディーナとの試合の後、二人で校長室に向かった。
 校長室の扉を開いて中に入ったときにかけられた言葉がそれだった。
「ちげぇよ! なに寝ぼけたこと言ってんだこのロリババアーー」

 ズドンッッッッッ、という音を残して壁にディアブルグが突き刺さった。
 戀の後ろにいたイルディーナは顔を青くして固まっていた。
 というかそんなにこの呼び名が嫌いなのか?

「ねぇ戀君。この世にはね? 言っていい冗談と言ってはいけない冗談があるんだよ………………?」
 笑顔でこちらに歩み寄ってくるティナ。目が笑っていない。
「わかったからその殺気を沈めろ」
  本当に命がいくつあっても足りない。

「で? そんなことより、いったい何の用かな?」
「ああ、実はさ……………」
「三觜島君が先ほどの試合で本当に魔力を使い果たしたのか、それが知りたくて三觜島君と昔からの付き合いがある学園長に話を聞きにきました」

 はあ、とティナはため息をついて椅子に座り直した。
「そんなこと、戀君に直接聞けばいいじゃないか」
「そうしようとしたのですが、三觜島君がどうしても学園長に話があるというので、私もそれについていくことにしました」
「ふーん、まあいいけど。それで戀君が本当に魔力切れになったのかどうか、だったよね? 結論から言えば、あれはあなたの言う通り、演技だよ」
 ティナのその言葉に、イルディーナの体が強張るのが戀にも伝わる。

「詳しくは言えないけど、戀はあの勝負で勝つわけにはいかなかった。だから魔力切れなんていうしょうもない嘘をでっちあげて、あの試合の幕を下ろしたというわけ」
「では、三觜島君の実力はあんなのものではないと?」
「そうだね。戀君の実力は少なくともこの学園ではぶっちぎりのトップクラスだろうね。私が戦っても、勝つのは五分五分くらいかな」

 イルディーナは目を見開く。
 それだけ信じられないということだろう。
 当たり前だ。なにせティナ・フィルファーベルとは、この八柱聖域サンクチュアリの一角であるアヴァロンの守護者ガーディアンなのだ。

 故に、強い。ただ単純に強い。
 だが戀はそのティナに勝つほどの実力を持つという。
「いったい何者なんですか……?」

 イルディーナが恐る恐るといった風にこちらを見やる。
 だがいくら尋ねられたとしても、こう答えるしかない。
「俺はただの学生だよ」
 そう。こう答えるしかないのだ。

 自分が人間ですらないなんて死んでも言えない。

「そ、そういえば、戀君は私に聞きたいことがあるんじゃなかったけ?」
 重くなった空気を吹き飛ばすようにわざとらしく話題を変える。
 いや、わざとらしいなんてものではないが。

「そういやそうだった。ティナさ。何かこの学園で不吉というか、なんか気になることってないか?」
「気になること?」
「ああ。怪奇現象とか、とにかく何でもいいんだけど」
「うーん、特にそんな話は上がってなかったような……イルディーナさんはなにか聞いてる?」

「生徒会にもそんな報告は上がっていませんね……でもそういえば、何人か行方不明者が出ているという噂が出ていたましたね」
「行方不明者?」
「はい。でも実際は行方不明というほどではありませんでしたね行方不明者と言われていた人たちはその期間だけ自分たちだけで修行していたと言っていましたから」

 ふむ。と戀は思考する。特定の期間だけで起きた行方不明事件。それはただの秘密の特訓のために寮を抜け出したというだけ。
 確かに対して問題はなさそうだが……。

 そこで戀の頭にある疑念が湧く。
「なあ生徒会長さん。その行方不明だった期間ってどれくらい?」
「えっとですね。確か四日間だったはずです」
「そいつら最近試合とかしてないか」
「していましたよ。なんでも修行の成果を見せてやるとかなんとか」

「強くなってたか?」
「あんまり変わっていないように見えましたね。ただ……」
「ただ?」
「一人だけ。ものすごく強くなっていた方がいたはずです。前までは低級魔法レイクラス程度しか使えてなかったはずなのに、中級魔法ギガノクラスまで使用していました」

「その子なら私も覚えてるよ」
 半分空気になりつつあったティナがジト目でこちらを睨みながら言う。
「確かにあの子は異常だったよ。たった四日間であそこまで急激に成長するとは到底考えられない。」
 つまり、その三日間の内になにかあったのだろう。

「ティナ」
「わかってるよ。調べさせてほしいって言うんでしょ。別にいいけど、無茶はしちゃいけないよ。それに学校にも通いながらしてね」
「わかってるよ」
 そう言って戀は部屋から出ていこうと足を扉に向けた。背中に声がかかる。

「それと、イルディーナさんも一緒に行動すること」

「「はあ!?」」

 戀は再びティナのほうに向きなおる。
「なんでこいつも連れて行かなきゃいけないだよ!」
「こいつだなんて失礼ですね! でも学園長。私にも理解不能です。なぜ、私も同行する必要があるのでしょうか」
 イルディーナも不満を申し立てる。

「理由は簡単だよ。イルディーナさんは単純に実戦経験が不足してるから。戀が入ればたいていは何とかなるからね」
 そう言われてイルディーナは押し黙ってしまう。
 いくら頭が良く技術が高くても、それを生かせなければ意味がない。
「ある程度の実戦経験は必要だよ。逆に戀君はチームワークを築くこと。この学園の生徒との協調性を養うためにも、イルディーナさんと一緒に行動するのはいいことだと思うな」

 そういわれた戀は内心舌を巻いていた。
 ティナの言う通り、戀はチームワークを得意としない。
 もちろんメルガリアに所属していた当時は必ず二人または三人での行動が常だったので、自然にチームワークが取れていたが、今回は違う。

 学生の実力と実際に戦場に立っていた人間。
 その差は絶大だ。
「もし、今回の件で生徒会長さんに何かあった場合、もしくはこの件に第三者が存在したとして、彼女が
が敵に落ちた場合、どうする?」

「それは簡単」
 ティナは真剣な表情でこちらを見据え、こう答えた。

「戀君。君が彼女を殺すんだよ」

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