闇夜の世界と消滅者
一話 一時の別れ
目の前に広がる海。
昔あったような青い海ではなく、まるでインクを落としたような黒い海だ。
彼は空を見上げる。
広がるのは、これまた青い空ではなく赤黒く染まった空だ。
日が昇らないせいで時間間隔が狂ってわからないが、月が昇っているのでおそらく夜だろう。
…………まあどっちでも問題はないのだが。
だが、その空に浮かぶ月も金色の月ではない。赤く染まった月だ。
二〇二四年十一月一日。世界の急激な変化をもって、人類は滅亡の危機に立たされた。
突如として空が暗くなり、海が黒く染まり始めた。それだけでなく、太陽が姿を隠し、世界は本当の闇へと引きずり込まれることになった。
それと同時期に出現した、化け物。そして人間に現れた不可解な現象。
それらを解明するためには判断材料が極めて少なく、だがそれを使わなければ人類は生きてくことができなかった。
人々はそれを魔法と呼び、化け物たちを『ヴァリアント』と呼ぶようになった。
そうして六年の月日が流れた。いまだに人とヴァリアントとの戦争は終結していない。
◇ ◇ ◇
空を見上げてどれほどの時間がたっただろうか。
しばらくすると後ろから声がかかった。
「いったいなにをしてるんですか?」
「いや、急に空が見たくなってな」
そう言いながら振り向くと、一見すると女の子にしか見えない美少年が立っていた。
「また月を見ていたんですか。本当に好きですよね隊長って」
「月を見ていると心が癒されていく感じがするんだ。それはそうと俺はもう隊長じゃない。明日からはお前が隊長なんだからな」
三觜島戀はこの少年から隊長と呼ばれていた。
というのも、彼らはある組織に所属しており、その組織内での特殊暗殺機関ー通称「シルフィード」という部隊に所属していた。
ある組織。それはこの闇に染められた世界で、ヴァリアントとの戦争を終結させるために結成された組織。
日本以外にもアメリカやイギリス、ロシア、フランス、ドイツ、ブラジル、中国などにも存在する。
日本にはこういった類の組織が札幌、東京、大阪、広島、鹿児島の5つが存在しており、そのうち彼らが所属しているのは東京のメルガリアと呼ばれる組織だ。
戀はそのメルガリアに属するシルフィードの隊長をしていたわけだが…………
「本当に行ってしまうんですね…………」
「仕方ないさ。それに二度と会えないというわけじゃない。月一くらいには連絡するよ」
今日をもって隊長を辞めることになった。
上層部から聞いた話では先日の任務を失敗した処罰ということらしい。
「確か魔導士の育成するための学校…………でしたっけ」
「うーん、まあ大体はあってる」
「なんていう名前でしたっけ」
「国立魔道騎士ベルクリオ学園」
「随分と御大層な名前なんですね」
「学校の名前なんてそんなもんだよ」
今回の処罰は、部隊の隊長を辞めるとともに、騎士学校に通うというものだった。正直な話、戀自体もなぜ騎士学校に行くのかはわからないのだという。まあ、組織をクビにされたわけではないからそれよりはマシというものだが。
「じゃあそろそろ俺は行くよ」
「あれ、明日に出発じゃありませんでしたっけ?」
「明日出発しないと間に合わないよ。今から行かないと」
 なにせここから最寄り駅まで約十キロもあるのだ。朝から行っては絶対に間に合わない。
「そうですか。ならここでお別れですね」
「ああ、そうだな」
どちらもさよならは言わない。
彼らの間では、別れを告げるのは必要な時だけと決めているからである。
「ちゃんと連絡よこしてくださいね」
「おう。連絡しねぇと他の奴らがうるさそうだ」
そうして戀は荷物を背負いなおす。
「じゃあそろそろ行くわ。お土産期待してろよ」
「はい。楽しみにしていますね♪」
………………この顔だけを見たら本当に女にしか見えないな。
戀は内心つぶやきながら、歩み始めた。
昔あったような青い海ではなく、まるでインクを落としたような黒い海だ。
彼は空を見上げる。
広がるのは、これまた青い空ではなく赤黒く染まった空だ。
日が昇らないせいで時間間隔が狂ってわからないが、月が昇っているのでおそらく夜だろう。
…………まあどっちでも問題はないのだが。
だが、その空に浮かぶ月も金色の月ではない。赤く染まった月だ。
二〇二四年十一月一日。世界の急激な変化をもって、人類は滅亡の危機に立たされた。
突如として空が暗くなり、海が黒く染まり始めた。それだけでなく、太陽が姿を隠し、世界は本当の闇へと引きずり込まれることになった。
それと同時期に出現した、化け物。そして人間に現れた不可解な現象。
それらを解明するためには判断材料が極めて少なく、だがそれを使わなければ人類は生きてくことができなかった。
人々はそれを魔法と呼び、化け物たちを『ヴァリアント』と呼ぶようになった。
そうして六年の月日が流れた。いまだに人とヴァリアントとの戦争は終結していない。
◇ ◇ ◇
空を見上げてどれほどの時間がたっただろうか。
しばらくすると後ろから声がかかった。
「いったいなにをしてるんですか?」
「いや、急に空が見たくなってな」
そう言いながら振り向くと、一見すると女の子にしか見えない美少年が立っていた。
「また月を見ていたんですか。本当に好きですよね隊長って」
「月を見ていると心が癒されていく感じがするんだ。それはそうと俺はもう隊長じゃない。明日からはお前が隊長なんだからな」
三觜島戀はこの少年から隊長と呼ばれていた。
というのも、彼らはある組織に所属しており、その組織内での特殊暗殺機関ー通称「シルフィード」という部隊に所属していた。
ある組織。それはこの闇に染められた世界で、ヴァリアントとの戦争を終結させるために結成された組織。
日本以外にもアメリカやイギリス、ロシア、フランス、ドイツ、ブラジル、中国などにも存在する。
日本にはこういった類の組織が札幌、東京、大阪、広島、鹿児島の5つが存在しており、そのうち彼らが所属しているのは東京のメルガリアと呼ばれる組織だ。
戀はそのメルガリアに属するシルフィードの隊長をしていたわけだが…………
「本当に行ってしまうんですね…………」
「仕方ないさ。それに二度と会えないというわけじゃない。月一くらいには連絡するよ」
今日をもって隊長を辞めることになった。
上層部から聞いた話では先日の任務を失敗した処罰ということらしい。
「確か魔導士の育成するための学校…………でしたっけ」
「うーん、まあ大体はあってる」
「なんていう名前でしたっけ」
「国立魔道騎士ベルクリオ学園」
「随分と御大層な名前なんですね」
「学校の名前なんてそんなもんだよ」
今回の処罰は、部隊の隊長を辞めるとともに、騎士学校に通うというものだった。正直な話、戀自体もなぜ騎士学校に行くのかはわからないのだという。まあ、組織をクビにされたわけではないからそれよりはマシというものだが。
「じゃあそろそろ俺は行くよ」
「あれ、明日に出発じゃありませんでしたっけ?」
「明日出発しないと間に合わないよ。今から行かないと」
 なにせここから最寄り駅まで約十キロもあるのだ。朝から行っては絶対に間に合わない。
「そうですか。ならここでお別れですね」
「ああ、そうだな」
どちらもさよならは言わない。
彼らの間では、別れを告げるのは必要な時だけと決めているからである。
「ちゃんと連絡よこしてくださいね」
「おう。連絡しねぇと他の奴らがうるさそうだ」
そうして戀は荷物を背負いなおす。
「じゃあそろそろ行くわ。お土産期待してろよ」
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戀は内心つぶやきながら、歩み始めた。
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