寵愛の精霊術師

触手マスター佐堂@美少女

第14話 黒髪の少年


「あ、ラルくん。おつかれさまー」

 入学試験も無事に終わったので、教室に戻って帰る用意をしていると、どこからともなくキアラが湧いてきた。

「……キアラ、オレが試験を受けている間、何してたんだ?」

「ん? ああ、ラルくんが試験してたところは見てたけど、その後はどんな子がいるのかなーと思って、ちょっと他のとこ見てたんだよね」

 あれ。オレの試験は見ていたのか。
 じゃあオレがキアラがいるのに気が付かなかっただけか。

 他のところというのは、オレがいた教室以外で行われていた試験を見に行っていたということだろう。

「そうか。で、めぼしい奴はいたか?」

「うーん。私が見てた限りでは何人か、将来有望な子がいるね。ラルくんと一緒に試験受けてた子の中でも一人、なかなか才能ありそうな子がいたよ」

「ふーん」

 例の、オレの次に人形を倒したあいつかな?

 まあ正直、その辺にあまり興味はない。
 どんなに才能豊かであろうとなかろうと、入学して仲良くやっていければオレはそれでいい訳だからな。

 それよりも、

「どうせキアラのことだから、『ウホッ、いいロリショタがたっくさん。うへへへへっへへえ、デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポウ』とか言ってたんじゃ……」

「そんな気持ち悪いこと言ってないよ!? というか誰のセリフそれ!?」

「悲しき運命さだめを背負った者たちのセリフさ」

 オレが冗談めかしてそんな言葉を吐くと、キアラは少し真面目な顔になって、

「大丈夫だよ。私がラルくん以外の男になびくなんて絶対ないから。ロリショタとか興味ないしね」

「お、おう」

 さすがに真正面からそんなことを言われたら照れる。

「……ラルくん、もしかして怒ってる?」

「いや、別に怒ってないけど」

 怒ってはいないが照れてはいる。
 そんなこと、バカ正直に言う気もないが。

「じゃあ、私がそばにいないと思って寂しかった……とか?」

「はぁ!? ばばば、バッカじゃねぇの!? そんなことあるわけないだろ!!」

「ホントにー?」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、オレの目の前に迫ってくるキアラ。
 その顔を見ていると、この胸の内から沸き上がる衝動を抑えるのが難しくなってくる。

 気が付くと、オレは口を開いていた。

「ほ……」

「ほ?」

「本当はちょっと、寂しかった……」

「…………」

 恥ずかしいながらも正直な言葉を口にすると、キアラが笑顔のまま硬直しているのが視界に映った。

「…………キアラ?」

「……ああ、うん。大丈夫。一瞬トリップしたけど私は元気だよ」

 言いながら、鼻と口元を右手で押さえているキアラ。
 よく見ると、その手の間からは血が出ていた。
 鼻血だ。

「キアラ、鼻血出てるぞ? 幽霊なのに鼻血出てるぞ?」

 幽霊って鼻血出るものなのか?
 他の幽霊なんて知らないから何とも言えないが、普通出ないのではなかろうか。

「あー、もうダメ。ラルくんは私をどれだけ萌えさせれば気が済むのかなまったく。可愛すぎでしょもう!」

 キアラさんは鼻血をぽたぽたと垂らしながら、にっこりと笑って、オレを抱きしめる。

「安心して! ラルくんは絶対に私が幸せにしてあげるからねっ!!」

「鼻血垂らされながら言われても怖いだけなんだけど!! 服に鼻血付いてるし頼むからそれ止めろ!」

 ギャーギャーと大騒ぎするオレとキアラ。
 ……当然、そんなに騒いでいて誰にも指摘されないはずがなかった。

「……キミさ、さっきから誰と話してるの?」

「え?」

 抱きついてこようとするキアラを全力で引き剥がしていると、後ろの席に座っていた男の子に話しかけられた。
 そこでやっと、周りの視線がこちらに集まっているのに気付く。

 ……完全に間違えた。
 まだ教室の中なのに、普通にキアラと喋っていた。

「いや、ちょっと演劇の練習を……って、君は……」

 後ろを振り向き、苦しい言い訳を口に出しかけたところで、オレは気付く。
 声の主は、見覚えのある少年だった。

 闇を孕んだかの如き漆黒の髪に、炎を宿したかのように鮮烈な朱色の瞳。
 肌は陶磁器のように白く、透明感がある。
 先ほどはそこまで思わなかったが、今冷静に観察すると、全体的に整った顔立ちの美少年だった。

 そうだ、思い出した。
 こいつは、オレの『岩壁ロックウォール』を登ってくることができた唯一の受験生だ。
 名前はたしか……。

「オールノート君、だったかな?」

「覚えててくれたんだね。うん、そうだよ。僕の名前はロード・オールノート。よろしくね、ラル君」

「おう? よろしく」

 そう言って手を差し出してきたので、オレも握手に応じた。
 なんというか、この歳にしては落ち着いていて、どことなく大人びた印象を受ける少年だ。

 何だろう。
 よろしくね、ということは、オレと友達になりたいのか? そうなのか?

「実はね、僕は君のことを疑っていたんだ。噂は本当なのかどうか、ってね」

「うん? ……ああ、牙獣討伐のことか」

 そりゃ、信じられないのも無理はない。
 オレでも、オレ以外の同年代の奴があの牙獣を討伐したと聞いたら猜疑心を持つことだろう。

「その通りだよ。父上は君のことをとても評価しているようだけれど、僕は自分の目で直接見たものしか信じないことにしているからね」

「なるほど。で、どうだ? オレは君のお眼鏡に適ったのかな?」

「……正直、予想以上だったよ。さすが、牙獣を討伐しただけのことはある」

「そりゃどうも」

「それで、ラル君にお願いがあるんだ」

「何だ?」



「もしよかったら、僕と友達になってくれないかな?」



 ……本当に、オレと友達になりたいのか。

「実は僕、他の同年代の子と交流を持つことがなかったから、学校に行くのを楽しみにしてたんだよね。それで、ラル君となら楽しい学校生活を送れそうだな、と思って……」

 そう語るロードの顔は、少しだけ寂しそうだった。

 でも、そうか。
 こいつは、オレと同じなんだ。

 ずっと、同じぐらいの年齢の子供と交流する機会がなかったから、完全に一から友達関係を作らなければならない。
 だから、オレの答えは決まっていた。

「そういうことなら、喜んで」

「ありがとう、ラル君」

 オレの返事を聞いたオールノートは、とてもいい笑顔を浮かべていた。

「オールノートも、今から帰るのか?」

「うん。あ、僕の呼び方はロードでいいよ。僕も君のことはラル君って名前で呼びたいからね」

「そう? じゃあロードって呼ぶことにするか」

 随分とグイグイくる。
 柔らかい口調ではあるが、こりゃ間違いなく肉食系だな。

「それよりも、是非ともラル君に聞きたいことがあったんだ」

「何だ?」

「ラル君は、無詠唱魔術を使ってたよね? あれ、どこで習ったの?」

「あー」

 また答えづらい質問をしなさる……。
 本当のことを言うと、無詠唱魔術はキアラにコツを聞いて練習したのだが、こいつにキアラのことを言うわけにはいかないし。

「無詠唱は習ったというか、たまたまできた感じなんだよな」

「うーん、そうか。残念だな」

 ロードも無詠唱魔術を使いたいのだろう。
 落胆の表情を隠せていなかった。

「でも、そうだな……魔術を使うときに、精霊を集めるよな? それを言葉に出さずに自分の意思だけでやって、使いたい魔術のイメージを伝えるんだ。要は、本来なら言葉で伝えるのを、意思で伝えればいい」

 言葉にすると簡単そうに聞こえるが、一般的には、これが思いのほか難しいようだ。
 ロードも難しい顔をしていたが、何となくオレの言いたいことは伝わったらしい。

「それに、どうやればあんな威力の土魔術が使えるんだ? それにあの風属性の魔術も……」

「あれは普通に訓練してたらできるようになったんだよ」

 精霊の扱いについては、本当はキアラに教えてもらったのだが、そのことをロードに言うつもりはない。
 オレの魔術の威力が高いのは固有能力のおかげでもあるし、他の奴にそれが模倣できるかと聞かれたら怪しいところだ。

「うーん、普通に、か……」

「まあ、ロードもそのうちできるようになるさ」

 でも、ロードならそのうちできるようになる気がする。こいつの才能は計り知れない。こういうのを、本当の天才って言うんだろう。

「あ、ラル君。もし何も用事がないなら、このあと僕の家でお昼ご飯でもどうかな?」

「……ああ、いいぞ」

 一瞬ヘレナのことが脳裏を過ぎったが、一日ぐらいはいいだろう。
 家に帰ったらまた食べたらいいし。



 この日。
 オレはこちらの世界に来てから初めて、対等に話ができる友人ができた。

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