二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~

魔法少女どま子

 俺は深く目を閉じた。

 いじめられっ子として、佐久間の気持ちは身に沁みるほどわかる。

 坂巻信二の執拗ないじめによって、俺は自殺まで考えた。女の子と目を合わせることができなくなった。人が嫌いになった。

 その大きすぎる心の傷は、たかだか「ごめん」と言われたところで癒えるもんじゃない。

 リア充にはわからないだろう。
 俺たちいじめられっ子が心に負う傷は、並大抵のことでは克服できやしないのだ。俺のように、異世界転移してリア充となり、人の温かさを知らないことには。

「なあ……佐久間」

 俺は静かな声音で問いかけた。

「俺たちはたしかにリア充にはなれないかもしれない。不細工だしコミュ障だし、こりゃもうどうしようもないよな」

「…………」

「だけど人の痛みは知ってるだろ。いじめっ子みたいな野蛮な連中とは違う。だから……誰かを傷つけるのはもうやめようぜ。おまえなら、そこの署長の気持ちわかるだろ? 怖い怖いって、顔が真っ白じゃないか」

 ちらと佐久間は署長の顔を見やった。
 尻餅をつき、怯えたように佐久間を見上げる警察署のトップ。
 ぶるぶると震えていて、佐久間が次に襲いかかってこないかずっと怯えていて。

 そんな姿は、まさに俺たちにそっくりだった。

 常にいじめっ子の言動を気にしていた。あのヒソヒソ話は俺に向けられいるじゃないか、また殴られるんじゃないかーー

 佐久間ならわかるはずだ。あの署長の苦しみが。

「もうやめようぜ。俺たちが他人を傷つけてどうすんだよ」

 俺の言葉を、高城が引き継いだ。

「さっき、吉岡くんは『俺たちはリア充になれない』って言ってたけど……そんなことはないよ。その綺麗な心に惹かれる子は絶対にいる」 

 なぜかちらとこちらを見ながら言ってくるので、すこし居心地が悪くなる。 

 こほんと咳払いをして、俺は改めて佐久間に向き直った。

「どうだ佐久間。考え直してはくれないか」

「ふん……どうだかね。でも、とにかく」

 ふいに俺は怖ぞ気を感じた。

 佐久間の身体から、底知れない魔力を感じられたからだ。

 ステータスはそこまで高くないとはいえ、さすがはレベル30、熟練されたその力は想像をはるかに超えている。

 ーー戦いは避けられないかーー

 ぞくりという寒気を無視し、俺はさっと構えた。

 禍々しい金色のオーラをまといながら、佐久間はこちらに右手をつきだした。

「俺の考えが正しいのか、君の考えが正しいのか……正直わからない。むしゃくしゃするよ。このよくわかんない気持ちを、いまは発散したい気分だ」

「ああ……受けて立とうじゃないか。絶対に俺は負けない!」

 こうして、俺と佐久間の戦いは幕を開けた。

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