二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~
まさかの告白なんてどうすりゃいいの
平凡。
それが俺のすべてである。
将来に偉業を成し遂げてやろうとか、有名になってやろうとか、そんな大それた野望は一切ない。無難に就職して、可能であれば結婚もしちゃって、なーんもないままに人生の幕を閉じる。それが、俺こと吉岡勇樹の人生プランだった。
だけど。
いま俺が直面している出来事は、はるかに自分のキャパシティを超えていた。
額からはだらだらと汗が流れ落ちていくが、それを拭う余裕すらもない。一重の細い目も、現在はかなり見開かれているに違いなかった。
「え、えっと、その」
混濁する思考をなんとか整理しつつ、俺は目の前の少女に問いかけた。
「じょ、冗談だろ? その……俺のことが……す、好き、なんて」
「え……?」
夕暮れの生暖かい風に髪をなびかせながら、少女の顔は絶望のいろに染まった。
「冗談って、どうしてそんなこと言うんですか……?」
「え、だって、その……」
しどろもどろしながら、俺は頬を掻いてみせる。
学力や運動能力は平凡な俺だが、顔面偏差値、およびコミュニケーション能力は残念ながら平均値にすら届かないといっていい。いわゆる根暗野郎だ。
クラスではほとんど存在感がない。女子との接点も皆無に近い。つまり俺は平凡にすら届かない底辺野郎なのだ。
そんな男にーー学校の屋上で告白。
到底信じられるわけがない。俺はある予感を抱いたが、それを言ってはいけない気がして、別の言葉を口にした。
「ご、ごめん、でも、まだ信じられなくて……」
言いながら俺は眼前の少女に改めて目を向けた。
あまり可愛くないと不評のブレザーには、胸元に緑色のリボンがかけられている。高校一年生の証であり、同時に俺のひとつ後輩であることを示している。
そう、彼女は同じ新聞部の後輩なのだ。雑談らしい雑談はしたことはないが、部活動の先輩として、パソコンの扱い方、文章の書き方、カメラの撮影方法などを指導したことも何度かある。その姿に惚れてーーということだってなくはないはずだ。女心はよくわからないけれど。
などと無理やり自分を納得させているうち、俺はひとつの事実に気づいた。後輩の顔が羞恥のあまり真っ赤であることに。
この状況は彼女にとってあまりに過酷だ。そう思った俺は、言葉の続きを紡いだ。
「えっと……俺もびっくりしてて正直混乱してるけど……俺でよければ、その……」
瞬間。
ぷふっ。
どこからともなく、人が吹き出した音が聞こえてきた。それと同時に、「おい声出してんじゃねえよ」というささやき声も。
やはりかーー
そう思った途端、脱力感が全身を覆った。さっきの「予感」は考えすぎでもなんでもない。冷然たる事実だった。
俺は力なく少女に視線を戻した。さっきまで羞恥に燃えていたはずの後輩は、真っ赤な顔はそのままで、両手で口を抑えている。身体がぷるぷると小刻みに揺れているのは、たぶん、笑いをこらえているからでーー
そう思ったのも束の間、少女は堪えきれなくなったように笑い声を爆発させた。
「あっはっは! うっそ! 話したこともないのにオッケーしちゃうわけ? うけるわー」
先輩の俺に丁寧語など一切使わず、ただ侮辱の顔つきで嘲笑してくる後輩。
俺は暗くうつむいた。なにが羞恥に燃えているーーだ。大真面目に告白を受け止めた俺を、彼女はただ笑い者にしていただけに過ぎなかった。あまりに馬鹿馬鹿しくて、数秒前の自分を呪い殺してやりたくなる。
背後を振り返ると、給水タンクの裏から、まだヒソヒソ声が聞こえてくる。それらの声にも聞き覚えがあった。同じ新聞部のメンバーたちだ。先輩や同級生だけではなく、後輩の声も混じっている。
俺は薄い笑みを浮かべた。
これが、俺の底辺たるもうひとつの理由である。
顔面偏差値の低い者、そしてコミュニケーション能力が欠落している者は、学校生活を送るうえでかなりの試練を強いられる。
つまりは、いじめ。
いじめられる者にも原因があるとはよく言ったものだ。俺の場合はまさに、顔と性格によって学年中から冷たく扱われている。まさか後輩にまで馬鹿にされているとは気づかなかったが、これでやっと、新たな現実を直視できたというものだ。俺は底辺中の底辺、登れるのであればせめて平凡クラスには登りつめたいが、それすら許されないというのか。
いまだ笑い声をあげている後輩に、俺は背を向けて歩き出した。
虚無感だけがあった。これ以上なにを言う気にもなれない。
本来ならば、ここまで俺を侮辱した部員どもへ向けて、怒りの言葉でも投げかけてやるのが筋というものだろう。内心ではそうしたくてたまらない。
おそらく発案者であろう同級生をぶん殴ってやりたい。
殺してやりたい。
だが小心者たる俺になにができよう。クスクスクスという嘲笑を全身に受けながら、俺は廊下に通じる扉を開けた。不当ないじめを受けているというのに、後輩にすら強く言えない俺。そんな情けなすぎる自分に対し、歯を食いしばりながら。
それが俺のすべてである。
将来に偉業を成し遂げてやろうとか、有名になってやろうとか、そんな大それた野望は一切ない。無難に就職して、可能であれば結婚もしちゃって、なーんもないままに人生の幕を閉じる。それが、俺こと吉岡勇樹の人生プランだった。
だけど。
いま俺が直面している出来事は、はるかに自分のキャパシティを超えていた。
額からはだらだらと汗が流れ落ちていくが、それを拭う余裕すらもない。一重の細い目も、現在はかなり見開かれているに違いなかった。
「え、えっと、その」
混濁する思考をなんとか整理しつつ、俺は目の前の少女に問いかけた。
「じょ、冗談だろ? その……俺のことが……す、好き、なんて」
「え……?」
夕暮れの生暖かい風に髪をなびかせながら、少女の顔は絶望のいろに染まった。
「冗談って、どうしてそんなこと言うんですか……?」
「え、だって、その……」
しどろもどろしながら、俺は頬を掻いてみせる。
学力や運動能力は平凡な俺だが、顔面偏差値、およびコミュニケーション能力は残念ながら平均値にすら届かないといっていい。いわゆる根暗野郎だ。
クラスではほとんど存在感がない。女子との接点も皆無に近い。つまり俺は平凡にすら届かない底辺野郎なのだ。
そんな男にーー学校の屋上で告白。
到底信じられるわけがない。俺はある予感を抱いたが、それを言ってはいけない気がして、別の言葉を口にした。
「ご、ごめん、でも、まだ信じられなくて……」
言いながら俺は眼前の少女に改めて目を向けた。
あまり可愛くないと不評のブレザーには、胸元に緑色のリボンがかけられている。高校一年生の証であり、同時に俺のひとつ後輩であることを示している。
そう、彼女は同じ新聞部の後輩なのだ。雑談らしい雑談はしたことはないが、部活動の先輩として、パソコンの扱い方、文章の書き方、カメラの撮影方法などを指導したことも何度かある。その姿に惚れてーーということだってなくはないはずだ。女心はよくわからないけれど。
などと無理やり自分を納得させているうち、俺はひとつの事実に気づいた。後輩の顔が羞恥のあまり真っ赤であることに。
この状況は彼女にとってあまりに過酷だ。そう思った俺は、言葉の続きを紡いだ。
「えっと……俺もびっくりしてて正直混乱してるけど……俺でよければ、その……」
瞬間。
ぷふっ。
どこからともなく、人が吹き出した音が聞こえてきた。それと同時に、「おい声出してんじゃねえよ」というささやき声も。
やはりかーー
そう思った途端、脱力感が全身を覆った。さっきの「予感」は考えすぎでもなんでもない。冷然たる事実だった。
俺は力なく少女に視線を戻した。さっきまで羞恥に燃えていたはずの後輩は、真っ赤な顔はそのままで、両手で口を抑えている。身体がぷるぷると小刻みに揺れているのは、たぶん、笑いをこらえているからでーー
そう思ったのも束の間、少女は堪えきれなくなったように笑い声を爆発させた。
「あっはっは! うっそ! 話したこともないのにオッケーしちゃうわけ? うけるわー」
先輩の俺に丁寧語など一切使わず、ただ侮辱の顔つきで嘲笑してくる後輩。
俺は暗くうつむいた。なにが羞恥に燃えているーーだ。大真面目に告白を受け止めた俺を、彼女はただ笑い者にしていただけに過ぎなかった。あまりに馬鹿馬鹿しくて、数秒前の自分を呪い殺してやりたくなる。
背後を振り返ると、給水タンクの裏から、まだヒソヒソ声が聞こえてくる。それらの声にも聞き覚えがあった。同じ新聞部のメンバーたちだ。先輩や同級生だけではなく、後輩の声も混じっている。
俺は薄い笑みを浮かべた。
これが、俺の底辺たるもうひとつの理由である。
顔面偏差値の低い者、そしてコミュニケーション能力が欠落している者は、学校生活を送るうえでかなりの試練を強いられる。
つまりは、いじめ。
いじめられる者にも原因があるとはよく言ったものだ。俺の場合はまさに、顔と性格によって学年中から冷たく扱われている。まさか後輩にまで馬鹿にされているとは気づかなかったが、これでやっと、新たな現実を直視できたというものだ。俺は底辺中の底辺、登れるのであればせめて平凡クラスには登りつめたいが、それすら許されないというのか。
いまだ笑い声をあげている後輩に、俺は背を向けて歩き出した。
虚無感だけがあった。これ以上なにを言う気にもなれない。
本来ならば、ここまで俺を侮辱した部員どもへ向けて、怒りの言葉でも投げかけてやるのが筋というものだろう。内心ではそうしたくてたまらない。
おそらく発案者であろう同級生をぶん殴ってやりたい。
殺してやりたい。
だが小心者たる俺になにができよう。クスクスクスという嘲笑を全身に受けながら、俺は廊下に通じる扉を開けた。不当ないじめを受けているというのに、後輩にすら強く言えない俺。そんな情けなすぎる自分に対し、歯を食いしばりながら。
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