のらりくらりと異世界遊覧
第41話:入学式 前編
入学試験があった日から数日が経った・・・
その間、クロウは朝から何処かへ出かけ、カルは朝から剣を振り続けていた。そして、ククルはアイリスと一緒になって何かをしていたようだが、詳しい内容は誰も知らないようだ。
夕食時に帰ってきたウィリアムは、クロウ・カル・ククルの三人と共に食事をとると、セバスチャンに飲み物を用意させると、愉快そうに髭を擦りながら話し始めた。
「さて、今日やっと入試試験の結果をそれぞれの家庭に送ることとなったので、お主らの成績を発表するぞ」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながらそう言うウィリアムに対し、カルとククルは凄いキラッキラな表情で頷いている。
「先ずは、この三人の順位じゃが・・・なんと!二人が名誉ある今年の新入生一位二位を独占し、一人が少し飛んで三十二位じゃ!今年はかなりの接戦じゃったが、一位二位は他を引き付けない成績じゃったと聞いておる」
そこまで言うと、ウィリアムはいったん話を区切り、少しの溜を入れて
「第一位、カレア・クルス!三つある試験の内、二つ満点を取り、残りの試験も九割を越すものだった!第二位、クレア・クルス!カルに一歩及ばなかったが、二つ満点、一つは八割越え。正直言って逆の結果になると思っておったが、結果として首席と次席の名誉席を独占する形となったことは、正直に褒めたいと思う。よくやった!」
と、カルとククルに向かって大きく言い放った。
激励近いその言葉を受けたカル・ククルの両名は、まるでプレゼントを貰った子供のような顔をして、大きな声で返事をした。
その一方、静かに目を閉じ紅茶を味わいながら、その話を聞いていたクロウは、二人の嬉しそうな声が止むと同時にクワッと目を見開くと、
「どうしてこうなった!?なんとなくわかるけど!」
と、珍しく声を荒げるのだった。
ガックリと机に突っ伏し、目に見えて落ち込んでいるクロウに、カルとククルは気まずそうな視線を向け、ウィリアムは何だか申し訳なさそうに視線を泳がせると、
「いや、その・・・じゃの。もしかしなくてもクロウの結果は学園側のミスじゃろう。すまんのぅ・・・。あのディーアが図書館や資料室を行き来していると書庫を任せてをる者から報告が来ておったんで、何かあると思っておったんじゃが。まさかクロウの実技試験のことだとはおもっておらんかったんでな・・・・・かと言って結果を変えることなぞできんしの。まあ、教室は年に一度成績順で変わるから、すまぬが今年一年は違う教室じゃが我慢してくれ」
と、顎を擦りながらそう言う。
「むぅ・・・教室に関しては元々それ程、あんまり気にしてなかったからいいです。えぇいいんです。気にしてませんから」
プイっと顔を背け、ぷっくりと頬を膨らませてそう呟くクロウだが、ウィリアムの慌てた声を聴くとニッっと笑って「冗談ですよ」と、悪戯な笑みを浮かべてそう言うのだった。
「な、なんじゃ。あんまり脅かせるでないわい」
「えへへ。でも、少し残念だったのはほんとですよ?」
冷や汗を浮かべるウィリアムとはにかみながらそう言い合っているクロウの後ろで
「(あれは・・・結構気にしてるわね)」
「(根に持っている。じゃなーー)」
「(それ以上はいけない)」
「(そうだな・・・)」
と、小声で囁きあう双子であった。
夜の帳が落ちた館に楽し気な、乾いた、引き攣った笑い声を響かせながら、三人の少年少女は入学式を明日に控えるのだった。
未だ夜も明けきらないような頃、【学園都市アルカディア】はどことなく静かな喧騒に包まれていた。
それはクロウ達の下宿しているロペス家の屋敷も例外ではなかった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
いつもならば、まだ布団の中で寝息を立てているはずのカルとククルは、食堂の机でセバスチャンの淹れたお茶をぼんやりと飲んでいた。
その顔には薄っすらと隈が浮かんでいるのが見て取れた。
幾度となく欠伸を繰り返しながらも、お茶を飲んでいた二人の耳に、トットット・・・と階段を下りて来る音が入ってきた。
「ふわぁぁぁ・・・・・時間かぁ」
「そろそろ準備しよっか・・・」
そのままトタトタと一階を動き回る音を聞きながら、二人も今日の準備をするべく、「どっこいしょ」とおやじ臭い掛け声とともに席を立つのだった。
顔を洗い、髪を整え、真新しい制服に身を包む。
少しばかり顔色が良くなってきたところで、アリシアから朝食が出来たと呼ばれた。
カルと共に食堂へ入ったククルは、クロウの制服に違和感を覚えた。
「あれ?クロウちゃんの私たちのとちょっと違くない?」
なんとなく聞いただけのその言葉に、カルは渋い顔をしてクロウの方に目をやると、ククルだけに聞こえるような声で
「得点。それ以上はダメ」
と、短く簡潔にそういった。
その言葉を聞いて、ククルはハッとするも、すぐさまいつも通りの表情を作ってクロウに向かっていった。
「おっはよー!!!クーローウーちゃーん!」
「んー?おはよう、ククル。苦しいから放してねー」
椅子に座って制服をいじくっていたクロウを抱き着くように後ろから捕まえる。
ククルの身長的にクロウの頭を抱えるような形となってしまったが、当の本人は大して気にした様子もなく、制服の上着と裁縫道具を机に置いて、スポン!と腕を外す。
腕を外されたククルは、物足りなそうに手をワキワキさせ、仕方なさそうに肩をすくめると、クロウの横に陣取り、その作業をニヨニヨとした表情で眺めているのだった。・・・・・不気味である。
『・・・・・正直言って、こいつの将来が心配になってきたぜ』
その様子を後ろから見ていたカルは、額に手を当て、大きく肩を落とすのだった。
その後、いつも以上にしっかりとした服装のウィリアムが食堂に入ってきて、朝食(という名のブリーフィング)が始まった。
入学式の進み方や新入生代表(入試試験トップのカル)の挨拶の内容(ちなみに内容はクロウ作)。その他の細かいことをウィリアムから聞く。
「うむ・・・。伝えるべきことはこれくらいかのぅ」
カップに残っていた紅茶を飲み干し、椅子から立ち上がりつつそう言うと、そそくさと食堂から出ていこうとした。
だが、その歩みを止める者が一人いた。
「おじい様・・・・・ボクから”お話し”があるのですが」
少し大きめの制服を着て、クロウにピッタリな大きさの”女物の制服”を手に持ち、にっこりと黒い笑みを浮かべるクロウ。
「うっ・・・・・儂は知らんぞ!」
ゆったりとした歩みで近付いてくるクロウにただならぬ気配を感じ取ったウィリアムは、目にも止まらぬ速さで食堂から脱出し、風のように学園に向かっていったのだった。
『・・・まいっか、帰ってきたら直接聞きに行こっと』
バタン!バタン!と続いて響くドアの閉まる音に呆れながらも、入学式が終わった後の予定が出来たクロウは、手の中にある制服を見て
『これはこれで貰っておこうかな。母様に見せたらどんな反応するかな?』
と、一人でフフッと笑いを溢していた。
ちなみに、その笑みを傍から見ていたカルとククルは、それが途轍もなく黒いものに見えたのだった。
その後、アリシアとセバスチャンに見送られながら屋敷を出て、学園に向かった三人。
入試試験の時と同じように在校生たちの暖かい視線を貰いながらも校門へたどり着く。
「あ!案外早かったわね!」
校門には、青色と赤色の花をかたどったピンのようなものが大量に並べられた机と、そこで未だに準備を続けているディーアの姿があり、クロウ・カル・ククルの三人に気が付いたらしく、手を振って出迎えてくれた。
「ディーアさん!」と飛びつきに行ったククルを追いかけながら、挨拶を交わすクロウとカル。
「あ・・・クロウちゃん。ごめんね、私の不注意でーー」
「いいですよ、そんなに気にしてませんし。それに、この二人がボクのいないところで何をするかとか結構楽しですし」
ディーアは、クロウを見るや否や頭を下げて謝罪しようとするが、クロウはそれを遮るようにそう言う。
「そ、そう・・・わかったわ、ありがとうね。って、そうそう、はいこれ!」
若干早口になってそう言ってきたクロウに、優しい笑みを浮かべて礼を言うディーアだが、手をポン!と叩き、クロウに青色のピンを渡して「ガンバレ新入生」とビシッと親指を立てる。
「そんで・・・はいこれ!二人にはちょっと特別なヤツだよ」
クロウが胸ポケットにピンを付けている間、ディーアはポケットから小さな箱を取り出してカルとククルに一つづつ渡す。
「これは?」と首を傾げている二人に、
「入学試験の時に優秀な成績を修めた上位三名に渡されるピンだよ。上から金・銀・銅って色がつけられてるの」
と、言って二人にピンを付けさせると、
「校長から聞いてると思うけど頑張ってね。期待してるぞ新入生総代!」
と言いつつ、カルの背中をビターン!と叩いて学園内に押し込む。
結構いい音がしたが、カルはビシッと気を付けをして
「了解しました!」
と元気に返事をした。
校内に入り、立てられている看板に従って移動すると、本館から渡り廊下で繋がっている体育館のようなところにたどり着いた。
かなり大きなその建物には、手の込まれた横断幕が吊るされており、入学式への熱意がひしひしと伝わってくる。
三人がその光景に圧倒されていると、中から出てきた一人の生徒がこちらに近づいてきたに気が付いた。
「やあ!こんなに早々と来てくれる新入生は珍しいな。ん?おお!入試一位と二位のカレア君とクレアさんは君たちだったのか。いやぁ、こんなこともあるんだね」
そう言って爽やかな笑みを浮かべる青年。三人はその顔に見覚えがあった。なぜならその人は、つい先日、入学試験の時に案内をしてくれた人だったのだ。
「ああ、自己紹介がまだだったね。私はクラウス・Ⅼ・エリュシオン。この学校の生徒会長をしているんだ。何かあったら気軽に話しかけてくれ」
「よろしく」と手を差し出すクラウスに、三人はそれぞれ言葉を返して握手をした。
「クレアさんとクロウ君?さん?は中に入って好きなところに座っていてくれ。式が始まるまでもうしばらく時間がかかるだろうから、カレア君はこっちに来て準備を始めてもらってもいいかな?」
生徒会長は、カルが「はい」といった瞬間に、まるで連行するような感じで、有無を言わせずにつれて行ってしまった。
「・・・じゃあ、座ってよっか?」
「そうね。あ、そうだクロウちゃん。カル何回間違えそうになると思う?私は五回くらいだと思うんだけど」
カルが連れていかれるのを見送ってから室内の中に入っていく二人は、そんなことを言いつつも、一番後ろの端っこに腰を下ろすのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
≪ただいまから、第561回【騎士魔術学校メルティア】の入学式を開催いたします≫
ザワザワと活気だっていた会場の中に、魔法によって拡大された声が響き渡る。
それと同時に、ステージの上に一人の非常に見覚えのある青年が出てきた。
「新入生の皆さん。【騎士魔術学校メルティア】への入学、誠におめでとうございます。私は、現在生徒会長を務めているクラウスと言う者です。在校生代表としーーーーー」
入学式はクラウスの挨拶から始まった。
事前にウィリアムから大体の内容を聞いていたクロウとククルは、カルの姿を探してキョロキョロとステージ付近を見渡す。
「(ククル。右側の壁の一番奥)」
「(あ、ほんとだ。ちょっと緊張してるみたい。めずらしー)」
小声でそう呟きあう二人の声は、周りの人にすら聞こえていないのに、視線の先にいるカルは「うるさい」と目で訴えてきている。
そんなこともありながら、入学式は順調に進んでいった。
「では次に、新入生代表カレア・クルス君の代表挨拶です」
校長の挨拶や、その他もろもろの意味のあるのかないのかよくわからないものが続き、大分暇していたところで、ようやくカルの挨拶となった。
「「(来た!)」」
ステージに設置された演説台のようなところにカルが出てきた瞬間、二人は目を見開く。一瞬たりとも見逃さないようにするために。
結果から言うと、カルは一度も間違いのような間違いはしなかった。
それもそのはず、いつの間にかクロウの考えたモノを紙に書き起こしていたのだ。
「つまんない」
入学式が終わって、それぞれクラスへ向かう途中、ククルは不貞腐れたようにそう呟いた。
「えー・・・何それひどくね?」
何がどうつまらないのかを明言していないのにもかからわず、瞬時にその真意を読み取ったカルは、ガックリと肩を落として自分の教室に向かってトボトボと歩いて行った。さすがに教室に入るときはシャキっとするようだ。。
その間、クロウは朝から何処かへ出かけ、カルは朝から剣を振り続けていた。そして、ククルはアイリスと一緒になって何かをしていたようだが、詳しい内容は誰も知らないようだ。
夕食時に帰ってきたウィリアムは、クロウ・カル・ククルの三人と共に食事をとると、セバスチャンに飲み物を用意させると、愉快そうに髭を擦りながら話し始めた。
「さて、今日やっと入試試験の結果をそれぞれの家庭に送ることとなったので、お主らの成績を発表するぞ」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながらそう言うウィリアムに対し、カルとククルは凄いキラッキラな表情で頷いている。
「先ずは、この三人の順位じゃが・・・なんと!二人が名誉ある今年の新入生一位二位を独占し、一人が少し飛んで三十二位じゃ!今年はかなりの接戦じゃったが、一位二位は他を引き付けない成績じゃったと聞いておる」
そこまで言うと、ウィリアムはいったん話を区切り、少しの溜を入れて
「第一位、カレア・クルス!三つある試験の内、二つ満点を取り、残りの試験も九割を越すものだった!第二位、クレア・クルス!カルに一歩及ばなかったが、二つ満点、一つは八割越え。正直言って逆の結果になると思っておったが、結果として首席と次席の名誉席を独占する形となったことは、正直に褒めたいと思う。よくやった!」
と、カルとククルに向かって大きく言い放った。
激励近いその言葉を受けたカル・ククルの両名は、まるでプレゼントを貰った子供のような顔をして、大きな声で返事をした。
その一方、静かに目を閉じ紅茶を味わいながら、その話を聞いていたクロウは、二人の嬉しそうな声が止むと同時にクワッと目を見開くと、
「どうしてこうなった!?なんとなくわかるけど!」
と、珍しく声を荒げるのだった。
ガックリと机に突っ伏し、目に見えて落ち込んでいるクロウに、カルとククルは気まずそうな視線を向け、ウィリアムは何だか申し訳なさそうに視線を泳がせると、
「いや、その・・・じゃの。もしかしなくてもクロウの結果は学園側のミスじゃろう。すまんのぅ・・・。あのディーアが図書館や資料室を行き来していると書庫を任せてをる者から報告が来ておったんで、何かあると思っておったんじゃが。まさかクロウの実技試験のことだとはおもっておらんかったんでな・・・・・かと言って結果を変えることなぞできんしの。まあ、教室は年に一度成績順で変わるから、すまぬが今年一年は違う教室じゃが我慢してくれ」
と、顎を擦りながらそう言う。
「むぅ・・・教室に関しては元々それ程、あんまり気にしてなかったからいいです。えぇいいんです。気にしてませんから」
プイっと顔を背け、ぷっくりと頬を膨らませてそう呟くクロウだが、ウィリアムの慌てた声を聴くとニッっと笑って「冗談ですよ」と、悪戯な笑みを浮かべてそう言うのだった。
「な、なんじゃ。あんまり脅かせるでないわい」
「えへへ。でも、少し残念だったのはほんとですよ?」
冷や汗を浮かべるウィリアムとはにかみながらそう言い合っているクロウの後ろで
「(あれは・・・結構気にしてるわね)」
「(根に持っている。じゃなーー)」
「(それ以上はいけない)」
「(そうだな・・・)」
と、小声で囁きあう双子であった。
夜の帳が落ちた館に楽し気な、乾いた、引き攣った笑い声を響かせながら、三人の少年少女は入学式を明日に控えるのだった。
未だ夜も明けきらないような頃、【学園都市アルカディア】はどことなく静かな喧騒に包まれていた。
それはクロウ達の下宿しているロペス家の屋敷も例外ではなかった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
いつもならば、まだ布団の中で寝息を立てているはずのカルとククルは、食堂の机でセバスチャンの淹れたお茶をぼんやりと飲んでいた。
その顔には薄っすらと隈が浮かんでいるのが見て取れた。
幾度となく欠伸を繰り返しながらも、お茶を飲んでいた二人の耳に、トットット・・・と階段を下りて来る音が入ってきた。
「ふわぁぁぁ・・・・・時間かぁ」
「そろそろ準備しよっか・・・」
そのままトタトタと一階を動き回る音を聞きながら、二人も今日の準備をするべく、「どっこいしょ」とおやじ臭い掛け声とともに席を立つのだった。
顔を洗い、髪を整え、真新しい制服に身を包む。
少しばかり顔色が良くなってきたところで、アリシアから朝食が出来たと呼ばれた。
カルと共に食堂へ入ったククルは、クロウの制服に違和感を覚えた。
「あれ?クロウちゃんの私たちのとちょっと違くない?」
なんとなく聞いただけのその言葉に、カルは渋い顔をしてクロウの方に目をやると、ククルだけに聞こえるような声で
「得点。それ以上はダメ」
と、短く簡潔にそういった。
その言葉を聞いて、ククルはハッとするも、すぐさまいつも通りの表情を作ってクロウに向かっていった。
「おっはよー!!!クーローウーちゃーん!」
「んー?おはよう、ククル。苦しいから放してねー」
椅子に座って制服をいじくっていたクロウを抱き着くように後ろから捕まえる。
ククルの身長的にクロウの頭を抱えるような形となってしまったが、当の本人は大して気にした様子もなく、制服の上着と裁縫道具を机に置いて、スポン!と腕を外す。
腕を外されたククルは、物足りなそうに手をワキワキさせ、仕方なさそうに肩をすくめると、クロウの横に陣取り、その作業をニヨニヨとした表情で眺めているのだった。・・・・・不気味である。
『・・・・・正直言って、こいつの将来が心配になってきたぜ』
その様子を後ろから見ていたカルは、額に手を当て、大きく肩を落とすのだった。
その後、いつも以上にしっかりとした服装のウィリアムが食堂に入ってきて、朝食(という名のブリーフィング)が始まった。
入学式の進み方や新入生代表(入試試験トップのカル)の挨拶の内容(ちなみに内容はクロウ作)。その他の細かいことをウィリアムから聞く。
「うむ・・・。伝えるべきことはこれくらいかのぅ」
カップに残っていた紅茶を飲み干し、椅子から立ち上がりつつそう言うと、そそくさと食堂から出ていこうとした。
だが、その歩みを止める者が一人いた。
「おじい様・・・・・ボクから”お話し”があるのですが」
少し大きめの制服を着て、クロウにピッタリな大きさの”女物の制服”を手に持ち、にっこりと黒い笑みを浮かべるクロウ。
「うっ・・・・・儂は知らんぞ!」
ゆったりとした歩みで近付いてくるクロウにただならぬ気配を感じ取ったウィリアムは、目にも止まらぬ速さで食堂から脱出し、風のように学園に向かっていったのだった。
『・・・まいっか、帰ってきたら直接聞きに行こっと』
バタン!バタン!と続いて響くドアの閉まる音に呆れながらも、入学式が終わった後の予定が出来たクロウは、手の中にある制服を見て
『これはこれで貰っておこうかな。母様に見せたらどんな反応するかな?』
と、一人でフフッと笑いを溢していた。
ちなみに、その笑みを傍から見ていたカルとククルは、それが途轍もなく黒いものに見えたのだった。
その後、アリシアとセバスチャンに見送られながら屋敷を出て、学園に向かった三人。
入試試験の時と同じように在校生たちの暖かい視線を貰いながらも校門へたどり着く。
「あ!案外早かったわね!」
校門には、青色と赤色の花をかたどったピンのようなものが大量に並べられた机と、そこで未だに準備を続けているディーアの姿があり、クロウ・カル・ククルの三人に気が付いたらしく、手を振って出迎えてくれた。
「ディーアさん!」と飛びつきに行ったククルを追いかけながら、挨拶を交わすクロウとカル。
「あ・・・クロウちゃん。ごめんね、私の不注意でーー」
「いいですよ、そんなに気にしてませんし。それに、この二人がボクのいないところで何をするかとか結構楽しですし」
ディーアは、クロウを見るや否や頭を下げて謝罪しようとするが、クロウはそれを遮るようにそう言う。
「そ、そう・・・わかったわ、ありがとうね。って、そうそう、はいこれ!」
若干早口になってそう言ってきたクロウに、優しい笑みを浮かべて礼を言うディーアだが、手をポン!と叩き、クロウに青色のピンを渡して「ガンバレ新入生」とビシッと親指を立てる。
「そんで・・・はいこれ!二人にはちょっと特別なヤツだよ」
クロウが胸ポケットにピンを付けている間、ディーアはポケットから小さな箱を取り出してカルとククルに一つづつ渡す。
「これは?」と首を傾げている二人に、
「入学試験の時に優秀な成績を修めた上位三名に渡されるピンだよ。上から金・銀・銅って色がつけられてるの」
と、言って二人にピンを付けさせると、
「校長から聞いてると思うけど頑張ってね。期待してるぞ新入生総代!」
と言いつつ、カルの背中をビターン!と叩いて学園内に押し込む。
結構いい音がしたが、カルはビシッと気を付けをして
「了解しました!」
と元気に返事をした。
校内に入り、立てられている看板に従って移動すると、本館から渡り廊下で繋がっている体育館のようなところにたどり着いた。
かなり大きなその建物には、手の込まれた横断幕が吊るされており、入学式への熱意がひしひしと伝わってくる。
三人がその光景に圧倒されていると、中から出てきた一人の生徒がこちらに近づいてきたに気が付いた。
「やあ!こんなに早々と来てくれる新入生は珍しいな。ん?おお!入試一位と二位のカレア君とクレアさんは君たちだったのか。いやぁ、こんなこともあるんだね」
そう言って爽やかな笑みを浮かべる青年。三人はその顔に見覚えがあった。なぜならその人は、つい先日、入学試験の時に案内をしてくれた人だったのだ。
「ああ、自己紹介がまだだったね。私はクラウス・Ⅼ・エリュシオン。この学校の生徒会長をしているんだ。何かあったら気軽に話しかけてくれ」
「よろしく」と手を差し出すクラウスに、三人はそれぞれ言葉を返して握手をした。
「クレアさんとクロウ君?さん?は中に入って好きなところに座っていてくれ。式が始まるまでもうしばらく時間がかかるだろうから、カレア君はこっちに来て準備を始めてもらってもいいかな?」
生徒会長は、カルが「はい」といった瞬間に、まるで連行するような感じで、有無を言わせずにつれて行ってしまった。
「・・・じゃあ、座ってよっか?」
「そうね。あ、そうだクロウちゃん。カル何回間違えそうになると思う?私は五回くらいだと思うんだけど」
カルが連れていかれるのを見送ってから室内の中に入っていく二人は、そんなことを言いつつも、一番後ろの端っこに腰を下ろすのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
≪ただいまから、第561回【騎士魔術学校メルティア】の入学式を開催いたします≫
ザワザワと活気だっていた会場の中に、魔法によって拡大された声が響き渡る。
それと同時に、ステージの上に一人の非常に見覚えのある青年が出てきた。
「新入生の皆さん。【騎士魔術学校メルティア】への入学、誠におめでとうございます。私は、現在生徒会長を務めているクラウスと言う者です。在校生代表としーーーーー」
入学式はクラウスの挨拶から始まった。
事前にウィリアムから大体の内容を聞いていたクロウとククルは、カルの姿を探してキョロキョロとステージ付近を見渡す。
「(ククル。右側の壁の一番奥)」
「(あ、ほんとだ。ちょっと緊張してるみたい。めずらしー)」
小声でそう呟きあう二人の声は、周りの人にすら聞こえていないのに、視線の先にいるカルは「うるさい」と目で訴えてきている。
そんなこともありながら、入学式は順調に進んでいった。
「では次に、新入生代表カレア・クルス君の代表挨拶です」
校長の挨拶や、その他もろもろの意味のあるのかないのかよくわからないものが続き、大分暇していたところで、ようやくカルの挨拶となった。
「「(来た!)」」
ステージに設置された演説台のようなところにカルが出てきた瞬間、二人は目を見開く。一瞬たりとも見逃さないようにするために。
結果から言うと、カルは一度も間違いのような間違いはしなかった。
それもそのはず、いつの間にかクロウの考えたモノを紙に書き起こしていたのだ。
「つまんない」
入学式が終わって、それぞれクラスへ向かう途中、ククルは不貞腐れたようにそう呟いた。
「えー・・・何それひどくね?」
何がどうつまらないのかを明言していないのにもかからわず、瞬時にその真意を読み取ったカルは、ガックリと肩を落として自分の教室に向かってトボトボと歩いて行った。さすがに教室に入るときはシャキっとするようだ。。
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