のらりくらりと異世界遊覧
第43話:静かな攻防
家に帰ったクロウは、自腹で買ったちょっとお高めのお菓子をカルに渡すと、すぐに気楽な服装に着換えて裏庭に足を運ぶ。
裏庭に来たと言っても、身体を動かしたりすることはなく、ただただぼんやりと沈みゆく夕陽を眺めながら黄昏れたり、カルに渡した分とは別に買っておいたお菓子をポリポリ摘まみながら、久々に自分で淹れた紅茶で一息つく。
砂糖やミルクを淹れないで、ストレートで飲むそれは、セバスチャンに淹れてもらうものと比べると少しばかり見劣りするものであるが、紅茶本来の風味を楽しむことが出来る。
「ふぅ・・・・・」
久々に一人の時間を作れたことで、伸び伸びとくつろいでいるクロウだったが、現実は非情なのだ。
徐々に騒がしくなってくる家の中・・・
次第に大きくなってくる羽根の音・・・
地を駆る獣達の足音・・・
勢いよく開け放たれた窓から、放物線を描き裏庭へと落ちてくる一人の少年の悲痛な叫び声・・・
その全てが静けさというものから懸け離れた物。
静かに黄昏れ時を謳歌しているクロウには、関係の無いものであるはずの音なのだが、残念なことに
「うおぉ!?クロウ!ヘルプ!ヘルゥプ!!!」
『『『帰宅〜(だニャア)!!!』』』
『主人!ただいま帰宅致しました!』
『・・・ただいま』
そうとも言ってられないようだ。
深くため息を吐くクロウだったが、その表情は、どこか嬉しそうな感じがするものであった。
地面にハリウッド映画さながらのスタイリッシュ着地を決めたカルは、「助ける動作くらいしてくれてもいいじゃねぇかよ〜」とブツクサ言いつつも、服を軽く叩いて付いた葉っぱなどを落とす。
そんな様子に「倍の高さでも怪我しないでしょ」と返すクロウは、もう既にジンたち召喚獣に囲まれて、お菓子をねだられていた。
小さく丸い形をしたクッキーを一粒づつ順番に上げつつも、もう片方の手で持った櫛で、順番に毛並みを梳かしていく。
ちなみにこのお菓子は、愛玩動物用のお店(ペットショップ)で買ってきた動物用のお菓子で、健康の妨げになるようなものを一切使っていないのだ。
とは言え、お菓子であることには変わりないため、上げ過ぎには注意が必要だが・・・・・『魔獣にそんな事関係あるのかなぁ』と思っているクロウであった。
「で?今度は何したの?」
「クソゥ・・・人の不幸を喜びやがって。ま、いいけどさ」
キッラキラして表情で聴いてくるクロウに、不貞腐れたようにそう返すカルだったが、「で?で?」と先を急がせるクロウに押し負け、
「『カルばっかズルい!私もクロウちゃんとデートしたい!』とか言うもんでな、『へぇ、女の子らしいとこもあったんだな』って返したら、いきなりだぜ?やっぱり、ありゃあ男だっガハッ!」
「誰が男だぁ!!!あ、クロウちゃんお菓子ありがとねー」
やれやれと言った風に肩を竦めているカルに二階の窓ーーククルの部屋ーーから罵声とともに何が投擲され、カルへと直撃する。
「っあ!?!?!?」
頭を抱えてしゃがみ込むカルの横で、ケラケラと笑うクロウは「良いよ良いよ」と言って手をヒラヒラと振っていた。
そんなこんなで、結局カルもククルも裏庭へと出てきて、みんなでワイワイしてると、アリシアが夕食が出来たと呼びに来た。
そのまま、家の中に入っていくアリシアにつんだって家の中に入る前に、光魔法の[クリーン]をククルと手分けして使い、みんなの汚れを落とす。
一応綺麗になったので、食堂に赴き椅子に座る。
三人が席に着いたところで、アリシアとセバスチャンが四人分の夕食とジンたちのご飯を用意してくれた。
食事の準備が整うと、それを見計らったかのようなタイミングでウィリアムが帰宅し、そのまま夕食が始まった。
「三人とも、今日の入学式とホームルームはどうじゃっは、カルの晴れ舞台を見れて満足しとるが」
最早、習慣となっている食べ物への祈りを終えて、食べ始めようとしている時に、ウィリアムは朗らかな笑みを浮かべて、三人にそう聞きかける。
「あー・・・入学式かぁ」
「んー・・・入学式なぁ」
「えー・・・入学式ねぇ」
クロウ、カル、ククルと続けて、かなり微妙な反応を示す。言葉には出していないが、それぞれが思っていることは
『全然面白くなかった』
『めっちゃ緊張した』
『クロウちゃんとの賭け負けちゃったしなぁ』
だった。ちなみに、クロウとククルのした賭けというのは、[カルが代表挨拶中に何回噛むか]というものだった。クロウは一回と予想し、ククルは五回と予想した。そして、結果的に予想に近かったクロウに軍配が上がることになり、賭けの賞品である[勝った人は、負けた人になんでも一つお願いできる]権利をゲットしたのだった。
「ま、まぁ入学式のことは置いておくとして・・・。ほ、ほれクラスルームはどうじゃったのだ?気の合いそうな者はおったかの?」
その反応を見たウィリアムは、若干頬を痙攣らせつつ、話題を変えようと、早口でそう言うが・・・
「だーれも話しかけて来なかったし、かなり早く終わったから、その後ずっと図書館にいたしなぁ・・・」
「こっちも・・・なぁ?」
「そうよねぇ・・・」
どっちにしても、その返答は散々なものだった・・・
その後、場の空気を戻そうと、クロウがとりとめのない話題をいくつか出したりして、今日の夕食は無事?に幕を閉じた。
夕食が終わった後は、入浴の時間となっている。
この家では、入浴時間の短いウィリアムから順に、カル、ククル、そしてクロウと入る順番がこの数日間で決められていた。決められた理由が「クロウの入浴時間が長すぎて、『まさかのぼせてるんじゃ!?』と暴走したククルが、洗面所に乗り込み、ちょうど風呂場から出てきたクロウ(当然、身体を隠すための物など何も持っていない)と鉢合わせて、そのまま昇天してしまった」という、なんとも言えないものであるのは、流石と言うべきなのか否か・・・いや、気にしない方が吉なのだろう。
「ふぃ~~~・・・」
『『『『『あぁ~・・・』』』』』
そんなことがあったことも、もう既に忘れているのか、クロウは小さめの銭湯と同じくらいの大きさを誇る浴槽の淵にだらっと頬を付け、召喚獣たちと一緒になってお風呂を堪能していた。
ジンとイザナミとツクモは、頭にタオルを乗せて、クロウの周りでお湯に浸かっており、お湯に浸かれない事はないが、後々面倒なことになる鳥類の二匹は、お湯に浸けたタオルを体に乗っけて、あったまっている。この時ばかりは、サクヤの口調も普通なものになっている。
勿論のことだが、ジンやイザナミ、ツクモの三匹は、堂々と湯船に浸かっているため、上がった時にはかなりの三色の抜け毛が湯に浮かぶのだが、そこはクロウの魔法[クリーン]で処理しているため、お湯は入る前より綺麗なものになっている。
後から入るアリシアやセバスチャンなどのお手伝いさんたちから、かなりありがたがれているのだが、それは、クロウの知るところではない。
のんびりとした入浴時間を終えて、寝間着に着替えたクロウは、召喚獣たちに囲まれながら自室のベッドに腰かけていた。
「ふわぁぁぁ・・・」
小さく欠伸をすると、ゆっくりと立ち上がって、読んでいた最中の本に栞を挟んで机に置き、そのまま力尽きるようにしてベッドへと倒れこむ。
布団をかけることも、灯りを消すこともなく、沈む様に眠ってしまったクロウに、その周りで静かに目を閉じていた一匹の召喚獣は、静かに目を開けてのっそりと起き上がった。
『珍しいね・・・・・そんなに楽しかったの?』
尻尾でクロウの頬を撫でながら、ジンはそう静かに問いかける。
「んっ・・・・・んぅ・・・?」
その問いかけに、クロウはこそばゆそうに身を捩り、尻尾に顔をうずめるのだった。
『・・・・・あぁ~・・・なんか、懐かしいなぁ~』
寝息を立てながら自分の尻尾に顔を擦りくけて来るクロウに、ジンは静かに笑みを浮かべると、布団をかけてから、音を立てないようにしてベッドから降り、照明を消して貰うために部屋を出てアリシアを呼びに行くのだった。
その後、二匹となった獣同士の攻防があったそうだが、それを知る者はセバスチャンただ一人だけだった・・・
裏庭に来たと言っても、身体を動かしたりすることはなく、ただただぼんやりと沈みゆく夕陽を眺めながら黄昏れたり、カルに渡した分とは別に買っておいたお菓子をポリポリ摘まみながら、久々に自分で淹れた紅茶で一息つく。
砂糖やミルクを淹れないで、ストレートで飲むそれは、セバスチャンに淹れてもらうものと比べると少しばかり見劣りするものであるが、紅茶本来の風味を楽しむことが出来る。
「ふぅ・・・・・」
久々に一人の時間を作れたことで、伸び伸びとくつろいでいるクロウだったが、現実は非情なのだ。
徐々に騒がしくなってくる家の中・・・
次第に大きくなってくる羽根の音・・・
地を駆る獣達の足音・・・
勢いよく開け放たれた窓から、放物線を描き裏庭へと落ちてくる一人の少年の悲痛な叫び声・・・
その全てが静けさというものから懸け離れた物。
静かに黄昏れ時を謳歌しているクロウには、関係の無いものであるはずの音なのだが、残念なことに
「うおぉ!?クロウ!ヘルプ!ヘルゥプ!!!」
『『『帰宅〜(だニャア)!!!』』』
『主人!ただいま帰宅致しました!』
『・・・ただいま』
そうとも言ってられないようだ。
深くため息を吐くクロウだったが、その表情は、どこか嬉しそうな感じがするものであった。
地面にハリウッド映画さながらのスタイリッシュ着地を決めたカルは、「助ける動作くらいしてくれてもいいじゃねぇかよ〜」とブツクサ言いつつも、服を軽く叩いて付いた葉っぱなどを落とす。
そんな様子に「倍の高さでも怪我しないでしょ」と返すクロウは、もう既にジンたち召喚獣に囲まれて、お菓子をねだられていた。
小さく丸い形をしたクッキーを一粒づつ順番に上げつつも、もう片方の手で持った櫛で、順番に毛並みを梳かしていく。
ちなみにこのお菓子は、愛玩動物用のお店(ペットショップ)で買ってきた動物用のお菓子で、健康の妨げになるようなものを一切使っていないのだ。
とは言え、お菓子であることには変わりないため、上げ過ぎには注意が必要だが・・・・・『魔獣にそんな事関係あるのかなぁ』と思っているクロウであった。
「で?今度は何したの?」
「クソゥ・・・人の不幸を喜びやがって。ま、いいけどさ」
キッラキラして表情で聴いてくるクロウに、不貞腐れたようにそう返すカルだったが、「で?で?」と先を急がせるクロウに押し負け、
「『カルばっかズルい!私もクロウちゃんとデートしたい!』とか言うもんでな、『へぇ、女の子らしいとこもあったんだな』って返したら、いきなりだぜ?やっぱり、ありゃあ男だっガハッ!」
「誰が男だぁ!!!あ、クロウちゃんお菓子ありがとねー」
やれやれと言った風に肩を竦めているカルに二階の窓ーーククルの部屋ーーから罵声とともに何が投擲され、カルへと直撃する。
「っあ!?!?!?」
頭を抱えてしゃがみ込むカルの横で、ケラケラと笑うクロウは「良いよ良いよ」と言って手をヒラヒラと振っていた。
そんなこんなで、結局カルもククルも裏庭へと出てきて、みんなでワイワイしてると、アリシアが夕食が出来たと呼びに来た。
そのまま、家の中に入っていくアリシアにつんだって家の中に入る前に、光魔法の[クリーン]をククルと手分けして使い、みんなの汚れを落とす。
一応綺麗になったので、食堂に赴き椅子に座る。
三人が席に着いたところで、アリシアとセバスチャンが四人分の夕食とジンたちのご飯を用意してくれた。
食事の準備が整うと、それを見計らったかのようなタイミングでウィリアムが帰宅し、そのまま夕食が始まった。
「三人とも、今日の入学式とホームルームはどうじゃっは、カルの晴れ舞台を見れて満足しとるが」
最早、習慣となっている食べ物への祈りを終えて、食べ始めようとしている時に、ウィリアムは朗らかな笑みを浮かべて、三人にそう聞きかける。
「あー・・・入学式かぁ」
「んー・・・入学式なぁ」
「えー・・・入学式ねぇ」
クロウ、カル、ククルと続けて、かなり微妙な反応を示す。言葉には出していないが、それぞれが思っていることは
『全然面白くなかった』
『めっちゃ緊張した』
『クロウちゃんとの賭け負けちゃったしなぁ』
だった。ちなみに、クロウとククルのした賭けというのは、[カルが代表挨拶中に何回噛むか]というものだった。クロウは一回と予想し、ククルは五回と予想した。そして、結果的に予想に近かったクロウに軍配が上がることになり、賭けの賞品である[勝った人は、負けた人になんでも一つお願いできる]権利をゲットしたのだった。
「ま、まぁ入学式のことは置いておくとして・・・。ほ、ほれクラスルームはどうじゃったのだ?気の合いそうな者はおったかの?」
その反応を見たウィリアムは、若干頬を痙攣らせつつ、話題を変えようと、早口でそう言うが・・・
「だーれも話しかけて来なかったし、かなり早く終わったから、その後ずっと図書館にいたしなぁ・・・」
「こっちも・・・なぁ?」
「そうよねぇ・・・」
どっちにしても、その返答は散々なものだった・・・
その後、場の空気を戻そうと、クロウがとりとめのない話題をいくつか出したりして、今日の夕食は無事?に幕を閉じた。
夕食が終わった後は、入浴の時間となっている。
この家では、入浴時間の短いウィリアムから順に、カル、ククル、そしてクロウと入る順番がこの数日間で決められていた。決められた理由が「クロウの入浴時間が長すぎて、『まさかのぼせてるんじゃ!?』と暴走したククルが、洗面所に乗り込み、ちょうど風呂場から出てきたクロウ(当然、身体を隠すための物など何も持っていない)と鉢合わせて、そのまま昇天してしまった」という、なんとも言えないものであるのは、流石と言うべきなのか否か・・・いや、気にしない方が吉なのだろう。
「ふぃ~~~・・・」
『『『『『あぁ~・・・』』』』』
そんなことがあったことも、もう既に忘れているのか、クロウは小さめの銭湯と同じくらいの大きさを誇る浴槽の淵にだらっと頬を付け、召喚獣たちと一緒になってお風呂を堪能していた。
ジンとイザナミとツクモは、頭にタオルを乗せて、クロウの周りでお湯に浸かっており、お湯に浸かれない事はないが、後々面倒なことになる鳥類の二匹は、お湯に浸けたタオルを体に乗っけて、あったまっている。この時ばかりは、サクヤの口調も普通なものになっている。
勿論のことだが、ジンやイザナミ、ツクモの三匹は、堂々と湯船に浸かっているため、上がった時にはかなりの三色の抜け毛が湯に浮かぶのだが、そこはクロウの魔法[クリーン]で処理しているため、お湯は入る前より綺麗なものになっている。
後から入るアリシアやセバスチャンなどのお手伝いさんたちから、かなりありがたがれているのだが、それは、クロウの知るところではない。
のんびりとした入浴時間を終えて、寝間着に着替えたクロウは、召喚獣たちに囲まれながら自室のベッドに腰かけていた。
「ふわぁぁぁ・・・」
小さく欠伸をすると、ゆっくりと立ち上がって、読んでいた最中の本に栞を挟んで机に置き、そのまま力尽きるようにしてベッドへと倒れこむ。
布団をかけることも、灯りを消すこともなく、沈む様に眠ってしまったクロウに、その周りで静かに目を閉じていた一匹の召喚獣は、静かに目を開けてのっそりと起き上がった。
『珍しいね・・・・・そんなに楽しかったの?』
尻尾でクロウの頬を撫でながら、ジンはそう静かに問いかける。
「んっ・・・・・んぅ・・・?」
その問いかけに、クロウはこそばゆそうに身を捩り、尻尾に顔をうずめるのだった。
『・・・・・あぁ~・・・なんか、懐かしいなぁ~』
寝息を立てながら自分の尻尾に顔を擦りくけて来るクロウに、ジンは静かに笑みを浮かべると、布団をかけてから、音を立てないようにしてベッドから降り、照明を消して貰うために部屋を出てアリシアを呼びに行くのだった。
その後、二匹となった獣同士の攻防があったそうだが、それを知る者はセバスチャンただ一人だけだった・・・
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