のらりくらりと異世界遊覧
第34話:閑話その1
~ウィリアム編~
ウィリアムはアリーヤにまたがっていつもと同じ道を進む。人々がアリーヤを見て左右に移動していくのを横目で見ながら、しばらく進むと王城へとたどり着く。
「お!ウィリアムさんじゃねぇか!どうした?また王様に用事ですかい?」
「まぁの・・・入っていいかの?」
「あんさんならこんな確認なんぞいらんでしょうに・・・」
「はっはっは。まぁそう言ってもあやつの決めたことじゃからの・・・」
「あんさんも苦労しますね・・・」
顔なじみの門番といつものやり取りを済ませると、アリーヤから降りて門を潜る。
門を潜り少しすると、これまた顔なじみの王宮獣医師の女性にアリーヤを任せて国王の執務室へ足を運ぶ。
途中何度も顔見知りの従者や官僚の人達と出会い少し立ち話をしたが、すぐに執務室の前にたどり着くことができた。
「ジョセフ!入るぞ!」
一応ノックをした後、返事を待たずにそう声をかけてドアを開ける。
「やっと来たか!!!遅いと思っていたがお前のことだから、どうせ知り合いにでも会って無駄話でもしていたんだろう?まぁ、いつものことだから構わんが・・・。今日は何の用事だ?お茶の誘いなら喜んで受けるぞ。お前に言いたい事もあるしな」
紙の束に囲まれながらそう返してくるのは、ジョセフ・L・エリュシオン。この国の現国王だ。
「ふむ・・・久々にのんびり話し合いも良いが・・・お主、最近は体を動かしておらんのではないか?」
「わかるか?最近は入学関連の申請書などが多いからな」
立ち上がり、首や肩を回しながらそう言う。
「それならば・・・」
「ああ・・・」
ウィリアムとジョセフ、両者の瞳に炎が揺らぎ、火花が散る。
未だ春半ばだというのに、この二人の周囲には暑苦しいほどの熱気が立ち込める。
「行くぞ・・・」
「ああ・・・」
それだけの言葉でお互いの意思を理解し、部屋を後にする。
ここは、王宮の離れにあるアルカディア国王兵の鍛錬所。
ここでは、常日頃から城下町の巡回任務が当たっていない兵士・騎士たちが国に尽くす為に鍛錬を積んでおり、常に自らを高めるために訓練に励んでいる者たちの声が響く。
そして、今日も今日とて、鍛錬所はいつもどうりの独特な騒がしさに包まれている。
だが、今日はいつもと少し違うところがあった。
いつも訓練をしている兵士・騎士たちが壁際へより、鍛錬所の中央に大きな空間を作り出しているのだ。
そして、そこには巨大で無骨な作りの戦鎚を肩に担ぎ、簡単な作りの籠手と脚当て、プレートアーマーのみを装備した国王、ジョセフ・L・エリュシオン。
それに対峙しているのは、2メートルを超えるほどの長さの金属で作られた棍棒を軽々と片手で遊ばれている、ウィリアム・ロペス。その棍棒の両端には、鈍い輝きを放つ鉱石のようなものが取り付けられている。ジョセフと同じような籠手、脚当てを装備し、ハーフプレートメイルを身に付けている。
両者から迸る物理的な圧力すら生じさせる闘気は、陽炎のように二者の周囲の風景を揺らがせる。
それを周りで観戦していた一人の兵士が、目を白黒させながら、横でこっそりと賭けを始めた兵士たちに耳打ちで質問する。
「・・・急に訓練中止になったけど、なんで国王と学園長が対峙してるんだ?」
「ん?なんだ見たことないのか?」
「ああ、この春に入隊したばかりなんだ」
真新しい鎧に目を落としながら嬉しそうにそう答える新兵に、賭けをしていた兵士たちの中で一番の古株で指導役を任されている老兵が口を開いた。
「ここに入隊したからには、これは必ず見なければならないのだ・・・」
低いながらもよく響く声でゆっくりと言い。一息入れると、クワッ!と目を見開き、怒涛の勢いで話し始める。
「ここの国王と学園長は古くからの友人で、度々体をほぐすという名目でああして勝負をしているのだ。お前さんもよく見とくといいだろう。儂は、昔からここで教育役として働いとるが・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・・・
昨年の夏にやっとったのは、特に激しかったのう。ウィリアムさんの棍棒がジョッッッ!!!」
老兵の話はしばらく続いたが、「うおおおおお!!!」という大歓声と体の芯まで響く大音量の爆発音によって遮られて中断してしまった。
老兵の爺さんは音がした瞬間に顔を2人の方へ向け、「しまった!見逃した!!!」と顔をしかめながら不満を吐き出す。
一方、爺さんの横でずっと話を聞かされていた俺は長すぎる話のおかげで、音が響く瞬間の少し前から2人の方を向いていたため、ウィリアムさんとジョセフ様の初動を見ることが出来た。いや、正確に言うと見ることができたのは、2人が10メートルほどの間合いを詰めた後、鍔迫り合いの状態になった時だった。
あまりにも早すぎる動きのせいで、移動した瞬間や爆音の正体は見ることが出来なかったが、2人の足元にできたクレーターを見れば、どれ程の威力を持った攻撃なのか、理解するのは簡単だった。
俺が、いやここにいる兵士・騎士の中で1番の腕前の持ち主でも、受けてしまったなら即戦闘不能になってしまうだろう攻撃を間近で見て、俺は内心震えが止まらなかった。
「てめぇら見とけよ・・・こっからがおもしれぇんだからよ」
俺が恐れからくる震えなのか、感動からくる震えなのか分からないが、笑っている膝を必死に押さえつけていると、横で爺さんがそう静かに言った。
爺さんがそう言うと、俺の周りで「すげぇな」とか「俺も出来るかな」「無理に決まってんだろ」などと言い合っていた声がピタリと止み、いつの間にか見に来ていた王宮使えの騎士やメイド達までも、一斉に鍔迫り合いのまま鬩ぎ合っている2人に目を向ける。
「シッ!!!」
ウィリアムは後方に飛び退り、覇気とともに棍棒を前にを突き出す。
ジョセフはそれを半身になって躱し、ウォーハンマーで叩きあげる。そこから流れるようにウィリアムの前に体を捻りこんで接近し、次の一撃を繰り出そうとする。
だがウィリアムはそれを予想していたらしく、跳ね上げられた棍棒を手首と体の捻りを使って体の前に引き寄せ、ジョセフの一撃を防ぐ。
その後も繰り出される数々の超高レベルな戦いに観客たちからは絶えず歓声が飛び交い、鍛錬所はいつもとは違う種類の熱狂に包まれたのだった。
ウィリアムとジョセフが戦い始めてからもう既に2時間ほどたっただろうか・・・
鍛錬所の至る所には、小規模なクレーターができ、今までの戦いがいかに激しいものだったのかを物語っている。
鍛錬所の中央に出来た一際大きなクレーターの中に防具の至る所が傷つき消耗している姿のウィリアム、ジョセフが立っていた。
「ぬぅ・・・やはり訛っとるのう。これしきの戦闘で息が上がるとは」
肩を小さく上下させながら、棍棒を構えるウィリアムに
「年寄り臭いぞ」
と鼻で笑うジョセフ。ちなみにジョセフのほうが息切れが激しく疲れが出てきているように見える。
「では・・・!」
「これで・・・!」
二人はそう言うと、口角を上げ、武器を構え直した。
チリチリとした雰囲気が鍛錬所に充満し、ウィリアムとジョセフから放たれる闘気が見ている者を威圧する。
「・・・ヒッ!」
静まり返った鍛錬所に響く一つの悲鳴。
余りにも強烈な圧力に耐えきれずに漏れ出してしまったのだろう声を合図に、
「シッッッ!!!」
「ぬんっ!!!」
ウィリアムとジョセフが同時に動き、交差する。
・・・・・・パキッ・・・・・・・・・
鍛錬所に小さく甲高い音が響く。
・・・・パキパキッ・・・・・・・・
連鎖的に続いていく音。それは、次第に大きくなっていき
・・・・・バキッ!・・・・・・・・・
という一際大きな音を響かせると、
ガラガラと音を立てて、ウィリアムとジョセフ両者の鎧が砕け散る。
「今回も引き分けというわけか・・・」
「チッ、今度は吠え面掻かせてやるぜ」
クレーターの中央で佇み、お互いに不敵な笑みを浮かべている両者に、
「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
今日最大の歓声が贈られたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、話をしに来たんじゃった」
「おいっ!」
結局、最後の最後で締まらないウィリアムだった。
ウィリアムはアリーヤにまたがっていつもと同じ道を進む。人々がアリーヤを見て左右に移動していくのを横目で見ながら、しばらく進むと王城へとたどり着く。
「お!ウィリアムさんじゃねぇか!どうした?また王様に用事ですかい?」
「まぁの・・・入っていいかの?」
「あんさんならこんな確認なんぞいらんでしょうに・・・」
「はっはっは。まぁそう言ってもあやつの決めたことじゃからの・・・」
「あんさんも苦労しますね・・・」
顔なじみの門番といつものやり取りを済ませると、アリーヤから降りて門を潜る。
門を潜り少しすると、これまた顔なじみの王宮獣医師の女性にアリーヤを任せて国王の執務室へ足を運ぶ。
途中何度も顔見知りの従者や官僚の人達と出会い少し立ち話をしたが、すぐに執務室の前にたどり着くことができた。
「ジョセフ!入るぞ!」
一応ノックをした後、返事を待たずにそう声をかけてドアを開ける。
「やっと来たか!!!遅いと思っていたがお前のことだから、どうせ知り合いにでも会って無駄話でもしていたんだろう?まぁ、いつものことだから構わんが・・・。今日は何の用事だ?お茶の誘いなら喜んで受けるぞ。お前に言いたい事もあるしな」
紙の束に囲まれながらそう返してくるのは、ジョセフ・L・エリュシオン。この国の現国王だ。
「ふむ・・・久々にのんびり話し合いも良いが・・・お主、最近は体を動かしておらんのではないか?」
「わかるか?最近は入学関連の申請書などが多いからな」
立ち上がり、首や肩を回しながらそう言う。
「それならば・・・」
「ああ・・・」
ウィリアムとジョセフ、両者の瞳に炎が揺らぎ、火花が散る。
未だ春半ばだというのに、この二人の周囲には暑苦しいほどの熱気が立ち込める。
「行くぞ・・・」
「ああ・・・」
それだけの言葉でお互いの意思を理解し、部屋を後にする。
ここは、王宮の離れにあるアルカディア国王兵の鍛錬所。
ここでは、常日頃から城下町の巡回任務が当たっていない兵士・騎士たちが国に尽くす為に鍛錬を積んでおり、常に自らを高めるために訓練に励んでいる者たちの声が響く。
そして、今日も今日とて、鍛錬所はいつもどうりの独特な騒がしさに包まれている。
だが、今日はいつもと少し違うところがあった。
いつも訓練をしている兵士・騎士たちが壁際へより、鍛錬所の中央に大きな空間を作り出しているのだ。
そして、そこには巨大で無骨な作りの戦鎚を肩に担ぎ、簡単な作りの籠手と脚当て、プレートアーマーのみを装備した国王、ジョセフ・L・エリュシオン。
それに対峙しているのは、2メートルを超えるほどの長さの金属で作られた棍棒を軽々と片手で遊ばれている、ウィリアム・ロペス。その棍棒の両端には、鈍い輝きを放つ鉱石のようなものが取り付けられている。ジョセフと同じような籠手、脚当てを装備し、ハーフプレートメイルを身に付けている。
両者から迸る物理的な圧力すら生じさせる闘気は、陽炎のように二者の周囲の風景を揺らがせる。
それを周りで観戦していた一人の兵士が、目を白黒させながら、横でこっそりと賭けを始めた兵士たちに耳打ちで質問する。
「・・・急に訓練中止になったけど、なんで国王と学園長が対峙してるんだ?」
「ん?なんだ見たことないのか?」
「ああ、この春に入隊したばかりなんだ」
真新しい鎧に目を落としながら嬉しそうにそう答える新兵に、賭けをしていた兵士たちの中で一番の古株で指導役を任されている老兵が口を開いた。
「ここに入隊したからには、これは必ず見なければならないのだ・・・」
低いながらもよく響く声でゆっくりと言い。一息入れると、クワッ!と目を見開き、怒涛の勢いで話し始める。
「ここの国王と学園長は古くからの友人で、度々体をほぐすという名目でああして勝負をしているのだ。お前さんもよく見とくといいだろう。儂は、昔からここで教育役として働いとるが・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・・・
昨年の夏にやっとったのは、特に激しかったのう。ウィリアムさんの棍棒がジョッッッ!!!」
老兵の話はしばらく続いたが、「うおおおおお!!!」という大歓声と体の芯まで響く大音量の爆発音によって遮られて中断してしまった。
老兵の爺さんは音がした瞬間に顔を2人の方へ向け、「しまった!見逃した!!!」と顔をしかめながら不満を吐き出す。
一方、爺さんの横でずっと話を聞かされていた俺は長すぎる話のおかげで、音が響く瞬間の少し前から2人の方を向いていたため、ウィリアムさんとジョセフ様の初動を見ることが出来た。いや、正確に言うと見ることができたのは、2人が10メートルほどの間合いを詰めた後、鍔迫り合いの状態になった時だった。
あまりにも早すぎる動きのせいで、移動した瞬間や爆音の正体は見ることが出来なかったが、2人の足元にできたクレーターを見れば、どれ程の威力を持った攻撃なのか、理解するのは簡単だった。
俺が、いやここにいる兵士・騎士の中で1番の腕前の持ち主でも、受けてしまったなら即戦闘不能になってしまうだろう攻撃を間近で見て、俺は内心震えが止まらなかった。
「てめぇら見とけよ・・・こっからがおもしれぇんだからよ」
俺が恐れからくる震えなのか、感動からくる震えなのか分からないが、笑っている膝を必死に押さえつけていると、横で爺さんがそう静かに言った。
爺さんがそう言うと、俺の周りで「すげぇな」とか「俺も出来るかな」「無理に決まってんだろ」などと言い合っていた声がピタリと止み、いつの間にか見に来ていた王宮使えの騎士やメイド達までも、一斉に鍔迫り合いのまま鬩ぎ合っている2人に目を向ける。
「シッ!!!」
ウィリアムは後方に飛び退り、覇気とともに棍棒を前にを突き出す。
ジョセフはそれを半身になって躱し、ウォーハンマーで叩きあげる。そこから流れるようにウィリアムの前に体を捻りこんで接近し、次の一撃を繰り出そうとする。
だがウィリアムはそれを予想していたらしく、跳ね上げられた棍棒を手首と体の捻りを使って体の前に引き寄せ、ジョセフの一撃を防ぐ。
その後も繰り出される数々の超高レベルな戦いに観客たちからは絶えず歓声が飛び交い、鍛錬所はいつもとは違う種類の熱狂に包まれたのだった。
ウィリアムとジョセフが戦い始めてからもう既に2時間ほどたっただろうか・・・
鍛錬所の至る所には、小規模なクレーターができ、今までの戦いがいかに激しいものだったのかを物語っている。
鍛錬所の中央に出来た一際大きなクレーターの中に防具の至る所が傷つき消耗している姿のウィリアム、ジョセフが立っていた。
「ぬぅ・・・やはり訛っとるのう。これしきの戦闘で息が上がるとは」
肩を小さく上下させながら、棍棒を構えるウィリアムに
「年寄り臭いぞ」
と鼻で笑うジョセフ。ちなみにジョセフのほうが息切れが激しく疲れが出てきているように見える。
「では・・・!」
「これで・・・!」
二人はそう言うと、口角を上げ、武器を構え直した。
チリチリとした雰囲気が鍛錬所に充満し、ウィリアムとジョセフから放たれる闘気が見ている者を威圧する。
「・・・ヒッ!」
静まり返った鍛錬所に響く一つの悲鳴。
余りにも強烈な圧力に耐えきれずに漏れ出してしまったのだろう声を合図に、
「シッッッ!!!」
「ぬんっ!!!」
ウィリアムとジョセフが同時に動き、交差する。
・・・・・・パキッ・・・・・・・・・
鍛錬所に小さく甲高い音が響く。
・・・・パキパキッ・・・・・・・・
連鎖的に続いていく音。それは、次第に大きくなっていき
・・・・・バキッ!・・・・・・・・・
という一際大きな音を響かせると、
ガラガラと音を立てて、ウィリアムとジョセフ両者の鎧が砕け散る。
「今回も引き分けというわけか・・・」
「チッ、今度は吠え面掻かせてやるぜ」
クレーターの中央で佇み、お互いに不敵な笑みを浮かべている両者に、
「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
今日最大の歓声が贈られたのだった。
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「あ、話をしに来たんじゃった」
「おいっ!」
結局、最後の最後で締まらないウィリアムだった。
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