のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第36話:閑話その3

「よし、誰も居ないね。[召喚]!」
屋敷の前、生垣に囲まれているところで、クロウは辺りを見渡して人が居ないのを確認してからジン達の召喚を行なった。



「さて、これから街を見回ってくるけど、みんなはどうする?」
『付いてく!』『私も!』『上からお伴します』『上から見てるね』『どもまでもご主人様と共に』
予想していたどうりの返事に、クロウはにっこり笑って一つ頷く。

「よし!行こっか?・・・あっ、ツクモはジンの上に乗ってね。一応[インビシブル]かけるから」
『えー?別にし『畏まりました』うっ!ちょっとー、もう少し優しく乗ってよー』
「ほらほら喧嘩しない。いくよー[インビシブル]!」
ワンワンコンコンと言い合いをし始めたジンとツクモを宥めながら、クロウはジンの背中を足でフミフミしているツクモに手をかざして魔法を発動する。

薄く光る魔法陣がツクモの頭上に展開され、徐々にツクモの姿が歪んでいき、瞬く間にその姿は見えなくなっていった。


「うんうん、いい感じ。よっし、じゃあ行こっか」
『『『『『はーい((仰せのままに))』』』』』
元気な返事に混じって、何かが違うものが聞こえたような気がするが、『いつものことか・・・』と半ば諦めるクロウだった。

















しばらく歩くと、イザナミまでジンの上に乗りたがったが、それではジンがしのびないので(本人は気にしないだろうが)特等席としてクロウの頭の上に乗ることになった。
乗るといっても、グデ〜となるだけなのだが

『〜〜〜♪』
なぜかイザナミはとても楽しそうだった。居心地が良かったのだろうか?

『いいなぁ〜いいなぁ〜』
『むぅ・・・』
その様子を横で見ていたジンとツクモは、羨ましげにその様子を見つめていたが、クロウはそれに気が付いた素振りも見せずにスタスタと歩いていく。












「あ、これ、結構おいしい・・・」
『僕たちの分も残してねー?』
『ご主人!ちょうだいちょうだい!』
「ん?はい、あーん」
頭の上でグネグネ動き出したイザナミに、屋台でもらった小さな袋に詰められたブドウみたいな果物を摘まんで口まで運んであげると、もっきゅもっきゅと食べ始めた。
商店街を過ぎる時、なぜか屋台を出していたおばちゃん・おじちゃんに食べてけ食べてけと色々と貰ってしまったのだ。嬉しいから構わないのだが、なんだか申し訳ない気もしてくる。

『ん~~~!うまっ!』
よほど、あのブドウもどきが気に入ったのか、イザナミはクロウの頭上でグデ~っとしながら尻尾を激しく揺らし始める。その度にクロウにぺシペシと当たっているのだが。

「はいはい、お代わりだよ~」
クロウがブドウもどきをあげる度に、もっともっとと、その可愛らしい肉球でクロウの頬をムニムニと触ってくるのがまた一段と可愛らしく、周りでその様子を見ていた人たちも、ついつい頬が緩んでしまっている。



そんなことをしながら歩いていると、クロウはふとある店の前で足を止めた。

【アザトース楽器店】

そう書かれた薄汚れた看板を見て
「・・・・・【外のなるアザトース】ねぇ・・・?」
と、なにやら含みの持った言い方をするクロウに、頭上から『ここに入るの?』と興味ありげにそう聞くイザナミだったが、クロウの「みんなは待ってってね」という言葉にニ”ャ~と珍しく濁声で不満タラタラに返事をしてくる。その後、ジンにしばらくの間お小言を貰うことになるのだったが・・・

「じゃあ、待っててね〜」
イザナミを受けとり、どう説教しようか考えいたジンは、クロウがその店の扉を開けるときに、僅かだが何かを期待していふような顔をしたように見えた。









ーーーーーギギギーーーーー
と、木製とは思えない重量感のある音を立てながら扉を開け、クロウは名状し難き店名の楽器店に入っていく。

黒いカーテンで仕切られた店内は、外の明るさに慣れた瞳には暗く、はっきりと見えてくるまでにしばらくの時間がかかった。
だが、暗さに慣れ、その全貌が顕になると、クロウは暗さに慣れてしまったことを強く後悔した・・・
なぜなら、そこにあるモノを全てが、此の世のものとは思えないほどの禍々しさを放ち、眼にするだけで、とてもない寒気が身体中を駆け巡ったのだ。












ーーーーーーーーーーーーーという事はなく、
扉は実際、結構な重さだったが、店内は魔力灯(魔核で動く蛍光灯のようなもの)で照らされたごくごく普通のものだった。

展示棚に名札・値札と共に置かれた様々な形状の楽器に、は、一つの埃も付いておらず、この店を営む人の人間性がうかがえる。


「・・・・・・・大丈夫そう」
展示されているフルートなどの管楽器、バイオリン系の弦楽器、ボンゴのような打楽器・・・店の内部を一通り眺めると、一つ頷き、胸を撫で下ろす。


「我が店の商品は、お気に召しましたかな?」
すると、その様子を見ていたのか店の奥から、そう声が聞こえてきた、

「あなたが、店長さん?」
その声に振り向くと、そこには眼鏡をかけた黒い褐色色の肌をした長身の男性が静かに立っていた。

「えぇ、そんな感じですね。では、改めて自己紹介おば。私、この店の店主をさせていただいております、サン・チエックと申すものです。この度は、我が楽器店にお越し下さり誠に有り難うございます。なにかお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください・・・っと、やっぱりこの話し方は疲れますね」
一通りの自己紹介(社交辞令的なもの)を済ませると、一気に格好を崩して、砕けた喋り方となる。

「・・・あっ、ご丁寧にどうも。ボクに対しては普段どうりの話し方でお願いします」
急に砕けた喋り方になったのもあって、少し反応が遅れたが、内心では『SANチェック・・・?これは、ダメかもしれない』と、全く別のことを考えていたのだが。


「あ、そうですか?いやー、あの喋り方だと妙に肩がこるんですよね。あ、そう言えば・・・“お嬢さん”はなんの誤用があっていらしたんです?」

SANサンチェックが“お嬢さん”という言葉を口にした瞬間、周囲の音が消えた。

先ほどまで、にこやかな笑みを浮かべて会話をしていたはずのクロウの顔から、一瞬にして表情が消え失せ、それと同時に氷のような冷たい眼差しがサンに向かって放たれる。

「っ!!!し、心臓を握られているかのような、この威圧感っ!これはーー」
サンは、そこまで言うと、胸を押さえていた手を顔の前に持ってきて、強く握りしめると

「これは、たまらないっ!!!」
と、嬉々とした表情で強く言い切った。




「・・・・・・・・・・え?」
愕然とするクロウを傍目に、精神解析が必要そうな褐色肌の変態サン・チェックは、自分の世界へと旅立っていたのだった。
























「・・・・・ふぅ。おっと、失礼いたしました」
しばらく経って、再起動(?)したサンは、店内を散策しているクロウを見て申し訳なさそうに、そして、どこか期待したような目を向けながらそう声をかける。

「えぇ、本当に・・・。まぁ、慣れてますから構いませんけど。っと、そんなことよりも」
「そうですね、商売の話をしましょうか」
クロウの言葉に、先ほどまでトリップしていたとは思えないほどの、鋭い目付きをした商人の顔付きになるサン。

「えぇ、そうしましょう」
それに対して、いつもとどこか違う笑みを浮かべながら、クロウはそう答える。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜暫くのち〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





ーーーーーギギギーーーーー
っと、重たい音を立てながら、【アザトース楽器店】の扉が開く。


『『『『ご主人っ!!!』』』』
ガヤガヤと店に入る前までは聞こえなかった喧騒に、首を傾げながらも、足を踏ん張り飛びついてきたイザナミたちを受け止める。

『遅い!』『心配した!』と可愛らしく怒っているイザナミたちを宥めていると

『なんか嬉しそうだね〜。いいもの見つかった?』
と、人混みの中から出てきたジンが、イザナミたちを撫で回しているクロウにそう言う。

「(えへへ〜わかる?)」
周りに人がいるためか、小声でそう答えるが

『まぁ、そんな顔してたらね?』
と、呆れ半分に言われてしまった。盛大なため息付きで。



「(まあ、後で話すよ)さてと、みんな行くよー」
ジンにお仕置きとして全身撫で回しの刑を処し、一通り満足したので(嫌な気配を感じたためでもあるが)、場所を変えるために店の前の人集りから急いで離れる。途中、ハァハァと気色悪い息遣いが後ろからついて来ていたが、二本ほど裏道に入り、壁を蹴り上がって屋根の上へと逃げることによって事無きを得た。



『それで?何買ったの?ご主人』
屋根に登ったところで、ジンがそう聞いてくる。
他の、イザナミやサクヤたちも興味津々なのか、クロウの周りを囲むように座り込む。

「えっとねー、入ったところから話すとーーー

〜〜〜〜中略〜〜〜〜

でね、その店長さんが正気に戻ったところで、やっと買い物出来るようになってね・・・。いやー、凄い変わりようだったよ?まるで、あっちが出てきた時のボクみたいに雰囲気からったからね。んでねーーー

〜〜〜〜中略(2度目)〜〜〜〜

それで、暫く値下げの交渉してたんだけど、修理の依頼を店長さんにするっていう条件で、この【オカリナ】と【ハープ】を銀貨5枚で買ったんだー」
ジャジャーンと[ストレージ]経由でウエストポーチから、何の素材から作ったのかわからないが、綺麗な青色をした【オカリナ】と白っぽい木材のような何かで作られた【ハープ】を取り出して、ジンたちに見せる。

案外長く話をしていたためか、ジンを除いた4匹は、暖かい陽の光を浴びて、ボーッとしたりウトウトしたりと、全く話を聞いていない。

『ね、ねぇ、ご主人。銀貨5枚ってどれくらいのお金なの?僕、全然お金のこと知らないんだけど・・・』
【オカリナ】と【ハープ】を見て、ほえーっと、歓声(?)を上げていたジンだが、銀貨の下りで頭の上に疑問符を浮かべていた。

「そっか!まだ、みんなには教えてなかったっけ」
クロウはポンっと、手を叩いてそう言うと、紙とペンを取り出して、何かを書き始める。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

異世界の通貨

石貨

銅貨(石貨×5)

大銅貨(銅貨×10)

銀貨(銅貨×100・大銅貨×10)

半金貨(銅貨×1000・大銅貨×100・銀貨×10)

金貨(銅貨×10000:一万・大銅貨×1000・銀貨×100・半金貨×10)


白金貨(銅貨×1000000:百万・大銅貨×100000:十万・銀貨×10000:一万・半金貨×1000・金貨×100)

ミスリル貨(銅貨×10000000:一千万・大銅貨×10000000:百万・銀貨×1000000:十万・半金貨×100000:一万・金貨1000・白金貨×100)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スラスラと書き終わって顔を上げると、再起動したイザナミたちが、紙を覗き込もうと半ばおしくらまんじゅう状態になっていたので、笑ってしまった。

「ふふっ。いい?この2番目に書いた銅貨1枚で、普通のご飯が一回食べれるの。それで、銅貨10個で大銅貨になって、それがさらに10個集まって銀貨になるの。どから、この【オカリナ】と【ハープ】で銅貨が、500枚必要になる。分かった?」
ちなみに、家などは金貨が必要なレベルになってくる。

『『『『『分かった!』』』』』
うむ、元気でよろしい!

『あ、でもご主人、よくそんなにお金持ってたね?』
ジンから当然の質問が飛んで来るが、

「まぁね、ここに来る途中で狩ったゴブリンの魔石とか森の中で採った薬草とかが、結構高く売れてくれたからね」
実際、クロウの卸した薬草の中には滅多に発見されることのない希少な種の薬草や、香辛料として高く売りさばくことのできるものがいくつか紛れ込んでいたため、 買取価格が金貨レベルまでに跳ね上がっている。
 また、これによって、駆け出し冒険者がよく受けていた【薬草採取】の依頼が一時的に無くなるや、薬草の価格暴落を避けようといくつかのギルドが協力して、色々としていたのだが、それはまた別のお話。



「さて、結構時間経っちゃったし、違うとこ見て回ろっか」
『『『『『はーい』』』』』
クロウはそう言うと、屋根の上から裏道へ、そっと飛び降りて、大通りへと歩き始めた。そのあとを、ツクモを背中に、イザナミを頭に乗せたジンが不服そうについていくのだった。













それからは、色々な屋台を冷やかして回っていたのだが、偶然すれ違った冒険者達の使っている武器や防具に興味が湧いてきたため、【狩猟区】の大通り、通称【冒険者通り】に足を運んだ。

雑貨屋を覗いてみたり、武器屋を覗いてみたりと、彼方此方を転々としているとーーー

「クロウちゃんだー!」
と、非常に聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。

「あれ?ククルたちこんなとこーーーグフッ!」
店舗に並んでいるものに意識が向いていたこともあってか、もうスピードで飛び込んできたククルに反応しきれず、おでこがクロウの下顎に大きな音を立ててクリーンヒットしてしまう。そして、再び頭に乗せていたイザナミが衝撃で吹っ飛んでいってしまった。と言うか、イザナミたちじゃあるまいし、いきなり飛びついて来ないで欲しいのだが・・・

「うはっ、いい音したなー。お、おーい、大丈夫か?ー
頭を押さえながらしゃがみ込み、戻ってきたイザナミにペシペシと叩かれているククルと、ふらふらと立ち上がりながら顎を押さえているクロウに、カルが肩を震わせながらそう言う。

「ひんはいひろよ(心配しろよ)、ほひうかふふるほへてよ(というかククル止めてよ)・・・」
「いやー、止める暇なかったんだって。裏道から出た途端に飛び出していったんだぜ?」
「うーーー。クロウちゃん大丈夫?」
舌を噛んだのか、滑舌が可笑しくなったクロウを見て、カルは再び笑い出しそうになるが、声が漏れる前に、おでこを押さえて涙目になっていたククルがそう言ったので、なんとか飲み込むことができた。

「らいじょふらいじょふ(大丈夫大丈夫)、なれへるから(慣れてるから)」
少し治ってきたのか、少しだけ聞き取りやすくなったが、未だにダメージは残っているもよう。


「そういや、冒険者ギルドで焼肉?やってるんだってさ。今から行かね?」
『『『『『焼肉!!!』』』』』
食べ盛りの子供であるジン、イザナミ、サクヤ、フレイヤ、ツクモ(ステルス常態)が、[焼肉]と言うワードに反応し、一斉にカルへと視線を向ける。

「あーあー、あえいうえおあお・・・っと、オッケー治った。それで、焼肉?いいね、みんなで行こっか。ジン達も食べたそうにしてるしね」
「よし!そうと決まれば!行きましょ行きましょ!」
「まてまて、裏道から行くぞ」
善は急げ!と駆け出した行きそうなククルを引き止めて、裏道から行くことを提案するクロウ。

「え?なぜに?・・・あぁ、なるほどね。お前も面倒くさいことになってんのな」
一瞬不思議そうな表情を浮かべるカルだったが、辺りに目を配ると、納得したように頷く。

「うーん?なんとなく分かったけど、クロウちゃん裏道知ってるの?」
「サクヤかフレイヤなら分かると思うけど、ボクは知らないし、裏道なんて通らないよ?」
「「え?あー、なるほど・・・」」
納得したようなしてないような、微妙な顔をしているが、了承を得たと勝手に判断して、ジンが 達を引き連れてクロウは、裏道へと入っていった。






「よいしょっと。さて、ここからはのんびり行きましょうかね」
「全く、屋根の上を移動するなんて・・・」
「まあ、あれについて来られるのは嫌だな」
流石はクロウとその両親二人の地獄の訓練をクリアしただけはあるのか、クロウより少し遅れながらも軽々と壁を蹴り上がって、屋上へと登ったカルとククルは、自分たちが先ほどまでいた裏道に入って来た奴等を見て、そう口をこぼす。




「あ、兄貴!奴らが消えました!」
1番最初に入って来た“少年”がそう言うと

「そんな訳があるか!!!よく探せっ!見つけたやつには銀貨をくれてやる!」
その少年よりも一回り(脂肪で)大きいやつが裏道へ入ってき、甲高い耳障りな声でそう喚き散らす。
本当に【銀貨】を持っているらしく、キツキツの胸ポケットから1枚引っ張り出すと、少年だけでなく、周りの取り巻きにまで見えるようにして「ここまで連れてこい!連れて来たやつには5枚だすぞ!!!」と叫ぶ。
それによって、少年だけでなく周りの取り巻きにまでも裏道の奥へと走り出していった。

「グフッグフフフフ・・・これで、あの二人は俺のものだ。グヘヘへ・・・」
誰もいなくなった裏道に、気色の悪い声が小さく響くのどった。




「うへぇー、ありゃヤバイな。頭イってるだろ」
「うわぁ、なんだか鳥肌立って来ちゃった」
覗き込み、耳を立てたことろでちょうどそんな会話(?)が聞こえて来たので、ブルリと身を震わせる二人。

「大丈夫でしょ・・・さ、行こう!焼肉が待ってる!!!」
だが、クロウは関係無いとばかりに、冒険者ギルドのある方向へと、屋根の上を駆けていくのであった。

「「え、ちょっ!待てよ!(待ってよー)」」
そのあとを追う二人は、今日も今日とてクロウに振り回されるのであった。

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