のらりくらりと異世界遊覧
第33話:宿泊先は立派なお屋敷!
ウィリアムに連れられてギルドの前に出ると、黒をメインとし所々に金の装飾の施された豪華な馬車が止まっていた。
「すげぇ・・・俺たちが乗って来たやつとは全然違う」
「凄い高そう・・・」
「やっぱり黒がメインだと金が映えるね」
『ご主人!これ凄いね!』
『ちょっと派手かにゃ〜』
『拙者ももう少し落ち着いた感じの方が好きだな』
『夜空っぽくて綺麗…』
『ご主人様が好きなものは私の好きなもの』
「ほっほっほっ、そうじゃろうそうじゃろう。なにせ、儂自ら設計したのだからの。ギルド貸し出しの馬車なんぞには負けんわい!」
それぞれが好き好きに感想を述べるが、ウィリアムはおおらかに笑ってそう言う。先ほどとは全くの別人のように明るく振舞っている。だが、クロウにはその明るさが、台風の前の静けさのように思えたのだった。
「さて、今からお前達がここで滞在する場所に案内するんじゃから、早う馬車に乗ってくれんか?」
馬車の監視をしていたギルド員の青年にチップを渡しながらウィリアムは未だに馬車の見た目について言い合っている子供達にそう言って、自分は御者台へと登り、通常の馬よりも一回り大きい黒色の巨大な馬の手綱を握る。
「「「はーい」」」
「あ、みんなは一回戻っててね〜」
『『『『『はーい』』』』』
カルとククルが乗り込んだのを見てから、クロウは一時的にジン達を[帰還]させ、ウィリアムの座る御者台へ登りその横へと腰を下ろす。
「中に入らなくていいのか?」
「はい!今は爺様とお話ししたいです!」
「そうかそうか!クロウはええ子じゃの………そうじゃな、着くまでにちょっとした思い出話しでも聞かせてやろうかのう」
「はい!爺様!」
今初めて気がついたが・・・ボク、いや俺はおじいちゃんっ子なのかもしれない。
そして、御者台の上で昔話をしだしたウィリアムと、その話を楽しそうに聞いているクロウを暖かい瞳で見つめていた巨馬が「ヒヒン」小さく嘶くとゆっくりと歩き始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
「そら、着いたぞ!」
「「「おお〜!!!」」」
クロウ、カル、ククルは馬車を降りると目に飛び込んできた景色に歓声を上げる。
「ここがお前達の宿舎!その名も・・・【ロペス辺境伯家アルカディア別荘】だ!」
「おおー!デッケェ!!!」
「・・・・・!!!」
ザ・中世ヨーロッパ風のお屋敷という感じの豪邸が建っていた。周りを3メートルほどの柵で囲まれ、大きな両開きの門が取り付けられている。柵の向こうには、綺麗に刈りそろえられた植垣が見ることができ、色とりどりの花がその身を輝かせている。
門の奥には噴水と大きめの空間があり、何台もの馬車を止めることが出来るだろう。それに、幾つもの街灯とベンチが設置され、そこでパーティーすら開くこすら出来そうだ。
ウーガルでは見ることもできなかった大きさの屋敷を目の前に、テンションが上がりまくっているカルは、本日何度目になるか分からない歓声を上げ、ククルに至っては感動で言葉すら出てこなくなっている。
「・・・ん?辺境伯?」
だが、クロウだけはウィリアムの言ったことの中に重大な事実を見つけてしまった。
「なんじゃクロウよ、アイザックから何も聞いとらんのか?」
「いえ・・・父様は、自分はアルカディアにいる貴族達からしてみれば、唯の田舎の領主だ…としか・・・」
「なるほどのぅ・・・(これはいらん事を言ったかの?)」
ウィリアムは自分の息子であるアイザックの意思を察したのか、自分の横で顎に手を当てて何か考え込んでいるクロウを見て自らも何か良い案は無いかと考え始めた。
そして
「よし!クロウよ、お前の思っていることは何となく分かる!」
と、クロウに向かって言う。
突然にそう言われたクロウは「え?」と驚いた顔をしているが、
「お前は、権力が嫌いなのだな?いや、嫌っているのは、権力自体ではなくそれに群がる者共か?」
と続くウィリアムの言葉に目を見開く。
「・・・何で分かったのですか?」
「簡単じゃ・・・なにせ儂も、アイザックも嫌っておるからのぅ。国王の友人である儂も、この国の英雄であるアイザックも、その地位を求めて近寄ってくるものばかりだった。・・・おっと、この話は今夜にでもするとしよう」
困惑したような目をこちらに向けているカルとククル。そして、いつの間にか門の向こうで待機している燕尾服姿の初老に差し掛かったくらいの白髪の男に気付き、話を止める。クロウは少し残念そうな顔をしたが、素直をに頷いて御者台から降りる。
「お帰りなさいませ、ウィリアム様。そして、ようこそお越しくださいましたクロウ様、カレア様、クレア様。私はセバスチャンと申します。立ち話は何なのでどうぞお屋敷の中へ・・・ここからは、アイリスが引き継ぎますので、私はこれで。皆様後ほどお会いしましょう」
門を開いて馬車を招き入れながら、既に降りているクロウ達に向かって白髪の男性、セバスチャンはそう言い、そのまま手綱を引いて馬車を館の横へと移動させに行った。そして、セバスチャンが去ると同時に
「では皆様こちらに・・・お屋敷のご案内を致しますので」
と、いつの間にか噴水の前に立っていたメイド服姿の金髪ロングの女性が恭しくお辞儀をし、屋敷へ歩き始める。
「うむ、儂は行くところがあるのでな・・・アイリスの話が終わったら街を見てくると良い。なにか面白いものでも見つかるかもしれんぞ?・・・おお、そうだ!治安は良いとは思うがこれを渡しておこう。何かあったらこれを見せるといいじゃろう」
クロウ、カル、ククルにセバスチャンの持ってきた竜のエンブレムが彫られた銀で作られた懐中電灯を渡しながらウィリアムはそう言う。クロウだけは受け取るのを少し渋っていたが、ウィリアムが見せなくても良いから持っておけと半ば無理やりに押し付ける。
不満そうな顔をしながらもクロウが受け取った懐中電灯を懐にしまうのを確認すると、ウィリアムはセバスチャンが馬車を外して引っ張ってきた巨馬…スレイプニル種のアリーヤという名前らしい。先ほど話している時にウィリアムから聞いたのだ。
ちなみにスレイプニル種というのは神獣スレイプニルの血統の馬たちの種族であり、伝説上のスレイプニルのように8本脚では無いが一般的な乗用馬や軍馬よりも一回り大きく、体力・馬力・知力全てが優れているとても希少で珍しい生物なのらしい。何とも昔旅をしている時に偶然森で出会って怪我を治療したら懐かれだそうだ。
それはさておき、ウィリアムが出発してからアイリスに屋敷の中を案内してもらった。
「ここは食堂になります。朝食は午前7時、昼食は学食がありますのでお弁当は、特定の行事時のみお作りいたしますね。夕食は午後8時からです。小等部の間は夜間8時以降の外出は基本的に禁止となっておりますが、この館の敷地内であればかまいません。中等部になればそれは無くなりますが・・・これはその時になってからお話いたします」
「ここは浴室です。浴槽にお湯を張るのは夕食後となりますが、シャワーだけならばいつでも使用できますのでご自由にお使いください」
「ここは皆様の寝室となります。お一人ずつ個室がありますのでお先にお荷物を各お部屋へと運ばせてあります」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ここは遊戯室で、ウィリアム様がご友人とよくビリヤードなどを楽しまれておりますね」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「ここは書斎で・・・」
・・・・・・・
「ここは・・・」
・・・・
・
「最後にここですが、ここには鍛冶や調合といった生産施設が揃っております。豪華な設備はありませんがそれなりのものなら作ることができます。学園で鍛冶科や調合科を取ったならば役に立つでしょう」
「や、やっと、終わった・・・」
「・・・・・・・・」
大きな屋敷の中を歩き回ること早2時間、日はとっくに傾き始めていた。延々と説明をされ続けたためか、カルは少し前から死んだ魚のような目をし始めているし、ククルに至っては
一方でクロウは、初めて見る調合台に目を輝かせていた。その顔に疲れは全く見えず、隣でその顔を見ているカルとククルは呆れ気味だ。
「さて・・・大体必要な説明は終わりましたし、まだ 3時頃ですので商店街の散策でもしてみてはいかがでしょうか?」
ポケットから取り出した銀時計の蓋をパタンと閉じながらアイリスは三者三様の反応を示すクロウ達にそう言う。
「「行く行く!!!」」
光の灯っていなかった瞳が急激に光を取り戻しだし、カルとククルは思いっ切りそう反応する。
そして、アイリスの「いってらっしゃいませ」と言う見送りの言葉も聞こえないほどの猛スピードで二人そろって出かけて行ってしまった。
「あらあらまぁまぁ・・・うふふふふ」
そんな様子を頬に手をあててにっこりと笑いながらアイリスは見ている。
「さて・・・ボクはのんびりジン達とのんびり行こうかなぁ~」
「では、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
クロウが玄関を出ようとドアに手をかけると、背後より声がかけられる。
「はい・・・行ってきます!」
少し開けられらドアから差し込む光に照らされて、クロウは新たな生活が始まったのを感じながら屋敷を出るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「セバスさん!あの子可愛い!!!」
「はいはい、そうですね」
「私欲しい!!!」
「はいはい、駄目ですよ」
「じゃあ、ウィリアムさんに頼んでみる!!!」
「はいはい、頑張らないでくださいね」
クロウが出かけた後、アイリスはハイテンションでセバスチャンに話しかけていた。
何を隠そう、このアイリスは“あの”シャーロットと同じ趣味の持ち主で学友だったのだ。
シャーロットと同じ趣味の持ち主がクロウという金の卵とも言える“素材”を見つけてしまった。
「グフフフ・・・これから忙しくなりますね〜」
『さて・・・いつこれの性格がバレますかね。シャーロット様のご子息でしたら大丈夫かと思われますが。そう言えば、クレアさんでしたか・・・アイリスと同じ雰囲気がしていましたが、どうなる事でしょうか。少し楽しみ、いえ、心配になって来ましたね』
屋敷内に響く不気味な笑い声の発生源であるアイリスを横目に、真面目そうに見えて案外碌でもない大人セバスチャンは、今後の不安(楽しみ)を胸にクロウ達の帰りを待つのだった
「すげぇ・・・俺たちが乗って来たやつとは全然違う」
「凄い高そう・・・」
「やっぱり黒がメインだと金が映えるね」
『ご主人!これ凄いね!』
『ちょっと派手かにゃ〜』
『拙者ももう少し落ち着いた感じの方が好きだな』
『夜空っぽくて綺麗…』
『ご主人様が好きなものは私の好きなもの』
「ほっほっほっ、そうじゃろうそうじゃろう。なにせ、儂自ら設計したのだからの。ギルド貸し出しの馬車なんぞには負けんわい!」
それぞれが好き好きに感想を述べるが、ウィリアムはおおらかに笑ってそう言う。先ほどとは全くの別人のように明るく振舞っている。だが、クロウにはその明るさが、台風の前の静けさのように思えたのだった。
「さて、今からお前達がここで滞在する場所に案内するんじゃから、早う馬車に乗ってくれんか?」
馬車の監視をしていたギルド員の青年にチップを渡しながらウィリアムは未だに馬車の見た目について言い合っている子供達にそう言って、自分は御者台へと登り、通常の馬よりも一回り大きい黒色の巨大な馬の手綱を握る。
「「「はーい」」」
「あ、みんなは一回戻っててね〜」
『『『『『はーい』』』』』
カルとククルが乗り込んだのを見てから、クロウは一時的にジン達を[帰還]させ、ウィリアムの座る御者台へ登りその横へと腰を下ろす。
「中に入らなくていいのか?」
「はい!今は爺様とお話ししたいです!」
「そうかそうか!クロウはええ子じゃの………そうじゃな、着くまでにちょっとした思い出話しでも聞かせてやろうかのう」
「はい!爺様!」
今初めて気がついたが・・・ボク、いや俺はおじいちゃんっ子なのかもしれない。
そして、御者台の上で昔話をしだしたウィリアムと、その話を楽しそうに聞いているクロウを暖かい瞳で見つめていた巨馬が「ヒヒン」小さく嘶くとゆっくりと歩き始めた。
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「そら、着いたぞ!」
「「「おお〜!!!」」」
クロウ、カル、ククルは馬車を降りると目に飛び込んできた景色に歓声を上げる。
「ここがお前達の宿舎!その名も・・・【ロペス辺境伯家アルカディア別荘】だ!」
「おおー!デッケェ!!!」
「・・・・・!!!」
ザ・中世ヨーロッパ風のお屋敷という感じの豪邸が建っていた。周りを3メートルほどの柵で囲まれ、大きな両開きの門が取り付けられている。柵の向こうには、綺麗に刈りそろえられた植垣が見ることができ、色とりどりの花がその身を輝かせている。
門の奥には噴水と大きめの空間があり、何台もの馬車を止めることが出来るだろう。それに、幾つもの街灯とベンチが設置され、そこでパーティーすら開くこすら出来そうだ。
ウーガルでは見ることもできなかった大きさの屋敷を目の前に、テンションが上がりまくっているカルは、本日何度目になるか分からない歓声を上げ、ククルに至っては感動で言葉すら出てこなくなっている。
「・・・ん?辺境伯?」
だが、クロウだけはウィリアムの言ったことの中に重大な事実を見つけてしまった。
「なんじゃクロウよ、アイザックから何も聞いとらんのか?」
「いえ・・・父様は、自分はアルカディアにいる貴族達からしてみれば、唯の田舎の領主だ…としか・・・」
「なるほどのぅ・・・(これはいらん事を言ったかの?)」
ウィリアムは自分の息子であるアイザックの意思を察したのか、自分の横で顎に手を当てて何か考え込んでいるクロウを見て自らも何か良い案は無いかと考え始めた。
そして
「よし!クロウよ、お前の思っていることは何となく分かる!」
と、クロウに向かって言う。
突然にそう言われたクロウは「え?」と驚いた顔をしているが、
「お前は、権力が嫌いなのだな?いや、嫌っているのは、権力自体ではなくそれに群がる者共か?」
と続くウィリアムの言葉に目を見開く。
「・・・何で分かったのですか?」
「簡単じゃ・・・なにせ儂も、アイザックも嫌っておるからのぅ。国王の友人である儂も、この国の英雄であるアイザックも、その地位を求めて近寄ってくるものばかりだった。・・・おっと、この話は今夜にでもするとしよう」
困惑したような目をこちらに向けているカルとククル。そして、いつの間にか門の向こうで待機している燕尾服姿の初老に差し掛かったくらいの白髪の男に気付き、話を止める。クロウは少し残念そうな顔をしたが、素直をに頷いて御者台から降りる。
「お帰りなさいませ、ウィリアム様。そして、ようこそお越しくださいましたクロウ様、カレア様、クレア様。私はセバスチャンと申します。立ち話は何なのでどうぞお屋敷の中へ・・・ここからは、アイリスが引き継ぎますので、私はこれで。皆様後ほどお会いしましょう」
門を開いて馬車を招き入れながら、既に降りているクロウ達に向かって白髪の男性、セバスチャンはそう言い、そのまま手綱を引いて馬車を館の横へと移動させに行った。そして、セバスチャンが去ると同時に
「では皆様こちらに・・・お屋敷のご案内を致しますので」
と、いつの間にか噴水の前に立っていたメイド服姿の金髪ロングの女性が恭しくお辞儀をし、屋敷へ歩き始める。
「うむ、儂は行くところがあるのでな・・・アイリスの話が終わったら街を見てくると良い。なにか面白いものでも見つかるかもしれんぞ?・・・おお、そうだ!治安は良いとは思うがこれを渡しておこう。何かあったらこれを見せるといいじゃろう」
クロウ、カル、ククルにセバスチャンの持ってきた竜のエンブレムが彫られた銀で作られた懐中電灯を渡しながらウィリアムはそう言う。クロウだけは受け取るのを少し渋っていたが、ウィリアムが見せなくても良いから持っておけと半ば無理やりに押し付ける。
不満そうな顔をしながらもクロウが受け取った懐中電灯を懐にしまうのを確認すると、ウィリアムはセバスチャンが馬車を外して引っ張ってきた巨馬…スレイプニル種のアリーヤという名前らしい。先ほど話している時にウィリアムから聞いたのだ。
ちなみにスレイプニル種というのは神獣スレイプニルの血統の馬たちの種族であり、伝説上のスレイプニルのように8本脚では無いが一般的な乗用馬や軍馬よりも一回り大きく、体力・馬力・知力全てが優れているとても希少で珍しい生物なのらしい。何とも昔旅をしている時に偶然森で出会って怪我を治療したら懐かれだそうだ。
それはさておき、ウィリアムが出発してからアイリスに屋敷の中を案内してもらった。
「ここは食堂になります。朝食は午前7時、昼食は学食がありますのでお弁当は、特定の行事時のみお作りいたしますね。夕食は午後8時からです。小等部の間は夜間8時以降の外出は基本的に禁止となっておりますが、この館の敷地内であればかまいません。中等部になればそれは無くなりますが・・・これはその時になってからお話いたします」
「ここは浴室です。浴槽にお湯を張るのは夕食後となりますが、シャワーだけならばいつでも使用できますのでご自由にお使いください」
「ここは皆様の寝室となります。お一人ずつ個室がありますのでお先にお荷物を各お部屋へと運ばせてあります」
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「ここは遊戯室で、ウィリアム様がご友人とよくビリヤードなどを楽しまれておりますね」
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「ここは書斎で・・・」
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「ここは・・・」
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「最後にここですが、ここには鍛冶や調合といった生産施設が揃っております。豪華な設備はありませんがそれなりのものなら作ることができます。学園で鍛冶科や調合科を取ったならば役に立つでしょう」
「や、やっと、終わった・・・」
「・・・・・・・・」
大きな屋敷の中を歩き回ること早2時間、日はとっくに傾き始めていた。延々と説明をされ続けたためか、カルは少し前から死んだ魚のような目をし始めているし、ククルに至っては
一方でクロウは、初めて見る調合台に目を輝かせていた。その顔に疲れは全く見えず、隣でその顔を見ているカルとククルは呆れ気味だ。
「さて・・・大体必要な説明は終わりましたし、まだ 3時頃ですので商店街の散策でもしてみてはいかがでしょうか?」
ポケットから取り出した銀時計の蓋をパタンと閉じながらアイリスは三者三様の反応を示すクロウ達にそう言う。
「「行く行く!!!」」
光の灯っていなかった瞳が急激に光を取り戻しだし、カルとククルは思いっ切りそう反応する。
そして、アイリスの「いってらっしゃいませ」と言う見送りの言葉も聞こえないほどの猛スピードで二人そろって出かけて行ってしまった。
「あらあらまぁまぁ・・・うふふふふ」
そんな様子を頬に手をあててにっこりと笑いながらアイリスは見ている。
「さて・・・ボクはのんびりジン達とのんびり行こうかなぁ~」
「では、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
クロウが玄関を出ようとドアに手をかけると、背後より声がかけられる。
「はい・・・行ってきます!」
少し開けられらドアから差し込む光に照らされて、クロウは新たな生活が始まったのを感じながら屋敷を出るのだった。
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「セバスさん!あの子可愛い!!!」
「はいはい、そうですね」
「私欲しい!!!」
「はいはい、駄目ですよ」
「じゃあ、ウィリアムさんに頼んでみる!!!」
「はいはい、頑張らないでくださいね」
クロウが出かけた後、アイリスはハイテンションでセバスチャンに話しかけていた。
何を隠そう、このアイリスは“あの”シャーロットと同じ趣味の持ち主で学友だったのだ。
シャーロットと同じ趣味の持ち主がクロウという金の卵とも言える“素材”を見つけてしまった。
「グフフフ・・・これから忙しくなりますね〜」
『さて・・・いつこれの性格がバレますかね。シャーロット様のご子息でしたら大丈夫かと思われますが。そう言えば、クレアさんでしたか・・・アイリスと同じ雰囲気がしていましたが、どうなる事でしょうか。少し楽しみ、いえ、心配になって来ましたね』
屋敷内に響く不気味な笑い声の発生源であるアイリスを横目に、真面目そうに見えて案外碌でもない大人セバスチャンは、今後の不安(楽しみ)を胸にクロウ達の帰りを待つのだった
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