のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第12話:村の異変?

「えーっと?クロウがあるらの家に来て、親父とお袋に俺らの適正を説明するんだよな?」

「うーん、それでだいたいあってるかなー」
カルの質問にクロウは、再度曖昧な回答をする
「なんで、お父さんとお母さんに言わなきゃいけないの?」

「ククルの疑問は当然だろう。でもね、僕にはちゃんと確かめたい事…いや、確かめなければならないことがあるんだ!」
「わ、分かったわ。クロちゃんがそんなに言うんだもの、絶対に重要なことなんだわ!」
ククルはクロウの真剣な物言いに何かを感じ、それ以上は追求しなかった

「じゃあ、明日にでもカルとククルの家に行っていい?」
「今日じゃダメなの?」
「俺らは今からでもいいぜ?まだ、そんなに時間たってないだろうしな!」

「うーんどうだろう?もうちょっとで夕食の時間だと思…………」
クロウは取り出した懐中時計の蓋を開けると、突然その場に固まった。そして、その原因…懐中時計を2人に見せた

「さて、今は何時でしょう?」
クロウが引きつった笑みを浮かべながら見せる時計の針

「うそ…もう、7時過ぎじゃない………」
「なにぃ!?………………は、ははは…今夜は飯抜きだぜ………」
それはもうすでに7時を回っていた…
ちょっとした絶望を滲ませながら、蚊の鳴くような声でつぶやくカルとククル

その横で
「さて、どうする?」
と、言いながら、クロウはカップに入った紅茶を飲んでいる

「なんでそんなに落ち着いてんだよ!」
「いやぁ、今更急いだって結構怒られるんだから………さ?」
カルのツッコミを鮮やかにスルーし、完全に開き直っているクロウ

「「開き直ってるぅ!?!?!?」」


異空間にカルとククルのツッコミが虚しく木霊する


しかし、それを向けられた本人は遠い目をしながら紅茶を飲んでいるのだった

その目の端にスッと光ったものを気付いた者はいなかった


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「フゥ〜…日も暮れちゃったし、今日は送ってあげるよ」
紅茶を飲み終え、満足したのかクロウは、椅子から立ち上がってそう言った

「送る?………誰を?どうやって?」
遠い目をし瞳を潤ませながら紅茶を飲んでいるククルは、クロウの言葉をすぐには理解できなかった

「うーん、そうだねぇ。ククルの家ってこの町のどこらへんにある?」
「うーんとねぇ〜、確か教会の横だった気がする」
クロウの質問に、ククルはぼーっとしながら言葉を返す

「オッケー、じゃあここらへんかな?」
と、言って自らの前にゲートを開く

「「なにやってるの?」」

「出てみたらわかると思うよ?」
頭上に疑問符を浮かべる2人を急かすようにゲートをくぐらせる

「え、ちょっ!危ない!危ない!外、河原やろ………?」

クロウに押されて外に出たカルとククル

「「まじで………」」


河原につながっていたはずのゲートを越えた先は………

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ゲートを通過すると、そこは河原にはつながっておらず、村の中心にある小さな教会の裏だった


「まじかよ…俺ら、さっきまで河原にいたよな?しかも村の外れのとこらへんの………」
「……………ハァ〜…………………」
ポルポル状態になりそうなカルと
溜息をつきながら額を抑えるククル

クロウは、それを満面の笑みで見ている


「クロちゃんといると、常識って何か忘れそうだわ………」
ククルが言うように、通常では規模の大きな魔法陣を使い行うはずの魔法[空間転移テレポート]と思われる魔法をたった1人で、しかも息をするように行ったクロウ

「いやぁ、今更でしょう?」
大規模な魔法を使ったと思われる当の本人は、息一つ乱していない

「そうだよな、今更だよな。なんたってクロウなんだから………は、ははは………………」
「おーい、戻ってこーい」
再び遠いところを見つめ出したカルを引きずり戻し、クロウは自分の仕事は終わったと言うかのように「じゃ!」と言ってブーストとサイレントを使用しながら走り去っていった

「「はぁーーーーーーーー」」

それを見た2人は、再び盛大に溜息をつき家へと向かうのだった





"絶対に怒られる"と、肩を落としながら2人は教会の裏から出ようとした

しかし、2人は突然足を止める

「カル…広場に誰かいる………?」
「あぁ、いつもならこんな時間には誰もいないはずなのに」

2人のいる教会は村の広場《広場と言ってもそれほど大きくないが…》に面している。昼間であれば、人の行き来があって当然なのだが…
今の時刻は午後7時過ぎ、とっくに日は沈み村人たちは仕事を終え"家の中"で食事などをしている時間なのである。


そのはずなのに、現在では
広場には、日が焚かれその周りで大柄な人(たぶん大人たちだろう)が集まってなにやら話し合っている

「ククル、なんて言ってるかわかる?」
「…………うーん、ダメなの。全然わかんない」

集まっている人数が多いためか、2人で耳をすませても「ガヤガヤ」としか聞こえない

「今日って祭りとかあったっけ?」
「うーん、ないと思うけどなぁ〜………近く行ってみる?」
教会の裏からこっそりと広場を見回す。
じっと見つめていると、人垣の中で薪が音を立てて弾けた。
その時、弾けたことによって揺らいだ炎で何人かの顔が照らされる。
「ん!教会のメリーねぇだ!」
「しっ!声が大きい!」
揺らぐ炎に映し出された顔には、2人のよく知る者があった

「…カル……なんか…みんな変じゃない?」
「ククルもそう思う?何ていうか、すっげぇ焦ってるって感じがする」
カルの言う通り、炎に映し出された者たちの顔は、穏やかで争いなどが起こるはずもないこの村にとっては、とても異常なくらい強張っていた。




「…………っ!?だれっ!」
カルの声に反応するように、目にも留まらぬ速度で立ち上がり教会の方を向くメリー。本名:メアリー
すらっとした身体に、整った顔立ち。通常の男性ならば目を奪われてしまうだろう。
しかし、今の彼女を見る者は一瞬にしてその眼を逸らすだろう。何故なら彼女の眼には、温厚な村の人間とは思えないような焦りと警戒の意思が宿り、手には黄色の杖玉の付いた杖を自らの手が白くなるほど握りしめているのだから。

「メリー…探れるか?」
メリーの声に合わせて立ち上がった青年。本名:エヴァン
筋骨隆々な身体に、武士と呼ぶにふさわしい顔立ち。メリーほど焦りや警戒をしていないように見える。だが、腰に下げたロングソードをいつでも抜き放てるように常に手をかけている。
足取りや周囲への目の動きを見るにただの村人ではないことは、一目瞭然だろう。

「エド…わかったわ、"我が魔力よ、探れ"[サーチ]!」
メリーの詠唱によって展開された魔法陣は、一度小さくなった後…魔力マナの波動として周囲に波紋のように広がった。

メリーの使用した魔法[サーチ]は、その名のとうり周囲にソナーのように魔力をない放ち、その反射で建造物の構造や”生命"の探知をすることができる魔法である。

メリーの放った魔力は周囲約20メルに波紋のように広がった。
帰ってくる魔力の波は、ほとんどが無機質な壁に当たって跳ね返り冷たい感覚だったが、その中に熱を持った人と思われる反応があった。
「………!。エド、教会の裏…数は2人。反応が大きい…ハズレ引いちゃったかな」
人と思われる反応は、かなり強かった。
B+ランク冒険者上がりの自分達が、2人がかりでも退かせることができるかどうか。それほどの魔力を有していた。

「本当かよ…」
エヴァンは、メリーの反応で相手の強さがだいたい予想できる。それは長年ともに冒険者として過ごしてきたからだ。
だが、10年以上ともに過ごしても、メリーが相手のことを「ハズレを引いた」と言ったのは、10回も無い。
そもそも、Bランク越えのメリーが「相手が悪い」と言ったら、相手はAランク以上の化け物ということになる。

「どうしよ…本気でヤバいかもよ」
「俺らが引いたら、一体誰がこいつらを守るんだ?」
2人向き合った後、フッと笑う。
「行くぞ!」
「うん!!!」

そして、教会の裏に潜むもの達に向かって走り出した。




「ん!」
「どしたの?カル」
広場に集まっている人たちを見ていると、カルが何かにを感じたのか、声を上げた。

「メリーねぇの方から…なんか……」
そこまで言って、「うーん」と首を捻らせ黙り込む。
ちょっと考えた後に、カルは「魔法っぽいのが飛んできた」と言った。

「本当に!?大丈夫なの?」
 魔法が飛んできたというカルに、驚き声を上げるククル。もちろんだが、小声で言っている。

「うーん、大丈夫っぽい」
カルが言うには、魔法と言うよりも魔力の波のようなものだったようだ。

「そっか………っ!」「ん!」
カルを心配してか、身体中をくまなくチェックする。
しかし、急に顔を跳ね上げ、同じように何かを感じ取ったカルと目を見合わせた。

「カ、カル…いまメリーさんのほうから……」
「あ、あぁ。なんか度でもなく嫌な予感がした…」
そう言って2人で教会の角から顔をちょっとだけ出して見る。


そこから見えたものは

村でいつも見かけるメリーとエヴァンの優しい笑顔と爽やかな笑顔………ではなく、少し嬉しそうに杖を握りしめるメリーと剣の柄に手をかけ、口角をつり上げるエヴァンが猛スピードでこちらに走ってくる姿だった。 



「「!!?!??!」」
それを見たカルとククルは、驚き飛び上がり教会の裏に人生で最速だと思われる速度で走り出した。

空中にキラキラと輝く雫を残しながら………



後にブーストを使用したメリーとエヴァンに捕まり、「2人が盗賊にでも攫われたのかと村のみんな心配してたのよ!?」と背後に般若のようなものを浮かべているメリーに1時ほど説教された後、家に帰ると顔を真っ青にした父親のチャールズとのほほんとしたアリシアにまたもや説教されたのだが…

まぁそれは、置いておくとしよう
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一方、カルとククルと別れた後…

クロウは、川辺を音も無く駆けていた。
 
「ヤバいヤバいヤバい!!!」
悲鳴と残像を残しながら川辺を駆けるクロウ。
そこには、カルとククルと一緒にいた時のような落ち着きはなかった。


それも仕方ないだろう………
前世の記憶を持つクロウは、交通事故により死んでしまったため、この世界では自分の家族に迷惑をかけたくないと思っていた。
だから、前世の知識を使ってシャーロットやエリー達の手伝いやアイザックとの鍛錬、その他諸々で周りに気を使って生活してきた。
そのため、今までの約6年間1度たりともシャーロットやアイザックを怒らせたことがなかった。

クロウの最高速度で駆けていたため、1カル弱程村の中心から離れている自宅に2分もかからずに辿り着いた。
『せめて、学園行くまで迷惑はかけたくなかったんだけどな………』
顔に悲壮感をにじませながら、そっと溜息をつく。

そして、家の門へ手をかけ開こうと………



したまま、顔を玄関の方に向けて固まった。

それも仕方ないだろう………
なぜなら、腰に剣を提げ仏面顔で腕を組んだまま玄関の前に立っているアイザックに、その横でどこから持ってきたのか真紅の杖玉の付いた杖を握りしめオロオロしているシャーロット、そして、2人の後ろで何故か短剣を両手に持っているエリー、片手長剣をもつケリー、大剣を背中に背負っているリリーが待機していたのだから。



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