のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第05話:友人

 首を傾げる少女と不審そうにする少年。極めて対照的な様子をしているのに、その容姿は非情に似通っている。

「君らも、でしょ?ボクはクロウ。二人は?」
「俺はカレア。カレア・クルスだ。みんなからはカルって呼ばれてる」
「私はクレア・クルス。ククルって呼んで」

 二人の名前を聞いた時、クロウは父親であるアイザックから聞いた話の中に出てきた幼馴染の苗字と同じことに気付いた。と言ってもそれを二人に告げたりはしないのだが。

「クロウちゃんはどこに住んでるの?この村に住んでるって言ってたけど、私たち見たことないし・・・」
「そうだなぁ・・・この川を上っていったとこにある家なんだけど、今度来てみる?父様も母様も喜ぶと思うよ」
 煙出てるでしょ?と川上の方を指さしてクロウはそう言うが、カルとククルは顔を見合わせて「あそこってこの村に入ってたんだ・・・」と微妙なところに驚いていた。






 それから二人と色々なことを話し、夕暮れ時になった。夏が近づきつつあるこの季節の夕暮れは、クロウの自由時間の終わりを告げる鐘の音に等しい。
 仕方なく二人に別れを告げて川上に向かって歩き出そうとするクロウに、二人は「またここに来いよ(来てね)!」と声をかけてきた。

 少々照れくさく感じるが、クロウは笑顔で振り返り二人へ手を振って「またね!」というと、そのまま照れ隠しなのか走り去ってしまった。

 家に帰ったクロウとカル、ククルの三人は、それぞれの親に今日あったことを告げる。
 シャーロットは勿論のこと、カルとククルの両親も子供たちの話しの中に出てくるのがいったい誰なのかすぐにわかっただろう。といってもクロウ同様に自分で気付くまで教える気はないようだが。




 しかし、翌日からアイザックの訓練再開とクロウの探検・収集癖が再開し、結局のところ二人と再び会うのは一週間ほど後のことだった。
 一週間した経っていないのに、不思議と二人の顔が懐かしく感じる。それは、この二人がこの世界でできた初めての友達だからなのか。ふと、そんなことを考えていたクロウだったが、気恥ずかしくなりポリポリと頬を掻く。

 今日のカルとククルは水切りではなく釣りをして暇をつぶしていたようで、魚の泳いでいるバケツと泳いでいないバケツが二人の横に置いてある。どちらがどちらのバケツなのかは分からないが、たった今カルが釣り上げたものはお世辞にも魚とは言えないものだった。水生生物という括りならば間違ってはいないが。


 カルは釣り上げたソレをバケツに放り込む。ガツンと硬質な音が辺りに響き、ククルが思わずといった風に吹き出すが、バケツを覗き込んで軽く悲鳴を上げる。

 クロウも挨拶ついでにカルのバケツを覗いてみたのだが、バケツの中にはうじゃうじゃとザリガニやサワガニが折り重なりながら蠢いていたのだ。

「うわぁ・・・何匹いるのこれ」
「お!クロウじゃん!一週間ぶりだな。なにしてたんだ?」
「はぁ~びっくりした。それにしても、ほんとに久しぶりだね。また会えるのずっと待ってたんだよ?」
 ニッっと将来有望そうな顔でキラキラとした笑みを浮かべるカルと、クロウに負ぶさるように身体を預けて頬を膨らませるククル。


 ハリセンボンのように膨らんでいる頬を突きながら、クロウは「勉強と訓練?と趣味かな~」と首を傾げて言う。訓練の部分が疑問形になっているのは、『今やっていることが訓練と言っていいレベルではないだろう』という疑問があったからだ。

 しかし、カルとククルにはクロウの思っていた以上に反響があったようで、カルは「訓練!どんなの!?」と、ククルは「勉強!魔法の?!」と息ピッタリに声を上げた。
 ククルの声で耳がキーンとなっている中、クロウは何とか頷く。

「なになにどうしたの?いきなりでっかい声出さないでよ。びっくりしたじゃん」
「クロウお前訓練なんてしてたのか!?そんなほそっこいのに!」
「べ、勉強って魔法の!?誰に教えてもらってるの?お母さん?」

 取り敢えずコンプレックスを刺激したカルには出来るだけ重たいボディーブローを放っておいて、そこら辺を転げまわっている間にククルの質問に答えておく。








「は・・・はぁ・・・うっ、うぅぅぅ・・・」
「それでそれで!?クロウちゃんはどんなのが使えるの?」
「そうだなぁ~・・・よく使ってるのは、[サイレント][フィジカルブースト][サーチ]とかの便利なやつと、[収納空間ストレージ][ゲート]くらいかな?あんまり使わないけど[ヒール]とか[ヒーリングビート]とかも使えるよ」
「あ、何個か本で見たことのある魔法がある!でも[収納空間ストレージ]と[ゲート]と[ヒーリングビート]は見たことない。どんな魔法なの?」
「あっ・・・・・」
「クロウちゃん・・・?」

 しまったと顔に書いてあるまま固まったクロウ。
 急に喋らなくなったクロウをククルはようやく痛みから立ち直ったカルと一緒に首を傾げて眺めていた。








 クロウが緊急停止してから数分後、再起動したクロウはギギギと音が聞こえてきそうなほどゆっくりな動作で二人の方を向く。
 そこには、ククルから話を聞いたのか興味津々な顔をこちらに向けているカルと、「話すまで帰さない」と顔に書いてあるククルの姿があった。


 二人から発せられる謎のプレッシャーにクロウは大きく溜息を吐くと「絶対誰にも話さないでね」と言ってから二人の質問攻めに仕方なく答えていくのだった。

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