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いじめられっ子の商人息子が、チート能力に目覚めてTAS攻略

魔法少女どま子

守る力

「ふふ、ははっ。はははははっ!」 

 哄笑するリステルガー。一瞬だけ極小の瞳でアレンを見据えると、両手を大仰に掲げ、顔を天に突き出した。 

 ゴゴゴゴゴゴ……という轟音が響く。太陽光が急に何物かに遮断され、屋上が不穏な暗闇に包まれる。首をかしげてアレンは視線を上向け――思わず息を呑んだ。 
 
 リステルガーが呼び出したかのように、分厚い黒雲が空を支配していた。近くで雷が落ちたのか、一瞬眩い雷光がほとばしり、それに続いて低い音響が盛大に鳴り渡る。 

 不穏な雰囲気に、凍るような汗を流しながらアレンが数歩後退した瞬間―― 

 突如、紅蓮のレーザービームとでもいうべき光線が、アレンの顔のすぐ横を貫いていった。背後で耳をつんざく爆発音を聞き、アレンは背後を振り向く。 

「な……」 

 城下町の近くにあった山が、跡形もなく消えうせていた。山の周囲には白煙が立ち込め、その煙の隙間からは焦土が見えるのみだ。 

 またしても数歩後退しながら、アレンは、この人智を超えた攻撃をした元凶に目を戻す。 

 魔王リステルガーは、殺人的な烈火のオーラに包み込まれていた。右手をこちらに突き出しているのは、さっきのレーザービームの予備動作か。 

「ふむ……やはり久々だとうまく使いこなせんか。――まあいい、貴様を殺すには充分だ」 

 改めてアレンは戦慄する。いまので使いこなせなかったというならば、本来はどれほど化け物じみた攻撃だったのだ? 
 ごくりと唾を飲む。かつてない強敵に本能が逃げたいと訴えている。 

 だが。 

 もう嫌なんだ、クズ勇者扱いされるのは。 
 本当は強くなりたかった。みんなを守りたかった。 
 弱くてなにもできない僕だけれど。 
 クズ勇者と呼ばれているけれど。 
 みんなを、守りたい――

 熱烈な葛藤がアレンの胸に渦巻く。 
 直後、アレンの周囲に無数の光の粒が集まってきた。ひとつひとつは極めて小さいが、それらが集まって眩いばかりの輝きを放っている。アレンが目を見開く間に、それらの粒子は剣にぴたりとくっついた。途端、剣全体が金のきらめきを帯びる。同時に、アレンの身体にも底知れない力が沸き起こってくる。 

 呆然としながらも、アレンはやっと、この現象の意味を悟った。 

 ずっと不思議に思っていたことがある。なんの取り柄のない自分が、なぜ占い師に『勇者メンバー』として抜擢されたのか。 

 ――つまり、これが僕の才能だったんだ。 

 ミレーユ姫を守りたいと思ったとき、子どもたちを守りたいと思ったとき、アレンはこれまでにないすさまじい力を手に入れた。いまもそうだ。アスガルドの国民を助けたいと決めた直後、これだけの力を授かった。 

 無能で、なにもできない自分に与えられた、たったひとつの能力。 

 それが、この他人を守る力だ。 

 アレンは大きく息を吸い込むと、光の剣を魔王リステルガーに向けた。 

「もう、僕は逃げない――これで最後だ、魔王リステルガー」 

 リステルガーはにたっと笑い、アスガルド城全体に響くような力強い声で言い放つ。 
「かかってくるがよい最弱勇者よ! わしが粉々に砕いてやろう!」

    ★

 まさに激闘だった。 

 アレンの振り下ろす両手剣と、リステルガーのレーザービーム。何度もそれらが激突する。 

 そのたびに衝撃波が周囲を伝い、屋上の床にヒビが入る。散っていた瓦礫を飛散させる。 

 大陸中が震えんばかりの大死闘だったが、アレンは諦めなかった。逃げようとも思わない。剣を振り続け、大蛇のかみつけを避け、熱線を切り裂く。そしてリステルガーに全力の一撃を浴びせる。 

 両者とも決して引けを取らなかった。 
 アレンは何度も攻撃を喰らい、すでに全身傷だらけである。だが、それでも攻撃し続けた。国民を守るために。ミレーユとの約束を果たすために。 

「うおおおおおおおおっ!」 
 アレンはあらん限りの力を込め、リステルガーに斬りかかった。ガシンという反動を感じる。見ると、リステルガーが両手を突き出し、アレンの剣を阻んでいた。 

 そのリステルガーもまた、アレンの斬撃を何度も喰らった身である。恨めしそうな声で叫んだ。 

「おのれ勇者アレン! まだわしに刃向かうなどと、無礼を知れ!」 
「そんなボロボロの身で言っても説得力ないぜ!」 
「はっ、言わせておけば……!」 
  
 ずん、と。 
 見えない波動がアレンを襲った。力いっぱい踏ん張り、吹き飛ばされることだけは防ぐ。しかし、全身を舐め上げる激痛には悲鳴をあげざるをえない。 

「ぐおおっ……!」 
 それでも諦めることだけは絶対にしない。うめきつつも、吹き飛ばそうとしてくる大魔王リステルガーの両手に、剣で抗う。かつてない力の押し合いに、アレンの両手が震える。限界が訪れはじめる。 

「わしは魔王リステルガーじゃ! 大陸を支配する大魔王じゃ! 人間ごときが抗うなどと、身の程を知れ!」 
「それでも……もう、僕は逃げない!」 

 ジリジリと、アレンは剣を押し出していく。酷使される筋肉が全力で抗議してくるも、気合いで耐える。 

 頑張れという、聞き覚えのある声がした。目線だけをちらりと寄越すと、いつのまにこちらに来たのか両親が真っ赤な顔でアレンに大声援を送ってきていた。 

 アレンは激しく息切れしながらも、なんとか声を発した。 
「臆病でも……クズでも……。そんな状況に甘えることは、もう、絶対にしない。守るんだ……みんなを、ミレーユ姫を……」
 
 さらに全身に力を入れ、リステルガーの右手を弾き返そうとする。だが大魔王リステルガーはヤワではない。どんなに力を込めても、アレンを潰さんがためにさらなる圧力がかけられる。アレンは悲鳴をあげてそれに抵抗する。 

 暴風が吹き荒れ、瓦礫や木の葉が辺りに飛び交う。目がくらむほどの落雷が、すさまじい轟音を響かせる。 

 気づけば、アレンは多くのアスガルド国民に応援されていた。これまでアレンを小馬鹿にしてきた知人も、能無し扱いしてきた教師も、勇者のために一丸となって熱い声をかけつづけていた。頑張れ、頑張れ、と。その励ましを聞いた途端、アレンの身体にさらに目覚めるものがあった。 

 そして―― 
「うおおおおおおおおおおっ!」 
 最後の力を振り絞る。 

 アレンの剣が、ついにリステルガーの両手を弾き返す。その勢いのまま、アレンは天高く跳躍した。すべての腕力をもってして、空中から大魔王リステルガーを斬りつける。 

 甲高い、化け物じみた悲鳴。緑の液体が大魔王の全身から噴出する。リステルガーは狂乱のごとく暴れまわるが、その行為はさらに血液を噴出させるだけだった。 

「おのれぇ……おのれぇ……勇者、アレン!」 

 リステルガーは血走った目で喚くも、もはや戦う余力は残っていないらしく、悲壮に叫びつづけるだけだった。アレンももはや戦う気力は残っておらず、体勢を立て直せないまま地面に激突する。 

「魔王は、魔王は永遠に滅びぬぞ! どれだけ貴様らが繁栄しようとも、必ず魔の者が現れる。此度は貴様に勝利を譲るが、次は……次こそはッ……!」 

 瞬間、リステルガーは一際甲高い叫声をあげた。それとともにリステルガーの身体は無数の粒子となって拡散し、その姿を消した。 

 それを見届けたとき、アレンの意識は途切れた。

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