いじめられっ子の商人息子が、チート能力に目覚めてTAS攻略
託されていたチート武器
――聞いたか? こいつ、魔王さまに十秒でやられたんだってよ―― 
――いや、やられたんじゃなくて自爆らしいぞ。勝手に落ちたり木にぶつかったり―― 
――はは、ホントか? なーにが『勇者』だよ―― 
はっと目を覚ます。 
まず視界に飛び込んできたのは、無機質な黒の天井だった。すこし視線を動かすと、柵のようなものが視界に映る。その柵の向かい側で、二人の黒ローブがこちらに厳しい視線を向けている。そう、まるで牢屋のような―― 
牢屋? 
アレンはがばっと上半身を起こした。 
さっと自分の身体を確認すると、さっきまで身に付けていた青のレザーコートやブーツなどが、すべてなくなっていた。当然というべきか、剣もない。いまアレンが着ているものは、ボロボロな薄い肌着のみだった。 
――そっか、僕は魔王リステルガーにやられて、それで牢屋に―― 
思考がそこまで至ったとき、ぶんぶん首を振る。 
いや、違う。やられてすらいない。リステルガーに浴びせようとした攻撃はすべて空振りし、拳は相手にあたることすらなかった。自分が勝手に自爆しただけだ。 
さきほどの情けない闘いが脳裏をよぎる。それを無理やり追い出してから、アレンは思索に耽った。 
なぜ装備をまるごと剥ぎ取られたのか。リステルガーの目的はなにか。それはわからないが、すくなくともここにいると危険なのは確かだ。はやく脱出しないと取り返しのつかないことになるかもしれない。 
そう思って牢屋内を観察するが、窓どころかわずかな穴さえ見つからなかった。見張りに「おい、なにをしている」と呼び止められ、アレンは「な、なななんでもないです」と作り笑いを浮かべながらおとなしく座る。そうしているうちに、アレンは自分が情けなくなった。 
なんて惨めなんだ。『勇者』のくせに魔王に囚われるなんて…… 
拳を握り締めながら、アレンは自虐的にそう思った。
そう、超絶的な力を持つリュザーク、つまり『漆黒の絶影』に対して、アレンはこう呼ばれている。 
クズ勇者、と。 
『勇者』とは到底思えない貧弱さ。『花の観賞』という女々しい趣味。リュザークのサポートすらできない無能。 
ずっとそんなふうに嘲笑されてきた。これまでの冒険でもリュザークたちに迷惑ばかりかけ、挙句の果てにこうしてリステルガーに囚われてしまった。 
握り締める拳にさらに力が込められる。 
これでも昔は兵士になるのが夢だった。国民をモンスターから守り、賞賛を浴びせられる存在になりたかった。それでも両親に『おまえには才能がない。商人として生きていけ』といわれるうち、そんな夢もいつしか忘れ去ってしまっていた。だから勇者メンバーに抜擢されたときは、もちろん困惑したが、わずかな嬉しさもあった。 
アレンはぎゅっと目をつぶり、右の手首をさする。そこには、質素な布でつくられたボロボロのブレスレットがある。 
ただし、それはただのボロいアクセサリーではない。三つ目のクリスタルが眠る、『面妖の魔窟』のなかに厳重に保管されていた禁断の武器――『聖法器ギャリス』である。見た目はたしかにボロっちいが、リュザークはこれに込められた魔力を敏感に感じ取っていた。 
――こいつにはとんでもない力がある。アレン、もしおまえが我々の助けが及ばない窮地に陥ったとき、これをうまく使ってくれ―― 
そう言って、メンバーで一番非力なアレンにブレスレットを渡してくれた。彼がそこまで言うからには、きっと絶大な力が秘められているのだろう。 
アレンは無表情でブレスレットをさする。剣などが盗まれているのにこれだけが残されているのが不思議だが、見た目の貧弱さゆえに、奪い取る必要なしと思われたのかもしれない。それか―― 
聖法器をもってしても、アレンなど恐れるに足らないと判断されたのか。 
いずれにしても、舐められていることに変わりはあるまい。 
「一撃も当てられないなんぞ、勇者とは名ばかりだな」 
「他のメンバーもそんな感じだろうよ」 
わざとらしく大きな声で話す見張りの黒ローブたちに、アレンは歯噛みした。 
――見てろよ、僕だって…… 
アレンはブレスレットを身につけている右手を突き出した。たしかこうやって、念力というか、思念というか、とにかく爆発しろ! と心のなかで命じればいいとリュザークに教わったが……
 
なにも起こらない。 
あれ? と思って腕を引っ込めようとしたそのとき、すさまじい爆発音とともに、形容しがたい衝撃がアレンを襲った。後方に吹っ飛ばされ、牢屋の壁に激突する。そのままずるずると床に座り込み、目を開けると、 
「うわああっ!」 
思わず情けない声をあげた。 
目の前にあった柵の大部分が、黒こげになって灰と化していた。その先にいた黒ローブも同様、身体を真っ黒にして倒れている。ぴくりとも動かない。 
と、 
急に鳴り響いたゴーンゴーンという警鐘に、アレンは身を竦ませた。非常事態を示す赤の照明が、ブワ―ンブワーンと点いては消える。ガチャガチャというモンスターの足音が、いっせいにこちらに向かってくる。 
アレンはぽかんと口を開けてブレスレットを見つめた。 
なんて威力だ…… 
しかし呑気に感動している場合でもない。ぶんぶん首を振ると、やかましく警報音の鳴る魔王城を、アレンは駆け出した。
――いや、やられたんじゃなくて自爆らしいぞ。勝手に落ちたり木にぶつかったり―― 
――はは、ホントか? なーにが『勇者』だよ―― 
はっと目を覚ます。 
まず視界に飛び込んできたのは、無機質な黒の天井だった。すこし視線を動かすと、柵のようなものが視界に映る。その柵の向かい側で、二人の黒ローブがこちらに厳しい視線を向けている。そう、まるで牢屋のような―― 
牢屋? 
アレンはがばっと上半身を起こした。 
さっと自分の身体を確認すると、さっきまで身に付けていた青のレザーコートやブーツなどが、すべてなくなっていた。当然というべきか、剣もない。いまアレンが着ているものは、ボロボロな薄い肌着のみだった。 
――そっか、僕は魔王リステルガーにやられて、それで牢屋に―― 
思考がそこまで至ったとき、ぶんぶん首を振る。 
いや、違う。やられてすらいない。リステルガーに浴びせようとした攻撃はすべて空振りし、拳は相手にあたることすらなかった。自分が勝手に自爆しただけだ。 
さきほどの情けない闘いが脳裏をよぎる。それを無理やり追い出してから、アレンは思索に耽った。 
なぜ装備をまるごと剥ぎ取られたのか。リステルガーの目的はなにか。それはわからないが、すくなくともここにいると危険なのは確かだ。はやく脱出しないと取り返しのつかないことになるかもしれない。 
そう思って牢屋内を観察するが、窓どころかわずかな穴さえ見つからなかった。見張りに「おい、なにをしている」と呼び止められ、アレンは「な、なななんでもないです」と作り笑いを浮かべながらおとなしく座る。そうしているうちに、アレンは自分が情けなくなった。 
なんて惨めなんだ。『勇者』のくせに魔王に囚われるなんて…… 
拳を握り締めながら、アレンは自虐的にそう思った。
そう、超絶的な力を持つリュザーク、つまり『漆黒の絶影』に対して、アレンはこう呼ばれている。 
クズ勇者、と。 
『勇者』とは到底思えない貧弱さ。『花の観賞』という女々しい趣味。リュザークのサポートすらできない無能。 
ずっとそんなふうに嘲笑されてきた。これまでの冒険でもリュザークたちに迷惑ばかりかけ、挙句の果てにこうしてリステルガーに囚われてしまった。 
握り締める拳にさらに力が込められる。 
これでも昔は兵士になるのが夢だった。国民をモンスターから守り、賞賛を浴びせられる存在になりたかった。それでも両親に『おまえには才能がない。商人として生きていけ』といわれるうち、そんな夢もいつしか忘れ去ってしまっていた。だから勇者メンバーに抜擢されたときは、もちろん困惑したが、わずかな嬉しさもあった。 
アレンはぎゅっと目をつぶり、右の手首をさする。そこには、質素な布でつくられたボロボロのブレスレットがある。 
ただし、それはただのボロいアクセサリーではない。三つ目のクリスタルが眠る、『面妖の魔窟』のなかに厳重に保管されていた禁断の武器――『聖法器ギャリス』である。見た目はたしかにボロっちいが、リュザークはこれに込められた魔力を敏感に感じ取っていた。 
――こいつにはとんでもない力がある。アレン、もしおまえが我々の助けが及ばない窮地に陥ったとき、これをうまく使ってくれ―― 
そう言って、メンバーで一番非力なアレンにブレスレットを渡してくれた。彼がそこまで言うからには、きっと絶大な力が秘められているのだろう。 
アレンは無表情でブレスレットをさする。剣などが盗まれているのにこれだけが残されているのが不思議だが、見た目の貧弱さゆえに、奪い取る必要なしと思われたのかもしれない。それか―― 
聖法器をもってしても、アレンなど恐れるに足らないと判断されたのか。 
いずれにしても、舐められていることに変わりはあるまい。 
「一撃も当てられないなんぞ、勇者とは名ばかりだな」 
「他のメンバーもそんな感じだろうよ」 
わざとらしく大きな声で話す見張りの黒ローブたちに、アレンは歯噛みした。 
――見てろよ、僕だって…… 
アレンはブレスレットを身につけている右手を突き出した。たしかこうやって、念力というか、思念というか、とにかく爆発しろ! と心のなかで命じればいいとリュザークに教わったが……
 
なにも起こらない。 
あれ? と思って腕を引っ込めようとしたそのとき、すさまじい爆発音とともに、形容しがたい衝撃がアレンを襲った。後方に吹っ飛ばされ、牢屋の壁に激突する。そのままずるずると床に座り込み、目を開けると、 
「うわああっ!」 
思わず情けない声をあげた。 
目の前にあった柵の大部分が、黒こげになって灰と化していた。その先にいた黒ローブも同様、身体を真っ黒にして倒れている。ぴくりとも動かない。 
と、 
急に鳴り響いたゴーンゴーンという警鐘に、アレンは身を竦ませた。非常事態を示す赤の照明が、ブワ―ンブワーンと点いては消える。ガチャガチャというモンスターの足音が、いっせいにこちらに向かってくる。 
アレンはぽかんと口を開けてブレスレットを見つめた。 
なんて威力だ…… 
しかし呑気に感動している場合でもない。ぶんぶん首を振ると、やかましく警報音の鳴る魔王城を、アレンは駆け出した。
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