懐かしい夏の魔法

ノベルバユーザー173744

懐かしい夏の魔法

夏は魔法が満ちている。
昔のほうがもっと優しく、心がほんわかとする魔法が多かった。



毎日は今と同じで暑かったが、ホースやひしゃくなどで打ち水をして温度を下げる。
他にはすだれをかけて直接の日差しを遮り、風鈴を軒先に飾りその音で涼を感じる。

田舎では、朝のうちにスイカを近くの小川に冷やしに行くと、宿題をそっちのけに従兄弟たちと水着に着替え、ビーチサンダルとバスタオルと網をもって、坂を誰が一番に下れるか競争中、

「あ、オオクワガタ。ノコギリにミヤマ、コクガワタ、カブトも見っけ‼」

と道沿いのくぬぎの木を見上げた。

「姉ちゃん‼かごあるけど、網がない」
「よっしゃぁぁ‼」

と、横の石を積んであるところに上ると、

「皆ぁ‼ミヤマはうちの‼他はとったもん勝ち‼蹴るで~‼そりゃぁぁ‼」

ドン、ドン‼

蹴ると、ボトボトと落ちてくる。

「わぁぁ‼ノコギリ‼」
「オオクワガタ‼」
「はよ捕まえ。次行くで‼」

ドンドン‼

再び落ちてくるカブトムシにクワガタムシに声が上がる。

「こっちでっかい‼オオクワガタやぁぁ‼」
「ほら、かごにいれて、川にいこで‼」

ぴょーんと飛び降りると、普通に車の通る脇道を駈け降り、県道を渡ると、細い坂を下り、ごろごろとした石のある大きな川に飛び込む。
大河と言うことはない。
幅も10メートル程度、しかし、一角が25メートルプールのように泳げるようになっていて、深いところでは1メートル程の深さがあった。
年上の従兄弟や、父たちもいるため、町育ち……と言っても地方都市である……の私たちでも、大丈夫である。
そして、持ってきていた網と言うのは、本当に簡単な網で、目の細かい網の四隅に、1センチ程の幅で斬った竹を十字に針金を止めて、それを四隅に引っ掻けたようなものである。
他に外れないようにと止めてはあるのだが、竹のしなりも利用された簡単だがとても子供に扱いやすい網で、父や従兄弟に教わりながら、一人が下流に網を持って静かにたっていて、上流から、逃げないように追いつつ、透明な水に手を伸ばし、石をひっくり返して追い込んでいく。

しばらくして全員が集まったら、引き揚げ、

「あ、サワガニ‼」
かじかや」
「アユは?アユ」
「こんな時期にここにおるかや……」

と、今度は、透明なプラスチックの水槽に入れて観察すると、

「もう、体が冷えたやろが。帰るけんな。スイカが待っとるで」

年長者の声に、

「はーい‼」
「スイカや‼」
「なぁ、これ、どがいにする?」
「風呂の沸かす炭んとこで、焼いたらえぇわ」

焼いたサワガニや鰍はそのまま食べたり、素麺や冷麦の出汁にもつかわれた。
懐かしい思い出である。



最近はプールで事件が起こったが、そのプールを見てうんざりと言うより、失礼ながら、

「芋洗ってる……水のほうが少なそう。人に飲み込まれて、怪我しないのかな」

と思ってしまう。
スイミングスクールで泳いでいたので、余り流れるプールとかは泳いだことはない。
それに、暑いとはいえ、人と人とが水着越しに密着するのは、私には耐えられないなぁ。

と思った。

ちなみに、寒いほどエアコンの効いた室内に30人余り集まった勉強会で、人の多さに気絶していたのはつい土曜日である。



昔はもう戻らない。
でも、水打ちやすだれ、風鈴、昔使ったのは蚊が入ってこないように使っていた蚊帳かやが懐かしいのは年のせいだろうか。

夏の魔法は、もう消えていくだけなのだろうか……。

コメント

  • ノベルバユーザー603725

    この作品は気持ちイイです!!
    懐かしい夏のという設定が好きです。

    0
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