山賊団リベルタス
9 スープ
結局、デンテの人生初の獲物は、茶褐色の美しい牝のキジだった。
ちなみに、レオニスは最初に兎を射ただけで、あとは調子が出ないようだった。デンテもキジの一羽だけ。しかし、デンテはなんだかんだ言ってこの結果に満足していた。
勝負が引き分けたからではない。自分の力で獲物を仕留められたことが嬉しかったのだ。リバルタスの皆の役に立てたことが。一歩大人に近づけたような気がして。
今夜の夕食は、キジの肉入りのスープにしてもらうことを約束して浮かれてもいた。ちなみに、他の肉は燻製にして冬の保存食として少しずつ大事に食べる。
「今日の収穫は上々のようだな」
「おっちゃん!」
「おっちゃんはやめろ。ムステラさんと呼べ」
山から下りてきたデンテ一行を出迎えたムステラは低く唸った。
「おっちゃん、聞いて! オレ、キジ仕留めた!」
「おう、よかったじゃねえか。初獲物だな」
「うん! 団長は四又角のこーんなでっけー鹿を倒したんだぜ! カッコよかった! 他にも皆で牝鹿とイタチ五匹と、レオニスとラビが兎を一匹ずつ仕留めたんだ」
「すごいじゃねえか。イタチの皮は金になるからな。鹿がとれたなら、レオニスに冬服を作ってやらにゃあな」
「えええ! 冬服、オレが先に約束してたのに!」
デンテは口をとがらせた。
「馬鹿野郎。レオニスには冬服がねえだろうが。お前には去年作ったやつがあったろ」
「去年の服なんか、もう小さくて入らねえよ」
「そうか? 俺にはチビのまんまに見えるが」
「おっちゃん!」
デンテがむくれると、ムステラは豪快に笑った。
「ヴィトラの着古したのがあったろう。それをもらえばいいだろう」
「ムステラ様! 頼むよ、作って下さい!」
「ダメだ。鹿革だって金になるからな。節約しないと」
「ちぇー! おっちゃんのケチ! レオニスも、さっきから黙ってばっかじゃん。全然嬉しそうじゃねえし!」
話をふられて、レオニスはようやく気づいた、という顔をした。
「……ムステラさん、ありがとうございます」
「いいってことよ」
ムステラは豪快に笑った。
そこで、ラクーンがやって来たので、デンテは獲物のキジを自慢し、母親に調理をお願いするのだった。
その夜。広間には、美味しい湯気が充満していた。
ラクーン達、団の女が、腕によりをかけて作ったスープが出来上がったのだ。豆や人参の野菜と、デンテが仕留めたキジの肉ももちろん入っている。大猟の祝いに、今日は最近三日に一度しか顔を合わせなくなったパンとチーズもついている。
「うまそー! いっただっきまーす!」
「召し上がれ」
ラクーンが嬉しそうに返す言葉も聞かないうちに、デンテはスープにがっついた。
「うめー!」
「ホントだ。美味しい!」
マラの声もはずむ。団員達の歓声が上がった。口々にスープの出来を褒め、舌鼓を打った。
「うまー! あのね、マラねえ、これうまーよ!」
パウルも上機嫌で叫んだ。ラクーンが、パウルの口のまわりを拭いてやる。
「美味しいねー」
その様子を見てマラはころころと笑った。
「本当にうまいですね。あれ、レオニス君は食べないんですか?」
初めに気づいたのは、隣に坐るヴィトラだった。見ると、レオニスの皿だけ、料理が全然減っていない。手をつけた様子すらないようだった。
「レオニス君、スープ美味しいよ。早く食べないと冷めちゃうよ」
マラが、にっこりと笑顔で言った。しかし、レオニスは俯いたままだ。
「……いらない。僕、体調悪いみたいなんで、もう寝ます」
ガタ、と椅子をひいて立ち上がった。
「待てよ! 今日一日、あれだけ走り回っておいて、体調悪い訳ねえだろ!」
デンテも立ち上がって、怒鳴った。さっきまでの団欒の空気は掻き消え、広間は静まり返っている。
「何で食べないんだよ! オレがとったキジ肉が気に食わないのか!?」
「そんなんじゃない」
「だったら、なんで! 食えよ!」
レオニスは、立ち上がったまま無言で俯いていた。
「デンテ、やめときな。レオニス、本当に体調悪いみたいだよ」
ラクーンが諌めるも、デンテは止まらない。椅子を蹴り倒した。
「体調悪いなら、早く治すために余計に栄養とらないとだろ! このスープは母ちゃん達が一生懸命作ってくれたスープなんだよ! ただでさえ節約してて、肉だって野菜だってパンだってチーズだって、全部貴重な食材なんだよ! お前はそんな経験ないからわからないだろうけど、もしかしたら明日食べられなくなるかもしれないだろ!? その可能性は常にゼロじゃないだろ!? 貴族様は好き嫌いでメシを残すのかもしれないけど、うちではそんなこと許されないんだ! 食いっぱぐれないように、食べれる時には食べなきゃダメなんだよ! 分かったらきっちり食え!」
肩で息をするデンテ。対するレオニスは、俯いたまま、しばらく黙っていた。
「……食欲がないんで。今日はもう寝ます」
言うと、レオニスは広間を出て行ってしまった。
ちなみに、レオニスは最初に兎を射ただけで、あとは調子が出ないようだった。デンテもキジの一羽だけ。しかし、デンテはなんだかんだ言ってこの結果に満足していた。
勝負が引き分けたからではない。自分の力で獲物を仕留められたことが嬉しかったのだ。リバルタスの皆の役に立てたことが。一歩大人に近づけたような気がして。
今夜の夕食は、キジの肉入りのスープにしてもらうことを約束して浮かれてもいた。ちなみに、他の肉は燻製にして冬の保存食として少しずつ大事に食べる。
「今日の収穫は上々のようだな」
「おっちゃん!」
「おっちゃんはやめろ。ムステラさんと呼べ」
山から下りてきたデンテ一行を出迎えたムステラは低く唸った。
「おっちゃん、聞いて! オレ、キジ仕留めた!」
「おう、よかったじゃねえか。初獲物だな」
「うん! 団長は四又角のこーんなでっけー鹿を倒したんだぜ! カッコよかった! 他にも皆で牝鹿とイタチ五匹と、レオニスとラビが兎を一匹ずつ仕留めたんだ」
「すごいじゃねえか。イタチの皮は金になるからな。鹿がとれたなら、レオニスに冬服を作ってやらにゃあな」
「えええ! 冬服、オレが先に約束してたのに!」
デンテは口をとがらせた。
「馬鹿野郎。レオニスには冬服がねえだろうが。お前には去年作ったやつがあったろ」
「去年の服なんか、もう小さくて入らねえよ」
「そうか? 俺にはチビのまんまに見えるが」
「おっちゃん!」
デンテがむくれると、ムステラは豪快に笑った。
「ヴィトラの着古したのがあったろう。それをもらえばいいだろう」
「ムステラ様! 頼むよ、作って下さい!」
「ダメだ。鹿革だって金になるからな。節約しないと」
「ちぇー! おっちゃんのケチ! レオニスも、さっきから黙ってばっかじゃん。全然嬉しそうじゃねえし!」
話をふられて、レオニスはようやく気づいた、という顔をした。
「……ムステラさん、ありがとうございます」
「いいってことよ」
ムステラは豪快に笑った。
そこで、ラクーンがやって来たので、デンテは獲物のキジを自慢し、母親に調理をお願いするのだった。
その夜。広間には、美味しい湯気が充満していた。
ラクーン達、団の女が、腕によりをかけて作ったスープが出来上がったのだ。豆や人参の野菜と、デンテが仕留めたキジの肉ももちろん入っている。大猟の祝いに、今日は最近三日に一度しか顔を合わせなくなったパンとチーズもついている。
「うまそー! いっただっきまーす!」
「召し上がれ」
ラクーンが嬉しそうに返す言葉も聞かないうちに、デンテはスープにがっついた。
「うめー!」
「ホントだ。美味しい!」
マラの声もはずむ。団員達の歓声が上がった。口々にスープの出来を褒め、舌鼓を打った。
「うまー! あのね、マラねえ、これうまーよ!」
パウルも上機嫌で叫んだ。ラクーンが、パウルの口のまわりを拭いてやる。
「美味しいねー」
その様子を見てマラはころころと笑った。
「本当にうまいですね。あれ、レオニス君は食べないんですか?」
初めに気づいたのは、隣に坐るヴィトラだった。見ると、レオニスの皿だけ、料理が全然減っていない。手をつけた様子すらないようだった。
「レオニス君、スープ美味しいよ。早く食べないと冷めちゃうよ」
マラが、にっこりと笑顔で言った。しかし、レオニスは俯いたままだ。
「……いらない。僕、体調悪いみたいなんで、もう寝ます」
ガタ、と椅子をひいて立ち上がった。
「待てよ! 今日一日、あれだけ走り回っておいて、体調悪い訳ねえだろ!」
デンテも立ち上がって、怒鳴った。さっきまでの団欒の空気は掻き消え、広間は静まり返っている。
「何で食べないんだよ! オレがとったキジ肉が気に食わないのか!?」
「そんなんじゃない」
「だったら、なんで! 食えよ!」
レオニスは、立ち上がったまま無言で俯いていた。
「デンテ、やめときな。レオニス、本当に体調悪いみたいだよ」
ラクーンが諌めるも、デンテは止まらない。椅子を蹴り倒した。
「体調悪いなら、早く治すために余計に栄養とらないとだろ! このスープは母ちゃん達が一生懸命作ってくれたスープなんだよ! ただでさえ節約してて、肉だって野菜だってパンだってチーズだって、全部貴重な食材なんだよ! お前はそんな経験ないからわからないだろうけど、もしかしたら明日食べられなくなるかもしれないだろ!? その可能性は常にゼロじゃないだろ!? 貴族様は好き嫌いでメシを残すのかもしれないけど、うちではそんなこと許されないんだ! 食いっぱぐれないように、食べれる時には食べなきゃダメなんだよ! 分かったらきっちり食え!」
肩で息をするデンテ。対するレオニスは、俯いたまま、しばらく黙っていた。
「……食欲がないんで。今日はもう寝ます」
言うと、レオニスは広間を出て行ってしまった。
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