山賊団リベルタス

みりん

6 レンズ豆

 水汲みに使う小川沿いに川下にしばらく歩く。緩やかに蛇行するその川を下っていくと、少し川原が広くなってきた。すると、すぐに森が開けた土地があり、そこに畑が広がっていた。団員達が山腹を開墾して始めて、あまり広いとは言えないが、よく手入れされた畑だった。

「ここだ。今日は、レンズ豆の収穫の日だ。お前は貴族だから、豆がどんな風になってるかなんて知らないと思うけど、豆は莢の中に入ってるんだ。スープの中に浮いてるみたいな丸いのがそのままなってるわけじゃないんだぜ……って、聴けよ!」

 デンテが振り向くと、レオニスは川原にしゃがみこみ、両手の平を広げた程の大きさの石をひっくり返していた。見たところ、何の変哲もない石に見える。

「お前、何やってんだよ!」
「この石の形、面白いと思わないか?」
「はあ!? どうでもいいわ! とにかく、今日の仕事はレンズ豆の収穫なの! 収穫なんて一番楽しい仕事なんだから、遊んでないでさっさと始めるぞ!」

 デンテは怒鳴って、どすどすと音を立てて歩き出した。周りの団員達はその様子に笑い声をあげる。レオニスは、デンテの後に大人しくついて行った。

 レンズ豆は凸レンズの形に似た扁平な豆だ。それが莢の中に二つずつ実る。完全に枯れて、乾燥したものから収穫が出来るが、デンテ達は根元から鎌で切ってしまいそのまま放置して追熟することにしていた。
 デンテは鎌の扱いに慣れたもので、すいすいと収穫してみせた。レオニスも最初はおぼつかなかったが、少し経つとコツを掴んで上手に作業が出来るようになった。
 それを見届けて、デンテは他の野菜に水遣りをするのを手伝いに目を離した。重たい水を撒き終えて、ふとレオニスの様子を伺うと川原で石を眺めながらボウっとしている。

「お前! 何サボってんだよ! 収穫は!? 終わったのか!?」

 デンテは飛び跳ねながら怒鳴った。あいつ、ナメやがって! 母ちゃん達の前では仕事がしたいなんて格好つけておいて、石なんか見て何が面白いんだよ!? まったく、ガキじゃないんだから!

「おいって! 返事くらいしろよ!」
「……ああ。僕を呼んでたのか。収穫は終わったよ。全部刈り取った」
「刈り取ったら、束にして、籠に入れるの! 終わったら声かけろよ、暇じゃないんだから!」
「そうか。すまなかった」
「あのなあ。ったく。それくらい常識だろ? て、そういやお前働いたことなかったんだっけな! これだから貴族様は困るぜ」
「ああ。悪い。確かに気が抜けていた。申し訳ない。以後気をつける」

 レオニスが思いのほか、しゅんとうなだれた様子を見せたので、デンテは溜飲を下げた。

「頼むぜ、まったく」

「あの」
「なんだよ?」
「収穫の次は、束にするってさっき言ってたな?」
「それがどうしたんだよ? ……まさか、やり方がわからないっていうのか!?」
「すまん」
「だー! これだから貴族は! しゃーねーなー!」

 デンテはレオニスに教えるために、レンズ豆畑へと駆け出すのだった。

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