異世界から「こんにちは」
家族の墓前
ナレクさんが葬儀業者と共にマークスの家に現れ、シャマとシャミに相談を促してから一週間が経った。
シャムさんを兄とは知らないシャミにとっては訳のわからないことであったろうが相談の末、シャマの意向でマライ族の村の墓地に棺を移送し、今日両親の墓の間に土葬された。
その他殺されすでに腐敗の進んでいた村の住人も、それぞれ家族の共同墓地に埋葬された。
当然村に人気はなく、つい先ほどのような生活の跡が手つかずで生々しく残っていた。
「太刀さん……」
背後からリアンに声を掛けられて振り返ると、リアンは首を横に振った。
「あまり他の方を見るべきじゃないです」
「……ごめん」
はっとして謝り、墓地の方に目を移す。
低い柵の内でシャマとシャミが一家ずつ墓に花を供えて回り、最後に二人は家族の三つの墓にそれぞれ違う花を供える。
左の赤い鈴蘭のような花を供えた墓石の前にシャマが屈んで手を合わせ目を瞑る、シャミも姉を倣う。
しばらくして目を開けたシャマが花に手を添えて呟いた。
「お母さん、今日から兄さんが隣にいるけど怒ってばっかりはダメだよ? 兄さんはすごく頑張ったから
褒めてあげて。それとお母さんの黒髪、もう一度見たいな」
次に右の青い竜胆のような花を供えた墓石の前へ、急いでシャミも従う。
同様に花に手を添えた。
「お父さん、あんまりお母さんと兄さんを困らせちゃダメだよ? 兄さんとよくおかずを獲りあってたけど今日は兄さんに譲ってあげて。それとお父さん、ナバスに上京させてくれてありがとう」
最後に中の白い菊のような花を供えた墓石の前へ、シャミが訝しがる。
「お姉ちゃん、これがお兄ちゃんの?」
「そうだよ、ほらシャミも座って」
シャマは芝生を手で叩き自分の横を促す、姉の顔色を窺いながらシャミも屈んだ。シャマが花を撫でる。
「兄さんと久しぶりに再会できたのに、もう会えないなんてあんまりだよ。どうして、他人のことばっか気にかけて自分を犠牲にしちゃうの? 村から追放された時だって黙って出ていって、通信もくれない。ずっと心配してた。別れがいきなりで呆気なさ過ぎるよ」
こぼれ出る溜め込んでいた本音が、はらはら落とす涙とともに放たれた。
シャミが涙する姉の服の袖をつまんで引っ張った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんってどんな人だったの?」
「え?」
涙を湛えた驚きの瞳を妹に向ける。
「私知らないから、お姉ちゃん教えて?」
「……お兄ちゃんはね、取り返しのつかないバカだよ」
「勉強苦手だった?」
「ううん、得意だったよ。私に魔法や勉強、いろんなことを教えてくれた」
「それじゃあ、なんでバカなの?」
シャミの純粋な疑問に、シャマは微笑で答える。
「無駄に気遣っちゃうからかな?」
そう言って涙を拭った。
俺が異世界に来て二週間ほどが経過した。
巻き込まれた事態も一段落したので、元の世界に帰る仕度を整えておいた。
藤田さんや紺之崎さんも仕度を済ましたらしく、リアンとシャマにも帰宅の準備を勧めた。
「ごめんなさい」
先にリアンが謝った。肩をすくめて説明する。
「先日、ナレクさんから話がありましてその件で」
ナレクさんがリアンに話? なんだろうか?
「その話って?」
「あの、その、非常に嬉しいことなんですけど……」
う、嬉しいこと? ナレクさんに限ってご交際の申し出?
にわかに過ぎった悪いケースに、俺はリアンの続く言葉に固唾を呑む。
「黒服隊への加入を勧められまして」
「…………よかった」
俺は息の詰まる思いから解放される。
対してリアンが慌てふためく。
「よ、よかったって、私が太刀さんの家に戻らず黒服隊に入ったほうが都合がいいってことですか?」
上目遣いに俺を見上げ、泣き出しそうな顔になる。
急いで弁明する。
「違う、違う。ナレクさんに交際を迫られたのかと思って……そんなわけないよな、ははは」
「私なんかがナレクさんと交際なんて、あり得ないですよ太刀さん」
早とちりしかけた自分が馬鹿馬鹿しく、俺は声を出して笑った。リアンも手で口を押えて堪え切れなく淑やかに笑った。
そこで尋ねる。
「それで黒服隊に入るのか?」
「人手不足を補いたいと言ってましたから、私なんかで助力できるならしたいです」
「ってことはこっちの世界に残るのか?」
「はい、一時的ですけど」
本心で言えば一緒に帰りたいが、リアン自身が決めたことを無理にやめさせことはできない。
俺は笑顔で言う。
「じゃあ何の仕事をするのか知らないけど、頑張れよ」
「はい、大好きなこの街のために頑張ります」
屈託なくリアンは破顔した。
ついでにシャマの事をリアンに聞いてみる。
「シャマは? ここに残るのかどうか、知ってるか?」
「何も言ってはなかったですけど、なんで私に聞くんですか?」
「どうも気まずくて、あんなことあったばかりで俺と喋りたいとは思わないだろうから、仲のいいリアンならと思って」
ばつ悪く俺はそう言った。
わかりました、と納得してリアンはベッドにぼうっと腰かけているシャマの傍に行き尋ねてくれる。ほどなくしてリアンが戻ってくる。
「シャマさんも残るそうです。気持ちを整理したいそうです」
「そうか、兄さんが亡くなったのにのうのうと過ごせるわけないよな」
一緒に帰られないのは残念だが、仕方のないことだ。
「今日の夕方には俺は藤田さんと紺之崎さんと帰るけど、いつぐらいにはあっちの世界に戻れるんだ?」
「シャマさんは未定だと思いますが、私は短くて二週間長くて一か月でしょうか?」
相当に長い期間でなくほっとした。
するとリアンが不安顔になる。
「健康には気を付けてください。太刀さん、無理しそうです」
「心配すんな、家でのんびりしてるだけだから。それよりリアンこそ怪我するなよ」
「わかってます、極力怪我は避けます」
その会話を最後に、ゲートを開けるために山林を案内してくれたナレクさんと別れの挨拶を二言三言交わして、俺は藤田さんと紺之崎さんと異世界を発った。
ナレクさんがゲートの閉じる直前に俺に耳打ちして、「リアンに危険が迫れば俺が護る、だから安心しろ」
と俺の懸念を察して言ってくれた。
俺は彼の言葉を信じて頷いた。
シャムさんを兄とは知らないシャミにとっては訳のわからないことであったろうが相談の末、シャマの意向でマライ族の村の墓地に棺を移送し、今日両親の墓の間に土葬された。
その他殺されすでに腐敗の進んでいた村の住人も、それぞれ家族の共同墓地に埋葬された。
当然村に人気はなく、つい先ほどのような生活の跡が手つかずで生々しく残っていた。
「太刀さん……」
背後からリアンに声を掛けられて振り返ると、リアンは首を横に振った。
「あまり他の方を見るべきじゃないです」
「……ごめん」
はっとして謝り、墓地の方に目を移す。
低い柵の内でシャマとシャミが一家ずつ墓に花を供えて回り、最後に二人は家族の三つの墓にそれぞれ違う花を供える。
左の赤い鈴蘭のような花を供えた墓石の前にシャマが屈んで手を合わせ目を瞑る、シャミも姉を倣う。
しばらくして目を開けたシャマが花に手を添えて呟いた。
「お母さん、今日から兄さんが隣にいるけど怒ってばっかりはダメだよ? 兄さんはすごく頑張ったから
褒めてあげて。それとお母さんの黒髪、もう一度見たいな」
次に右の青い竜胆のような花を供えた墓石の前へ、急いでシャミも従う。
同様に花に手を添えた。
「お父さん、あんまりお母さんと兄さんを困らせちゃダメだよ? 兄さんとよくおかずを獲りあってたけど今日は兄さんに譲ってあげて。それとお父さん、ナバスに上京させてくれてありがとう」
最後に中の白い菊のような花を供えた墓石の前へ、シャミが訝しがる。
「お姉ちゃん、これがお兄ちゃんの?」
「そうだよ、ほらシャミも座って」
シャマは芝生を手で叩き自分の横を促す、姉の顔色を窺いながらシャミも屈んだ。シャマが花を撫でる。
「兄さんと久しぶりに再会できたのに、もう会えないなんてあんまりだよ。どうして、他人のことばっか気にかけて自分を犠牲にしちゃうの? 村から追放された時だって黙って出ていって、通信もくれない。ずっと心配してた。別れがいきなりで呆気なさ過ぎるよ」
こぼれ出る溜め込んでいた本音が、はらはら落とす涙とともに放たれた。
シャミが涙する姉の服の袖をつまんで引っ張った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんってどんな人だったの?」
「え?」
涙を湛えた驚きの瞳を妹に向ける。
「私知らないから、お姉ちゃん教えて?」
「……お兄ちゃんはね、取り返しのつかないバカだよ」
「勉強苦手だった?」
「ううん、得意だったよ。私に魔法や勉強、いろんなことを教えてくれた」
「それじゃあ、なんでバカなの?」
シャミの純粋な疑問に、シャマは微笑で答える。
「無駄に気遣っちゃうからかな?」
そう言って涙を拭った。
俺が異世界に来て二週間ほどが経過した。
巻き込まれた事態も一段落したので、元の世界に帰る仕度を整えておいた。
藤田さんや紺之崎さんも仕度を済ましたらしく、リアンとシャマにも帰宅の準備を勧めた。
「ごめんなさい」
先にリアンが謝った。肩をすくめて説明する。
「先日、ナレクさんから話がありましてその件で」
ナレクさんがリアンに話? なんだろうか?
「その話って?」
「あの、その、非常に嬉しいことなんですけど……」
う、嬉しいこと? ナレクさんに限ってご交際の申し出?
にわかに過ぎった悪いケースに、俺はリアンの続く言葉に固唾を呑む。
「黒服隊への加入を勧められまして」
「…………よかった」
俺は息の詰まる思いから解放される。
対してリアンが慌てふためく。
「よ、よかったって、私が太刀さんの家に戻らず黒服隊に入ったほうが都合がいいってことですか?」
上目遣いに俺を見上げ、泣き出しそうな顔になる。
急いで弁明する。
「違う、違う。ナレクさんに交際を迫られたのかと思って……そんなわけないよな、ははは」
「私なんかがナレクさんと交際なんて、あり得ないですよ太刀さん」
早とちりしかけた自分が馬鹿馬鹿しく、俺は声を出して笑った。リアンも手で口を押えて堪え切れなく淑やかに笑った。
そこで尋ねる。
「それで黒服隊に入るのか?」
「人手不足を補いたいと言ってましたから、私なんかで助力できるならしたいです」
「ってことはこっちの世界に残るのか?」
「はい、一時的ですけど」
本心で言えば一緒に帰りたいが、リアン自身が決めたことを無理にやめさせことはできない。
俺は笑顔で言う。
「じゃあ何の仕事をするのか知らないけど、頑張れよ」
「はい、大好きなこの街のために頑張ります」
屈託なくリアンは破顔した。
ついでにシャマの事をリアンに聞いてみる。
「シャマは? ここに残るのかどうか、知ってるか?」
「何も言ってはなかったですけど、なんで私に聞くんですか?」
「どうも気まずくて、あんなことあったばかりで俺と喋りたいとは思わないだろうから、仲のいいリアンならと思って」
ばつ悪く俺はそう言った。
わかりました、と納得してリアンはベッドにぼうっと腰かけているシャマの傍に行き尋ねてくれる。ほどなくしてリアンが戻ってくる。
「シャマさんも残るそうです。気持ちを整理したいそうです」
「そうか、兄さんが亡くなったのにのうのうと過ごせるわけないよな」
一緒に帰られないのは残念だが、仕方のないことだ。
「今日の夕方には俺は藤田さんと紺之崎さんと帰るけど、いつぐらいにはあっちの世界に戻れるんだ?」
「シャマさんは未定だと思いますが、私は短くて二週間長くて一か月でしょうか?」
相当に長い期間でなくほっとした。
するとリアンが不安顔になる。
「健康には気を付けてください。太刀さん、無理しそうです」
「心配すんな、家でのんびりしてるだけだから。それよりリアンこそ怪我するなよ」
「わかってます、極力怪我は避けます」
その会話を最後に、ゲートを開けるために山林を案内してくれたナレクさんと別れの挨拶を二言三言交わして、俺は藤田さんと紺之崎さんと異世界を発った。
ナレクさんがゲートの閉じる直前に俺に耳打ちして、「リアンに危険が迫れば俺が護る、だから安心しろ」
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