異世界から「こんにちは」

青キング

悲しみを持ち帰る

 瓦礫の下からシャムの死体を見つけ出した一行は、街の外の枯木が左右を占める小路に移動して木の幹に死体を凭れかけさせた。
 一行は目を閉じ冥福を祈った。

「さて」

 ほどなくしてナレクが沈んだ空気を払拭せんばかりに声をかける。

「この死体をとりあえずナバスまで搬送したいんだが、バルキュスさんの村で死体をくるめられる布もしくは棺を用意できるか?」

 バルキュスは気の向かない返事をする。

「できることにはできるが、子ども達に死体を見せたくはない」
「そこは配慮する。村で馬車も用意してさえくれれば人目にはつかない」
「それならいい、村についたらすぐに用意できるように頼んでみる」

 相談も済み、一行は村に戻ることにした。
 村に入る手前でナレクはバルキュスが馬車と死体を隠せるものを用意するのを待った。
 リアンは死体はあまり見たくないと、バルキュスに同行した。
 しばらくしてバルキュスとリアンが、馬車と白い布を持ったワコーを連れて戻ってくる。

「手配できたか」
「ひい、死体じゃあねーかよ」

 ワコーが血の気のないシャムの死体を見て気分を悪くして呻く。
 その肩をバルキュスが叩く。

「ついでだ、これに乗って帰れ」
「死体と一緒かよ、気味悪いぜ」
「リアンが我慢してるのに、男のお前が死体にビクビクするなんてだらしないにもほどがある」

 皮肉を込めて言ったバルキュスにワコーは人差し指を差し向けて反論する。

「ビクビクなんてしてねぇ、気味が悪いってだけだ」
「戯言は聞きたくないから、早く乗れ」
「何が戯言だ」
「ワコー、いつまで話してる。早く乗るんだ」

 ナレクが幌の中から呼びかける。
 バルキュスが嫌味な笑みを浮かべる。

「次来るときは金額二倍で持ってこい」
「うるせぇ」

 そう吐き捨ててワコーも馬車に乗り込んだ。
 走り出した馬車が車輪と蹄を響かせ村の出口に遠ざかっていく。

「さあ、夕食の仕度するか」

 血の匂いとは疎遠な平穏な場所に帰ってきた安心に、バルキュスはいつもより早足になって子ども達の待つログハウスへ歩いた。


 ナバスへ向かう馬車の幌の中、ワコーは状況の難解さに頭を抱えていた。

「それだけかぁ?」
「ああ」

 最低限の事情しか話されないナレクに、ワコーはしつこく尋ねる。

「なあ、教えてくれ。何がどうなってそうなった?」

 煩わしそうにナレクはワコーを見据える。

「ここで話したくはない」
「つれねーな」
「リアンがこの話を聞くのを嫌がっているんだ。街についたら話してやるから今はよしてくれ」

 ワコーはリアンを窺う、上衣の裾を弱く掴んで俯いている。

「わかったよ」

 三人は口数少なくナバスへの道程を揺れる馬車の中で過ごした。


 ナバスの街中に入った馬車は馬車乗り場でリアンとワコーは下車した。
 ナレクは死体を黒服隊本部まで搬送するため馬車に残った。

「あとの事は黒服隊の仕事だ。二人はシャマとシャミに辛いと思うが知らせといてくれ」

 ナレクはリアンとワコーにそう言って、馬方に行き先を伝え向かわせた。
 数分とかからず黒服隊の本部に到着し馬車を降り、正面入り口の扉を押し開ける。
 本部内は例になく人が見当たらず閑散としていた。

「おい、誰かいないのか?」
「ナレクではないか、どこへ行っておった」

 手狭な娯楽室から声をききつけ黄色髪ポニーテールのチウが顔を出した。
 ナレクが部下隊員の姿が見えないことを尋ねると、チウは深刻な顔をする。

「異世界ゲートの無断開放に黒服隊のほとんどが関わっとったのじゃ」
「なんだと?」

 チウの隣からイナシアも顔を出して言い添える。

「ナレク様が不在の間に一人検挙したら、芋づるで関係者が発覚していった」
「残っているのは?」
「私とチウちゃんと一年目二人」
「そうか…………隊員を新しく加入させないといけないな。だが、その前に仕事だ」

 舌打ちしたい気持ちを抑えて、ナレクは死体を横ばいに降ろし二人に持ちかける。

「この死体を納める棺を用意して欲しい、できるか?」
「任せて」

 イナシアが頷いた。

「それで死体の素性は?」
「棺だけ用意してくれればいい。書類記入とかは俺がやる」
「そうしてくれると助かる、私たち疲れた」
「ならば明日からしばらく全員休暇にする、俺のいない間大変だったな」

 そうでもない、とイナシアは否定したが疲れが顔に滲み出ている。
 イナシアと共に棺を送葬の専門所に出向いて用意した後、ナレクはシャムの死体を悼む思いで納めた。











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