異世界から「こんにちは」

青キング

大好きな街

「ここが俺と剣志君の部屋だ」

 とぶっきらぼうに言う顔に傷のある男と、共に一晩寝泊まりする部屋は全面の壁が平らな岩という抑留された人の入れられる監獄みたいだが、申し訳程度に外と繋がる窓が一つあるだけの俺の常識では考え得ない部屋だ。
 よくもまぁ、こんな部屋を客に与えて宿泊施設として成り立ってるなと不思議でならない。
 出入り口で突っ立ったままの俺に、顔に傷のある男はそういえばと何か思い出して話しかけてきた。

「剣志君、自己紹介がまだだったね。すっかり忘れてた」
「忘れないでくださいよ、そんな大事なこと。名札つけた方がいいんじゃないんすか?」
「ハハハ、そうかもね。俺の名前は藤田だ、改めてよろしく」
「はい、藤田さん。こちらこそよろしくお願いします」

 深々と俺がお辞儀で返すと、藤田さんはとんと俺の肩に手を置いて微笑む。

「俺がこの部屋に戻れるのは明日の朝になるから、それまで剣志君は部屋から出ないようにしてくれ。この部屋に居れば、とりあえずは安全だ」

 そう言うと、藤田さんは俺の横を通り過ぎて部屋を出ていった。
 部屋から出るな、とりあえずは安全、要するに護られる側なのか俺は。なんか悔しいし情けない。
 俺は無力さをいきなり突き付けられた気分で、拳に思わず力が入った。そして思う強くなりたい、と。


 表面の荒れた木製のテーブルに突っ伏して眠りに落ちかけていた俺の耳に、二回ノックの音が届いて意識を引き戻す。
 二回ノックはトイレだよ。

「太刀さん居ますか?」

 ノックしたのはリアンらしい。どうしたんだろ? 
 俺は腰を上げて、出入り口の前まで行き開けてやる。

「リアンどうした、何か事件でも起きたのか」

 リアンは確か紺之崎さんと同室だったはずだ、あっちの部屋で紺之崎さんが何かやらかしたのだろうか?

「そんな頻繁に事件が起きたら困ります」
「それもそうだな、俺の考えすぎってことか」
「それより部屋に入っていいですか? 青春さんが明日の朝まで部屋に帰ってこれないから剣志君の所に行ってて安全第一、って言ってました」

 何を企んでるんだ紺之崎さん。というか藤田さんとグルじゃね?

「他に何か言ってたか?」
「他にですか。魔法を使わないようにして、察知される可能性もある、とも言ってました。それと剣志君のいる部屋は襲われにくい、ってことも言ってました」
「へぇ、つまり安全第一か」
「そういうことです。とりあえず入っていいですか?」
「まぁ、それなら仕方ないよな」

 あの人間離れした二人のことだから、邪な考えで俺とリアンを一つの部屋に居させるわけじゃないだろう。
 俺はそう納得して、リアンを部屋に通した。
 この部屋を目の当たりにしたリアンが、愕然と踏み入れようとした足を急に止めた。

「まるで岩の部屋ですね」

 まるでも何も実際にそうなんだよ。岩の部屋なんだよ、残念な部屋なんだよ。
 ふとリアンが、俺の後方の窓に視線を飛ばして首を傾げた。

「太刀さん、そこの窓から街を眺められますかね?」
「どうなんだろな、見てみるか?」
「はい、見てみたいみたいです」

 嬉しそうにリアンは窓の前まで歩いていき、両開きの窓を押し開いた。

「うわっ」

 外気が思わず手を前に出したくなるぐらいの風を部屋に入れる。その拍子にリアンの長い黒髪がマントのように後ろになびかれて揺れた。
 たった一瞬のそのシーンは、ひどく俺の胸を衝いた。リアンの黒髪がいつも以上に艶かに見えたからだ。

「ほへー、綺麗です」
「見える風景がか?」
「他にあるんですか?」
「……言葉のアヤだ。どれどれ俺にも見させてくれ」

 さっきのリアンが綺麗だった、とは言えるわけもなく適当な言葉で取り繕って、心奪われた様子のリアンの隣に立って窓からの風景を望む。

「こりゃすげぇ」

 窓から望んだ風景はなんと表現しようか、言葉を失ってしまった。
 真っ暗な森の奥に対照的に輝く夜の闇に包まれた街の灯りが、ひたすらに綺麗だった。特に街で一番大きい建物である黒服隊の本部は周囲の低い住宅の灯りでライトアップされているみたいに際立っていた。

「ナバスの知らない面が見られた気がします」
「知らない面か、リアンってあのナバスっていう街が出身なのか?」
「そうです、私の大好きな人達の住む大好きな街です」
「俺も自分の街を好きになれるのかなぁ」
「好きじゃないんですか、太刀さん」
「嫌いではないんだけど、好きとか嫌いとかの対象じゃないっていうか、考えたことがないんだ」
「でも太刀さんの住む街も好きですよ。あそこには太刀さんと私とシャマさんの居場所がありますから、だからシャマさんを絶対に連れ戻してまた一緒に暮らしたいです」

 リアンは思いの丈を述べると隣の俺に微笑みを向けてくる。
 俺はああ、と強く頷く。

「絶対に連れ戻して、心いくまで楽しく過ごそう」












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