異世界から「こんにちは」
ショッピングモールにて1
快晴の中を太陽がてらてらと発光し、太陽光が直接顔に当たる。
暑さに少々辟易しつつも、その場を離れる訳にはいかない。なんせ人を待っているからだ。
噴水前で待ち合わせていると目的の人が、公園の東西南北四方の入り口の右、すなわち東口から姿を現した。
徐々に近づいてくるその人物は、たどり着いた途端息を切らして膝に手をつき首をだらんとさせ、一言目を発した。
「おはよう……ハアハアハア剣志……ハアハアハア」
寝坊でもしたのか、かなり急いで駆けつけたようだ。そんなに急がなくてもいいのに。
夏の装いの薄手の白ワンピースに身を包む冬花は、だらんとしていた首をもたげて顔を俺に向ける。
少しは息が整ったのか落ち着いて、冬花は口を動かし始める。
「紹介したいって言ってた人は、そこの二人?」
そこの二人とは、俺の両隣に立つリアンのシャマのことだろう。
俺は簡潔に紹介する。
「こっちの黒髪がリアンで、ピンク髪がシャマ、今回はの二人の服選びをお前に頼んだんだ」
紹介し終えると、冬花の眉がひそめられた。
追及するように訊いてくる。
「どっちか剣志の彼女?」
その質問に難なく答えようと口を開きかけたその時、俺より早く青ジャージ姿のリアンが挙手して喋り出した。
「私が彼女です!」
遅れたが対抗するように悪戯っぽい笑みを滲ませて同じく青ジャージ姿のシャマも続く。
「私も彼女で~す! 婚約しました~!」
「お前たちは反省しろ!」
そんな朝から冗談をかます二人に、俺は頭頂チョップを喰らわす。
「酷いです太刀さん」
「そうだぞ~、太刀先輩は酷いんだぞ~」
シャマにはもう一発喰らわせた。
痛そうに頭頂を手で押さえるシャマ。途端に冬花がクスクス穏やかに笑って言った。
「漫才みたいで面白い、クスス、三人は仲がいいんだね」
突然笑われ、俺達三人は見つめ合う。
吹き出したように誰からともなく笑い出し、感染するように笑い声が増していった。
場は凄まじく和んだ。
「なんか今日は楽しくなりそうだな」
「ほんっと楽しそう」
「楽しくなりそうです」
「絶対楽しいよ」
それぞれ同じ考えを持ち、俺達は近くのショッピングモールに移動を始めた。
__公園で犬の散歩をしていた年若い専業主婦は噴水前の四人を見て思った。
美少女三人に囲まれる一人の男……テンプレハーレムだ! と。
ショッピングモールは、常より賑わっているように思えた。しかし__
前回、冬花と訪れたブティックは人気が激減していた。
他人と肩が接触するほどの盛況ぶりはどこへやら、がらんとしていて寂漠たる店内にどこか陰湿な雰囲気が漂っていた。
「ここ数週間に何があったの……?」
初めに異変に気づいたのは冬花だった。驚愕した顔でそう呟く。
初ショッピングモールのリアンとシャマは、何気なく口にした。
「このお店暗いと思いませんシャマさん?」
「リアン先輩、私も共感です。活気という活気が皆無です」
そう思うのも無理はないだろう。実際、暗いからな。
二人の言葉は反応して冬花が寂しげに、納得いかない様子で呟く。
「ちょっと店主に、話聞いてくる」
そう言って店内へと足を踏み入れた冬花を追うように俺も店内に入った。
脇目も振らず冬花が向かったのは、奥のカウンターだった。
カウンターには一人の金と茶を混ぜた髪色の年若い男長身の男性が、所在なさげな顔して椅子に座っていた。
近づいてくる冬花に気がついたのか、顔に接待の笑みを浮かべて立ち上がる。
カウンター越しに男性と冬花が向き合い、男性が先に言葉を発した。
「どうかなさいましたか?」
「何があったの?」
冬花は冷たい声で尋問した。途端に男性の顔が寂しげなものに変わった。
「周辺に新しい服屋ができたんです。そこに大半の顧客をとられてしまって、客足が減少しているのです」
「初耳だわ……そんな話」
「このままだと、ここでは経営を続けられない故、移店も考えにあるのです」
店主の話を聞いて冬花は、瞼をかっ開いて驚きの表情を見せた。
経営学とかまっさらな俺でも、深刻なのは見て取れる。
不意に誰かか服の後ろ裾を引っ張った。
振り返ると、リアンが心配そうに見詰めてきていた。
「太刀さん、何があったのですか?」
話すべきか否か、どちらにも得がない判断を投げ捨て、俺は話題を換える。
「何でもいいから、着たい服があったら持ってこい。今日の主役はリアンとシャマなんだからな」
リアンは隣のシャマに目配せしてから、こくりと頷いた。
「それじゃあ、探してきますね」
と、身を翻しながら口にしてリアンは、和気藹々とシャマと店内を散策し始めた。
それと同時に冬花と重い話をしていた店主が、ふぅと息をこぼして楽しげに口角を上げて言った。
「話はあとにしましょう。とにかく今は、買い物を楽しんでください。何より僕は売り手であなたたちは買い手なんですから」
「はい、わかりました。思う存分に楽しませていただきます」
カウンター越しでの二人の会話は、言葉以上の意味をはらんでいる気がして、俺は感心した。
会話が済んだ冬花は、俺に向き直りにっこり微笑んだ。
「それじゃあ、二人の服選びを始めますか」
「ごめんな、休日に付き合わせちゃって。今度、何か奢るから今日は手伝ってくれ」
クスッと控えめに吹き出すと、柔らかな視線を俺に向ける。
「剣志の服に関する知識が少ないのは、とっくに知ってる」
「けっこう失礼なこと言うんだな」
本当のことじゃない、と正論を述べられ返す言葉もない俺のもとに、リアンが一着何か持って駆け寄ってきた。
興味津々といった目をして、明るく尋ねてくる。
「この猟奇的な服は何て言うんですか?」
異世界人のリアンが猟奇的な服と表現したのは、暗赤色の薄い生地の中央に、青ラインで設えられた厳ついどくろが目を引く、半袖のTシャツだった。
いかにも激甚なロックバンド系が着るような服である。
「まさかこれが欲しいのか?」
俺の戸惑いを含んだ問いに、リアンは軽く頬を膨らませる。
「私が、こんな危なげな服を好むわけないじゃないですか。もっと清楚で可憐なのを選びますよ!」
清楚で可憐なの、とは具体的にどういったものなのか、さっぱり見当がつかないが一応訊いてみる。
「リアンが求めている服は、どんなのだ?」
う~ん、と唇に指をあてがい考えるそぶりを見せて言った。
「可愛いくて似合っていれば、何でもいいです」
リアン、大雑把すぎて俺の心許ない知識じゃ絞り込めないぞ。
助けを請うように俺は背後の冬花に、視線を送った。
冬花はこくんと頷き、リアンの前に立って壁の一ヵ所を指さした。
「あれとか絶対似合うよ、大人っぽさとかなくて可愛いかも」
リアンは冬花の指の先を見つめて、ああ~、という声をあげる。
気に入った様子で目を光らせる。
一体どの服見ているのか、察しもつかないが察しがついたところで何をするわけでもないので、特に支障はない。
感じることもなく、ぼおっーと冬花とリアンを眺めていると、冬花が突然俺に振り向き申し訳なさそうに合掌してお願いしてきた。
「今から三〇分ぐらい、この店から出てってくれないかな?」
唐突で意味深なお願いに、俺は首を傾げて問い返す。
「俺が居ると困ることでもあるのか?」
意味わからないかもしれないけどお願い、と一心に懇願してくるので拒否するのも気が引けてわかった、と承諾する。
それじゃあ三〇分後に、と片手の掌を俺に向けて冬花は振った。
俺は言われた通り店を出て、目的もなく店から離れていった。
とりあえずは一階の中央にある、裸子植物のデカイ植木の辺で時間を潰すか。
あの辺にはどんな店があるのか、とちょっぴり期待しながらそこに足を進めた。
暑さに少々辟易しつつも、その場を離れる訳にはいかない。なんせ人を待っているからだ。
噴水前で待ち合わせていると目的の人が、公園の東西南北四方の入り口の右、すなわち東口から姿を現した。
徐々に近づいてくるその人物は、たどり着いた途端息を切らして膝に手をつき首をだらんとさせ、一言目を発した。
「おはよう……ハアハアハア剣志……ハアハアハア」
寝坊でもしたのか、かなり急いで駆けつけたようだ。そんなに急がなくてもいいのに。
夏の装いの薄手の白ワンピースに身を包む冬花は、だらんとしていた首をもたげて顔を俺に向ける。
少しは息が整ったのか落ち着いて、冬花は口を動かし始める。
「紹介したいって言ってた人は、そこの二人?」
そこの二人とは、俺の両隣に立つリアンのシャマのことだろう。
俺は簡潔に紹介する。
「こっちの黒髪がリアンで、ピンク髪がシャマ、今回はの二人の服選びをお前に頼んだんだ」
紹介し終えると、冬花の眉がひそめられた。
追及するように訊いてくる。
「どっちか剣志の彼女?」
その質問に難なく答えようと口を開きかけたその時、俺より早く青ジャージ姿のリアンが挙手して喋り出した。
「私が彼女です!」
遅れたが対抗するように悪戯っぽい笑みを滲ませて同じく青ジャージ姿のシャマも続く。
「私も彼女で~す! 婚約しました~!」
「お前たちは反省しろ!」
そんな朝から冗談をかます二人に、俺は頭頂チョップを喰らわす。
「酷いです太刀さん」
「そうだぞ~、太刀先輩は酷いんだぞ~」
シャマにはもう一発喰らわせた。
痛そうに頭頂を手で押さえるシャマ。途端に冬花がクスクス穏やかに笑って言った。
「漫才みたいで面白い、クスス、三人は仲がいいんだね」
突然笑われ、俺達三人は見つめ合う。
吹き出したように誰からともなく笑い出し、感染するように笑い声が増していった。
場は凄まじく和んだ。
「なんか今日は楽しくなりそうだな」
「ほんっと楽しそう」
「楽しくなりそうです」
「絶対楽しいよ」
それぞれ同じ考えを持ち、俺達は近くのショッピングモールに移動を始めた。
__公園で犬の散歩をしていた年若い専業主婦は噴水前の四人を見て思った。
美少女三人に囲まれる一人の男……テンプレハーレムだ! と。
ショッピングモールは、常より賑わっているように思えた。しかし__
前回、冬花と訪れたブティックは人気が激減していた。
他人と肩が接触するほどの盛況ぶりはどこへやら、がらんとしていて寂漠たる店内にどこか陰湿な雰囲気が漂っていた。
「ここ数週間に何があったの……?」
初めに異変に気づいたのは冬花だった。驚愕した顔でそう呟く。
初ショッピングモールのリアンとシャマは、何気なく口にした。
「このお店暗いと思いませんシャマさん?」
「リアン先輩、私も共感です。活気という活気が皆無です」
そう思うのも無理はないだろう。実際、暗いからな。
二人の言葉は反応して冬花が寂しげに、納得いかない様子で呟く。
「ちょっと店主に、話聞いてくる」
そう言って店内へと足を踏み入れた冬花を追うように俺も店内に入った。
脇目も振らず冬花が向かったのは、奥のカウンターだった。
カウンターには一人の金と茶を混ぜた髪色の年若い男長身の男性が、所在なさげな顔して椅子に座っていた。
近づいてくる冬花に気がついたのか、顔に接待の笑みを浮かべて立ち上がる。
カウンター越しに男性と冬花が向き合い、男性が先に言葉を発した。
「どうかなさいましたか?」
「何があったの?」
冬花は冷たい声で尋問した。途端に男性の顔が寂しげなものに変わった。
「周辺に新しい服屋ができたんです。そこに大半の顧客をとられてしまって、客足が減少しているのです」
「初耳だわ……そんな話」
「このままだと、ここでは経営を続けられない故、移店も考えにあるのです」
店主の話を聞いて冬花は、瞼をかっ開いて驚きの表情を見せた。
経営学とかまっさらな俺でも、深刻なのは見て取れる。
不意に誰かか服の後ろ裾を引っ張った。
振り返ると、リアンが心配そうに見詰めてきていた。
「太刀さん、何があったのですか?」
話すべきか否か、どちらにも得がない判断を投げ捨て、俺は話題を換える。
「何でもいいから、着たい服があったら持ってこい。今日の主役はリアンとシャマなんだからな」
リアンは隣のシャマに目配せしてから、こくりと頷いた。
「それじゃあ、探してきますね」
と、身を翻しながら口にしてリアンは、和気藹々とシャマと店内を散策し始めた。
それと同時に冬花と重い話をしていた店主が、ふぅと息をこぼして楽しげに口角を上げて言った。
「話はあとにしましょう。とにかく今は、買い物を楽しんでください。何より僕は売り手であなたたちは買い手なんですから」
「はい、わかりました。思う存分に楽しませていただきます」
カウンター越しでの二人の会話は、言葉以上の意味をはらんでいる気がして、俺は感心した。
会話が済んだ冬花は、俺に向き直りにっこり微笑んだ。
「それじゃあ、二人の服選びを始めますか」
「ごめんな、休日に付き合わせちゃって。今度、何か奢るから今日は手伝ってくれ」
クスッと控えめに吹き出すと、柔らかな視線を俺に向ける。
「剣志の服に関する知識が少ないのは、とっくに知ってる」
「けっこう失礼なこと言うんだな」
本当のことじゃない、と正論を述べられ返す言葉もない俺のもとに、リアンが一着何か持って駆け寄ってきた。
興味津々といった目をして、明るく尋ねてくる。
「この猟奇的な服は何て言うんですか?」
異世界人のリアンが猟奇的な服と表現したのは、暗赤色の薄い生地の中央に、青ラインで設えられた厳ついどくろが目を引く、半袖のTシャツだった。
いかにも激甚なロックバンド系が着るような服である。
「まさかこれが欲しいのか?」
俺の戸惑いを含んだ問いに、リアンは軽く頬を膨らませる。
「私が、こんな危なげな服を好むわけないじゃないですか。もっと清楚で可憐なのを選びますよ!」
清楚で可憐なの、とは具体的にどういったものなのか、さっぱり見当がつかないが一応訊いてみる。
「リアンが求めている服は、どんなのだ?」
う~ん、と唇に指をあてがい考えるそぶりを見せて言った。
「可愛いくて似合っていれば、何でもいいです」
リアン、大雑把すぎて俺の心許ない知識じゃ絞り込めないぞ。
助けを請うように俺は背後の冬花に、視線を送った。
冬花はこくんと頷き、リアンの前に立って壁の一ヵ所を指さした。
「あれとか絶対似合うよ、大人っぽさとかなくて可愛いかも」
リアンは冬花の指の先を見つめて、ああ~、という声をあげる。
気に入った様子で目を光らせる。
一体どの服見ているのか、察しもつかないが察しがついたところで何をするわけでもないので、特に支障はない。
感じることもなく、ぼおっーと冬花とリアンを眺めていると、冬花が突然俺に振り向き申し訳なさそうに合掌してお願いしてきた。
「今から三〇分ぐらい、この店から出てってくれないかな?」
唐突で意味深なお願いに、俺は首を傾げて問い返す。
「俺が居ると困ることでもあるのか?」
意味わからないかもしれないけどお願い、と一心に懇願してくるので拒否するのも気が引けてわかった、と承諾する。
それじゃあ三〇分後に、と片手の掌を俺に向けて冬花は振った。
俺は言われた通り店を出て、目的もなく店から離れていった。
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