異世界から「こんにちは」

青キング

素敵なステッキ

 今日も日に日に増す暑さに汗を滴らせながら、学校に向かう。
 隣の玲は目の下にくまができていた。

「なぁ、剣志。徹夜して頭がジンジンするんだが、どうすれば言いと思う?」

 鬱屈そうな顔で玲は聞いてきた。

「なにやってたんだよ?」
「オールナイトしてアニメ見てた」
「ああ、そう」
「お前なら心配してくれるよな?」

 元気なさげな笑みを浮かべる。
 元気がないのは確かだろうが、どう考えても自業自得だ。

「お前もバカだな。今日から補習なのに、オールナイトするとは」
「仕方ないだろ、異世界行ってた間に好きなアニメの二期が放送しちまったんだから」
「魔法使いの国木田さん、だろ?」
「ご名答、さすが剣志だね。俺の趣味をよく知っていらっしゃる」

 ニヨニヨ玲は笑った。
 何か企んでやがる。

「どうだった今回のミンミンは? 可愛かったか?」
「可愛いかったよ、可愛いかったけど……最後が感動すぎて……」

 ヤバい思い出すだけで泣けてきた。
 泣き出しそうな俺の心中を知ってか知らずか、玲は共感したようにうんうん頷く。

「だよなぁ、俺もボヤボヤしてそのシーン見てたもん」
「お前の場合は眠い目だから、ボヤボヤしてただけだろう」

 失礼極まりないなお前! と即座に返してきた。
 俺の言ったこと失礼なのかどうか、是非を知るものはいない。
 こうしていつも朝から玲と駄弁って登校していると、いつの間にか校門前まで来ている。

「お前と毎日、何気なく登校してるけど、お前が異世界から帰ってくるまで俺は一人で登校してたんだよなぁ?」

 なんの気もなく、俺は玲にそう語尾を疑問符で言っていた。
 玲ははぁ? という顔をしている。その顔のままおもむろに、口を開いた。

「突然何を聞いてくるんだ、お前は?」

 自分でも明快な理由は知らない。ただ、思い出した以前の自分の姿に疑問を持った、それだけだ。
 俺は事も無げに玲に謝る。

「いや、気にするな。前までの自分を思い出しただけだ。あのときの俺、一人で登下校してたんだな、寂しいやつ」
「なんだ、それ。まぁ、客観的に見たら寂しいやつに見えただろうな。でも、今じ
 ゃこうやって寂しいやつには見えないだろうな」

 寂しいやつだったんだなお前、と玲は面白がる笑みで言ったが、今はその笑みが近くにあることが俺を安心させてくれていた。


 ブルファとワコーは市街地の陰気な武器屋で、鉄の使われていない剣を探していた。
 モノトーン色の内装が薄暗さを際立だっている店内で、誰も手をつけなさそうなマニアックな武具が陳列されていた。
 ブルファはその一つ、石壁に立て掛けられて拙い字で書かれた値札が貼ってある、先端が星形のピンクのステッキを物疑う目で手に取った。

「この軟弱そうな棒はなんだ? ワコー知ってるか?」

 ブルファの隣でワコーがじっーとステッキを見つめ、首を横に振る。

「全く知らないぜ、これ。またあの偏執店主が仕入れたんだろうよ」

 ワコーの言う偏執店主とは、この店を一人で切り盛りするブルファの戦友ハミエルのことである。
 ハミエルはブルファと同様の剣士であり、ブルファの最高のパートナーでもあった。
 しかし、ブルファがアレルギーを発症直前のある戦闘において右腕と左手の人差し指と中指を失っていた。
 その戦闘以来、ハミエルは剣士をやめて武器屋を経営しているのだが、珍しい武器好きがこうじてマイナーな武器ばかりを仕入れていた。
 店のロケーションの悪さと品揃えの奇っ怪さが原因で、収入は武器マニアからのごくわずかしかなかった。
 そんな変わった人の変わった店のカウンターで当ハミエルが椅子に座ったまま、ステッキを凝視する二人に心外だなぁ、という顔をして言う。

「そのステッキは好んで仕入れた物じゃないよ。ラブなんとかって書かれたハチマキを身につけた体の細い青年が、買い取ってくださいって頼んできたから、適当な値段で買ってあげたやつだよ」

 その話を聞いたワコーは、カウンターに半身を向けて呆れ返ったふうに両肩をあげて言ってあげる。

「それ、そいつの口車に乗せられただけじゃねぇか」

 だろうな、と手に持ったステッキを立て掛け直しながらブルファも同意を口にした。
 一人の武器商人として悪く言われた気分のハミエルは、少しムッとして全面否定を始める。

「そんなことない! それは武器だ、しかも超レア物で強力の!」

 それなら見せてみろよ、と皮肉を込めてワコーがハミエルを煽り、ハミエルはわかった、と真面目な目をしてカウンターを出てステッキを三本しかない指で掴んだ。

「見ててよ。ブルファこの星の下にあるボタンを押してくれ」

 ハミ。エルに頼まれブルファが押すぞ、と合図してハートの形をしたボタンを押した。
 ボタンの上の星の核からオレンジの光が、暗闇で直径十センチメートルほどは照らせそうなぐらいに発され続けた。

「おお、こんな武器始めて見た。自ら発光してる……」

 ブルファが驚きで継ぐ言葉を無くす。

「予想外だったぜ、まさか光なんてな。ハミエルの言った通りレア物だな」

 信用していなかったワコーも、発光する類を見ないステッキを目にして、素直に驚いた。
 そんな二人の驚きっぷりに、ハミエルが誇らしげな顔になってブルファに勧める。

「このステッキ、叩いたときの音的に鉄が使われていないからブルファにはぴったりなんじゃないかな。それに加えて中が空洞で軽いから、スイングスピードを重視する人なら最高の武器だと思うよ。暗闇でも手元が見えるしね」

 笑顔で勧めてくるハミエルに、ブルファはニヤリと片方の口の端を上げて言った。

「このステッキ買った!」
「さすがはブルファだね、指折りの剣士っていうだけ見る目がある」

 ハミエルは自分の戦友を褒め称える。しかし、すぐに難しい顔になって半ば俯いた。
 ブルファが気遣わしげな視線を送って、不思議そうに尋ねる。

「ハミエル、どうした? 考え事に耽って」
「経済面でちょっと困ってて……ハハハ」

 意気地の無い取り繕った笑いを漏らした。
 経済か、とワコーが密かに含み笑い、ハミエルの肩にポンと片手を置いた。
 突然、肩に手を置かれたハミエルは、ビクッとしながらワコーの方を向く。
 ワコーは自分の言葉を緊張気味に待つハミエルに、不敵な笑みを見せて言った。

「経済面のことなら任せろハミエル。青の金阿修羅と恐れられ、市場での商売を禁止されたこの俺にな!」

 自信しかない顔で親指をピンと立たせて、俺に任せろと言わんばかりのグッチョブを見せた。
 ワコーの自信に溢れ返った様子に圧倒され、言葉を失ったハミエルはわかった、と頷くしか術がなかった。
 自信たっぷりのワコーにブルファは、ワコーのやつ完全にやる気だよ、と他人事のように思って眺めていた。
 この時三人は、自分の仲間の命が狙われていることを知るよしもなかった。

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