異世界から「こんにちは」

青キング

友達

 異世界から別れを告げた俺達は、現実世界に戻ってきていた。
 神々しく石台に刻まれた円から、黄金の光線が俺達を囲んで瞬く間に移動させた。
 異世界のすごさをこの身に感じた。
 玲、俺、シャマ、リアンの順番で折り重なって俺の家のリビングに移動させられた。
 そして今、重大な問題に直面していた。
「家族に信じてもらえない?」
 俺は思わず叫んだ。
 俺の両隣に座るリアンとシャマも、えっと溢した。
 困り顔で俺を見つめながら玲は、詳細に解説を始める。
「家帰ってインターホン押したんだよ。出てきたのは母親よ、それでレイだって名乗ったらさ、誰ですか? 帰ってくださいって追い返されたわけ」
 解説を終えた玲ははぁぁぁと深い溜め息を長く吐き出した。
 玲のお母さんって優しいイメージがあるんだけどなぁ、と不思議に思いながらとりあえず玲に尋ねる。
「お前名乗るとき、なんて名乗った?」
「ふっ」
 意味深に鼻で笑うと、愚問だなと続けた。
「レイ・アナシク・ルンダだ、幻法の使い手のなかでも一二を争う存在、と我は口にしたのだ」
 鼻筋辺りに人差し指を当て、手のひらをかざすように広げてそう言った。
 俺はうわー痛いわー、と心底ドン引きした。
「追い返されて当たり前だ。そんなこと言うやつを家に通すわけない」
 正論じみた俺の発言に、異存そうに玲は顔を歪めた。
「しかしだな。最愛なる息子ならば見た目でわかるだろう」
「お前は見た目が激変し過ぎだから、わかったほうがすごいと思うよ!」
 俺は反射的に突っ込んでいた。
 革生地の黒服に不気味に前髪を垂らして片目を隠したヘアスタイル、さらには怪しく意味不明な言動、世間離れした変人にしか見えないだろう。
 しかし、自分の容姿を怪しいとも思っていないであろう玲は、不満を露にして眉根を寄せた。
「我の幻法ならば、この街ごと空間を歪ませてもいいのだがな」
「この世界だと幻法が使えないとか?」
 明らかにびくんとした俺の親友は、誤魔化すように早口で言い訳した。
「何を言ってるんだ剣志、幻法は深遠な力なのだよ。心の深くからエネルギーを収斂して全身から……」
「足、震えてるぞ。あと冷や汗過度だな」
 玲の額から大量に透明な水滴が垂れていた。
 なんのプライドか言い訳を続ける。
「空間を歪ませて自由自在に編集できるのが幻法の基本だ……ええと」
 台詞思い付かないのか、言葉に詰まっている。
 冷や汗は量を増す。
「使えないなら使えないと、はっきり言え」
 呆れて俺が促すと、ごめんなさいと直立してお辞儀した。
「俺も説得手伝うからさ」
「ほんとに申し訳ない」
 玲は顔を上げ穏やかに笑った。
「いやー友情ですなー、見ていて気持ちいいですよ」
 左隣で座っていたシャマが、俺と玲を見ながら嬉しそうに笑窪を刻んだ。
「玲さんは太刀さんとずいぶん仲がいいんですね。羨ましいです」
 右隣でリアンは軽く唇を尖らせた。
 そんなリアンに苦笑いしながら、俺は腹を決めた。
「今すぐにでも説得して行こう」
 立ち上がって動こうとした瞬間、俺の肩に玲が制止させるように手を置いた。
 俺を制止させた玲の顔は厨二などという言葉が適合しない、異世界に行く前の俺が見慣れた親友の気遣わしげな顔で言う。
「自力で帰るから、剣志は何もしなくていいよ」
 穏やかな台詞のあと、チャラく垂れている前髪を額の隅にまとめて移動させ、キリッとした目付きで俺を真っ直ぐ見据えた。
「じゃあね剣志」
 そう言い残して玲はいっさいの惜しさもなく悠然と立ち上がり、リビングの出口に向かった。
 その後ろ姿に、愁色を僅かながらに感じながらも引き留めようとは思わなかった。
 近くに戻ってきたから。
 すぐにまた会えるから。
「おう、じゃあな。暇なとき家行くわ」
 俺の平凡な別れの言葉に、肩越しに片手をひらりと小さく挙げて応じてくれた。
 その数秒後に玄関のガチャという開閉音が耳に届いた。
「すごい落ち着いた挙動でしたね」
 隣にいるシャマが感心したように呟くと、一時の沈黙が生まれかけたが__。
 その前に俺が、ああと短くこぼしていた。
「友達っていいですねぇ」
 リアンも感慨に浸っているのか、そんな台詞を口にした。
 友達か。
 心にあった不足感が少し解消された気がして、ちょっと嬉しかった。

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