異世界から「こんにちは」

青キング

後処理

 パーティーも終わり、余韻と酒のほろ酔いに浸りながら僕は会場の片付けを手伝っている。
 が__。
「ま~くす~もおかへるのかぁ?」
 多分、マークスも帰るのかと言っているのだろう。
 酔いつぶれろくにろれつが回っていないブルファが、酒の臭いを口から放出しながら僕の左肩を掴んだ。
 ブルファの指が肩を掴んだまま皮膚をくい込む。
「痛い痛い痛い!」
 思わず、叫んだ。
 掴んでいるブルファの手の甲を、退かしてくれるよう痛み耐えながら必死に叩いた。
 思いが伝わったのか、パッとブルファは手を離した。
 危うく骨にヒビが入るところだった。
 これでようやく片付けの続きができる。
 安堵の気持ちで近くの椅子を二脚、片手ずつに持つと今度は酔って頬を赤くしたワコーがやけに小股で歩み寄ってきた。
「あのう、マークスセン……パイ?」
 僕の目の前で止まり、両手を後ろに組みながらワコーはもじもじする。
「はい?」
 嫌な予感はしながらも聞き返した。
 案の上、嫌な予感は的中していた。
「わ、わたしセンパイのことが前から好きでした! つ、付き合ってください!」
 大声で告白してきた。
 僕に片手を差し出して顔を伏せながら、僕の答えを無言で待っている。
 だが無論。
「却下だ!」
 僕はそう冷たく告げた。
 断られたのがとてつもなく悲しかったのか、ワコーは伏せた顔からボタボタと涙を落とし始めた。
「ご、ごめんなさぁーい!」
 そう叫びながら会場の外へ駆けていった。
 ワコーの姿が見えなくなってから、はぁとため息を吐き出した。
 ブルファとワコーには、酒を飲ませちゃいけないね。次から用心しよう。
 簡略な感想と反省を胸の内で一人行いながら僕は片付けを再開した。

 茂みを抜けて妙に明るい拓けたところに出た俺たちは、中央の黄金に光った円盤形の薄い石台の上に乗っていた。
「じゃあなチウ」
 玲が黄色髪の少女の頭を撫でる。
「わ、わらわに任せておけば安心じゃの」
 撫でられながら、伏し目で少女は呟いた。
「寂しいか?」
「寂しいわけ……ないじゃろ」
「なんだよ、チウらしくないな。いつもならツンツンしてるのに」
 玲が頭から手を離した。
 双方とも黙ったまま一言も発しない。
 沈黙を破ったのは少女の微かな声だった。
「あのな玲よ」
「なんだ?」
 少女の声があまりにも小さく、玲は顔を近づける。
「その……な」
「聞こえないぞチウ」
 玲は顔をさらに近づける。鼻と鼻同士が触れ合いそうなほど二人の顔は近くなった。
 少女が顔を上げ一気に近づけた。
 次の瞬間。
 少女の唇が玲の唇に押し付けられた。
 不意をつかれた玲は、固まったまま身動きしない。
 唇をゆっくり離して、黄色髪の少女は真っ赤になった顔を逸らした。
「わらわからの最後のご褒美じゃ。しかと受けとるのじゃ」
「あ……」
 玲の口から細い声が出されて、人差し指で自身の唇をそっと触った。
 そんな時、俺の袖を誰かがグイグイ引っ張った。
 俺はそちらに視線を移す。
 視界に入ったのは、不満げに頬を膨らませるリアンと、その後ろで感情の読み取れない顔をしたシャマが一様に俺を見つめていた。
「な、なんですか?」
「なんですか、じゃあありません! 私たちに構ってください!」
 構ってください! って言われても。
 具体的に何をすればいい?
「先輩、一人で大丈夫ですか?」
 少し表情を懸念的なものに変えたシャマが聞いてくる。
「なんの話?」
 俺がそう言うとはぁと嘆息された。
 えっえっえっ?
 俺、何かした?
「なんで先輩、わたわたしてるんですか?」
 呆れた視線をシャマが浴びせてきた。
「そうですそうです。隠し事があるなら吐いてください!」
 リアンが俺を上目遣いに見ながら詰め寄ってくる。
 隠し事など、一切ありません。
「何も返さないってことはあるんですね隠し事。これからも同じ屋根の下で暮らす蜜月な関係なのに隠し事するなんて……」
「はぁ? 同じ屋根の下で暮らす?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
 俺もリアンもポカーンとあっけにとられたように微動だにしない。
「太刀先輩もリアン先輩も面白い、フフキャハハハ……ほんと笑いが止まらない」
 お腹を抱えてシャマは爆笑を始める。
 笑いのツボ浅くないか?
「笑わないでください!」
 リアンがシャマに魔法をかけようと杖を掲げた。
「おー先輩やるんですかー?」
 シャマも杖を掲げた。
 両方の杖に埋め込まれた水晶が煌めて、強烈に発光する。
 両者の周りで小さな旋風が起こり、徐々に強さを高めていく。
「やめんかーい!」
 幼さの残る高い声が、森に響いた。
 リアンとシャマが掲げていた杖を下ろし、声の主に視線を移した。
「お主らが魔法勝負したら森がなくなってしまうわい」
 もし、少女の言ったことが本当ならばおぞましいに尽きる。
「ああ! 私は森を壊そうとしていたんですか! ごめんなさいごめんなさい!」
 急にしおらしくなったリアンは深々と何度も頭を下げて謝る。
「いや、リアン先輩。壊すというのは間違ってます。正確には消滅です」
 リアンの台詞を訂正するように、シャマは得意気に言った。
「そんなことどうでもいいわい!」
 大声を赤髪の少女は小さな体から出して突っ込んだ。
 ごもっともです。
 黒髪の少女はご不満なようで頬を膨らませた。
「どうでもよくありません。太刀さんと一緒に住みたいですし」
 話が元に戻ってる。
 次いで、ピンク髪の少女も口を開く。
「リアン先輩の言う通り、太刀先輩と同棲したいです」
 二人の美少女に対する、幼き黒服隊員は冷たいあしらいをした。
「わらわに関係ないのじゃ、勝手にやるがよい」
 抑揚も皆無の台詞が魔法使い二人に歓喜をもたらした。
「やったぁー! これでまた太刀さんと暮らせます!」
 リアン両手を宙に上げ、バンザイポーズで喜んだ。
「これからも面白い日々が送れます。お願いしますね太刀せんっぱい!」
 シャマは首を傾け可愛くウインクをしてみせた。
「誰も許可してないけどぉ!」
 俺は出る声全開で叫んだ。
 別に嫌なわけではない。異世界人が俺たちの世界にいるのこと自体が、表立ったら大問題になるからである。
 俺の内心など知らぬであろう美少女魔法使い二人は、楽しそうに会話していた。
 俺の肩に手が優しく置かれた。
 俺はそちらに視線を移す。
 肩に手を置いたのは、こちらを同情するような目で見る怜だった。
「何かあったら俺の家に来い」
 慰めるような怜の台詞に俺は頷きで返した。

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