異世界から「こんにちは」
助っ人登場?
今、目の前で普段安易には怒りを見せないナレク様が、鬼のような形相を浮かべて前方に見える怪しい人物ひみつを殺伐とした眼光で睨み付けている。
そんなナレク様を怯えることなく不気味な笑みのまま、ひみつは声を発した。
「どうしましょう……世界から消え失せてもらっても構わないんですけどね。せっかくだから遊びましょうよ、ねぇナレクさ・ん」
ひみつは言い終えると腹を抱えて哄笑し始めた。そんなひみつにナレク様は言い返す。
「ひみつ……俺とやりあいたいのか?」
「ええ、やってくださると言うのなら。でも相手をするのは僕じゃない」
ナレク様の問いに意味深な答えを述べて再びひみつの表情は通常時の爽やかスマイルに戻った。
「あらら、久しぶりに消していいのね」
通路の奥から聞き覚えのない妖艶で剣呑な女性の声が、私の聴覚にある厄介者センサーの警報を鳴らさせた。
なんというか耳障りで気色悪い。
「すごいわ魔力の宝庫だわー」
奥から現れた人影。
身丈は私よりも随分低く、横幅も平坦で、両手足も折れそうなほど細い。しかし、膨大な魔力は類をみないどころか恐怖をも感じてしまうほどだ。
嘘だろ……まさか、とブルファが人影を見て息を詰まらせた。マークスに至っては自分の頬を親指と人差し指でつねり現実であることを否定しようとしていたが、当分つねるとなんだよっ! と大声で喚いた。
「どうしてこうなるんだ、誰か状況を説明してくれ……」
ナレク様も動転しているのか下唇は震え顔を青ざめて気力を失い、ただただ視線を向かってくる人影に合わせているだけだ。
「ナレクさん僕が説明しましょうか? それともとっくにお気づきですか?」
冷笑を浮かべるひみつの後ろで人影が歩みを止めた。
その後方でもう一つの人影が堂々とした足取りで迫ってきている。
「ほんとに困ったなぁ、まさかひみつが裏切るとは思わなかったよ」
この透き通る声は?
一歩一歩迫ってくる人影に照明の光が当たりだしその姿を鮮明なものにする。
黒服に根性の無さそうな腑抜けた顔、そうだレイ・アナシク・ルンダだ。
「やぁイナシアさん。ごめんなさいねうちの隊員が」
その声にあからさまな舌打ちがひみつの口から聞こえた。
「レイ、吸い込まれてなかったのか。往生際の悪いやつだな」
まぁね、とレイが大きくにやっと笑ってみせたがひみつは態度を変えずに冷ややかな視線のまま俯いた。
その行動に不可解さを感じ、瞬きせずひみつを見据えると、俯いたまま素早く顔を上げハハハハ、と高笑いを始めた。
「何がそんなにおかしいんだ?」
レイ・アナシク・ルンダの疑問にひみつは顔を向けずに答えた。
「レイがどれだけの手助けをしたところで僕を殺せるわけじゃない、さらに僕だけじゃない魔女さんもいられるわけだ。つまりは僕の夢が叶うわけだよクク……クハハハ」
言い終えて肩を揺らしながら笑いだした。しかし威勢良く言葉が発せられた。
「なら、ひみつ」
「何か不満でもレイ」
「僕から見てもひみつは笑いの種だね。それはね……」
その時、ひみつ顔から冷笑は消え代わりに驚愕が浮かび出していた。
「こっちにも超弩級の伝説剣士がいるってことだよ!」
照明に照らされながら出てきた人物は精悍な目付きに気分でも悪いのか少し青い唇、そしてツンツン茶髪の男。
男は筋肉質な腕をだらんと垂らしながら弱気な足取りで前進してくる。
「厄介だな、剣を携えていないとはいえ歴代ナンバーツーの剣術を持っているしな」
「しかし、活力を見受けられないのが非常に残念だ。ほんとにかのナンバーツー剣士なのか?」
ひみつの台詞に落胆の言葉を露骨に口にしたレイ・アナシク・ルンダは気だるげな剣士に歩み寄った。
「あなたのお名前は?」
レイ・アナシク・ルンダの尋問に剣士らしからぬ間の抜けた声で答えた。
「名前? どうでもいいだろ寝かせろ……」
ふらつきながら横に倒れると、そのままスウスウ寝息を立て始めてしまった。
「レイの助っ人も眠ってしまったなぁ、つくづく運のないやつだ。せっかくだし、その剣士も殺ってしまうかクク、クハハハ!」
再び哄笑しだした、が唐突に甲高い少女の怒声が通路中に響き渡った。
「なんじゃ! お主ら騒がしいぞ! わらわが部屋のシャワールームで快適な時間を過ごそうとしておったの!」
なんと一瞬でチウちゃんが通路の真ん中に現れたのだ。瞬間移動魔法だろう。
その姿に正直驚く。チウちゃんは大判タオル一枚を華奢な身体に巻き付けただけの格好をしているのにだから。
ついついその姿を凝視していると底冷えするような揶揄的な一言がひみつの口から飛び出した。
「子供はここにいない方がいいよ」
案の定、癪に障ったようだ。
「誰が子供じゃ! そもそもひみつの軽率そうな顔は嫌いじゃ!」
「黙れ」
ひみつはこっそり右手のひらをチウちゃんに向けると、閃光を発射した。
危ないチウちゃん!
そう思ったのも束の間、発射された閃光は確かにチウちゃんに向かっていたしかし閃光はチウちゃんから大きく外れ後ろの壁に直撃し弾け消えた。
「なんだと……!」
ひみつの顔に驚きが浮かんだ。
よくよく状況を確認してみると、閃光が外れたのではなくチウちゃんが横に移動していたのだ。
「使えないのね」
魔女が一言呟くと、ひみつはそれはどういう? と聞き返すが無言で魔女は頷きひみつに近づいた。
「つまりはこういうこと」
なんの前触れもなく勢い良くひみつが突き飛ばされた。
突き飛ばされたひみつは壁に背中を激しくぶつけ、力なくカーペットの上にうつ伏せに倒れた。
さっきから、ひみつに引きずられていた少女と男に付き添っているブルファとマークスも驚きを隠せないようで口をポカンと開けて固まっている。
そりゃそうだろう。動作もなしで脅威的な力を見せつけられたら驚くのが正常で、驚かなかったら脳が機能していない人と思われるのは至極当然なのだ。
皆が唖然としているにも関わらず平然と魔女は喋り始めた。
「滑稽ねぇもっとやっちゃおうかしら」
魔女が一歩踏み出したその時。
「おい」
不意に声を掛けたのはブルファだ。ブルファの目は怒りを帯びていた。
「リアンを返せよ」
その声に振り向いた魔女は、さらっと言ってのけた。
「リアンってもしかして、そこにくたばってる二人と一緒いた子のこと? フフ凄いわその子、魔力量が普通の魔法使いとは桁違いだもの……けど子供体型なのが残念よね」
その台詞にブルファは恨めしげに魔女を見据えるが動く気配はなかった。
その時マークスがブルファの後ろでおもむろに口を開いた。
「魔女……さん、お願いです。リアンの体を返してください」
膝まづきカーペットに頭をつけと土下座で要求を刊行した。
「あらあらずいぶん礼儀正しいのね。でもごめんなさいね、いずれみーんな吸い込んじゃうから」
魔女は口角を上げて笑顔作ってそう言うと顔を正面に向き直し歩み始めた。
するとカーペットの上で何かがごそっと蠢いた。
思わず視線をそっちに送ると、ひみつに引きずられていた二人のうちの男の方が目を覚ましたのか上体を起こしていた。
「太刀……大丈夫か?」
呆然としていたブルファは突然起きた男に駆け寄った。
どうやらこの男は『たち』という名前みたいだ。
たちは突然駆け寄ってきたブルファにわたわたしていた。
「良かった死んでなくて、お帰り太刀」
「勝手に俺を死んだことにすんなよ……ていうか何がどうなってんの?」
やはり状況理解ができていないらしく、辺りを何度も見回している。
「あっリアン。お前そんなとこで何やってんだ?」
どうやらたちは魔女を見かけでリアンと思っているようだ。
魔女の動きがピタリと止まり、その場で小刻みに体を震わしている。
魔女の爪先がブルファとたちの方を向いていた__そうか!
私は魔女がどういう状態なのか判断できたような気がする。まだリアンの意思が体に残ってるんだ!
顔もブルファにとたちの方をカクッカクッと向き始め、見えた魔女の横顔は怒りを含んだように歪んでいた。
「何で言うこと聞かないのよ!」
魔女のいきり立った声は動揺をありありと感じさせた。
「リアーン、状況説明してくれー」
困り顔でたちが名前を口にすると、魔女はアアアアア、と喘いだ。
リアン戻ってくるんだ! とブルファ。
魔女なんか圧し殺せ、とシャマの横で膝をついたまま声をかけるマークス。
何がどうなってるのか誰か説明してくれよーーーー! とたち。
凄いぞ。あの魔女を追い出そうとしている、と感心気味のナレク様。
何でお前が…………と静まり返ったレイ・アナシク・ルンダ。
____と壁に体を預け意識を失っているひみつ。
わらわは今何を見てるんじゃ、と呆気にとられているチウちゃん。
私はと言うと、ただただ行方を見守ることしかできなかった。
そんなナレク様を怯えることなく不気味な笑みのまま、ひみつは声を発した。
「どうしましょう……世界から消え失せてもらっても構わないんですけどね。せっかくだから遊びましょうよ、ねぇナレクさ・ん」
ひみつは言い終えると腹を抱えて哄笑し始めた。そんなひみつにナレク様は言い返す。
「ひみつ……俺とやりあいたいのか?」
「ええ、やってくださると言うのなら。でも相手をするのは僕じゃない」
ナレク様の問いに意味深な答えを述べて再びひみつの表情は通常時の爽やかスマイルに戻った。
「あらら、久しぶりに消していいのね」
通路の奥から聞き覚えのない妖艶で剣呑な女性の声が、私の聴覚にある厄介者センサーの警報を鳴らさせた。
なんというか耳障りで気色悪い。
「すごいわ魔力の宝庫だわー」
奥から現れた人影。
身丈は私よりも随分低く、横幅も平坦で、両手足も折れそうなほど細い。しかし、膨大な魔力は類をみないどころか恐怖をも感じてしまうほどだ。
嘘だろ……まさか、とブルファが人影を見て息を詰まらせた。マークスに至っては自分の頬を親指と人差し指でつねり現実であることを否定しようとしていたが、当分つねるとなんだよっ! と大声で喚いた。
「どうしてこうなるんだ、誰か状況を説明してくれ……」
ナレク様も動転しているのか下唇は震え顔を青ざめて気力を失い、ただただ視線を向かってくる人影に合わせているだけだ。
「ナレクさん僕が説明しましょうか? それともとっくにお気づきですか?」
冷笑を浮かべるひみつの後ろで人影が歩みを止めた。
その後方でもう一つの人影が堂々とした足取りで迫ってきている。
「ほんとに困ったなぁ、まさかひみつが裏切るとは思わなかったよ」
この透き通る声は?
一歩一歩迫ってくる人影に照明の光が当たりだしその姿を鮮明なものにする。
黒服に根性の無さそうな腑抜けた顔、そうだレイ・アナシク・ルンダだ。
「やぁイナシアさん。ごめんなさいねうちの隊員が」
その声にあからさまな舌打ちがひみつの口から聞こえた。
「レイ、吸い込まれてなかったのか。往生際の悪いやつだな」
まぁね、とレイが大きくにやっと笑ってみせたがひみつは態度を変えずに冷ややかな視線のまま俯いた。
その行動に不可解さを感じ、瞬きせずひみつを見据えると、俯いたまま素早く顔を上げハハハハ、と高笑いを始めた。
「何がそんなにおかしいんだ?」
レイ・アナシク・ルンダの疑問にひみつは顔を向けずに答えた。
「レイがどれだけの手助けをしたところで僕を殺せるわけじゃない、さらに僕だけじゃない魔女さんもいられるわけだ。つまりは僕の夢が叶うわけだよクク……クハハハ」
言い終えて肩を揺らしながら笑いだした。しかし威勢良く言葉が発せられた。
「なら、ひみつ」
「何か不満でもレイ」
「僕から見てもひみつは笑いの種だね。それはね……」
その時、ひみつ顔から冷笑は消え代わりに驚愕が浮かび出していた。
「こっちにも超弩級の伝説剣士がいるってことだよ!」
照明に照らされながら出てきた人物は精悍な目付きに気分でも悪いのか少し青い唇、そしてツンツン茶髪の男。
男は筋肉質な腕をだらんと垂らしながら弱気な足取りで前進してくる。
「厄介だな、剣を携えていないとはいえ歴代ナンバーツーの剣術を持っているしな」
「しかし、活力を見受けられないのが非常に残念だ。ほんとにかのナンバーツー剣士なのか?」
ひみつの台詞に落胆の言葉を露骨に口にしたレイ・アナシク・ルンダは気だるげな剣士に歩み寄った。
「あなたのお名前は?」
レイ・アナシク・ルンダの尋問に剣士らしからぬ間の抜けた声で答えた。
「名前? どうでもいいだろ寝かせろ……」
ふらつきながら横に倒れると、そのままスウスウ寝息を立て始めてしまった。
「レイの助っ人も眠ってしまったなぁ、つくづく運のないやつだ。せっかくだし、その剣士も殺ってしまうかクク、クハハハ!」
再び哄笑しだした、が唐突に甲高い少女の怒声が通路中に響き渡った。
「なんじゃ! お主ら騒がしいぞ! わらわが部屋のシャワールームで快適な時間を過ごそうとしておったの!」
なんと一瞬でチウちゃんが通路の真ん中に現れたのだ。瞬間移動魔法だろう。
その姿に正直驚く。チウちゃんは大判タオル一枚を華奢な身体に巻き付けただけの格好をしているのにだから。
ついついその姿を凝視していると底冷えするような揶揄的な一言がひみつの口から飛び出した。
「子供はここにいない方がいいよ」
案の定、癪に障ったようだ。
「誰が子供じゃ! そもそもひみつの軽率そうな顔は嫌いじゃ!」
「黙れ」
ひみつはこっそり右手のひらをチウちゃんに向けると、閃光を発射した。
危ないチウちゃん!
そう思ったのも束の間、発射された閃光は確かにチウちゃんに向かっていたしかし閃光はチウちゃんから大きく外れ後ろの壁に直撃し弾け消えた。
「なんだと……!」
ひみつの顔に驚きが浮かんだ。
よくよく状況を確認してみると、閃光が外れたのではなくチウちゃんが横に移動していたのだ。
「使えないのね」
魔女が一言呟くと、ひみつはそれはどういう? と聞き返すが無言で魔女は頷きひみつに近づいた。
「つまりはこういうこと」
なんの前触れもなく勢い良くひみつが突き飛ばされた。
突き飛ばされたひみつは壁に背中を激しくぶつけ、力なくカーペットの上にうつ伏せに倒れた。
さっきから、ひみつに引きずられていた少女と男に付き添っているブルファとマークスも驚きを隠せないようで口をポカンと開けて固まっている。
そりゃそうだろう。動作もなしで脅威的な力を見せつけられたら驚くのが正常で、驚かなかったら脳が機能していない人と思われるのは至極当然なのだ。
皆が唖然としているにも関わらず平然と魔女は喋り始めた。
「滑稽ねぇもっとやっちゃおうかしら」
魔女が一歩踏み出したその時。
「おい」
不意に声を掛けたのはブルファだ。ブルファの目は怒りを帯びていた。
「リアンを返せよ」
その声に振り向いた魔女は、さらっと言ってのけた。
「リアンってもしかして、そこにくたばってる二人と一緒いた子のこと? フフ凄いわその子、魔力量が普通の魔法使いとは桁違いだもの……けど子供体型なのが残念よね」
その台詞にブルファは恨めしげに魔女を見据えるが動く気配はなかった。
その時マークスがブルファの後ろでおもむろに口を開いた。
「魔女……さん、お願いです。リアンの体を返してください」
膝まづきカーペットに頭をつけと土下座で要求を刊行した。
「あらあらずいぶん礼儀正しいのね。でもごめんなさいね、いずれみーんな吸い込んじゃうから」
魔女は口角を上げて笑顔作ってそう言うと顔を正面に向き直し歩み始めた。
するとカーペットの上で何かがごそっと蠢いた。
思わず視線をそっちに送ると、ひみつに引きずられていた二人のうちの男の方が目を覚ましたのか上体を起こしていた。
「太刀……大丈夫か?」
呆然としていたブルファは突然起きた男に駆け寄った。
どうやらこの男は『たち』という名前みたいだ。
たちは突然駆け寄ってきたブルファにわたわたしていた。
「良かった死んでなくて、お帰り太刀」
「勝手に俺を死んだことにすんなよ……ていうか何がどうなってんの?」
やはり状況理解ができていないらしく、辺りを何度も見回している。
「あっリアン。お前そんなとこで何やってんだ?」
どうやらたちは魔女を見かけでリアンと思っているようだ。
魔女の動きがピタリと止まり、その場で小刻みに体を震わしている。
魔女の爪先がブルファとたちの方を向いていた__そうか!
私は魔女がどういう状態なのか判断できたような気がする。まだリアンの意思が体に残ってるんだ!
顔もブルファにとたちの方をカクッカクッと向き始め、見えた魔女の横顔は怒りを含んだように歪んでいた。
「何で言うこと聞かないのよ!」
魔女のいきり立った声は動揺をありありと感じさせた。
「リアーン、状況説明してくれー」
困り顔でたちが名前を口にすると、魔女はアアアアア、と喘いだ。
リアン戻ってくるんだ! とブルファ。
魔女なんか圧し殺せ、とシャマの横で膝をついたまま声をかけるマークス。
何がどうなってるのか誰か説明してくれよーーーー! とたち。
凄いぞ。あの魔女を追い出そうとしている、と感心気味のナレク様。
何でお前が…………と静まり返ったレイ・アナシク・ルンダ。
____と壁に体を預け意識を失っているひみつ。
わらわは今何を見てるんじゃ、と呆気にとられているチウちゃん。
私はと言うと、ただただ行方を見守ることしかできなかった。
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