異世界から「こんにちは」

青キング

真実とは驚き

 俺達は再び山林を訪れていた。
 またもブルファ、ワコー、マークスにも依頼し来てもらっていた。
 目の前には魔力で強固に閉ざされた鉄板がふてぶてしく露になっている。
「どうするんですかナレクさん。この鉄板ピクリともしませんよ」
 マークスが困り顔で言う。
「魔力をどう無効化するか……だな」
 そう、このての魔法を解くには魔力自体を無効化するか、強引に魔力層を破壊かどちらかしかない。
 しかし今の構成員の中に魔法を無効化できる者はいない、そうなると魔力層を破壊するしか手立てがない。
 意を決し叫んだ。
「全員集合!」
 めいめいで談笑していた黒服隊のメンバーが一斉に俺の前に集まった。
 メンバーを前に俺は大声で命令した。
「今から総勢で魔法攻撃をこの鉄板に仕掛ける。最大限の魔力を絞り出して破壊してイナシアを助けるぞーーーー!」
 おーー! と皆が声を張り上げた。
 鉄板を囲うように黒服隊全員が配置についたのを皮切りに各々が手のひらから色様々に放った。。
 鉄板に施された魔法が薄まりだす。
 徐々に徐々に薄くなっていく。
 魔法を放出している手のひらが燃えるように熱い。そして頭に鈍痛がじんじんと襲っている。
 まだだ、もっと絞り出せ!
 もっともっともっともっと!
 層に小さな亀裂が入る、よしっ!
 さらに力を加えて体の底から魔力を絞り出した。
 ピキッピキッと亀裂が広がっていく。
 パリーン!
 魔力層が四方八方に飛散して宙で消えた。
 やった、やったぞ!
 声に出したかった、しかしもう力が残っていない。
「危ない!」
 ふらふら不規則に揺れる俺を見て、マークスが俺かの体をがっしりと両腕で支えた。
 全身の神経が感覚を無くしている。視界もだんだん不明瞭になっていくし……体に力が入らない。
「ナレクさん……魔力の使いすぎです! もしあと五秒でも長く魔法を放出していたら心肺停止になってましたよ」
 何か返してやりたいが口も動かないので、ただマークスを視界に捉えて凝視することしかできなかった。
「ナレクさん。あとは僕達が片付けてイナシアさんを救出してきます。ゆっくり休んでてください。それと……」
 言葉を止め携えているショルダーバッグから何かを取りだした。
「これ、回復用の薬です。これ飲めば魔力の回復が通常の百倍にもなります」
 そう言って力なく開いたままの俺の口に一粒含ませていった。
「ではお大事に」
 そしてマークスは俺を地面に優しく横向きで寝かせてから離れていった。
「おいマークス」
 不意に背後から声がする。
 スッキリとした淀みのない声からしてブルファだろう。
「安易に行かない方がいい。ここは俺が鉄板を叩いて音を響かせてから相手の反応を探るよ……あとマークスはここに残ってろ」
「なんで!」
 ブルファの発言にマークスは異議を唱えた。
「僕だって男だ! 戦うときは戦うよ」
「お前の戦う場所ま魔力切れしたこいつらの隣だろ。一人でも多く回復を早めて戦闘に向かわせるのがお前の戦いだろ」
「わかったよブルファ、確かに僕は戦闘向きじゃない。だから残るよ」
 マークスの言葉には少し悔しさがはらんでいた。

 実に壮観だった。
 明るく丸テーブルがあちこちに置かれ、その周辺に黒服を着た人々が群がっている。
 めいめいが笑顔で愉快な空間を作り出している。
 広い会場の天井にはあちこちに高級そうなシャンデリアが吊り下がっている。どれも明るく広範囲を照らしている。
「すごい………」
 つい溢れた言葉。
 今まで戦闘ばかりやってきたからか、こういったパーティーなどには参加はもちろん見物すらしたことがなかった。
 しかし、パーティーが今目の前で行われている。
「ごめんな、イナシアさんを呼んできてもらって」
 隣から聞き覚えのある声が耳に届く。思わず顔を向けると先程無許可に私の上に乗っていたレイ・アナシク・ルンダ。
「あっイナシアさん。すいませんね、勝手に招待しちゃって」
 レイ・ルアナシク・ルンダは頭を申し訳なさそうに浅く下げながら話しかけてきた。
「早く食事したい。お腹すいた」
 会場内を隅々まで見回した。
「ああ、食事なら左隅でバイキング形式に並べてありますよ」
 肩越しに親指で左隅を指した先に目をやると長テーブルに並べられた色とりどりの料理が陳列していた。
「わかった行ってくる」
「ちょまっ……はぁ」
 引き止めようしたレイ・アナシク・ルンダには目もくれず料理の並ぶ長テーブルへと足が動いていた。
 数々の丸テーブルと黒服を着た人々の間を抜け、長テーブルにたどり着いた。
 長テーブルに沿って長蛇の列ができている。そして列の最後尾に並んだ。
「あぁーー!」
 背後から甲高い声が短兵急に聞こえて、驚き振り返るといつぞや痴話喧嘩をしていた黄色髪を側頭部で結び垂らした少女が目尻を吊り上げこちらを見ていた。
「なんでお主がここにいるのじゃ!」
「え、招待されたから……」
 少女は不満げに唇を尖らせた。
「このわらわという美少女が所属していながらまだ欲求不満なのかあやつらは!」
 視線を横にずらしてぶーたれた。
「一つ聞いていい?」
「なんじゃ?」
 視線をこちらに戻した少女に私は一つ問いかけた。
「あなたたちは何を企んでいるの? 人質をパーティーに招待するなんてこと普通だったらありえない」
 キョトンと瞬きせずこちらを見つめ、数秒後手に顎を添え口を開いた。
「確かに普通じゃありえないことじゃの」
 眉をしかめふーむ、と考えはじめた。
 手から顎が離れこちらを真っ直ぐ見た。
「なんでわらわがそんなこと考えなくちゃないないのだ」
 目を細めあきれたように言う。
「それもそう」
「そう思ってたのなら聞くでない!」
 大声で注意された。
 すると少女は横にずらっーと料理が並んだ長テーブルを指差した。
「早く選んで席に持ってくのじゃ! わらわの大事な食事時間が削られるではないか!」
「あっそうだった」
 ということで早急に料理を白い陶器の皿に大体な感じで盛り、その場を離れた。
 皿を両手に持ち、辺りを伺う。すると真ん中のテーブルで私を見てにこやかに手招きをする人物を発見した。
 近寄ってみると手招きしていたのは一足先にワイングラスを持ったレイ・アナシク・ルンダだった。
 私は隣の席に腰かけた。
 すると持っていたワイングラスをテーブルに置いてレイ・アナシク・ルンダは喋りだす。
「イナシアさんに一つ聞きたいことがあるんですけど……構いませんか?」
「構わない何?」
 横目に私を一瞥して切り出した。
「魔女の伝説。イナシアさんは信じてますか?」
 __魔女。実に恐ろしく妖艶な者の名前を口にするなんて。
 驚きには意を介さず続ける。
「現在も生存しているのが、恐怖をよけいに増幅させますよ」
 そう言い苦笑をこちらに向けてきた。だがすぐに真顔に戻り話を続ける。
「勇者が魔女を切り殺したっていうお話がありますよね、あれって少し矛盾してませかんねんしんか?」
 勇者が魔女を切り殺した話というと言い伝えられてきたあの有名な……その話に矛盾?
「矛盾っていうのは魔女はなぜ快く勇者達を招き入れたのか、という点です」
 はっ! 確かに言われてみれば矛盾だ!
「さらには戦闘なしで魔女をほふるなんて不可能ですし」
「普通、攻撃されそうになったら対抗して魔法を使うはず」
 ということは勇者達に殺されたのは魔女ではない可能性が高い、そういったことになる。
「さすが理解が早いですね」
 その時、お主どこに座っとるんじゃ! と甲高い聞き覚えのある声が唐突に耳の鼓膜を襲った。
 そこはわらわの席じゃ、とお冠な少女はいつの間にか椅子の裏に陶器の白い皿を持って立っていた。
「おいチウ。子供はブランコでも乗って遊んでろ」
 レイ・アナシク・ルンダはまたも少女に意地悪を言う。
 それに少女も、わらわはブランコなんて乗らんわ! と大声で否定する。
「そもそもブランコってなんじゃ!」
「ふっ、そんなことも知らんのか低知能が」
「誰が低知能じゃ! わらわはナンバーツーじゃぞ!」
「ナンバーツーでも子供は子供だろ?」
「うるさい、今度こそ決着じゃ! 勝ったらお願いごとを一つ聞くという条件でわらわと勝負じゃ!」
「それなら会場から出て」
「まだ勝負しとらんわい!」
 そんな二人の痴話喧嘩を皿に盛った料理を食しながら傍観した。
 周囲の視線も二人に注がれていた。
 そんな中、会場の扉がドダンと音をたて乱暴に開かれた。
「イナシアはどこだ!」
 歯切れの良い言葉と片目を隠したヘアスタイル、ナレク様だ。
「なんだなんだ?」
「げっ、ナレクさんじゃねぇか」
「ナレクさんがお怒りだー!」
 突然すぎるナレク様の出現に戸惑いや驚きを隠せないようで、会場のあちこちで逃げようとする者が殺到し押し合いになった。
 私もテーブルに押さえつけられた状態になる。
「イナシアさん僕の手を掴んでください!」
 隣からレイ・アナシク・ルンダが手を差しのべてくる。
「えっ?」
「です」
 早く、怪我しますよドワッ!」
 レイ・アナシク・ルンダは人の流れに呑まれてしまったようだ。
 手が遠のいていく。
「騒ぐなぁー!」
 ナレク様の大音声。一瞬のうちに空気が身を切るよたくなる。
 人の流れがピタリと止まった。
 足首が凍てつくような寒さを感じ取った。
 足元に目をやると床には氷が張り巡らされ爪先から足首までは氷で覆われていた。
 つ、つめたい。
 会場にいる全員が驚愕し、沈黙した。
「お前は俺が魔法を解くまでそこから動けない観念しろ。イナシアはどこだ、白状しろ」
 ナレク様が底冷えするような低音を響かせて詰問する。
「ハハハハ、ナレクさんの負けです」
 詰問された若い男は黒服の胸ポケットから何かカードらしきものを取り出した。
 そして、そのカードをナレクに突きつけた。
「さすがですナレクさん。何の所作もなしで氷魔法を使って私たちの動きを止めるとは最強ですか?」
「何が言いたい?」
 ナレク様の鋭い眼光に怯えることなく、ましてや笑い出した男は、突きつけていたカードを人差し指と中指で挟み裏返した。
「なにっ!」
 途端にナレク様が目を丸くして唖然と口をパクパクさせはじめた。
 こちらからはカードに何が描かれてあるのか遠くてはっきり見えないが、周囲の者たちは皆ナレク様に笑顔を向けている。
「ドッキリ大成功。そしてナレクさんハッピーバースデイ!」
 ずれなく揃ったハッピーバースデイーに、ナレク様は眉を寄せた。
「お前らなにやってんだ……いくら俺でも怒るぞ……だめだ、口元が」
 そう言い淀むナレク様の口元は微少にほころんでいた。
 足首までを覆っていた氷が瞬間的に消え去り冷たさがなくなる。
「さあさあナレクさん。今宵はナレクさんのための時間です、遊び倒しましょう!」
 いつの間にかナレク様の目元には透明な液体が溜まり出していた。
「お前ら……ありがとう」
 しゃくりあげながら短く礼を言った。
 ナレク様の肩に背後から誰かが手をポンと置いた。
「ナレク、ごめんな黙ってて。実は俺達もこの企画のメンバーだったんだ、ワコーもマークスもみんな。さぁ行け」
 ナレク様の背後から現れたのはアレルギー剣士のブルファだった。
 肩から手を離し、ナレク様の背中をトンと押して会場のドアを通過させた。
「ナレクさん、俺達はいつまでもナレクさんを忘れません」
「そして今日はナレク先輩の二十五歳の誕生日です」
 少しの間が空く。
 次の瞬間からナレク様の誕生日パーティーが開始した。
「ハッピーバースデイーーーーー!」
 会場の隅に身を潜めていたのか小柄な黒服を着た男が突然叫んだ。
 会場にその男の叫びが響き渡った時には、皆が笑顔になっていた。

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