異世界から「こんにちは」
謎の閃き
静けさだけが部屋を占めていた。
どんな魔法を使っても、この部屋から脱出する手立ては思いつかなかった。発動しようとするとかき消されてしまい魔力だけが消耗された。
そもそも自身、戦闘専門だから小難しいことはすべて破壊しようとしてしまう。
そんなメランコリーになっていると、ドアが勢いよく開かれた。
「おー起きてたか」
長身の軽率そうで眉目秀麗な男が部屋に入ってきた。
「誰?」
思わず首を傾げると、はじめまして、と礼儀正しく頭を下げ挨拶した。
「僕はひみつと申します。どうかお見知りおきをイナシア様」
服装を確認すると、先刻ここにいたレイ・アナシク・ルンダと同様の黒服に身を包んでいる。
ナレク様が言ってた黒服隊の一部とはこの人たちのことだったのか、と感慨深く思い返しているとひみつが歩み寄ってくる。
「イナシア様、今日もお綺麗ですね」
頬を吊り上げ、ニコッと話しかけてきた。
「今日初めて会ったのに今日もなの?」
「さすがはイナシア様、気づきましたか」
何言ってるのこの人?
ひみつは表情変えず続ける。
「これからパーティーがあるのですが、イナシア様は特別ゲストとして招待されております。出られますか?」
「私、人質でしょ?」
「まぁ気にしないでください、怪しいと思うのならば出なくても構いませんし」
ぐうきゅるるー。
唐突にそんな音がした。無論私の腹の虫だが。
「お腹空いた。そのパーティーって食事できる?」
「もちろんですとも、食事だけに限らずショーやゲーム大会等々楽しめるイベントが盛りだくさんです」
そう言いニコッと笑みを作った。
「パーティー、楽しそう参加する」
「そうですかイナシア様。ありがとうございます。では、会場へご案内します着いてきてください」
踵を返して肩越しに私を見る。しばらく見ると歩み始めた。
私は初めてのパーティーを前に気分上々で着いていった。
大事態が起きてしまった。
イナシアが拐われた、という文にすると簡単だがその実質は大混乱の起因となるほどの大事なのだ。
「すみませんナレク様!」
立ち尽くす俺の横で何度も謝罪し頭を下げている隊員に俺は一言尋ねた。
「イナシアだけか?」
「えっあっはい」
予想外だったのか動揺してから軽く答えてくれた。
またか。
記憶を探ってみる。
リアン、シャマと同様一人の時に襲われている。しかもリアンは多大な魔力の持ち主で究極魔法の類いも使えるという噂もある、シャマは戦闘力が群を抜いて高いマライ族出身、そして我らが黒服隊の中で戦闘力ナンバーワンに君臨する絶世の美女イナシア。この三人を狙ってどれも誘拐に成功したということはかなりの手練れか、それとも……
頭のなかにおぞましい名前が浮かぶ。
__伝説の魔女。
存在を誰も見たことがなく、ある人は幽霊と言い、ある人は不老不死と言い、ある人は人間憑依細菌と言い、いろんな説があるものの確証できた説は皆無。
「ナレクさん?」
目線を上に向け考え事に耽っていた俺を見かねて隊員が声をかけてきた。
「すまないな。また急務ができてしまったようだ」
「えーーーー! また買い出しですか?」
その途端、眉尻を吊り上げ驚きを見せるとすぐに眉尻は垂れ落ち込みを見せる。
そんな隊員に俺は告げた。
「さっきの場所戻るぞ! イナシアがいないからって嘆いてる暇はないぞ!」
「わかりましたナレクさん。何人必要になりますか?」
大声で告げた。
「半分で十分だ!」
張り上げた声は部屋中に響き渡った。
「遅いです太刀さん!」
玄関に入るなり大音声で怒鳴られ耳を塞ぎながら廊下で仁王立ちになり眉を寄せているリアンを横目に見た。
「俺がなんかしたっていうのかよ?」
「知らない女性の匂いがします!」
俺の疑問は一蹴されてしまった。
匂いって……お前どんな嗅覚してんだよ。
廊下の奥で何かがキラリと光った。
目を細くして凝視すると、何かが俺の頬をかすめ背後のドアに当たるとシューとおぞましき音をたてながら消失した。
「剣志先輩動かないでくださいね」
いつもより低いが歯切れの良い声と、俺に対する呼称に一致する人物が一人いた。ピンクのショートカットの少女シャマ。
ただいま、シャマは腹這いになり薄暗い廊下の奥で銃口を煌めかせている。
二人そろってどうした?
「誰と一緒だったんですかぁ!」
再びリアンが語気を強めて詰問してくる。
「クラスメイトだよ。まぁ俺友達少ないからさぁ……へへへ」
自分で言って改めて寂しい人間だと思い知ってしまった。トホホ。
「フフ、冗談ですよ。早く上がってくださいよ太刀さん」
すごい剣幕だった顔が一瞬のうちに微笑みに変わった。
つい、キョトンと見つめてしまう。
「自宅に帰ってきて立ち尽くす人なんていませんよ、ほんと面白い」
「お、おう……」
リアンの微笑みに思わず見とれてしまい生返事になってしまった。
リアンは微笑みを崩し、真顔で俺を真っ直ぐに見つめた。
コホン、と咳払いをしたので、何を切り出すかと俺はちょっぴり緊張する。
「太刀さん、お帰りなさい」
「え……ああ。ただいま」
「こう向き合ってすると気恥ずかしい」
目だけを逸らして顔を仄かに紅潮させた。俺も気恥ずかしいよ。
「照準定まったぁぁ!」
「やめろぉーーーー打つなぁーーーー!」
「そうですよシャマさん! 太刀さんが死んじゃいますよ!」
両手を広げリアンは俺の前に立ち庇おうとしている。
「さぁ剣志先輩、今こそ後ろから抱きしめてください。さぁさぁ遠慮なく」
「遠慮しかねぇよ!」
照明をこうこうと点けたリビングで俺達は談笑している。
あの後、俺はシャマを説得して物騒なライフルを床に置かせた。すると床に置いたライフルは光の粒をゆっくり螺旋しながら消えていった。
シャマいわく、あれは私の魔法で創製したライフルです。実弾ではありません魔弾を発射するのです。そしてああいった、物を魔力創ることを創製魔法と言うのです。でも所詮は魔力で造られてますから私の手元を離れた瞬間消えるんですけどね、と長々説明してくれた。
それにしても魔法ってすごいなぁ。
俺が感心していると隣に座っていたリアンが肩を優しく叩いてきた。
「ごめんなさい。突然シャマさんが先輩が帰宅した直後に脅かそうってことを言い出しはじめて……ごめんなさい」
何度もペコペコ頭を下げている。
「そんなに謝るなよ、怒ってないから」
でも、と眉尻を下げた悲壮な顔で俺を見つめている。
「しかしなぜシャマは突然そんなことを?」
あぐらをかいて腕組のままやシャマに視線を移した。
気になるのか指先をいじっている。こちらに気づいたようで目を合わせてきた。
「どうかしました?」
「いやー何であんなことしたのかな、と」
シャマは思い当たりでもあるのか、突然立ち上がり俺の目の前に歩み寄ってきて正座した。
そしてニヤッと笑って喋りだした。
「だって楽しいでしょ」
「どういうこと?」
意味を解釈できず問い返す。
すると少し唇を尖らせ、腑に落ちないようでわからないんですか? と不平された。
わからないから聞いてるんだけどな。
「だってさーリアン先輩ばっかり構ってて、私には全く構ってくれないんですもん。つまらないですもん」
頬を膨張させそっぽを向かれた。
「ごめんなさい。太刀さんを独り占めしてごめんなさい。シャマさんだって太刀さんとおしゃべりしたいですよね? あああ、私が無遠慮なばっかりにぃー」
次はシャマにペコペコ謝りした。
ていうか途中から自虐っぽくなってるけど大丈夫か?
「何でそうなるんですかリアン先輩! わわわ私は別に太刀先輩とおしゃべりしたいと、そそそんなこと考えてもいません! ただつまらないなぁーと思っただけだから!」
二人の論点がわからぬまま俺は眺める。
俺を独り占め? う~ん見当もつかない。
「だだだってシャマさんだって太刀さんのこと……そそそそのす、す、す」
「そんなことないもん! あ、あと」
突然、シャマがサッと顔を向けてきた。
「勘違いしないでくださいね、絶対ですよ!」
……らちがあかないな、これ。
……当分部屋で漫画でも読んでよっかな。
「じゃあ俺、部屋で漫画読んでるから結論出たら呼んでくれ」
そう言って俺は立ち上がった。すると突如「「ええええええ」」と揃って声を挙げた。
「待ってください太刀さん。私もついてきます」
「私も構ってくださいよーすげないですよー」
うわー手に負えねー。
俺は二人を意に介さず身を翻した。
後ろを振り向かず階段を昇る。一段一段に感触がある。少しヒヤッとした木材の冷たさを実感しながら上へ上へと足を運ばせた。
背後からの足音が少々気にさわるが。
階段を昇りきり自室のドアが眼前まで近づいたとき妙な違和感を感じた。
ドアノブに手が伸びるが掴もうとする寸前で躊躇った。
「どうしたんですか?」
先程から後をつけていたリアンが平然と尋ねてきた。
その後ろから忘れ物でもしましたか? と首を傾げているシャマ。
二人の問いに問いで返した。
「なぁちょとだけ空気が違わないか?」
しかし二人は顔を見合せこう答えた。
「私たちは何も感じませんけど?」
そうだよな。そう何回も異世界から人が来るわけないか。
その考えから寸前で躊躇っていた手がドアノブを掴んで捻った。
部屋に入ると、そこにはいつもと変わらぬ俺の部屋が……あれ?
なんだこれ!
黒の虚空に吸い込むような螺旋状に吹く追い風、違う吸い込もうとしてるんだ。
「なんですかこれ!」
「吸い寄せられるー」
同時に部屋に入った二人も同じ感覚を味わっているようだ。
さらに体が吸い寄せられる。吸い込む威力が徐々に上がっているようだ。
「もう私無理ですぅーーーー」
リアンが力に堪えられず虚空に吸い込まれて姿を消した、反射的だった。
「リアンーーーー!」
必死で手を伸ばした。
「私も堪えられませんーーーー!」
同じくしてシャマも吸い込まれていった。
どんな魔法を使っても、この部屋から脱出する手立ては思いつかなかった。発動しようとするとかき消されてしまい魔力だけが消耗された。
そもそも自身、戦闘専門だから小難しいことはすべて破壊しようとしてしまう。
そんなメランコリーになっていると、ドアが勢いよく開かれた。
「おー起きてたか」
長身の軽率そうで眉目秀麗な男が部屋に入ってきた。
「誰?」
思わず首を傾げると、はじめまして、と礼儀正しく頭を下げ挨拶した。
「僕はひみつと申します。どうかお見知りおきをイナシア様」
服装を確認すると、先刻ここにいたレイ・アナシク・ルンダと同様の黒服に身を包んでいる。
ナレク様が言ってた黒服隊の一部とはこの人たちのことだったのか、と感慨深く思い返しているとひみつが歩み寄ってくる。
「イナシア様、今日もお綺麗ですね」
頬を吊り上げ、ニコッと話しかけてきた。
「今日初めて会ったのに今日もなの?」
「さすがはイナシア様、気づきましたか」
何言ってるのこの人?
ひみつは表情変えず続ける。
「これからパーティーがあるのですが、イナシア様は特別ゲストとして招待されております。出られますか?」
「私、人質でしょ?」
「まぁ気にしないでください、怪しいと思うのならば出なくても構いませんし」
ぐうきゅるるー。
唐突にそんな音がした。無論私の腹の虫だが。
「お腹空いた。そのパーティーって食事できる?」
「もちろんですとも、食事だけに限らずショーやゲーム大会等々楽しめるイベントが盛りだくさんです」
そう言いニコッと笑みを作った。
「パーティー、楽しそう参加する」
「そうですかイナシア様。ありがとうございます。では、会場へご案内します着いてきてください」
踵を返して肩越しに私を見る。しばらく見ると歩み始めた。
私は初めてのパーティーを前に気分上々で着いていった。
大事態が起きてしまった。
イナシアが拐われた、という文にすると簡単だがその実質は大混乱の起因となるほどの大事なのだ。
「すみませんナレク様!」
立ち尽くす俺の横で何度も謝罪し頭を下げている隊員に俺は一言尋ねた。
「イナシアだけか?」
「えっあっはい」
予想外だったのか動揺してから軽く答えてくれた。
またか。
記憶を探ってみる。
リアン、シャマと同様一人の時に襲われている。しかもリアンは多大な魔力の持ち主で究極魔法の類いも使えるという噂もある、シャマは戦闘力が群を抜いて高いマライ族出身、そして我らが黒服隊の中で戦闘力ナンバーワンに君臨する絶世の美女イナシア。この三人を狙ってどれも誘拐に成功したということはかなりの手練れか、それとも……
頭のなかにおぞましい名前が浮かぶ。
__伝説の魔女。
存在を誰も見たことがなく、ある人は幽霊と言い、ある人は不老不死と言い、ある人は人間憑依細菌と言い、いろんな説があるものの確証できた説は皆無。
「ナレクさん?」
目線を上に向け考え事に耽っていた俺を見かねて隊員が声をかけてきた。
「すまないな。また急務ができてしまったようだ」
「えーーーー! また買い出しですか?」
その途端、眉尻を吊り上げ驚きを見せるとすぐに眉尻は垂れ落ち込みを見せる。
そんな隊員に俺は告げた。
「さっきの場所戻るぞ! イナシアがいないからって嘆いてる暇はないぞ!」
「わかりましたナレクさん。何人必要になりますか?」
大声で告げた。
「半分で十分だ!」
張り上げた声は部屋中に響き渡った。
「遅いです太刀さん!」
玄関に入るなり大音声で怒鳴られ耳を塞ぎながら廊下で仁王立ちになり眉を寄せているリアンを横目に見た。
「俺がなんかしたっていうのかよ?」
「知らない女性の匂いがします!」
俺の疑問は一蹴されてしまった。
匂いって……お前どんな嗅覚してんだよ。
廊下の奥で何かがキラリと光った。
目を細くして凝視すると、何かが俺の頬をかすめ背後のドアに当たるとシューとおぞましき音をたてながら消失した。
「剣志先輩動かないでくださいね」
いつもより低いが歯切れの良い声と、俺に対する呼称に一致する人物が一人いた。ピンクのショートカットの少女シャマ。
ただいま、シャマは腹這いになり薄暗い廊下の奥で銃口を煌めかせている。
二人そろってどうした?
「誰と一緒だったんですかぁ!」
再びリアンが語気を強めて詰問してくる。
「クラスメイトだよ。まぁ俺友達少ないからさぁ……へへへ」
自分で言って改めて寂しい人間だと思い知ってしまった。トホホ。
「フフ、冗談ですよ。早く上がってくださいよ太刀さん」
すごい剣幕だった顔が一瞬のうちに微笑みに変わった。
つい、キョトンと見つめてしまう。
「自宅に帰ってきて立ち尽くす人なんていませんよ、ほんと面白い」
「お、おう……」
リアンの微笑みに思わず見とれてしまい生返事になってしまった。
リアンは微笑みを崩し、真顔で俺を真っ直ぐに見つめた。
コホン、と咳払いをしたので、何を切り出すかと俺はちょっぴり緊張する。
「太刀さん、お帰りなさい」
「え……ああ。ただいま」
「こう向き合ってすると気恥ずかしい」
目だけを逸らして顔を仄かに紅潮させた。俺も気恥ずかしいよ。
「照準定まったぁぁ!」
「やめろぉーーーー打つなぁーーーー!」
「そうですよシャマさん! 太刀さんが死んじゃいますよ!」
両手を広げリアンは俺の前に立ち庇おうとしている。
「さぁ剣志先輩、今こそ後ろから抱きしめてください。さぁさぁ遠慮なく」
「遠慮しかねぇよ!」
照明をこうこうと点けたリビングで俺達は談笑している。
あの後、俺はシャマを説得して物騒なライフルを床に置かせた。すると床に置いたライフルは光の粒をゆっくり螺旋しながら消えていった。
シャマいわく、あれは私の魔法で創製したライフルです。実弾ではありません魔弾を発射するのです。そしてああいった、物を魔力創ることを創製魔法と言うのです。でも所詮は魔力で造られてますから私の手元を離れた瞬間消えるんですけどね、と長々説明してくれた。
それにしても魔法ってすごいなぁ。
俺が感心していると隣に座っていたリアンが肩を優しく叩いてきた。
「ごめんなさい。突然シャマさんが先輩が帰宅した直後に脅かそうってことを言い出しはじめて……ごめんなさい」
何度もペコペコ頭を下げている。
「そんなに謝るなよ、怒ってないから」
でも、と眉尻を下げた悲壮な顔で俺を見つめている。
「しかしなぜシャマは突然そんなことを?」
あぐらをかいて腕組のままやシャマに視線を移した。
気になるのか指先をいじっている。こちらに気づいたようで目を合わせてきた。
「どうかしました?」
「いやー何であんなことしたのかな、と」
シャマは思い当たりでもあるのか、突然立ち上がり俺の目の前に歩み寄ってきて正座した。
そしてニヤッと笑って喋りだした。
「だって楽しいでしょ」
「どういうこと?」
意味を解釈できず問い返す。
すると少し唇を尖らせ、腑に落ちないようでわからないんですか? と不平された。
わからないから聞いてるんだけどな。
「だってさーリアン先輩ばっかり構ってて、私には全く構ってくれないんですもん。つまらないですもん」
頬を膨張させそっぽを向かれた。
「ごめんなさい。太刀さんを独り占めしてごめんなさい。シャマさんだって太刀さんとおしゃべりしたいですよね? あああ、私が無遠慮なばっかりにぃー」
次はシャマにペコペコ謝りした。
ていうか途中から自虐っぽくなってるけど大丈夫か?
「何でそうなるんですかリアン先輩! わわわ私は別に太刀先輩とおしゃべりしたいと、そそそんなこと考えてもいません! ただつまらないなぁーと思っただけだから!」
二人の論点がわからぬまま俺は眺める。
俺を独り占め? う~ん見当もつかない。
「だだだってシャマさんだって太刀さんのこと……そそそそのす、す、す」
「そんなことないもん! あ、あと」
突然、シャマがサッと顔を向けてきた。
「勘違いしないでくださいね、絶対ですよ!」
……らちがあかないな、これ。
……当分部屋で漫画でも読んでよっかな。
「じゃあ俺、部屋で漫画読んでるから結論出たら呼んでくれ」
そう言って俺は立ち上がった。すると突如「「ええええええ」」と揃って声を挙げた。
「待ってください太刀さん。私もついてきます」
「私も構ってくださいよーすげないですよー」
うわー手に負えねー。
俺は二人を意に介さず身を翻した。
後ろを振り向かず階段を昇る。一段一段に感触がある。少しヒヤッとした木材の冷たさを実感しながら上へ上へと足を運ばせた。
背後からの足音が少々気にさわるが。
階段を昇りきり自室のドアが眼前まで近づいたとき妙な違和感を感じた。
ドアノブに手が伸びるが掴もうとする寸前で躊躇った。
「どうしたんですか?」
先程から後をつけていたリアンが平然と尋ねてきた。
その後ろから忘れ物でもしましたか? と首を傾げているシャマ。
二人の問いに問いで返した。
「なぁちょとだけ空気が違わないか?」
しかし二人は顔を見合せこう答えた。
「私たちは何も感じませんけど?」
そうだよな。そう何回も異世界から人が来るわけないか。
その考えから寸前で躊躇っていた手がドアノブを掴んで捻った。
部屋に入ると、そこにはいつもと変わらぬ俺の部屋が……あれ?
なんだこれ!
黒の虚空に吸い込むような螺旋状に吹く追い風、違う吸い込もうとしてるんだ。
「なんですかこれ!」
「吸い寄せられるー」
同時に部屋に入った二人も同じ感覚を味わっているようだ。
さらに体が吸い寄せられる。吸い込む威力が徐々に上がっているようだ。
「もう私無理ですぅーーーー」
リアンが力に堪えられず虚空に吸い込まれて姿を消した、反射的だった。
「リアンーーーー!」
必死で手を伸ばした。
「私も堪えられませんーーーー!」
同じくしてシャマも吸い込まれていった。
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