異世界から「こんにちは」

青キング

山中調査

 ふもとまでたどり着いくと、もう大勢が集合していた。
「隊長体力落ちました?」
 整列していた隊員の一人が息切れしている俺に対して厳しい疑問を一言。
 俺も痛感したよ……ああ苦しい。
「どうしたナレク、息がずいぶんあがってるな」
 ブルファが笑いながら近寄ってくる。ワコーとマークスもこちらを見ている。
 うるさい久々に走ったんだよ!
「全員揃ったみたいだよ後はお前が指示を与えるだけだ」
 整列している隊員達が一斉にこちらに体を向ける。
 指示を与えるといっても調査場所を詳しく知らないからな。
 俺は隣で立つブルファに視線を送る、ブルファは視線に気がつきこちらを一瞥した。
「場所は途中まである舗装道路の端だ」
 視線の意図を察してそう口にする。
 舗道は最近できたばかりの木材輸送用の道路だ。俺達黒服隊の一部も工事に携わったからよく覚えている。
「全員で舗道の端をまんべんなく調査だ」
 了解です、と揃った返事をするとそのまま舗道を大挙していった。
 最後列が山のなかに消えていくのを見届けるとブルファの方を向く。
「お前たちはどうするんだ?」
「俺達は舗道から少し外れたの山林を探索しますけどナレクは?」
「俺も一緒に探索する」
 ということで俺達は舗道から外れ山林の中に立ち入っていく。
 ブルファの他にワコーとマークスも同行しているので奇襲をしようにもそう簡単には手を出せないだろう。
 一方、舗道調査の方は早くも魔力を感知したらしく路傍で群がり舗装された部分とされていない部分の隙間にある溝の固い土をシャベルで地道に掘っていた。
 どうやらここが一番魔力が大きいようだ。
 そしてナレク達は四人寄せ合いそれぞれ別方向を見て見逃しがないようゆっくり歩いていた。
「どうだ怪しい所はあったか?」
 前方を見据えるブルファが顔も見ず尋ねてくる。
 特に何も、とマークス。
 異常は無いようだな、とワコー。
 俺も特になし、と伝える。
 そうか、と安堵と不安の両方混ざったような声がブルファから返ってくる。
 それにしてもどこもかしこも木しかねぇな。
 誰も通らないからかゴツゴツした地面は木の根が秩序なく伸びている。
 時々耳に入る鳥のさえずりが静けさを余計に際立たせている。
「ちょっと止まって」
 魔力が突然声を上げた。何か見つけたのだろうか?
 俺とブルファとワコーはマークスが指差す先に視線を移す。
 そこには木々の隙間から同様の鼠色をした石を低く積み上げてある何かが鎮座していた。
「なんだろうな近くで見てみよう」
 ブルファが先に近づいていく。
 俺達も続く。
 木々の隙間を抜けていくと、円形に開けた場所で木々がそこのみ幹だけとなっておりちょうど人が座れるくらいの高さで何者かが伐採したと思える。そうした数々の幹に囲まれて石を積み上げたの物はあった。
「木が伐られてるってことはここを誰か使ってるのかな?」
 マークスの推測通りだろうな、木の伐れかたが人工的すぎる。
「この石を積んだものはなんだ?」
 ワコーが恐れることなく近寄る。
 俺達は顔を見合わせてワコーに続く。
 近寄ってみて新たに気づく、この訝しげな物は筒状になっておりの井戸のように中心の部分は抜けており空洞になっているようだ。
「どこかに石ころは落ちてないか」
 ブルファが近くを見回すが石ころはない。
 俺は覗いてみた。
 石ころを落として検証しなくても底が見えない暗黒で深いということは一目瞭然、吸い込まれそうな感覚にまでなる。 
「井戸と思うしかないよね」
 マークスの発した一言が俺達の推測には最適の言葉だった。
 しかし今の俺達には現在も使われていると思しき井戸を発見しただけでも十分な収穫でもあることには間違いない。
 そして、舗道調査の方も新発見していた。
 掘り進めていると硬いなにかに、コツンとシャベルが当たる。
 土を手ではらうと鉄板が。それは縦横一メートルくらいで人が通るにはちょうど合った大きさだ。
 シャベルでコンコンと叩いてみると中で音が響いている。つまり中が空洞になっていることを表していた。
 開けようにもぴったりとはめ込んであり手を入れるスペースがない。
 黒服隊の魔法専門員が魔法でなんとか鉄板を浮かせようとするが、強い魔力で固定されていてピクリともしない。
「すぐにナレク様に報告だぁー」
 一人が速急にカバンから伝信魔石を取り出してナレク様に繋げて早口に報告する。
 この時には街で惨事が起きていることは誰も知らないのだった。

 私は黒服隊の一人イナシア。黒服隊本部二階にある休憩室の窓から街を一望する。
 この街で生まれ、この街で育ち、この街で死ぬ予定のナバス大好き人間それが私。
 今日も街は平和だ。
「イナシアさん、何やってるんすか」
 背後から不意に声を掛けられる。
 振り向くと後輩の茶髪で若い男がマグカップを手に持ち、にこやかに向かってくる。
 私も二五歳、後輩の数が増えてきたのを実感したくないが実感してしまう。
 向かってきた後輩は私の隣に来ると窓縁に両腕を重ね置きもたれ掛かった。
 後輩は街を眺めてこちらには視線を向けず口を開く。
「イナシアさんは結婚とか考えてるんすか?」
 不意すぎる質問に返す言葉はなかった。
「ごめんなさい気にさわりましたか?」
「ううん、そんなことはない」
 そう返すと後輩はマグカップにを口につけぐいっと、飲み物を口に含ませ味わうことなく喉に飲み物を通した。
 マグカップにはもう飲み物がなかった。さっきのが最後の一口だったのだろう。
「本部に人が少なくて暇っすよ」
 目尻を少し下げながらぼやいた。
「街を眺めてるだけで時間潰せる」
「すごいっすねイナシアさん。この街に思い入れでもあるんすか?」
「特にない、ただ好きなだけ」
 そう好きなだけだ。
「好きなだけ、ですか……はは」
 それなのになぜか後輩は力なく笑う。
 どこか可笑しな言葉でも入っていただろうか?
「私、可笑しい?」
 なんとなく尋ねてみた。
 返ってきた答えは意外なものだった。
「イナシアさんが漠然とした感情でナバスを好きなんて思わなかったから……いつも何らかの理由があって好き嫌い区別してるのに珍しく理由がないんだなって」
「君はどうなの?」
 俺っ? と予想だにしていなかった問いに驚きを見せる。
 黒目を上に向かせて考える、しばらくして黒目を元に戻し声を発した。
「俺なんて若さのいたりばかりですよ、ははは笑い事じゃないけど」
 笑い事じゃない、と言ってるわりには頬が少し緩んでいる。
 後輩はまだ続ける。
「でもナレク様は俺の失敗を次に繋げれるよう指導してくれました、だから今はかなり判断力がつきましたよ」
「ナレク様凄い」
「ナレク様は指導力に長けた人っす」
 ふぅ、と隣で一つ溜め息をこぼした。
「俺はそろそろ持ち場所戻るんでそれじゃあ」
 背を向けて左手を掲げながら休憩室を去っていった……突然下腹部を押さえて唸りながらふらつく。
 足元がおぼつかず倒れる。
 私は足が反射的に動いていた。
 床に横たわり下腹部を押さえながら唸る後輩に駆け寄る。
「何があった?」
 ここから出ようとしたら突然腹部に穴があいたような感覚になって……痛い」
 後輩の下腹部は血で赤く染まり広がっていく。
「イナシアさん、気をつけてくださいハァハァ」
 息が荒くなっている、至急手当てしなければ。
「ハッハどうもはじめまして」
 どこからかハイトーンボイスの声が、辺りを見回す。
 どこだ?
「無駄ですよーだってこの空間自体が僕の造り上げたものなんだからぁ」
「ぐわぁーーーーー!」
 なぜか後輩の右腕の肘から下がポロリと切れ断面を露にして床に落ちる。
 あれ血が噴き出してこないぞ?
「私分かった幻か何かだ」
「あんたどんだけ冷徹なのよ!」
「早くここから出して」
「出すわけないでしょう!」
 後頭部に鈍器で殴られたような激痛が襲ってくる。唐突に攻撃された。
 痛い痛い痛い。
「なんでもやりたい放題操り人形そのものだぁ」
 嘲るような語尾が癪だ。憤激だ。
「天地爆裂世界爆裂……」
 痛みに堪えて目を閉じ体の芯に力を集める。
「空間自体がわ・た・し・の・も・の」力が全身から抜けていく、ごめんなさいナレク様……命令を従うことができませんでした。
 __もう無理、意識が無い。

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